まだ男だった頃の転移
俺の名前は須木根睦(すきねむつめ)。変わった名前をしている大学生20歳。大学の講義を終えて、自宅に帰っているところだ。今日は午前と午後に一限だけしかない暇な月曜日、帰ったら新作のゲームをすることを考えていた。
「なあ、この後バッセン行かね?」
「俺は遠慮しておく」
「私も」
「連れねえなあ」
あの制服見たことある。
男2人に女1人の高校生の組み合わせか。
バッティングセンターねえ。俺行ったことないなあ。
野球部ってわけでもなさそうだけど、これは放課後デートに持ち込もうとしているのだろうか。男2人で女の子の取り合いか?
確かに取り合うくらいに女の子は可愛いな。というかよく見たら男のうちの1人もイケメンだな。もう1人は熱いタイプっぽさが垣間見える男児という言葉が似合いそうな熱血漢、髪の毛そこそこ長いから野球部じゃないだろう。
あれ、そういえば最近の野球部って坊主だけじゃないんだっけ?
暇な帰宅時間を潰すために思考の渦に突入し、ぼーっとしながら歩いていく。
住宅街の細い道を挟んで反対側を歩く3人組の会話を耳に入れていたが、その方向から突如、聞きなれない破壊音が聞こえてきた。
「え?」
坂道を猛スピードで降ってくるトラックが視界に入り、1秒に満たない間に俺と隣を歩いていた3人は轢かれた。
俺の人生は終わった。
「はっ!?」
「ようやく起きましたか」
「あれ? 痛い? 痛くない? 俺轢かれたよな……」
「あのー」
「うん?」
トラックに轢かれたのに起き上がってピンピンしている体に驚いていたら、話しかけられ、その方向を見るととてつもなく美麗な女性がこちらを覗き込んでいた。
「なっ!? げふっ、あ、あの俺は、というかあなたは? ってアレ?」
「冷静になっていただけませんか」
「すみません」
いや、え?
どういうこと?
俺は自分の手をグーパーグーパーと開いたり閉じたりする。
「やっぱりああいう反応になるよな」
「ああ、俺もそうだった」
「私もう一回気絶したからなあ……」
美麗な女性の後ろから声が聞こえる。例の高校生3人組だ。そして、ようやく理解したが、ここはとても異質な空間だ。
「あ、あれ? ここって……」
宇宙空間。
絵に描いたような宇宙空間であり、惑星や太陽やらが見える場所に座っていた。どういう原理かもわからない異質な空間。夢かな?
「夢ではありませんよ?」
「心読まれた!?」
「一般的には夢と勘違いしますので、そうではないかと」
「あ、はい」
夢と思うのが普通らしい。
俺は頰を引っ張る。
痛いな。
「夢、じゃないんですね……」
「ええ、夢ではありません」
「夢ならば〜」
「歌わなくていいですよ」
Lemon歌わせてくれよ。
それでこれは一体なんなんだろうか。
「ようやく落ち着きましたね」
「はい」
「説明させていただきますね。あなたは死にました、おしまい」
「それ説明じゃないから?! 俺死んだの!? 俺、っていうかあの3人も!?」
「嘘ですけどね」
「嘘かよ。ってことはなに、あんた神様ってことか?」
「正確には女神です」
「どうでもいいわ!?」
「落ち着いてください睦さん」
「俺の名前……」
「神様ですから」
「3秒前の自分のセリフ覚えてます?」
「もう、それは睦さんがどうでもいいとおっしゃたじゃないですか」
「えぇ……」
俺のせいなのか。
「まあ、つまり俺たち4人はトラックに轢かれてミンチになったと、あれ、嘘だっけ?」
「はい。嘘です」
きっぱりと嘘とかいうなよ。
「で、ここにいるのは所謂転生ということか?」
「いいえ、ミンチになったのは仮装体ですので転移していただきたいのです」
「うん? なんだって?」
「仮装体、つまりはフェイクです。あなたたちがミンチになってしまっては魂だけの存在となるでしょう。なので轢かれる前にあなたたちを回収させていただきました」
「へー」
神様転生じゃなくて、神隠しかな?
