TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

17 / 47
対処法

 ペラペラとリズムよく本のページをめくる音が奏でられる。

 修也から借りた『獣人の生態』の本をベッドに横になりながら読んでいるのだが、目当てのページになかなかたどり着けない。目次を見てもよくわからないから1ページ1ページ流し読みするしかない。

 獣人の生態と言ってはいるが、途中まで人間との間の抗争とかの話まであった。魔族の侵攻から獣人と人間のわだかまりは無視され、互いに手を取るようになったとか。もともとは互いに争っていたことから完全には仲良くはできていないらしい。俺は蔑視の目で見られたりはしなかったけど、この先何か理不尽なことを言われることもあるかもしれないな。

 

「あった」

 

『獣人の発情期について。

 獣人はその人の発現している動物の特徴と同じ動物の発情期と合致する。

 つまり、俺は狐の特徴を持っているから、狐と同じ発情期になると、このことについては前にイオーネさんに教えられていたな。狐は12月から1月が発情期、今は12月の第1週、まだ発情期に入ったばかりだ。

 発情期は個体差があると考えられていたが、魔族侵攻後、天界の圧縮により、アロディーテ様の影響が強まり、発情の程度は強いものになっていて、その差はほとんど微差であると考えられている。天界の圧縮の影響により、かつては稀にいた獣人の勇者が誕生しなくなってしまい。獣人は魔族戦線からいち早く退かざるを得なかった』

 

「天界の圧縮って何? アロディーテって誰?」

 

 なんだかよくわからない単語が出てきたな。とりあえずわかるのは魔族の侵攻の前後で発情の仕方が変わったみたいだ。発情が強くなっているらしい。傍迷惑な。

 今読んでいるところはあまり関係はないな。今の時代の発情の程度が気にかかる。

 

「これだな」

 

 発情期には段階がある。

 

『第一段階、もしくはレベル1の発情段階では、植物の花粉を用いた薬で発情期を抑え込むことが可能。症状は軽く、1割の獣人が発情に耐えられるという』

 

 おい、たった1割しか耐えられないのに、軽いってどういうことだ? 俺ももれなく大多数派に組み込まれている訳だけど。

 

『第二段階、もしくはレベル2の発情段階では、第一段階のときに性感の刺激が行われる、もしくは第一段階から2週間ほどの時間が経過する。第二段階で発情期を終了させるにはヒト科の異性の秘部の体液を必要とする』

 

「ちょっと待て!? 第一段階からレベル急に上がりすぎだろ!? 秘部の体液ってなんだよ、直球すぎるだろ!? 生物学の本だけどさ!?」

 

 唾液じゃ足りていない。第一段階と第二段階じゃ天と地の差じゃないか。

 

『なお、発情を押さえ込むだけならば、ヒト科の異性の体液であればなんでもよいとされる。効果持続時間は体液の種類による』

 

 今俺が発情していないのは第二段階を修也の唾液で押さえ込んでいるからか。完治しているかもと踏んでいたけど、それは早まった期待だったらしい。

 だとすると症状を押さえ込んでいるだけで、発情は進行する可能性があるわけで……。

 

『第三段階、もしくはレベル3の発情段階では、すべての獣人の女性は発情に耐えることが不可能であり、一部の男性のみが発情を抑えこむことができる段階』

 

 ……次の段階でフィニッシュだな。進行させたら男として終わる……。もう俺はリーチだったのかよ。

 

『第二段階から2週間ほどの時間経過、もしくは性交渉で満足がいっていない場合にこの段階へと入る。結婚している場合最も注意が必要。発情を押さえ込むことができず、毎日性交渉をしましょう。しなければ友人関係や家族関係にヒビが入る可能性があります』

 

 どんだけだよ!?

 人間関係にも支障をきたすレベル!?

 

『性に優秀なパートナーがいれば心強いでしょう』

 

 脳裏にウサギの獣人の人妻が思い当たった。

 あの人浮気してたって言ってたよな。けど、旦那は性欲が強くて優秀だって言ってたし……、だとするとこれより先まで行ったのか? いや、ないだろ。キリよくページが終わっているし、この先なんて……。

 次のページをめくる。

 

『第四段階、もしくはレベル4の発情段階では、第三段階から2週間で女性のみが到達します』

 

 あるんかい!?

