TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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魔族の群れと上級魔法

「準備はできているか?」

「問題ない」

 

 翌日の夕刻、日が暮れ始める頃に俺たち4人は王都の南門に集まっていた。敵は地平線にようやく見え始め、その距離はおよそ30km。敵行軍速度は先鋒部隊が航空戦力で統一され、最速の毎時20kmくらいの行軍速度らしい。標的となる王都が見えたこともあり、即座に敵が飛んできている。魔族も頭がいいやつも悪い奴もいる。先行して突っ込んでくる魔族はすぐにやられるだろう。

 

「ライトブレッド」

 

 近づいてきた敵を俺や奈央香だけではなく、他の魔法使いの女性たちが次々に撃ち落としていく。弾幕を突破した魔族は彼女たちの護衛として側についている兵士が即座に叩き伏せていく。数が少ないうちはどうとでもなる。確かに雑魚ばかりだ。

 

「順調だな、どんな魔法を使うんだ?」

「空中相手にはうってつけのやつがある。だが、あと1時間は引きつけないと効果が薄いからな」

 

 幾億の軍勢。

 大量の黒い影が、いや巨大な黒い壁が王都に迫ってきている。

 

「1体1体は大して強くはないだろうが、あれと戦い続けるとして王都の大人はおよそ20万。敵戦力を2億と仮定して1人1000匹相手か」

「それが4回あれば1人4000匹だ。スタミナを見る限り相当きついだろう」

 

 鉄砲の三段撃ちみたいに、魔法を一定量放ったら後退し、次の魔法使いが前線に出て魔法を放つ。ライトブレッド10発撃ったら交代か。三段撃ちではなく、二段撃ちだから交代サイクルを何回も繰り返さなくちゃならない。1回目で交代した女性はすでに息も切れている。

 

「無理そうだな」

「ああ、神託を受けていなければ10体倒すだけでも大変そうだ」

「それに魔法を外せば外すだけ無駄に浪費する」

「ひとまず俺が片付けておく。ライトブレッド・セスタ」

 

 俺は近づいてくる魔族にライトブレッドの雨を浴びせる。南門の兵の負担は大きく減るだろう。

 

「それ、どれくらい使えるんだ?」

「どれ?」

「ライトブレッドってやつだ」

「ほぼ無限だな」

「無限……? なるほど、自然魔力回復量と魔力使用量が同じか」

「そういうこと」

 

 鑑定って便利だなあ。

 俺はその後も味方の戦力を浪費させないために下級魔法の連打を行い続けた。

 そして次第に敵の量が増え始める。しかし、これでも視界を埋めつくさんとしている大量の魔族のほんの一部に他ならない。

 数千くらいでものすごい量に感じる。

 数億ってなんだよ。

 

「そろそろいいか?」

「ダメです! まだ本隊は10km以上離れています!」

 

 シスターさんに上級魔法の使用許可を求めたが、認可は降りない。視界を大量の飛行型の魔族が飛び交っている。

 

「おい、もう暗すぎるぞ」

「照明、お願いします」

「スカイフレア」

 

 俺は上空に照明弾魔法を放つ。空中浮遊型の擬似照明はすぐさま世界を明るくする。

 

「なんて量だよ」

「これで第一陣かよ。ムツメちゃん俺が守るからね!」

「へいへい」

 

 空河のやつ気張ってんな。といってもまだ攻撃手段のほとんどは俺と奈央香だがな。

 

「なあ」

「なにかな?」

「接近戦というか防御力的に一番防御力が高く味方を守るのがうまい空河は、一番防御力が低くて回復役で戦線戦力の維持ができる奈央香を守るものじゃないのか?」

「俺はムツメちゃんを守りたいんだ」

「修也にチェンジで」

「ノオン!? やっぱりイケメンか!? イケメンがいいのか!?」

 

 そういう問題じゃないだろ。適材適所って言葉がわからんのか。防御力を数値として表すなら俺が2、奈央香が1、空河が4、修也が3だ。バランス取るなら2と3、1と4で組むべきだろう。攻撃面考えるとバランス悪いけどな。

 こうやって考えると俺って結構ずるいことしたんだな。攻撃とかその他のステータスを総合力的に見れば勇者の修也と五分くらいの適性を持っている。代償が女の子の獣人への変化だ。

 ……修也ずるくね?

