めっちゃパソコン重いけど書いた。
誤字脱字あったらすみません。
体調いい時も誤字は酷いけど。
レベル
王都は久しぶりだな。城門をくぐると伝達されていたのか、城内の全員で迎えられた。さっそく奈央香が飛びついてくる。
後ろに張り付かれた。
「お゛か゛え゛り゛!! ムツメちゃんいなくて寂しかったよぉ!!」
「おい、ムツメさんこっちだから」
奈央香と目が合うが、奈央香はすぐに目線を元の方向に戻した。
「うわあああ!」
「そっち尻尾だから、本体じゃないから、……聞けよ」
修也は修也で軍部の人たちに囲まれている。何か意見を交わしているみたいだ。ということは他の騒がしい連中は俺の方に近寄ってきているわけで。
「うおおおおお! 未来の嫁候補よ。否、現在進行形の嫁候補よ。大義であった!」
「でかい声で何ほざいてやがる。寝言は寝て言え」
「うるせえ、王様だろうと俺のムツメちゃんに指一本触れさせると思うなよ」
「いつから俺は空河のものになった」
「何ぃ!? 聞き捨てならんぞ小僧! ワシの嫁に色目を使うなど! 百を超える刑に処されたいか!」
「嫁じゃねえし、使われてねえし、職権乱用すぎるだろ」
「俺とムツメちゃんの仲を裂こうたってそうはいかない。俺たちはありとあらゆる障壁を乗り越えて結ばれる、赤い糸の運命で結ばれているんだ。むしろ貴様程度、俺たちの仲を深め、ともに乗り越えるための1つの小さな壁に過ぎんわ! わっはっはっは!」
「誰かツッコミの増援頼むわ……」
久しぶりだな。この騒がしさ。
「おかえりなさいませ、ムツメ様」
「あ、イオーネさん、ただいま」
空気が止まった。今まで馬鹿騒ぎしていた連中だけではなく、割と真剣な話をしていたであろう修也たちもこっちに注目している。
「あれ?」
「ムツメ様が……、ムツメ様が……、私の名前を……」
「あ、うん。いいかげん、覚えようかなって」
「ムツメ様ぁ!」
いや、ここ抱きとめるところじゃないの?
なんでイオーネさんも尻尾に抱きつくの?
王様(おっさん)も俺も俺もってジェスチャーでアピールしなくていいから、名前覚えちゃいねえよ。
「褒賞が欲しければ私の名を呼んでみろ。ついでに”お嫁さんにしてください”の一言も追加で」
「おい、このおっさんシメていいか?」
『いいぞ』
「全員で言わなくても良くない? この国の王様だよ? あ、ちょっ、ホーリーショットは痛いって」
大変な目にあったのにタダ働きなんてごめんだ。きちんと寄越せ。
おっさんシバいた後に文官の大臣さんから報奨金とその他諸々を受け取る。お金をもらってもどこで使えばいいのかね。
「疲れたあ!」
「あ、ムツメちゃんこっちじゃないよ」
旅の疲れがどっと出て、自室にようやく戻ってこれたと思ったら、先に部屋に戻っていた奈央香から予想外なことを告げられる。
「ん?」
「いやー、いつまでも相部屋続きってのもね。お城の修繕もだいぶ進んだし、私たちも個室をゲットしたわけですよ。ムツメちゃんの自室もあるよ」
「あ、そうなのか」
「んー? 奈央香お姉ちゃんと離れ離れになって寂しい? ねえ、寂しい?」
「せいせいする」
「やあん、ツンデレー」
「無敵か、お前は」
「こっちだよー」
奈央香に案内された部屋は途中にエントランスホールの吹き抜けを挟んで反対側だ。奈央香の部屋からはだいぶ遠いな。
「こんなに遠いなんて寂しいよね。遊びに来るからね」
「来なくていいぞ。……それにしても、なんでこんなに離れているんだ?」
「んー? 寂しいの?」
「普通の疑問なんだが」
「イオーネさんがここにすべきだって言ってたよ」
隔離施設ってわけじゃない。同じ建物内の同じ2階だ。だからといってこうも端っこに飛ばされると何かあると勘ぐってしまう。夜討ちでもされるのか?
「詳しいことはイオーネさんに聞いてね。それじゃあ、帰るけど、何かあっても、なくても気軽にお姉ちゃんの部屋に訪ねてきてねー」
「お前はどちらかといえば妹だろ」
「バイバーイ」
「人の話聞かねえな」
嵐のように去っていった。
……。
…………。
思い当たるものがあるとすればトイレの音を耳が捉えてしまうと奈央香に漏らしたせいか。さすがに恥ずかしいもんな。俺が奈央香の立場なら聞かれたくなんてないし。
ゴトッゴトッという音が隣から聞こえる。
は?
隣に誰かいるのか?
