TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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 はじめの方は前回まであらすじっぽい何かです


第1章 2人旅
始まり


 異世界転移。

 俺、須木根睦(すきねむつめ)は異世界の女神に死ぬところを助けられた。俺と他3人の高校生たちは女神の意向に乗って、異世界を危機から救うために女神から力を授かって転移した。その際に獣人の女の子になってしまったのは甚だ不服である。

 修也、空河、奈央香、俺の4人は現地では勇者と呼ばれている。

 女神から受け取った力を武器に魔族たちとの戦いに馳せ参じた。

 最初の任務は王都を守る防衛装置の奪還。そして次の任務は大量の魔族の襲来から王都を守るというもの。魔族側の第3部隊が来る前に結界は修復が完了したが、結界の有無関係なしに俺の放った魔法の衝撃が魔族側に多大な影響を与えたのか撤回した。結果、4割ほどの戦力しか削ることはできなかった。

 異世界に転移して早々に戦場へと駆り出されたのだが戦果は上々。味方の謎の移動方法で疲れ切った俺は帰ってシャワーを浴びてすぐにベッドの中に埋もれていた。

 

「……だる」

「……おはよー、まだ明け方じゃん」

「……昨日寝るの早かったから——!?」

 

 なんか股の間がヌメッとしてる。俺は股から伝わってくる感触に寒気が増してきた。

 

「……ちょっとは考えたけどさ……、いざ来たら来たで……」

「んー? どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 覚悟はしていた。シスターさんから聞いたこの世界の獣人の特徴の1つが発情期というものがある。狐娘である俺は1週間後くらいから始まるとか。その前にもしかしたら来るのではないかと思っていた。

 女の子の日だ。

 ……。

 …………。

 もうあかんて。

 これはあかんて。

 俺は男だから受け入れられない。

 だが、現実は体が女ということを俺に直視させてくる。

 どうしたものか。

 

「お? なんか生理が来たときみたいな憂鬱な顔してー」

 

 ミラクル起こすなよ。

 目線だけ俺の方に向けながら布団に包まっている。寒いからな。朝は冷える季節だ。

 こういうときはさすがに奈央香でも頼ったほうがいいよな。女子歴0年生じゃ対処がわからん。妹は勝手にやってたから俺の知ることじゃないし。

 布団に包まりながら欠伸をしている奈央香に頼らなくてはならないのか。

 面倒見は確かに良さそうではある。最低限という枕詞がつきそうだが、とにかく人をイジるのが好きなS(サディスティック)娘だ。

 でも、最低限のTPOはわきまえるタイプだから頼るしかないか。

 もう1人頼りになる候補としてはシスターさんが脳裏に浮かんだが、俺が元から獣人の女の子であると思っているから相談しづらい。奈央香は俺が元男で、女子歴0年生のことは重々承知だ。というか女子歴4日目だぞ。

 

「な、奈央香……」

「んー?」

 

 奈央香は目をつぶったまま俺に応える。

 

「そ、その……」

 

 俺は年下の女の子に何を相談しようというのか。すぱっと聞けばいいことなのにどうしても口籠もってしまう。

 

「……」

 

 顔を向けてきた。

 

「そ、そのだな……」

「世界地図?」

「違うわい! ち、違うというか……、当たらずとも遠からずどいうか」

 

 奈央香は布団から起き上がってくる。俺の下半身あたりに顔を近づける。

 

「んー、くんくん」

「嗅ぐなバカ!?」

「女の子の日だねー」

 

 お前さっき生理ってもろに言ってたのに今更誤魔化すな。

 

「いやー、これはちょっと面倒だねー」

「面倒?」

「考えてなかったんだけど、っていうのは私自身のことも含めてなんだけどね」

「なんのことだ?」

「こっちの世界の生理用品ってどんなのかなーって、私を頼ってくれるのはいいけどさ。私は地球の生理用品しか知らないし」

「あ、うん」

 

 そういえばそうでしたね。

 