 余計なこと考えていると敵の圧が強くなっていた。撃墜数よりも間合いに入り込んでくる魔族の量が上回っている。

 

「中級魔法もお願いします」

「はいよ。ホーリーショット! ファイアーストーム! サンダーランス!」

「うわ……」

 

 引くなよ。許可出したのシスターさんやんけ。

 とりあえず視界がひらけた。

 壁である。

 なんなんだよ。奥の景色が全く見えない。これが億単位の敵軍ってやつか。

 

「本隊にいる怪鳥みたいなのがボスか?」

「もう見えるの?」

「ああ、鑑定に引っかかった」

 

 まだ10km以上先にいる敵なんだけど……。

 

「俺が上級魔法をぶっ放したら修也が突撃だったな」

「そのあとは第2部隊が攻めてくる西門に移動してもらいます」

「わかってるよ。というかさあもう俺も上級魔法が届く位置だと思うんだよね。どう? あまり近すぎても被害が出そうだし」

「……通信します」

 

 耳につけているイヤリングで王様、もしくは元帥さんと交信しているのだろう。耳に手を当て、何やら話している。便利だなあ。携帯電話と違って耳に小さいアクセサリーつけるだけだし。

 

「認可が降りました。上級魔法の使用を許可します」

「ほいほい、それじゃあやりますか」

 

 俺からなぜか人が離れていく。別に近くにいても魔法の発動の邪魔にはならないんだけどなあ。

 さて、標的を発見、怪鳥だな。大きな魔族が敵本陣の中心に多くいる。そんな巨大な魔族の中でひときわ大きいのが怪鳥だ。隣にいる化け物サイズの魔族の20倍くらいはありそうな大きさだ。この敵部隊の指揮を取っているってことはなかなかの強さだろう。倒すにはそれ相応の魔法が必要になる。絶対に怪鳥を倒せるだろうけど、最上級魔法のメテオはダメだ。余波で王都が崩壊する。

 予定より少しだけ敵陣の距離が遠いので、当初使うはずだった魔法に少しイメージを追加する。

 使う魔法は風の属性、規模は上級魔法、標的の位置を捕捉。魔力を通す。

 

「ジ・エンペラー・トルネード」

 

 放った魔法は強大な魔力を消費する。その量は普段見えない魔力光を可視化させ、俺の持つ杖の先から魔法の展開場所の敵陣に光が放たれた。直後、超巨大な竜巻が発生した。

 黒い爆風が吹き荒れる。

 

「うおぉい!? あれ大丈夫かよ!?」

 

 半径はおよそ5kmの超巨大竜巻は敵を飲み込む。しかし、敵だけを飲み込むだけに止まらず、竜巻の威力は俺たちのいる場所ですら強風を吹き荒らす。

 

「ちょっと強すぎた……」

「何考えたらあんなでかい竜巻になるのよ!?」

 

 タロットカードの大アルカナの皇帝をイメージに付随させただけだよ。さすがにザ・ワールドを付け足したら惑星規模の竜巻が起きる予感がしたから控えめにしたつもりなのだけれど。

 十分ダメだったな。

 

「ムツメ様! いつ止まるのですか!?」

「そうは言われても、あれ止まんない気がする」

「はあ!?」

「まあ、待て。ああいうのは逆回転の竜巻をぶつければいいはずだ」

 

 確かジ・エンペラーには安定という意味があった。たぶんそのせいで止まる気配がない。使った魔法に付随させたイメージはアルカナだからな、逆位置をイメージすればいいだろうか。ダメかもしれんけど。とりあえず物は試しだ。