隣の気配を探っていると遠くから別の足音が聞こえてくる。
こんな端の部屋に用事とは、お隣さんじゃなくて俺か。
俺の部屋の扉にコンコンとノックが入る。
「……どうぞ」
「失礼します」
「イオーネさん、どうかしましたか?」
「いくつかムツメ様と相談しなければならないこともありまして、時間があればすぐにでもお話ししたいのですが」
「大事な話、ですか?」
「はい。それから、このお部屋のこともお話ししますので……」
「わかりました」
「それでは私の自室に向かいましょう」
ここで話しはしないのか。
というか隣でゴソゴソ言ってるのは聞き覚えのある足音だ。確認はしていないけど、修也か。
イオーネさんの後ろを歩いていると王宮から外れ離宮の1つに入る。
側には教会だろうか。煌びやかなステングラスが内部にあった。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」
女性の部屋に入るのなんていつ以来だろう。
甘い香水の匂いがするし、花も綺麗に生けてある。物自体は多いのに綺麗に片付いている。これができる女ってやつか。
「おかけください」
促されるがままに椅子に座る。テーブルを挟んで反対側にイオーネさんが座った。
「……どこからお話ししましょうか」
イオーネさんは困った顔をしている。
俺に話があるからと呼んだのに、言葉に突っかかるということはよほど話しにくい内容なのだろうか。
「そうですね。まずはムツメ様がどこまで進んでいるかを聞かなければなりませんね」
「何のこと?」
「ムツメ様、失礼ですが、発情期は来ましたか?」
……。
…………。
なるほど、一瞬思考が真っ白になってしまった。ジャブどころか言葉のアッパーカットから入ってくるとは思わなかった。
「来、ました……」
え? なにこれ、はずっ。
耳が熱い。
「そうですか……。それで、ですね。……私はひとつ言い忘れていたことがありまして」
「言い忘れていたこと?」
「忠告をすべきでしたのですが、私も何分人間ですので、獣人の発情期についてはあまり詳しくなかったので、その……忘れていました……」
隣町の救援に向かう前日に話した内容か。図書室で発情期が来ることを告げられ、女神に薬の入手が間に合わないと聞かされていた。修也が本を読んだ知識だけで薬を作っていたけど、それに関連することだろうか。
「とても聞きにくいことなのですが」
「俺もできるだけ知っておきたいから話してくれると助かります」
話してくれないと話が進まなさそうだし。現に今は目を落としているから目が合わない。
「そうですか……、それで、その……、発情期が来てから……、じ、自慰はしたのでしょうか」
「ジイ?」
「オ、オナニーのことです!」
「……」
「……」
……。
…………。
なんだって?
「お……」
「お?」
顔が熱い。
「ぉ、にー……なんて、す、するわけないだろ!」
盛大に嘘をついてしまった。恥ずかしくて本当のことなんて言えるわけがない。しかも恥ずかしくて発音できなかったし。
「そ、そうですか。それならよかったです」
「え?」
「していないなら、まだ間に合いますので!」
どういうこと? 何かまずいことでもあるのか?
全身から一気に血の気が引く。
「発情期の際に、その、自慰すると……、まずいことでもあるのか?」
「発情期中に自慰行為をしてしまうと、一気に発情が進行してしまいますので」
「……」
もうやってしまったんだけど。
発情が進行したら何かまずいのか? 何が間に合わないと言うんだ……。
「されていないのでしたら大丈夫です! 発情レベルが1のままなら薬が間に合いますよ! 普段通りの生活が送れます! 我々の世界に来て、その違いから戸惑われてしまわれたでしょうが、地球、でしたか? ムツメ様の故郷の地球と同じ感覚で、発情期のない生活ができるようになります!」
なん…だと…!?
イオーネさんは手をパンとたたくように合わせてにこやかな笑みを浮かべている。
「よかった、お薬間に合いそうで。それにしても本当にすごい精神力をお持ちなのですね。この世界の獣人の女性は薬なしに神託を受けられた試しがありませんから」
あかん。
これはあかん。
下手に嘘をつくんじゃなかった。
いや、それ以前の問題だ。もう手遅れじゃないか。
あと発情レベルって何?
シスターさんは俺のことを案じて、薬の製作を急がせ、地球の時のように発情期なんて存在しないような生活を送れるよう、色々と頑張ってくれたみたいだけど。なんで話すの忘れてるの? すごい重大なことだよ? しちゃったよ、あんなにひどい症状に見舞われたら我慢なんて無理だって……。そんなトラップあるなんて聞いてない……。
でも、どっちにしろ飲めないか、原材料が原材料だし。
「その薬って、男の……」
「あっ、修也様からお聞きになられたのでしょうか? 修也様には万が一に備えて体液から薬を作る本をお渡ししておきましたが……」
「う、うん。聞いただけ……、修也の作った薬は、……飲んでない」
修也の原材料は飲んじゃったけど……。
「そうですよね。いきなり他人の体液を飲めと言われても飲めないですよね。大丈夫です。簡易的に作れるのに必要なのが男性の体液ですが、今頼んでいるものは植物由来のおしべから作られるものでして、……それも嫌なら、その、困りますが……」
なるほど、植物由来か。なるほど、なるほど、男の体液と言われたら拒絶反応が現れるが、植物のおしべと言われたら別にどうでもいいな。なるほどなるほど。
ちくしょう。
……。
…………。
それで、発情レベルって何だろう?