「ちょっとイオーネさん呼んでくるねー」

 

 そう言って寝起きすぐに部屋から飛び出していった。

 話が広まるのは避けたいんだけど……。

 とにかく奈央香に任せよう。正直布団の中というか寝間着の中がとんでもないことになっているを直視したくない。動けば必然的に見る羽目になるからなあ。

 しばらくして数人の足音が部屋に近づいてきた。なんで数人いるだよ。そして1人だけ足音が重い。男いるじゃねえか。

 

「ナプキンあったよー」

「ガハハ! ムツメちゃんに初めてが来たのか! これは先の戦と合わせてお祝いしないとな!」

 

 一緒になんてやつ連れて来てんだ!?

 なんで王様に知られてるんだよ。こいつ嬉々として俺が初潮を迎えたことを広めるぞ。というか大声出すなよ。向かいの部屋に修也と空河が寝ているんだぞ!?

 

「早起きは三文の得というが、三文どころではなかったな」

 

 あー、はい、異世界にも似た諺あるんですねー。で、何が得だって?

 

「めでたいなーめでたいぞー、ムツメちゃんも晴れて女になったわけだ。どうだ? 俺の側室にならないか? ムツメちゃんみたいな美少女獣人といつか結ばれたいと思っていたんだ。こうして現実に可憐な美少女、しかも初物が眼前に現れるなんて。ああ、神よ。なんという幸福を俺に授けてくれたのか。今まで魔族との戦争に明け暮れ————」

 

 ……。

 …………。

 

「ザ・ワールド・テンペ————」

「ちょっと待ったー! さすがに最上級魔法はぶっ放しちゃダメだからね」

「どいて奈央香、そいつ殺せない」

「ヤンデレモード!? それならいっそ私のこともお姉ちゃんって呼んでもいいのよ!」

「そうか。じゃあ、ザ・ワールド・テンペ————」

「私もそっちの枠組みに入れないでー!?」

 

 お前も同類だろうが!

 王様と奈央香がどっちが悪いかと騒いでいる間に、一緒に来ていたシスターさんに生理用品の使い方を教わった。

 とりあえずうるさいお前らには魔法訓練だ。防御のな。

 

 

 

 硬い相手には中級魔法の威力が効果的だとわかった。中級魔法のホーリーショットはそこそこに魔力を食うからな。といっても数分もすれば100発分の魔力は回復する。そんなわけで、シスターさん監修の元、王様と奈央香相手に魔法の打ち込みをして時間を潰していた。特に魔法耐性の高い奈央香はピンピンしていやがる。

 

「よかったね、あの2人にバレなくて」

「バレたところでって感じはするが、王様みたいな反応がもう1人増えるのは流石にうざい」

「空河は朝弱いからねー」

 

 もう1人の方はバレても別に問題ないな。というかバレてるだろうな。扉越しに物音がしていた。

 修也は普段から非常事態のとき以外は鑑定スキルを使わないと俺に宣言していた。誠実な修也のことだ。とんでもない情報まで見えてしまうのが鑑定スキルだろう。おそらくスリーサイズくらいは余裕でバレてる。どころか裸にひん剥いてありとあらゆる情報を丸裸にされている可能性がある。鑑定スキルが変態(空河)の手に渡らなくてよかった。

 そんな鑑定スキルを早朝に向かいの部屋で騒ぎになっているときに修也が使わないと言えるか。

 絶対使った。

 そして空気を読んで顔を合わせないように食事の時間までずらしている。

 あいつできるな。

 耳に集中すれば修也の足音は図書室に向かっている。そしてもう一度集中する。空河はいびきをかいている。

 

「どんだけ朝に弱いんだ?」

「空河のこと?」

「ああ、いびきかいて寝てる」

「え? 聞こえるの?」

「集中すると聞こえる」

「そ、そう」

「うん?」

 

 どうした? いきなり吃って。

 