 

「ジ・エンペラー・トルネード」

 

 もう一度魔力光が竜巻に向かい、爆発するかのような現象が起き、竜巻は終息。しかし、直後に竜巻に集まっていた空気が分散され、逆風の突風が吹き荒れた。

 城壁に隠れなかったら吹き飛んだかもしれない。

 

「なんて魔法放つんですか……」

「敵減ったしいいだろ」

「減ったというか壊滅したというか……」

「あっ、灯りが消えてるな。もう一度、スカイフレア!」

 

 再度照らし出された視界、南方は今だに壁があった。

 バカな。あれだけの魔法を——。

 

「あれ?」

 

 効果がなかったんじゃない。効果はあった。今まで見ていた敵の軍勢による壁ではなく、敵の1個体による壁だった。

 

「危ない!」

 

 俺は空河に押し倒され、直後、城壁の上空を何か巨大なものが通り過ぎていった。

 

「ぐっ!?」

 

 ソニックブームの衝撃を空河を通して受けたが、空河を通してでもかなりの圧を感じる。

 巨大なものはそのまま城に向かって飛行していた。

 敵本隊の怪鳥だ。

 遠目に見てかなりでかいと思っていたが、トルネードを閉じたことで発生した乱気流に乗って、王都に切り込んできたのだろう。

 10km先にいても巨大と感じる化け物だ。その巨大な怪鳥の翼長は王都の横幅とほぼ同じくらいの大きさがある。あんなものが地上に落ちたら何人も死ぬぞ。

 

「あれだけ傷ついているのに……」

「自分の巨体を武器に王都を襲う気だ」

 

 あの巨体を王都に通してしまった俺の落ち度だ。

 

「まずい!」

 

 駆け出そうとした修也をシスターさんが止める。

 

「大丈夫です」

「大丈夫って……」

 

 直後、地上から光が天に昇り、怪鳥を撃ち抜いた。

 王様だった。

 地上から跳んで怪鳥の脳天を貫いたのだろう。人間の跳躍力をはるかに超える大ジャンプをして今は空中にいる。

 脳天を貫かれた怪鳥は死んだ。

 しかし、怪鳥の死体は王都に落ちることはない。

 

「忘れてた」

「俺たちはこっちに来て日が浅いからな。慣れない光景だ」

 

 巨大な怪鳥の死体は空気に溶け込んでいく。

 魔族は死体が残らない。なぜか空気に溶け込んで消え、ドロップ品だけを残していく。

 大きな羽が雲散していることからあれが今回のドロップ品だろう。たくさんの羽が宙を飛んで散らばっている。やがてそれらは地上に落ちて……。

 

「なあ」

「私には何も見えませんね」

「おい……」

 

 シスターさんが目をそらす。現実見ろよ。

 羽って軽いよな。

 で、大きさが家よりはるかにでかい場合は?

 答えはシンプル。家を押しつぶす。

 今たくさんの羽が王都に襲いかかった。なんだこれ。

 

「奈央香、頼む」

「わかったよ……、ギャグじゃないんだから、こういう被害はやめて欲しいわねー」

 

 こんな死傷者の出し方なんて俺も嫌だぞ。ドロップ品に押しつぶされる王都とか見たくもないわ。奈央香は空河を連れていくつもの羽に押しつぶされた家屋の現場に急行した。

 第1部隊を完膚なきまでに壊滅させ、休息となったところドタバタと大きな足跡が聞こえてくる。慌ただしい兵士がシスターさんに駆け寄った。

 

「報告です。第2舞台の敵軍の数が多すぎるため第3部隊、第4部隊の到着予想時刻が未だ不明であります。一方で第2部隊は今しがた放たれた大魔法の影響から進軍を中断しております。第2部隊の本陣は西の山を越えた先で待機しています」