「神隠しですよ」
「絶対、心読んでるよね」
「なんのことでしょう、おほほ!」
「つまり、死ぬ運命だった俺たちを助けたってことか」
「そうです」
「で、見返りは、と」
「はい! 話が早くて助かります!」
絵に描いたような神様転生だな。神隠しか、どうでもいい。とにかく俺たちは死ぬ運命から助けられたのだから、神様に協力しろとそういうことだろう。
「協力、ですか?」
「はい! 魔王討伐の依頼ですよ!」
テンプレすぎるだろう!
これはチート能力を持って魔王を討伐する流れか。
「というわけで転生特典、もとい転移特典をもって魔王を討伐していただきたいのです」
「へー」
「何か腑に落ちていませんね」
「いや、俺たちが魔王倒すメリットってあるの?」
「倒さないデメリットはありますよ」
「どういうこと?」
「その説明には3人にも加わっていただきましょう。睦さんが起きるのを待っていただきましたので」
「そうっすか」
女神は3人に手招きして俺たちは宇宙の上に座る。意味がわからないけどあぐらでもかいておくか。
「はじめに言って起きます。私は地球の女神ではありません」
「あ、違うんだ」
「話題にした魔王に攻められている星の女神です」
「……星?」
「はい、我々の星は魔王率いる魔界の軍勢と交戦し、地上の生物は皆壊滅させられています。それは人間だけではなく、動物たちもです」
「……」
「魔界というのは三次元世界にはありません。異なる位相からやってきた怪物たちの住処です。彼らは生きとし生けるものすべての敵であり、それはいずれ地球にも向かうことでしょう」
「地球にも?」
「ええ、彼らにこの宇宙空間における距離の問題はありません。今最前線で戦っている星が敗れれば、地球も次の標的にされかねません」
「なるほどな。それでデメリットか」
正直死んだ身なら地球がどうなろうと知ったことじゃないっていう意見が俺の中にはあるが、本当に知ったことじゃないで片付けられるだろうか。弟や妹もいる地球に被害が及ぶのは嫌だな。
「なあ、なんで魔界の奴らは生き物を襲うんだ?」
「魔界の住人、彼らの目的は魂です。魂を喰らい、力をつけ、魔界での発言権を強めるために地上に侵攻してきます」
「傍迷惑すぎるだろ!?」
「はい! 傍迷惑です。ですが、そのような理由だけで地上の生きとし生けるものを喰らうのです」
マジでやべえ連中かよ。
俺の質問が終わったところでイケメンくんが口を開く。
「それなら、なんで俺たちなんだ? あんたの管理する世界の人間に神託でも与えて勇者にでもすればいいんじゃないか?」
「それには限界があります」
「限界?」
「はい、我々の力そのものはすべて魂の強さに起因します。何世代も魂を削って戦ってきた私の星の子達にはもう魔界と事を構えるほどの魂の量はありません。もう人間の魂を形成するのに限界なレベルの魂まですり減っています」
「……そうか」
「ですので、地球人のあなたがたに頼るのです。地球は過去まったくの侵攻がなく100万年にも及ぶ人類の系図があります。それは他の星々では考えられないほどの魂の大きさを誇ります」
「なるほどな。だから俺たちか」
「はい」
「で、他の連中は?」
「他の連中とは?」
「俺たち以外にも送り込んでいるんだろう?」
「はい、おっしゃるとおりです」
俺たち以外にも神様転生している連中がいるのか。
「それぞれ他の星々、およそ6000万の戦場に送り込まれています」
「ろっ!? 6000万!?」
「はい、多元宇宙の全魔界最前線で戦っています。私の星は危険度レベル5——って、これ以上の話は長くなってしまいます。後々サポートもさせていただきますので、そのときにお話いたしましょう」
なんか込み入った話があるんだろうな。多元宇宙か。他の空間でもビッグバンが起きて、いくつも宇宙がある理論だったかな。俺たちのいた宇宙が誕生して138億光年程度の距離にはなさそうだな。無量大数光年くらい離れているかもしれない。
「話を戻します。私はあなた方4名に魔族と戦い、私の星を救っていただきたいのです。そしてそのために魂を削ることも了承してください」
「ああ、それだ。魂を削るとどうなるんだ?」
「特には」
「……」
「……」
「いや、デメリットとかさ」
「いえ、デメリットがでるとすれば人類に合わないサイズの魂まで磨り減れば死に至りますが、そこまで魂は削りません」
「へー」
なんのデメリットもなく魔法とか使えるってこと?
「ただ、普通の地球人には戻れませんし、子孫の魂量もまた世代を経て増やすしかないでしょう」
これ神様視点と人間視点の価値観の相違ってやつか?
