TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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1滴

 雨に降られてビショ濡れだ。

 そして、俺の2つの突起物を修也に見られてしまった。修也は反対を向いているが、そもそもブラをつけなかった俺が悪いわけで……。

 

「その、ムツメ」

「な、なんだよ」

「タオル使いたいから荷物出してくれないか?」

「うぅ……」

 

 修也の頼みはもっともだ。今は体を拭くことが先決なのだから、気まずい空気だろうと荷物は渡さなくてはいけない。

 

「こっち見るなよ」

「俺の後ろに荷物は置いておいてくれ」

「……わかった」

 

 完璧に気を回されては何も言えない。顔は反対を向いているが、俺は胸を抑えながら空間魔法を使って荷物を取り出す。

 

「ありがとう」

「ん」

 

 修也は俺の方を見ずに後ろ手に荷物を探し、掴んだらそそくさと回収する。

 

「へっくし」

 

 くしゃみが出た。

 俺も体を拭かないとな。

 ……。

 …………。

 どうしよう。

 濡れた服を脱がないといつまでも体が冷えてしまう。修也は……、うわ、パンイチじゃねえか。ちくしょう、普通に着替えやがって。

 

「……」

 

 すぐに着替え終えた修也に話しかける。

 

「着替えるから」

「え?」

「着替えるから、奥に行ってて」

「ああ、ごめん。気が利かなかったな。終わったら呼んでくれ」

「うん……」

 

 修也が洞窟の奥に消えた。

 

「うん、しょ……、っと」

 

 雨に濡れて重たくなったローブを脱ぎ、体を拭いていく。

 

「ひゃん!?」

 

 胸を拭いていたら、引っかかった刺激に思わず声が出てしまった。冷えているせいで敏感になっていた。洞窟の中ということもあって音が響いてしまう。

 聞かれたかな?

 聞かれたよな……。

 うぅ……。あんまり考えないようにしよう。

 気をつけて体を拭いていく。

 

「よし」

 

 着替え終わって冷える手足を按摩して温めるがあまり効果が出ない。

 

「終わったぞ」

「ああ」

 

 ちょっと離れたところから声が聞こえる。

 戻ってきた修也は2人分くらい離れた俺の隣に座る。

 特にすることがない雨宿り。

 暇だな。

 

「……」

「……寒いのか?」

「そりゃ寒いだろ」

「火は……」

「酸欠になりそうだから洞窟内で火起こししたくない」

「それもそうだな……」

 

 ゆっくりとした時間が流れる。

 

「修也」

「なんだ?」

「雨が止む時間とかわかるか?」

「しばらくは止まない」

「そうか……」

 

 ……。

 …………。

 寒いな。表面や手足は冷えているのだが、体の中心はどんどんと熱を持ってきている。

 

「足冷えるか?」

「……お前だって擦ってるだろ」

「なら足湯にしないか?」

「足湯? いくら魔法で水が出せるからといって量を調節するの難しいんだぞ。水没したいのか?」

「したくはないさ。この洞窟の奥に地底湖のようなものがある。澄んだ湖だ。その水を沸かせば足湯くらいにはできるんじゃないか?」

「地底湖全部?」

「汲むという発想はないのか」

「水入れておく場所なんてないだろ、どこに水溜めんだよ」

「はい」

「なんだこれ」

「タライだ」

「そうじゃねえよ、どっから持ってきた!?」

「奈央香が持って行けって言ってたぞ。ムツメが魔法に失敗したら頭の上に落としてやれとも言ってた」

 

 帰ったら奈央香の頭にタライ落としてやる。

 

「水運んできたぞ」

「はええよ」

「さっそく沸かしてくれ」

「なんでそんなにやる気あるんだよ」

「俺も冷えてるからな」

 

 手足を擦っている俺を見て提案したんじゃなくて、自分も寒かっただけか。火の下級魔法をタライにぶち込んでいく。思いっきり蒸発しているけど大丈夫だろうか?