「ね、寝てるときとかは聞こえるの?」

「寝てるんだから聞こえないけど?」

「そ、そう」

「ん?」

 

 なんだろう。

 

「何かまずかったか? 音拾ってしまうのは仕方ないんだけど……」

「その、さ。トイレの音とかって」

「……ごめん」

「ムツメちゃんのえっちー!!」

「おいやめろし」

 

 廊下だと響くんだよ。なんてこと言うんだ。

 

「ムツメちゃんがえっちだって!?」

「目覚めんな、永眠してろ」

「ぶへっ!?」

 

 なんでいびきかいて寝てたのに起き上がってくるんだよ。

 

「酷いよムツメちゃん、寝起きに何すんのさ」

「酷いのはお前だ。どんな起き方しているんだ。顔洗ってこい」

「大丈夫、今ので洗えたから」

 

 ライトブレッドが洗顔扱いされたんだが?

 

「ムツメちゃんがえっちだって!?」

「なんでさっき打ちのめしたのに起き上がってくるんだよ、おっさん」

「お、おっさん!? おっさんだと……、せめておっちゃんと呼んでくれ」

 

 誰が呼ぶか。王様(おっさん)も中級魔法を浴びて伸びていたのにどんな体力しているのか。いや、この場合どんな回復力か。

 

「……騒がしいな」

「図書室行ってたんじゃなかったのかよ」

「行ったよ」

「ん?」

 

 声のする方に目を向ければ修也とシスターさんが並んでいた。それぞれが本を数冊抱えらている。なんの本だろうか。

 

「おう、ちと早いけど会議室いくか?」

「朝飯食わせて!?」

 

 空河も寝坊したわけじゃないからな。待ってやるか。

 

 

 

 空河が朝食を食べ終えて、作戦会議室、参謀本部に集合となった。

 

「みんなおはよう。さて元帥のカリオーンから話があるそうだ」

 

 元帥さんの名前カリオーンだったな。どうせ忘れる。……作戦会議のときって参謀長が話すもんじゃないのか。目線をずらせば空席とすぐにわかる。

 

「参謀長ローテウスが昨日の戦闘で負傷したため、私から進言させていただきます」

 

 脳裏に変な光景が浮かんだけど、アレで負傷したんじゃないだろうな。参謀長だから後ろに控えさせていたけどさ。

 

「わが国には王都以外に残り2つの街を保有しています。最前線となった王都のバックアップとしての役割を果たしてもらっています。此度の魔族の進軍は撃退しました。今回の一件が原因で奴らが何を考えたかはわかりませんが、魔族は海に面する街、クレーテに生き残りの魔族を吸収した第3部隊およそ3億の魔族が向かっているとの情報が入ってきました」

「3億だと!?」

「小型のものを含めればそれくらいかと」

「むぅ……」

 

 3億か。

 壁と称することができるほどの兵団は第1部隊だけで構成されたものだった。あれで2億未満だという。3億という数字はどれほどの見た目をするのだろうか。

 

「そうは言っても率いている長は第3部隊のもの、中級魔族だろう?」

「はい中級の三位相当かと」

 

 なんかよくわからない尺度が出てきたな。中級? 三位?

 

「我々はこの世界の常識には疎いので中級三位とは何のことでしょうか」

 

 さっそく修也が聞き出してくれた。

 

「すみません、こちらの配慮が足りませんでした。魔族の階級のことで、人類への脅威を示す尺度です。素直に強さととってもらって構いません。先の戦い、昨日攻めてきた第1部隊の怪鳥、あれが、中級一位と中級魔族で最強の魔族になります。中級、下級の魔族はそれぞれ十段階で強さを細分化しています」

 

 あれで中級一位か。俺の大規模魔法にぎりぎり耐え抜くだけの強さは持っていたからな。

 

「上級は十段階ではないと?」

「はい。上級魔族とはそれぞれ個別に判断しています。有名なところで言いますと当然魔王、そして直属の配下の四大魔将と続き、他にも十数体の危険な魔族には上級として危険認知しています」