 ちょっと待て、最も注意が必要って言われた第三段階を超えてるんだけど。

 あれか? もしかして第三段階がピークで第四段階から発情が終息していくという話か? それなら希望がまだある。

 

『とにかく子作りしましょう』

 

 ……ど真ん中ストレートでアウトですね。表現が。

 

『友人と家族には謝りましょう』

 

 やべえ段階に入ってるぅー!?

 あのウサギの嫁さんは絶対にこの段階まで行っただろ。

 というか謝って済む問題じゃねえだろ!? って、冷静に考えて家族にすら影響が及ぶとか、第四段階やばすぎるだろ!? 頭おかしいんじゃねえの!?

 

『第五段階————』

 

 俺は読むのを辞めた。

 

「……」

 

 いや、さすがにな、さすがに終息するだろ。第四段階が折り返しとかだよな。信じていいんだよな。

 

『またの名をサキュバスと称される段階であり、過去に2件、女性に第五段階の症状が見られ、男性の死者を多数出したことから、2件の女性たちはそれぞれ衛兵の手によって殺害された』

 

 ……。

 …………。

 行き過ぎーーー!?

 

「想像のさらに上を行きやがった……」

 

 冷静に考えてまずくないか。これが俺にも起こりうるってことだろ?

 いや、いやいや、さすがにここまではいかないだろ。確かに俺は症状を自ら進行させてしまっている。多少は快楽に流されているかもしれないけど、その、えっと、嗜(たしな)みってやつだよ、うん。快楽を貪り食らうようなことはしていないさ。嗜み嗜み。

 

「いや、嗜んでどうする……」

 

 俺は目を掌で隠して悶え苦しむ。

 万が一にも第五段階に行きようものなら俺は帰ってこれねえぞ。第四段階でも帰ってこれねえ。違う、冷静になれ、第三段階で既にアウトだ。1つでも進行させるわけにはいかないんだ。

 まずいまずいまずいまずい。

 いや、待て、俺は第二段階だ。まだ収束させて発情レベルを0にすることが……。

 

「修也のせいえ……」

 

 飲めるかー!?

 飲む以前に頼めるかー!?

 そもそも修也は俺が男だって知ってんだぞ。俺が修也に男の……、それを……、頼んだとして、修也が渡すとは限らないだろ。

 っていうか、なんで選択肢が修也だけなんだ。異性は他にもいるだろ!

 違う違う違う、冷静になれよ俺。

 最初に立ち直れ、そうすれば答えはシンプルだ。耐えればいいんだよ。

 耐えられる。耐えられるさ。

 きちんとした知識を得たんだ。無知のまま快楽に流されて、発情を進行させるヘマはしない。

 今の俺ならきちんと誘惑に耐えられるさ。

 平気だ平気。

 

「……? まだ続きがあるか」

 

『補足。症状が進行しても0に戻るケースがいくつか確認されている』

 

 これだ。

 耐えるだけじゃなくて、他にもまだ希望が残されているじゃないか! なんだよ、驚かせやがって。

 さて、その内容はと……。

 

『事故や去勢手術などによる性機能の損失。

 同性への恋情。

 性の倒錯。

 この3つの原因で発情期が収まることが稀に起こる』

 

「……」

 

 事故とか去勢手術は嫌だ。体にメスを入れるのは抵抗があるから、この項目については考えないようにする。

 同性への恋情か。この場合、俺は女性に対する恋情だろうか? 体が反応することを考えれば女性への恋情が同性に対するものになるのだろう。俺の心情を考えると同性は男性になるのだけれど、どっちだこれ?

 いや、俺の場合は3つ目が該当するのか?

 性の倒錯。

 俺自身の心は男の頃と変わらないはずだ。そして体は女、だとすれば性同一障害のように性の倒錯が起きていると判断してもいいはずだ。ということは俺はこのままでいいのだろうか?

 うーん……。 

 ……。

 …………。

 扉が開いた?

 

「お邪魔するよー」

「勝手に入るなよ」

「ノックしても返事ないし」

「……扉、遠いからな」

 

 寝室と部屋の玄関口はさりげなく遠い。集中しすぎて足音聞き逃してた。奈央香はなにやら荷物を持ってきているみたいだが……、着替えか?