 

「なかなかいい温度じゃないか?」

「熱くね?」

「足だけなんだからちょっと熱いくらいでいいだろう」

「そんなもんか」

 

 裸足で冷えていた足が急激な温度の違いで余計に熱く感じるが、浸け続けておくと次第に温度に慣れてくる。

 

「これ、上冷えたままじゃないか。毛布どこいった」

「毛布持っているのか?」

「うん?」

 

 俺は荷物から毛布を取り出したが、修也は持ってきていないみたいだ。寝袋だけしか持っていないのか。

 俺は毛布に包まる。

 

「……」

「……」

「……こっち見過ぎだろ」

「悪い」

 

 毛布にくるまり足湯に浸かってぬくぬくと温まる俺を、羨ましげに見ていた修也の目線に耐えきれなくなった。

 

「ああもう、こっちこいよ。入れてやるから」

「いいのか?」

「別に」

 

 向かい合って寒そうにしている修也を拳一つ離れていない隣に座らせ、毛布をかける。大きめの毛布だから2人を包むのには十分な大きさだ。

 距離が近すぎて左手が修也の太ももに触れる。

 

「……」

「……っ」

「なんだよ?」

「なんでもない」

 

 ……これ、恋人同士に見えないか?

 一緒の毛布にくるまって寒さを凌ぐ?

 修也がじっと見つめてくるからその視線に耐えきれなくなってこんな提案をしたが、これは罠だ。心臓の鼓動が強くなってくる。

 雨の音と、足湯を転がすちゃぽちゃぽという音があるのに静寂な間に、俺の唾を飲込む音が聞こえる。

 隣同士で前を向いていると視界に左に座る修也の輪郭が見えてしまう。意識すると鼓動が早くなるから少し目を右側にそらし、洞窟の外に目を向ける。

 

「その……、言い出しにくいことなんだが……」

「な、なんだよ」

 

 声をかけられたから振り返ると至近距離で目が合う。この距離は想定してなかった。緊張感が一気に高まっていく。

 おい、どうしてそんな真剣な目でこっちを見る。

 直視できない。斜め下を向いて修也の視線から目を反らす。

 近い。近すぎる。

 

「ムツメ」

「な、なに?」

 

 こんな場面で名前を呼ぶんじゃない。

 心臓が高鳴ってしまう。

 

「尻尾、触らせてもらっていい?」

「は?」

 

 

 

 天井から水滴が1滴、天井から水滴が2滴、天井から水滴が3滴。

 

「柔らかいんだな」

「手入レハシテイル」

「どうした、声に力がないけど?」

「アーソウデスネー」

 

 そりゃそうだよ。

 行動を2、3日共にして、一緒に足湯入って、密着するような体勢で一緒に毛布にくるまって。

 まるで恋人のような行動をしているから、勝手に迫られると勘違いしたバカが1匹いただけの話だ。

 あほくさ。

 修也に告白されると勘違いして息が詰まって、心臓が高鳴って、……考えるだけで最悪だ。俺が俺じゃないみたいだ。しかも告白じゃないと理解するとめちゃくちゃ落ち込んだ。男なんだから落ち込む必要なんてないのに……。

 発情期は危険すぎる。俺が俺ではなくなってしまう。どうにか発情を対処しないと……。

 

「……」

「……」

 

 尻尾が撫でられている。

 落ち込んでいると熱が散っていたのだが、修也と密着する時間が長いからか、尻尾を撫でられているからか。また熱がぶり返してきた。

 こうなると体が敏感になる。

 修也の撫でる尻尾の刺激につい息が漏れる。

 

「んぅ…………」

「あ、くすぐったかったか?」

「いや、そうじゃないけど、まだ慣れない感覚だからさ」

 

 触手の魔族に尻尾を引っ張られてから奈央香や空河に頻繁に触らせていたけど、修也に触れられるのは初めてだ。獣人という要素は俺にとってあまり重要なものじゃない。結界装置奪還作戦の際に獣人であることが弱点となってその克服に躍起になっていたこともあったが、生理を迎えてからは獣人というよりは女性への変化の方が俺にとって重要になっていた。だから最近はただ、尻尾の手入れをするくらいで、特に思うことはなかった。

 尻尾が弱点ということをすっかり忘れていた。

 

「…………」

「おお、根元の方はちょっとだけ毛並みが硬いけど十分に柔らかいな。空河が触りたがるのもわかる」

 

 声が漏れそうになる。

 なんだこれ、すごく気持ちいい。心地いいじゃない。気持ちいいだ。

 付け根なんて2人にもあまり触らせていないのに、修也は頻繁に触れてくる。

 奈央香や空河に触らせていたときは心地よかった。だが、修也は違う。これは性的な刺激になっている。尻尾から伝わる電気信号が尾てい骨から、その周囲に、お腹の方に振動してくる感覚だ。昨日の夜のことが思い起こされてくる。