「第1部隊はうまく処理することができましたが、籠城戦の反撃でこれ以上魔族を削るのは難しそうですね。しかし、まだ大量の魔族を一網打尽にできるかもしれません」

 

 野放しにしてしまえば、他の人類の拠点が襲われかねない。

 

「こちらから向かいましょう。西の山を登ります。山頂から敵に大きな一撃をお願いします」

「わかった」

「時間をかけてしまえば撤退される可能性もあります」

 

 だが、どうしたものか。俺には高速で移動する術がない。馬とか乗れないし、そもそも山道だ。馬は適さない。魔法で飛ぼうにも空間魔法とかそんな便利な魔法はあるにはあるのだが、この世界の魔法は使用者にも当然牙を剥く。どんな反動があるかもわからない。自分の魔法に殺されたくはないから転移魔法とか使わないことにしている。

 俺が思案していると修也が俺を持ち上げた。

 

「こうしよう」

「は?」

 

 強制的に抱っこされた。

 これお姫様抱っこやんけ。

 おいちょっと待て、おととい地下でトラップの大岩に追われたときに言ったことが原因か?

 あれはただ愚痴を言いたかっただけで、本当にやれという意味ではない!

 

「ムツメ、しっかり掴まっていろよ」

「は? うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー」

「舌噛むぞ」

「アホか!? なんだこれ!? えぇっ? 人力ジェットコースターかよ!? うわっ!? 木の側通るな!? 怖っ!? ちょっ!? 怖っ!? 誰か助けてーーー!!!」

 

 

 

 10分で山頂に着いた。

 

「……」

 

 膝が笑って立てない。現在女の子座りである。体育座りにしよ……。足うごかねー。

 

「早く終わらせよう」

「……」

「ムツメ?」

 

 ムツメ? じゃない!

 何キョトンとした顔してやがる。俺はキレてる。ブチギレている。

 安全バーのないジェットコースターお姫様抱っこバージョンをやらされたんだぞ。

 マジで怖かった。

 膝が笑っているというか、腰も砕けている。足腰が立たないんだ。体育座りにもできないほど、足の神経がイかれてる。

 漏らさなかったのが不思議なくらいだ。トイレ行ってから1時間は経ってたんだぞ。マジでよく漏らさなかったよ。俺本当にすごい。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫に見えるか?」

「悪い」

 

 身体能力を向上させる魔力の使い方は男にしかできない。修也にとっては無問題なのだろうが、俺は修也の走行速度から止まるだけの身体能力はない。落ちれば死ぬんだよ。上り坂をジェットコースターの下り坂に感じたのは人生で初めてだ。

 ついでに高山病だ。頭の中がうるさい。キーンって耳鳴りもする。

 愚痴を言っているうちにようやく呼吸を整えられたので立ち上がる。

 俺は眼前に見える遠目の草原地帯に巨大な魔族の群れを発見した。

 薄っすらとだが、夕焼けに照らされて見える。どいつもこいつもでかいな。街規模の大きさのやつもいる。あれでも第四魔将ですらないんだろう? なら魔王ってどれくらいでかいんだよ。

 

「やれるか?」

「ちょっと待って」

 

 魔法、届くだろうか。

 どれくらいだろう。

 100km以上は離れている気がする。この山の高さはわからないが、かなり遠くまで見えるのは確かだ。

 

「本隊はあの悪魔みたいなやつか」

「見えるのか?」

「山羊のような巻角を持っている。悪魔をイメージしたらそれだと言える見た目をしている。……ああ、なぜ見えるかだったか。俺は強さを手に入れているからな。視力も当然パワーアップしているし、魔力強化も合わせれば、遠くても見える。暗くてもな」

 

 なんでもありかこいつ。

 力とか強さとか、それに類するものすべてが強化されているし、魔力強化の度合いもありえないほどに高い。数十メートル跳ぶ王様も大概だが、修也の場合、俺を運んでさえも手加減している状態だろう。あのジェットコースター移動しておきながら息一つ切れていない。

 

「倒せなかったら俺が向かおう」

「……」

 

 この距離を?

