眩しい光に包まれ、次第に目を閉じていながら、瞼にかかる光量が落ち着いてきたので徐々に目を開く。そこは広大な草原が広がっていた。古代遺跡のような石柱が壊れて地面に倒れ、草に覆われている。草原もただ草が生えているだけではなく、小さく白い花をつけ彩があり、明るい世界が広がっていた。
「これが異世界か……」
ん?
なんか声が変だったような。
「あれ? 女神はどこ行った?」
辺りを見回すと高校生組しかいない。彼らも周囲を見回している。
『私は自分の星には入れませんのでテレパシーで会話ができますよ』
「なるほど」
入れないのね。ということは宇宙空間にいるのかな?
それと、さっきまで周囲を見回していたのに、こっちを見てポカンと口を開けている3人の高校生はどうしたというのか。
「あの、誰?」
「は? ああ、自己紹介1回じゃ名前意外と覚えられないよなあ。俺も人の名前覚えるの苦手だし、俺は須木根睦(すきねむつめ)だ」
「えぇ……」
「うん? どうした? っていうかなんか声変だなあ。やけに高いというか。ん?」
首を触ると手も首も小さく感じる。それに髪の毛が指にかかっている。
「んん!?」
服の胸部に柔らかいふくらみがあるし、それは揉めるくらいの大きさだ。
「ん!?」
俺はもう一度3人を見る。困惑する3人の姿だ。熱血漢くんですら首を傾げている。俺は自分の体に視線を戻した。
「は? はあ? はあああ!?」
ない。
ないぞ。
むしろ変な感触がする。
股間に手を添えれば俺の相棒の姿はなかった。
「ちょっと2人とも反対向きなさい!!」
「すまん!」
「サー、イエッサー!」
「もう! 何が起きているのよ!」
高校生3人は何か言っているが、俺にはそっちを気にする余裕なんてない。体が女になっている。どういうことだよ。俺女にしてくれなんて微塵も言ってないんだけど。そうだ、女神! 女神ならこのこと知っているだろう。
「女神! なんで俺が女になっているんだよ! 説明しろ!」
『女神様です。りぴーとあふたーみー』
「おっま……、くそ女神!」
『酷い!? ここ私の星なのだから敬称くらいいいじゃない!』
「めんどくさっ!?」
猫かぶってやがったなこんちくしょう。
「じゃあ、……女神様。どうして俺は女になっているんだ!?」
『声小さいけど、まあいいでしょう。説明しよう』
「うぜえ」
『何か言いましたか?』
「何も?」
『ごほん、睦さんが女性になっているのは転移特典の影響です』
「だろうな。他の3人は姿が変わっていない」
『正確にいうと、矛盾をきたしました』
「矛盾? そんなに矛盾なんてあったか?」
『私の世界、この星には魔法があります』
「ああ」
『魔法を扱うには魔力が必要です。魔力は一様に存在し、人はみな一定の魔力を持っています。たまに多い人もいますが基本的には同じ量を持ちます。しかし、魔力の使い方には差があります』
差?
『魔力を使って魔法を扱う。これは女性にしかできません』
「なっ!?」
『男性の場合は魔力を身体能力の向上に使うことができますが、これは女性にはできません』
くそっ、そういうことかよ。俺が女になったのは単純にこっちの世界の性質が影響したってことか。魔法使いは必然的に女になる。
『そして耳と尻尾ですが』
「耳と尻尾?」
何を言って——。
ってなんか生えてる!?
ふんわりとした尻尾生えてるし、本来耳のあった場所から少し上にかけて大きなふさふさした耳も生えてる。これもしかしなくても獣人ってやつか?
猫娘にでもなったのか!?
『狐娘です』
「なんで狐やねん!?」
『私の好みです』
「好み!? ってそれよりなんで獣人なんだ!?」
『それは肉弾戦を熟すためです』
「あ……」
『お察しいただけたでしょうか? 女性は魔法を使えますが、身体能力の向上に魔力は使えません。なので肉弾戦が得意な獣人になっていただきました』
そんな、バカな……。
『項垂れないでくださいよ。せっかく2つのお願い叶えたのですから』
「いや、これマイナスにマイナスを上塗りしているだけじゃん」
『マイナスにマイナスかければプラスですよ』
「やかましいわ!」
きつね。
きつねむすめ。
狐娘か。
鏡ないかな?