 

「あっ、ちょっと、なんでベッドでゴロゴロしているのよ。お風呂3日入っていないって言ってたのに入らないの?」

「今は本を読むという用事があってな」

「汚いわよ、ほらベッド汚れるから」

「大丈夫、あとで変えてもらうから」

 

 今度は足音を聞き逃さなかった。部屋に王宮に勤務しているメイドさんが入ってくる。

 

「ちょうどいいところに」

「ムツメちゃん……」

「何?」

 

 奈央香が何かを言いかけているが、呆れた目を向けてくる。わかってしまったらしい。そりゃそうだわな。色々とツッコミどころあるもんな。

 

「ムツメ様、これでよろしいでしょうか?」

「いいねえ」

 

 報奨金をもらった後に厨房で頼んでおいたジャンボフルーツパフェも到着した。なかなかの再現率である。適当な注文だったけど厨房の人もなかなかやるなあ。俺の拙い説明でもフルーツパフェを再現できるなんて。しかも山盛り。

 

「なにこのカロリーモンスター……」

「報酬の1つだよ、食べないでよ」

「食べないわよ」

 

 街の1つを救出したんだ。わがまま言ってもいいだろう。

 ベッド脇にジャンボフルーツパフェが配置され、読書しながらゴロゴロしながら美味しいものをいただく。異世界最高だな。

 さすがに行儀悪いから椅子に座るか。一口だけ食べてからベッドから出る。

 

「あと、この後お風呂に入るから、布団変えておいてくれます?」

「かしこまりました」

 

 奈央香からの視線が痛いけど、気にしない気にしない。これは報酬だからな。俺は椅子に座り直し、パフェを口に運ぶ。

 うめえ。甘いものがこんなにおいしく感じるなんて。

 植物系の食材は余っているからな。砂糖も当然めちゃくちゃ余っている。乳製品の備蓄は少ないらしいけど、肉類ほどじゃない。アイスクリームはあったし、カカオもあればチョコレートだって作ることもできるだろうが、あれは口頭で説明しても温度調節とかが大変だから再現は諦めて、簡単に作れるフルーツパフェを作ってもらった。

 うまうま。

 

「おいしそうに食べないでよ」

「あ、読まないでよ、それ」

「いいじゃない別に」

「よくない」

「……なるほどねえ」

「うぅ」

 

 パフェに食べるのに夢中で知られたくないことを知られてしまった。奈央香が勝手に『獣人の生態』を読みふけってしまった。俺が読んでいたページを読んでいる。

 

「で、ムツメちゃんは今何段階目の発情期なの?」

「……0」

「はい、嘘」

「う、嘘じゃないし」

「なら、目を見て言ってくれる?」

 

 あ、奈央香から目を逸らして返事してしまっていた。確かにこれだと、嘘に聞こえるよな。嘘ついているのだけども。

 こんなこと馬鹿正直に教えられるわけないだろ。

 

「第一にこんな本読んでいる時点で発情レベル0なわけないじゃない」

「ちょっ、大きな声出さないでよ! 隣に……」

「……隣?」

「な、なんでもない……」

 

 修也のことは話しづらい。少なからず奈央香も修也に好意を持っているはずだ。隣同士と知られたらこのドS奈央香が敵に回りかねない。それは避けたい。

 

「それで……、本当の発情レベルは?」

 

 奈央香の真剣な目に言葉が詰まる。

 

「2、です」

「2ねえ」

「うぅ……」

「この世界に来てから2週間も経ってないのに進行したの?」

「うわあああーーー!?」

「ちょっ、いきなり泣かないでよ。私悪いことした? 悪かったって、私が悪いよね、ね。だから泣かないでって、やけ食いもしないでよ!?」

 

 うぅ……、おいしい……。

 

「……」

「……」

「えっと、何から聞けばいいのかな?」

「パフェおいしい……」

「そんなこと聞いていないから。それで、何かしたら2になってしまったと」

「……」

「ナニ?」

「うわあああーーー!?」

「ちょっ、それやめてって!」

 

 パフェ……、おいしい……。塩味がする……。

 

「なるほどね。帰ってきてから変だとは思ったけど、まさかの発情期の悪化かあ」

「……うん」

「ふむ……」

 

 奈央香はまた本を読んでいく。

 