 

 なるほどな。基本的に雑兵には中級以下が与えられると。手加減した覚えはなかったんだけど、雑兵に渾身の魔法を耐えられたのか。女神は俺たちに戦える力をもたらしてくれた。確かに戦える。今も人類の劣勢を弾き返すほどには強い力をもらった。

 だが、それ以上となると、現状の力では不足かもしれない。

 

「1ついいかな?」

 

 今まで黙っていた俺が発言するために挙手して許可を仰ぐ。

 

「どうぞ、ムツメちゃん」

 

 なんで俺だけ名指しなんだ。しかも今の司会進行は元帥さんだろうが。王様(おっさん)がでしゃばんな。

 

「むすっとした顔も最高!」

「じーじぇい!」

 

 グッジョブじゃねえよ。”じーじぇい”とか発言した空河もあとでシメる。

 それはさておき、俺は一番聞きたいことを聞く。待っていれば修也が質問しただろうが、俺は待てなかった。

 

「中級と上級の違いはどれくらいと考えればいいでしょうか?」

「桁違い……と、言う他ありませんね」

「そうですか……」

 

 桁違いか。

 どうやら俺は上級魔族に対する決定打は持ち合わせていないらしい。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっとな……」

 

 修也が心配してか俺の顔を覗き込んでくる。

 

「ムツメ様が心配されていることは確かだと申しましょう」

「——っ!?」

 

 言い当てられた。

 元帥さんが目を閉じた状態で俺の考えを察知した発言をする。

 

「カリオーン? どうした?」

「上級魔族には魔法はほとんど効きません」

「……ああ、……そのことか」

 

 王様(おっさん)も目を伏せる。どうやら俺は雑魚専用のお掃除係だったらしい。

 異世界に来て英雄譚のように活躍する。少しだけそんな淡い夢があったようななかったような。そんな浮ついた期待感は打ち壊されてしまった。ちょっとくらい活躍する夢みさせてよ男だぞ。憧れるだろ。ちょっとは憧れてたんだよ。

 

「ほとんどということは効果的な魔法もあるのだな」

「それは……」

 

 俺が落ち込んでいるのを察してか修也が問いかける。

 

「ないこともないのですが、もたらす被害が……」

 

 そう、魔法は強ければ強いほど、周りや術者への影響も強くなる諸刃の剣だ。強い力にはそれ相応の被害が出てしまう。怪鳥相手にザ・ワールドの大アルカナの使用を控えたのは、もたらす被害が予測できなかったからだ。

 上級魔族に通用する魔法となれば規模威力ともにとんでもないことになる。最悪はメテオの魔法を使わなくてはならないと考えたら、俺が上級魔族と戦うことは控えたほうがいいだろう。

 

「俺は修也が攻め込むための道を作ればいいってことだな」

「……」

 

 俺の言葉に元帥さんは目をゆっくりと瞑ってから開いた。そういうことらしい。

 

「それはそうと、クレーテへ向かっている魔族たちなのだが……」

 

 王様(おっさん)が俺と修也に目を向けてくる。

 なんか気を使わせてしまったみたいだ。

 

「俺は一度に3億という数には対峙できない。だから————」

「言わなくてもいい。俺が適任だってことはわかってるって、余計な配慮はいらない。別に落ち込んでいないからさ。俺は俺の領分で戦うだけだ」

 

 まあ、嘘だけど。

 結構落ち込んでる。上級魔法を倒して可愛い女の子にちやほやされたかったなあ。

 俺が可愛い女の子だったわ。

 ということは活躍したら、いかつい男どもにちやほやされるのか。

 ……。

 …………。

 上級魔族と戦えなくてよかったな。

 あ、うん。別に落ち込んでなかったわ。

 結果オーライ。

 

「その、えっと、なんだっけ?」

「どれ?」

「なんとかって街」

「クレーテか?」

「そうそれ」

「今話していたこと忘れるか?」

 