 下腹部に熱が溜まってきた。

 

「修也、あまりこねくり回すと毛並みが……」

「ああ、悪い。撫でるようにするよ」

 

 刺激は弱まったが、それでもじわじわと気持ちのいい感覚が尾てい骨から伝わってくる。酸素がうまく吸えない。どうにか息を吸う音を殺そうとするが、うまくいかない。

 

「はっ…………、はあ…………」

「ムツメ?」

「だ、大丈夫、続けていいから」

 

 隣同士で座っていた体勢から修也に背を向けるような体勢に変える。尻尾はその方が触りやすいだろうが、目的は違う。今の顔を修也に見られるわけにはいかない。

 一撫で一撫でが尾てい骨に刺激を与えてくる。

 撫でられるたびに体が小刻みに震える。

 強張っていた体に、尻尾を爪で軽くひっかかれる。少しだけ強い刺激が全身の力を脱く。

 

「ぁ…………」

 

 修也の肩に首が当たる。肩枕になってしまった。

 

「うん? やめた方がいいか?」

「撫でられるの、結構、心地いいから、そのまま……」

「そうか」

 

 嘘だ。心地よくなんてない。気持ちいいんだ。

 今は2人して毛布にくるまっている。修也の反対を向く過程で右足が足湯から離れてしまったが、もう十分に温まっている。毛布にも包まっているんだ。体は十分に暖かい。

 問題は温まりすぎている体の中心の熱をどう発散するかだ。

 尻尾から伝わる刺激に声が荒れそうになるのを抑える。

 ……。

 …………。

 毛布かぶっているなら手元は見えないよな。

 いや、何を考えている。隣には修也が、というか密着しているのだから体が痙攣(けいれん)でもしたら修也にバレてしまう。

 修也の方を流し目で確認すると尻尾を撫でながら、足湯の水面を眺めている。お風呂に入ってぼーっとしている感覚だろうか。

 今なら、大丈夫か?

 

「ん…………」

 

 痙攣しそうになったら修也の肩から離れればいい。

 耳に集中する。

 雨脚の強さと、修也が足で足湯の水を蹴る音が、粘ついた液体を混ぜ込む音をかき消している。獣人の耳で集中しなければ聞こえない。

 これなら大丈夫だ。修也の耳には入らない。

 それに、近くに修也がいるからか、昨日よりも早い。

 軽くでいいならすぐにでも……。

 あ、くる。もう、はなれないと————。

 

「ムツメ?」

「ひゃい!?」

「お、おう。どうした?」

「急に、えっと、急に……、急に耳元で話しかけられたらびっくりしただけだから! 雨とか足湯とかの音に集中してたから耳が敏感になってたんだよ!」

 

 咄嗟に半分嘘じゃない言い訳を出せるとは自分でも思わなかった。

 

「いや、俺もう温まったし、ムツメも俺が近くにいるのは嫌だろう? だからもう寝袋に入って読書でもしようかなって」

「え? あ、ああ、そう……」

「はい。尻尾は……、ちょっと毛並み荒れたか?」

「大丈夫……」

「じゃあ、ありがとな。温まったよ」

 

 修也は足湯から上がり、寝袋に入って読書を始めた。

 ……。

 …………。

 俺の熱は体内でくすぶり続けた。

 

 

 

「修也?」

「すーっ……、すーっ……」

 

 足湯に入ってから30分くらいたった。修也は寝ている。完全に昼寝モードだ。読書すると寝るタイプだったか。

 寝てる。寝てるならバレないよな?

 いじりたい。

 この昂ぶる感情を沈めたい。

 

「元はと言えば修也が悪いんだ……」

 

 尻尾の付け根を重点的に触るから、発情のスイッチが完全に入ってしまっている。あれから30分も本当によく耐えた方だ。昂ぶらせるだけ昂らせておいて放置とか最低だぞ。

 修也の顔に乗っている本をそっとどけて、寝顔を覗き込む。静かに寝ている。可愛い、のかな?