俺にはデメリットに感じねえよ。
「つまり異能は遺伝しないってことか」
「はい」
俺たち4人は顔を見合わせる。
「ちょっと4人で話し合ってもいいか?」
「はい、構いません」
俺は3人を手招きする。女神は空気を読んだのか少し遠いところまで移動した。
「あー、いろいろ聞きたいこととか言いたいことはあると思うけど、まずは自己紹介しないか? 俺は須木根睦(すきねむつめ)」
「俺は天野修也(あまのしゅうや)」
「矢部空河(やべくうが)だ」
「私は紺野奈央香(こんのなおか)」
「オーケーすぐには覚えられないな。また後で名前確認する。それでだ。お前たちはあの自称女神の言うこと信じるか?」
俺が聞きたいのは、俺と同じ共感をしたかどうかと違う考えの確認だ。俺は女神の話を嘘とは言い切れないと思っているが、話していないことも多数あると思っている。
「俺は信じるぜ。というか面白そうだし騙されてもいいかなって」
かっる!?
矢部だったか。この熱血漢軽すぎるだろ。
「俺も空河に同意だ。そもそもこんな意味不明な空間に連れ込まれ、俺たちだけで地球に戻ることはできないのは明白だ。あの女神に従う他ないだろう」
そういう考え方ね。確かにこの空間意味不明だし、地球に返してくれる保証はないか。
「私も同意。命を助けてもらってのは事実だしね。それが仕組まれていたとか不審に思わないこともないけど、これだけの超常現象を起こされてちゃね。所詮人間よ、私たちは」
洗脳でもされているんじゃないかってくらいには女神の意見に肯定的だな。ああ、うん。俺もこの3人側に流されそうだわ。疑っても所詮人間だしなあ。
「話し合いは終わった」
「早いわね」
「能力があれば、そう簡単には死なないんだろう?」
「はい、魔界のかなり危険な部類の相手は私たち女神の仕事ですので、魔王以上の魔神や邪神の相手はしなくて大丈夫ですよ」
あ、女神も戦っていたんですね。それで上と戦っていると、下の連中に自分の星が破壊される、だから勇者的な存在が欲しいのかな。
「きちんと修練して死なないなら提案に乗る」
「ありがとうございます」
「それともう一つ聞きたい。人選はどうやったんだ? 協力的な俺たち4人をピンポイントで集められるか?」
軽くジャブでも入れておくか。
「さあ?」
「は?」
「協力してくれた偉大な女神様がいまして、そのお方の協力もあってあなたたちを助けることができたのですよ。私1柱じゃ仮装体作ったり、この空間作ったりするのが限度ね。時間を変質させて転移させるのもお手の物な、すごい女神様よ」
へー。あんた1人でやったんじゃねえのかよ。
「といっても、神隠しの手伝いをしてくれるだけで、違う星の女神様よ。あのお方の星も魔界と戦っているから他の戦場が負けて自分たちの星に来る勢力が増えないようにしているって言っていたわ」
神様転生ビジネスでもしているのか。なんか女神の事情も面倒臭そうだな。というか目の前の美女は割とダメな方の女神なのか。
「あー、蔑視の目線! 言っておきますけど、地球に人材探しにきているだけで相当な力の女神なのよ。10の200乗桁光年くらいの距離を飛んできているんだから」
無量大数光年の比じゃないほど遠かった。
「また話が脱線したじゃないですか。話を戻しますよ。それであなたたちを私の星に招きたいのだけど、協力してくれるかしら?」
「断ったら?」
「断るの?」
「断りませんけど」
「ならいいわね」
この女神めっ。聞き返し方が卑怯だぞ。
「今のままではただの一般人なのでそれぞれ力を授けます。ただし、その力は1つだけ。魂の削りすぎはよくありませんから」
「わかった。なら俺は強さだ」
……。
…………。
何言っているんだこのイケメン高校生は?
こっち側にボケ担当おったんか。
強さって何よ。
「わかりました。えいっ!」
「おい! そんなんでいいのかよ!? 強さって何!?」
「はい、強くなりました」
「適当すぎるだろ!?」
え?
こう言うのって魔法の才能とか、剣聖のごとき剣舞とか、エターナルフォースブリザードとかそういうの頼むもんじゃないの?