 なんかみんなからの視線が痛い。別に話を聞いていなかったわけじゃないからな。固有名詞って覚えづらいんだよ。

 

「そのクレーテって街には防衛用の結界はあるのか?」

「ありますが、王都ほど強力なものではありません。ですが、中級三位程度であれば傷つくことはありません」

「なら救援に行く必要ある?」

「救援に行かなければずっと籠城する羽目になります。倒しきるには数ヶ月必要としますし、その間に王都が攻め込まれれば1つの街から援助が来なくなります。特に王都は最前線ですから物資、特に食料が確保できなくなります」

 

 人が減って食い扶持がいないから食料は余っているとは聞いていたけど、他の街からの援助が前提ということか。

 ……少し目立ちすぎたな。あとは修也に任せよう。

 

「ごめんね」

「いや、別に構わない。やはり俺よりムツメがリーダーをやった方が……」

「それは遠慮しておく」

 

 上級魔族と戦えないのにリーダーに祭り上げられるわけにはいかない。

 作戦は順調に決まっていった。

 

 

 

「なんでこーなるのっ!」

「仕方ない。消去法だ」

 

 今回は長距離ということでおんぶ形態だ。これが異世界のお馬さんごっこか。いや、現実逃避している場合じゃないな。修也が足となって俺をクレーテに運ぶことになった。さながら馬である。

 

「クレーテに敵軍が到着するまで3日とありません。クレーテまでは馬車で4日ほどの道のりになります。距離にしておよそ500kmです」

「魔族は移動が早いな」

「奴らは生き物ではありません。疲れがないのでひたすらに行軍できます」

 

 そういうことか。どおりで早いわけだ。

 空河や王様(おっさん)も身体能力を向上させるのは得意だが、一番速く動けるのは修也だ。全速力を出せば音速に迫れるらしい。リアルで土煙あげながら走る奴がいるとは思わなかった。あの光景めっちゃ笑えたんだけど、笑ったら修也に睨まれたから口を閉じておいた。時速50kmくらいの走行はジョギング感覚だという。

 俺は修也におぶられてクレーテに向かうことになった。奈央香と空河はお留守番である。いいなあ。

 

「全速で走れば30分くらいだがどうする?」

「殺す気か?」

「別にそんな気はないが」

「……ジョギングで頼む」

 

 幸い今回は時間があるからな。途中で1泊することになる。

 おぶさってしばらく経った。

 

「……ごめん、修也。ちょっと寝るかも」

「構わない」

 

 道中、ひたすらに沈黙で気まずく、暇すぎで眠ってしまったが、修也はただ黙々と走り続けてくれた。だいぶ負担をかけてしまっただろう。

 

「ムツメ」

「……ん」

「そろそろ日が暮れる」

「ん、起きる……」

 

 走っている割には寝心地がよかったため爆睡してしまったらしい。昼食食べなかったなあ。修也は食べたのだろうか。

 

「ここら辺にしよう。あの洞窟が良さそうだ」

「ういー」

「まだ寝ぼけているのか?」

 

 山の中に手頃なコウモリもいない洞窟があったので、そこを拠点に1泊することになった。シスターさんからもらった魔法器具の簡易結界も展開して魔族の急襲にも対応ができる。この魔法器具ってなんなのだろうか。

 

「お疲れ様」

「疲れていないさ、汗もかいていない」

 

 本当にジョギングなんだな。

 

「そういえば今日はスカートではないのだな」

「尻尾の部分を通せる……、ガウチョ? ワイドパンツだったけな? メイドさんが暇そうにしてたから作ってもらった。ゆったりとしてて楽なんだよ」

「そうか」

 

 体を拭いて夜食を食べて寝る準備をする。風呂とベッドが恋しいなあ。お城は快適だった。対して寝袋の寝心地はかなり悪い。辛いぜ。

 それにしても、修也と2人きりの夜か。

 隣の寝袋に修也が寝ている。もう寝息がかすかに聞こえてくるから完全に寝ているのだろう。早いな、寝袋入って3分経ってないだろ。カップラーメンより早いな。

 体拭いて1時間も経てば優秀な鼻は匂いを捉えてしまった。

 