「こ、後学のためなんだけど」
「はい……?」
「も、もしその、発情レベル? っていうのが2に上がってたらその薬は効くのか?」
「いえ、植物由来のお薬の効能はとても低いので、発情レベル1のときでないと効果はでません。なので、もうあと2日で完成しますので、2日間我慢していただけないでしょうか?」
「そ、それは平気、だと、思い、ます……」
「そうですか。やはりすごいのですね。ムツメ様は2日も耐えられるなんて」
嘘に嘘を上塗りしたせいでとんでもないことになってしまった。イオーネさんが感心して目をキラキラさせているから訂正できない。
俺、しちゃってるよ。完全にしちゃってるんだよ。
絶対、発情レベルってやつの2に入ってるだろ。
「あっ、あとお部屋のことなのですが」
「あ、そうだ」
そっちが本来聞きたかったことだ。爆弾を落とされて、イオーネさんの部屋に来た目的を忘れていた。いや、今は爆弾の方が重要なんだけど……。
「万が一、ムツメ様の発情レベルが進行した場合に備えて、お隣の部屋を修也様のお部屋とさせていただきました。勝手にペアリングしているみたいで申し訳ありませんが、修也様と相性が良さそうでしたので……、発情レベルが進行していないのですから、別の部屋に越しても構いません」
「進行していたら、修也と、その……」
「そうですね。……でも安心してください。防音の観点から奈央香様や空河様のお部屋からは離した場所にさせていただきましたので、音の心配は必要ありません」
それ以上にもっと心配することがあるんだけど!?
「発情レベルが1ですので修也様と致す必要はありませんね。あと2日間頑張りましょう!」
俺は半分放心していた。
だが、もう半分は一つの希望というか、ある期待が残っていた。
それは、原材料というか原液というか、修也の体液を俺は一度取り込んでいることだ。
発情の進行度が2になっても0にすることができるのではないだろうか。効果は実感している。修也の唾液を飲んだら恐ろしいほどに冷静さを一瞬で取り戻した。植物のおしべの薬の効果は知らないが、弱いというのなら。効果は修也の唾液の方が上回るだろう。なら、発情が進行した今でも、発情レベルを0に戻せる可能性はあるはずだ。
転んだままでは終われない。
「イオーネさん」
「はい、まだ何か?」
「獣人について詳しく知っておきたいので、参考になる本とかってありますか?」
「それでしたら、まだ修也様が持っているかと」
「わかった」
「それと、2日間は安静にしていてくださいね」
もう手遅れなんです。
俺は急いで修也の部屋、配属された新しい部屋の隣の部屋をノックしに戻った。
「修也、いるか?」
「ああ」
「お前が借りた書物を見てもいいか?」
「いいぞ」
中に案内され、修也がごそごそと荷物をいじっている間に部屋の中を観察する。俺の部屋は2部屋あった。まだ見ていないが、奥に寝室があるはずだ。修也の部屋は1部屋なんだな。20畳くらいはあるから1部屋でも十分だろうけど。
「これで全部だ」
修也が取り出した本の山からそれらしいものを抜き出す。
『獣人の生態』
割とシンプルなタイトルをしている。
「それでいいのか?」
「ああ。これ借りるからな」
「まだ読んでいないから終わったら返して欲しい」
「読むのかよ……、これ、俺のことだろ」
「仲間のことは知っておきたい、何かあってからだと後悔する」
「そ、そうか……」
とりあえず、借りることはできたが、中身次第ではこれ返したくないんだけど……。
ひとまず、読まないことには始まらない。
俺は自室に戻る。
帰ってきてようやく一息ついたと思ったのにこれだ。発情期という呪いは治まってくれない。
もう疲れた。本当に疲れた。
早くお風呂にも入りたいが、寝室でゴロゴロもしたい。汚れるだろうか? 汚れたらわがまま言って洗ってもらうか。それくらいは働いたし。メイドさんも暇そうにしているから多少のわがままも聞いてくれるかな。
でも、今は抱えているこの本を読むのが先決だ。よし、ゴロゴロしながら読書しよう。そうしよう。
それにしても変な部屋の作りだな。寝室が修也の部屋の隣にあるのか……。
「うわっ、なんだこれ……、なんで天蓋ついてんのさ……」
お姫様ベッドが寝室の真ん中に鎮座していた。
発情期はまだ終わらない。
次は3日後くらいに更新かな。