もしくはチート系の能力とかさ。
「よし次は俺だ」
熱血漢くんか。期待できそうにないな。
「修也は強さか……。なら俺は守れる強さだ!」
やっぱりアホやったー!?
概念、概念だよ。強さってなんだよ。曖昧すぎるだろ。
「わかりました。えいっ!」
お前も応えんな!?
女神的な強さの概念与えられちゃっているよ。どうなっているんだよ。こいつら人間じゃなくて女神の尖兵か? そう言われても今なら信じてしまうぞ。
「やはり、守るときこそ人は強くなれる」
独り言でジャンプの主人公的なセリフ吐きやがったよ。この熱血漢高校生のくせして若干中二病臭がする。
「あのー」
「あ、なんでしょうか」
女の子に服を軽く引っ張られた。
「強さってなんですか?」
俺も聞きたいわ。でも、彼女はこっち側でよかった。
「よくわからないのですが、2人は前で戦う感じですか?」
「どうなんだろう」
俺は女神に視線を送る。
「はい、お二人は前衛になりますね。特に空河さんは」
なるほどな。RPG的に考えるなら高校生の男2人は前衛組か。
「なら私はサポートする力が欲しいです」
「わかりました。えいっ!」
軽いんだよなあ。
類は友を呼ぶというけど、先の2人と同じなんだよなあ。そんなバンバン決めるようなものなのだろうか。こういうときルールの穴をついてチート能力とかを手にするのがセオリーじゃねえのか。いや、あまり大それたことすると魂が壊れて人間じゃなくなって死ぬんだっけ。控えめにした方がいいのか?
「睦さんはどういたしましょうか」
「そうだな。じゃあ、俺も後衛の方がいいよな。守れるとなお良しか」
えっと、確か紺野さんだったかな。彼女がサポートキャラなら、俺は最低限彼女のピンチのときに庇える程度の力を持ちつつ、後衛職になった方がバランスがいいだろう。俺もRPG脳になっているなあ。
「……肉弾戦も熟せる魔法使いってできるか?」
「魔法使いですか」
「あ、なんかまずかった? そっちの世界に魔法とかなかったりする?」
「いえ、問題はありません。魔法もきちんとあります」
「もしかして俺だけ願いが2つっぽいから?」
「それもあります」
「あるんだ」
「問題はそれほどないでしょう」
「どっちだし……」
なんか俺だけ『わかりました。えいっ!』じゃないの恥ずかしくなってきたんだけど。だだこねている子どもみたいじゃないか。
「できるのですか?」
「まあ、できますね」
「なら、肉弾戦も熟せる魔法使いで」
「ちょっと問題があるかもしれませんが、魂は人類形態を保てるでしょう」
なんか怖いんだけど。大丈夫かよ。
「ファイナルアンサー?」
「俺だけ対応違いすぎるだろ!? ファイナルアンサー!」
「……」
「……」
「どこのミリオネアだよ!?」
「ちょっとだけ時間がかかるのです。願いが2つ分もどきなので」
「あ、すみません」
俺のお願いの仕方が悪かったんですね。申し訳ない。でも絶対にファイナルアンサーって聞いてくるのは故意犯だろうが。
「えいっ!」
「おおー」
うん。特に何も起きていないけど。
「向こうに着いたら力が備わりますので、しばらくお待ちください」
着いてから能力が発現すると。というかなんで待たされるのか。
しばらくすると、光が降り注いで誰かが現れる。眩しいです。
「あ、フェル様!」
「リシア、終わったか?」
「はい、4人に協力を得られました!」
リシアと呼ばれた今まで俺たちの担当をしていた女神よりも、高貴な雰囲気を持つフェルという女神が現れた。担当女神チェンジできませんかね。めちゃくちゃ美人じゃないか。高貴さも溢れかえっているように見える。
「送るぞ」
「お願いします。私1柱では私だけしか運べないので」
お世話になりっぱなしじゃねえか。
「じゃあ、そっちもよろしくな。魔界の連中に一泡吹かせてやろうぜ」
なんかちょっと熱血漢系ですかな。顔は慈愛溢れる女神なんですけど、いいギャップですね。隣の熱血漢に目を向ければガッツポーズで挨拶っぽいことしている。ノリノリじゃねえか。
「相転移」
眩しい光に包まれた。
寸止めものとかじれったいのが好きです。
TSして時間かかって女になれば盛大にじれったいだろうなあ。
という単純思考で書き始めました。