「ちょっと臭うなあ……」

 

 織物変えておくか。頻度高すぎる気もするけど。

 移動中に眠ってしまったことと、痛み止めが切れているからかちょっと眠れない。

 俺は半身起して、洞窟から月を見上げる。この世界の月はうさぎが餅つきしてないんだな。当たり前か。

 うさぎか。

 俺はお狐さんだよ。

 アホか。

 なんでセルフツッコミしているのか。

 ……。

 …………。

 ちょっとだけ、魔が差した。胸を軽く撫でる。

 俺、本当に女の子になってしまったんだな……。

 ……。

 …………。

 立ち上がると修也が反応した。

 

「ムツメ?」

「あ、ごめん。起しちゃった?」

「トイレか? 周囲には敵はいないから大丈夫だ」

「ありがとう」

 

 別にトイレというわけでもないのだけれど。少し外を歩きたくなっただけだ。

 寂しい世界だ。

 地球の日本にいた頃は大都会に住んでいたこともあって虫は嫌いだった。

 でも、この世界には虫がいない。正確にはいるのだが、このあたりの虫は魔族に食われているのだろう。

 脳のある生き物には魂が宿る。この世界の通説だ。

 動物のいない草原、動物のいない森、動物のいない山。秋も終わるが、秋の夜は鈴虫がけたたましく鳴いている夜を思い浮かべるが、現実には風の音しかしない物静かな夜だ。

 寂しいな。

 しばらくすると、風以外の音も加わった。

 

「……隣、いいか?」

「……別にいいよ」

 

 こいつ、俺が帰ってくるのが遅いから鑑定使ったな。

 

「……後悔、していないか?」

「唐突に真面目な話するのかよ」

「すまん」

 

 後悔か。何をいきなり語りだすかと思えば。

 

「後悔なんてしていない。そういうもんだろ」

「そういうもの?」

「俺たちが選ばれた理由だよ」

 

 童貞とか処女とかもあるだろうけど、そうじゃない。俺たちは女神に選ばれた4人なんだ。もとより異世界に転移しても問題にならない、むしろプラスになるような人物が選ばれて、この星に送り込まれていると俺は考えている。俺自身地球に未練があるわけでもない。残してきた2人の家族、弟も妹もどうせ元気にやっている。お兄ちゃんより優秀だったからなあ。

 

「そういう修也はどうなんだよ」

「俺か? まあ、俺は別に……、叔父や叔母に迷惑かけることもなくなったからな」

 

 同じような境遇だな。やはりそういう人選なのか、むしろ両親を都合よく女神に殺されたと勘ぐってしまいそうになるが、地球は70億人以上いるんだ。両親を失っている人間なんてどれほどいるか。それに十年近く前の話だ。

 ただ、最後の日、あれはやられたかもな。女神に間接的に殺されたかもしれない。それも憶測の話で考えても仕方ないけれど、実行したのはこの世界の女神じゃないだろうし。

 

「月を見てるのか?」

「いや……、この世界は寂しいなって思ってさ」

「……そうだな」

 

 木々が揺れる音だけがする世界に人の吐息の音も加わった。それでも寂しいな。

 

「そういえば、鑑定使っただろ」

「……遅かったからな」

「……」

「……」

「シスターさんのスリーサイズで許してやる」

「言えるか!」

 

 やっぱり鑑定でスリーサイズ見えるんですね。これは奈央香にチクることも考えておこう。シスターさんの奈央香を遥かに超える巨乳のサイズを知りたかったけど残念だ。賄賂を渡さないキミが悪いんだからな。

 

「悪い顔しているぞ」

「ナンノコトカナー」




 一応新章です。そのうち章を設定しておきます。
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