 日中おんぶされているときに聞いていた吐息とは違う、心地の良いリズムで聞こえる息遣い。匂いも汗というよりは修也本来の匂いというべきものが感じ取れる。

 スイッチがもう一段入ってしまった。

 修也の寝顔を見てしまうと体が反応する。

 手が自然と下腹部に伸びてしまう。

 

「はぁーっ、はあーっ」

 

 静かに少しずつ少しずつ、理性を溶かしていく本能の疼きが下腹部からジンジンと全身に伝わってくる。

 

「う、くぅ……」

 

 抑えろ抑えろ抑えろ。

 治まれ治まれ治まれ。

 まだ引き返せるのに、そう言い聞かせても本能は足を前に進める。

 奥歯を噛み締め、目をぎゅっとつむるが、効果は出ない。ジンジンと疼いてきてしまう。下腹部から伝わる熱が次第に大きくなっていく。

 修也が今、起きたら俺は破滅だ。変態女の烙印を押される。何もかもおしまいだ。男なのに、男なのに……。

 ダメだとわかっている行為だ。

 わかっている。わかっているのに。

 熱は冷めないからやめられない。

 

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」

 

 修也の首元に顔を近づける。

 においがいっぱいする。

 しゅうやの、におい。

 

「もう…………、無理ぃ…………」

「……ムツメ」

「ひぅ!?」

 

 うそだ。

 なんで、なんで起きちゃうんだ……。

 嘘だ嘘だ嘘だ。

 背中に冷や水を入れられたように驚いた。

 修也が起きていた……。

 俺は修也の首元に顔を埋めたまま動けなくなった。

 

「見るな修也ぁ……」

 

 修也にバレたというのに、疼きがより一層激しくなってくる。俺は羞恥で顔をあげることができない。

 修也が起きているのに、右手が止まらない。

 

「うあぁ……、見ないでぇ……」

 

 目から涙が溢れるが、手は止まらない。

 色々な感情がとめどなく溢れていく。思考が真っ白になる。

 修也に手首を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。

 

「見るなあ……!」

 

 掴まれた左腕とは反対の右腕は下腹部から離れない。修也に顔を見られてしまっている。涙に濡れ、情欲が浮かぶ顔がさらけ出されてしまっている。

 修也が空いているもう片方の手で俺の目を隠した。

 

「ふぇっ……?」

「発情期、なんだな?」

「ぅ……、ひっぐ……」

 

 泣き顔は隠せても、隠したいことのすべては隠れていない。重要な部分をさらけ出してしまっている。

 

「修也の、せいだ……」

「俺の?」

「尻尾の付け根、触るから」

 

 修也のせいじゃない。確かに尻尾の付け根を触られてスイッチ入ったが、そんなことが起きなくてもいずれ発情していた。

 何の責任もない修也に押し付けて、自分の自慰行為が正当性のあったものだったと保身に走る。自分でも支離滅裂な主張だと理解しているけど。

 

「そうか、わかった……。ムツメ、口を開けろ」

「うぇ!?」

 

 修也は俺の意を汲んでくれる。

 修也が背負いこんでくれる。

 

「すまん。嫌かもしれないが、ムツメの発情期を押さえ込むには効果的なんだ。唾液を垂らす。拒否してくれて構わない」

 

 唾液……、薬の……、原料……、男の……、体液……。

 

「あっ……」

 

 絶対にそれは飲むことはできない。俺は男だ。男の唾液を飲むなんてことはできない。できないはずだ。だが、下腹部から伝わる熱が俺の脳を溶かす。修也とキスすることを容易に想像させてしまう。

 違う。違うんだ。この想像は俺のせいじゃない、発情のせいだ。修也が発情させたんだ。

 修也が悪いんだ。

 俺を昂奮させるから。

 だから、修也には俺の昂奮を抑える義務がある。

 修也は俺に興奮を抑える薬を提供しなくちゃいけないんだ。

 

「修也の、せいだから」

「わかってる」

 

 口を開け、舌を差し出した。

 

「んー」

「ちょっと待ってろ」

「ひゃあく(早く)」

「ん……」

 

 キスはしなかった。

 舌先に1滴だけ垂れてきたそれは、甘い味がした。

 

「もっと……」

 

 舌を伸ばすと、舌同士が触れ合った。

 

「————っ!?」

 

 互いに引っ込める。

 想像していない出来事に一瞬で我に返った。

 えっ?

 えっ、えっ、えっ!?

 今、俺何をした?

 

「……」

「……」

 

 劇薬だ。

 修也の薬はすぐに効果が出てしまった。冷静な自分を完璧に取り戻してしまっている。

 自分の口元に手を当てる。

 今のファーストキスじゃないよな?

 発情とは違う悶々とした感情が残り続けた。




 ようやく恋愛のれの字くらいには入れそう。
 長かった2人旅も終了です。
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