「解決方法がいくつかあるし、ムツメちゃんにうってつけのもあるわけだ。なんとかなるかもね」

「性の倒錯の部分に該当するから大丈夫」

「大丈夫? どの口が言っているのかしら?」

「パフェ味の口?」

「脳内スイーツか!」

「ひたいひたい!?」

 

 頰を思いっきり引っ張られてしまった。俺が何をしたというのか。

 

「この惨状を見て性の倒錯とか考えられないから」

「惨状ってなんだよ。俺はただ、労働の対価を受け取っているだけだから」

「……まあ、いいわ。天蓋ベッドでスイーツを貪りダラダラしているワガママお姫様モードじゃなくて、男心を取り戻せばいいんでしょう? 私が手伝ってあげよっか」

「え?」

 

 お姫様とか言われたことは不服だけど、奈央香の提案はとても魅力的なものだった。

 

 

 

 大浴場の更衣室に来ている。

 

「いいのかよ……」

「うーん、私はいいのだけど、逆の意味でダメかもね」

「逆の意味?」

「まあ、それはひとまずおいておいて、私の裸見れば男心取り戻せるんじゃない? こら、目瞑るな」

「瞑るだろ!」

 

 性の倒錯。つまりは性の不一致だ。

 発情期を抑え込むための異端な方法のはずだが、俺の場合はむしろ正攻法みたいなところがある。俺が元男ということで男心を全面に押し出せば、発情期は治る可能性があるという。今は修也の唾液の効果が持続しているため、発情は押さえ込まれているが、効果が切れれば再び自分の体に振り回されてしまいかねない。

 発情を完治させるために男心を取り戻す協力を奈央香がしてくれるというが、いきなり裸を見ていいとは大胆すぎるだろ。俺は心の準備はできていない。奈央香だって見た目は悪くない、いや、ぶっ飛んで良い。かなりの美少女でスタイルも運動しているから引き締まった体をしている。まあ、近くにイオーネさんとかいう完璧美女がいるせいで、奈央香の可愛さには目が慣れてしまっているのだけれど。それでも魅力的な奈央香の裸を見て良いと言われたら見たいが、俺は20歳の男性だ。まだ高校生の女の子の裸を見るわけにはいかない。

 

「ムツメちゃんの裸は見ているんだからおあいこじゃない」

「そうはならないだろ、俺は男なんだから」

「なるでしょ。まあ、そもそも私自身、ムツメちゃんに見られても特に何も感じないし」

「いや、それはそれでどうなの?」

「だから問題なんでしょう」

「どういうこと?」

「ムツメちゃんから男をまったく感じないから問題なのよ。私が1ミリもムツメちゃんに警戒していないってことは、ムツメちゃんから男心が消え失せている可能性があるわ」

「へっ?」

 

 男をまったく感じない……。いやいや、俺の見た目が少女そのものだからだろ。女になって1週間程度なのに男心を失うわけがない。とても男に見えない容姿のせいで奈央香が男として接することができないだけだ。

 

「奈央香だって俺の男の姿みただろ。それに今でも一人称だって俺だぞ!?」

「ただのオレっ娘にしか見えないわよ」

「あんまりだ!?」

 

 特に強調していた一人称なのにこうかがないだと!?

 こうかはいまひとつくらいはあると思ったのに……。

 

「とにかく男の頃のスケベ心を取り戻すのよ。ほーら、おっぱいでちゅよ」

「それ男のスケベ心じゃなくて、幼児退行だろうが!? っていうか、なんでスケベ心が対象なんだ。男心じゃないのかよ!?」

「男なんて大体スケベじゃん。男とスケベはイコールで結ばれるでしょ」

「ニアリーイコールだ!」

 

 結局目を開けて、奈央香と俺自身の裸が大浴場の鏡に写り、2人分の裸が視界に入る。俺は微塵も興奮しなかった。

 

「鼻血出ないわね」

「出るわけないだろ。漫画の見過ぎだ」

「はあ……、それにしても思ったより深刻そうね」

 

 俺は奈央香の言葉を否定しなかった。

 深刻だ。

 ここまで深刻だとは微塵も思っていなかった。

 男心? 何それおいしいのってレベルだ。

 だって。

 だって……。

 興奮しないどころか。

 奈央香の裸を見てイライラしているのだから。




 ムツメちゃんは小で奈央香が大です。イオーネさんは特大です。何がとは言いませんけど。

 次回は2日後かな。3日後になったらごめんなさい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。