 もう1つ小さな山を挟んで森林を超えた先の草原地帯だぞ。

 できるというからにはできるのだろうな。

 

「ちょっと待ってろ」

「魔法使うのに時間がかかるのか?」

「別に詠唱とかじゃないからな」

「そんなことは言っていないのだが……」

「目測とか規模とかイメージする必要があるんだよ」

「なるほど」

 

 使う魔法は光の属性、規模は上級魔法、標的の位置を捕捉。魔力を通す。今回は魔術師でいくか。

 

「ザ・メイガス・セイクリッド・ブラスター!」

 

 上級光魔法のセイクリッド・ブラスターに大アルカナのザ・メイガスをプラスして放つ。魔力の発動場所は杖先になり、標的は視界の先の暗い場所。ちょっと曖昧だけど余波で倒せるだろ。倒せなくても修也がなんとかする。

 

「着弾、今」

 

 光の速さとはいかないが、下級魔法のライトブレッドや中級魔法のホーリーショットよりも、はるかに速いビームが飛んでいき、着弾と同時に大爆発を起こした。

 

「火属性に見える」

「光属性なんだけどなあ……」

 

 大きな煙が発生しているため、敵の生死はわからない。

 

「しばらく待機か?」

「ちょっと待ってろ」

「またか」

 

 遠いけど魔力を通せば、距離は関係ない。中級魔法でいいだろう。

 

「テンペスト」

 

 舞っていた埃や煙は片付いたが、砂を巻き上げたりしたので結局解決にはならなかった。

 

「ダメだった」

「待とう」

 

 しばらく待機していると景色が開いた。

 

「帰るぞ」

 

 修也は立ち上がって自分の尻についた土を軽く払う。

 敵陣は壊滅したのだろう。日が沈み、俺には真っ暗闇で何も見えないが、修也が帰り支度を始めるということは片がついたということだ。もう少しなんか言えよ。本当に倒せているか不安じゃないか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。俺にはもう1つ重大なイベントがあるんだ。修也の背中によじ登る。

 

「お姫様抱っこじゃなくていいのか?」

「あれは冗談で言ったんだよ。あと、帰り道は4分の1の速度で」

「40分かかるぞ?」

 

 そうだな。ここまで10分だったもんな。4分の1の速さにしたら到着まで4倍かかるだろうな。

 

「さっきの速度でおんぶだと俺の手の力じゃ耐えきれるかわからないんだけど……」

「なら、前になる」

 

 抱っこってお姫様抱っこは嫌だけど、純粋の抱っこはもっと嫌だ。

 あれ? そうなると選択肢はお姫様抱っこだけじゃね?

 

「歩いて帰ったらどれくらいかかる?」

「わからない」

 

 だよな。

 半日くらいはかかるとして6時間くらい?

 深夜じゃねえか。

 仕方ない。

 

「お姫様抱っこは首がもげるからな」

「そうか、配慮が足りなかった」

 

 来るときはお姫様抱っこと言いつつ、途中から修也にしがみついてたから半抱っこ状態だった。ならもういいだろ。

 俺は修也の前にしがみついた状態だ。いわゆる抱っこである。仕方ない。これが最善の移動手段なのだ。急いで帰る必要があるからな。万が一にも第3部隊と第4部隊が結界修復前に攻め込んでこないとも限らない。だから仕方ないんだ。この格好、いい歳して年下の男にしがみつく状態も仕方ないんだ。人の命がかかっているからな。

 自分に言い聞かせる言い訳を考えていたが、そうじゃない。もっと大事なことがあった。

 

「いくぞ」

「あ、帰り下り坂じゃ———、ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 抱っことかおんぶとか、それ以前に下り坂の恐怖を忘れていた。

 俺は泣いた。

 下の方もちょっと泣いた。




 とりあえず第0章完です。
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