違う。俺ひょっとしてかわいいとか内心思ってないから、鏡とかいらねえから。断じて必要ないからな。
「えっと、須木根さんでいいのよね?」
「はい……」
「そんな涙流さなくても……」
「泣きたい」
「もう泣いてますよ」
うぅ、紺野さんの優しさがしみる。頭ナデナデされてる。俺歳上なのに。耳撫でられるのくすぐったい。あと尻尾は本当にくすぐったいから触らないでほしい。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「あの、撫ですぎでは?」
「あ、ごめんなさい。もう大丈夫ですよね」
……この人、俺をモフったな。
うわっ、自分で考えて悲しくなる。俺モフられる側かよ。
「背が……」
「そうだね。少し縮んだかな?」
「いや、俺君より高かったからね? 少しどころじゃないから!?」
紺野さんを見上げる形になってしまった。たぶん20cmくらいは目線が落ちている。
「2人ともこっち見ても大丈夫だよ」
紺野さんが後ろ向いている2人に声をかける。確実に股と胸に手を当てているアウトなシーンを見られてたけど、これってラッキースケベだからひっぱたいた方がいいのか? いや、待て、俺はどれだけ混乱しているんだ。男なんだから気にしなくていいんだよな? うん?
「須木野さんだっけ?」
「須木根です」
「ああ、須木根さん。須木根さんなんだよな」
「はい」
「あ、うん。了解」
何が?
熱血漢くんは何かあったのだろうか。ソワソワしてたけどモフらせたりはしないからな。俺男だからな。
「えっと、須木根さんが女性になったのは了解した」
みんな順応早くない?
イケメンくんに至っては秒だぞ。
「それで、女神様、俺たちはこの後どうすればいい?」
あ、もう女神との会話ですか。イケメンくんさっぱりしているなあ。あ、イケメンくんはもうまずいか。えっと、名前なんだっけ? 頭の中イケメンくんに支配されてる。
名前、名前……、佐藤、田中、鈴木……。
『教会に神託を届けているので、そろそろ迎えが来るはずです』
「迎えですか」
『来ましたよ。まだ遠いですが』
平原の先から何か馬車のような一団が向かってくる。確かに遠いなあ。
『しばらくお待ちください』
「了解した」
女神との交信は切れたようだ。交信なくてもこっちのことは把握はしているのだろう。それより、マジで俺、年長者なのに自分のことで精一杯だよ。というかなんで女なんだよ。
「なあ、転移特典? だっけ、あれ試してみようぜ。あいつら来るまでしばらくかかるだろ」
熱血漢くんこと矢部くんが話題を持ち出した。俺の事情は無視ですかそうですか。まあ、そうだよね。関係ないもんね。触れづらいもんね。
熱血漢くんの言うとおり、確かに転移特典を貰ったのはいいけど、使い道が分かっているのは俺くらいだ。高校生3人はかなり曖昧な転移特典をもらっているからなあ。
「守る強さってなんだろうな?」
自分で選んだことに疑問を持つな。
「空河は重戦士の特性があるな、あとは騎士の特性もある」
「重戦士か」
「ああ」
「修也はなんでわかったんだ?」
「俺には見えるぞ?」
どういうことだろう。目をこらしたりしてみるが何も見えない。イケメンくんこと修也くんは自然体だ。その状態で見えるのか。これも転移特典なのだろうか。というか熱血漢くんが名前言わなかったら、イケメンくんの名前思い出せなかったな。苗字なんだったっけ。
「俺の力は勇者のクラスにあるらしい。ステータスとか見られるが、お前らはどうだ?」
「はい?」
ゆ、勇者だと!?
転生特典、じゃない転移特典で強さをくれみたいな。いかにも悪役が頼みそうなことで勇者になれるのかよ。
「俺は見えない」
「私も」
「俺も」
「そうか。一応説明するが、俺は満遍なくステータスが高いな。強さと定義できるものならだいたい強いみたいだ」
なんやそのチート!?
「奈央香は防御力が心配だな。完全にRPGでいう後衛職だ。魔導師とアルケミストの性質もあるな」
「やったー」
概念か。概念が強いのか!?
勇者は置いておいて、なんで平然と職が2つくらいありそうなんだ。俺魔法使いだけだぞ。オプションで獣人だけど。
「須木根さんは魔法使いですね」
ちーん。
目が白目剥くわ。他に要素ないの!?
「他には……、他にはないのか!? これだけじゃあ足引っ張る気がする!?」
「いえ、遠距離火力の点で見れば奈央香の3倍くらいはありますよ。あと、後衛職ながら他のステータスが結構高いです」
狐だからかな。
なんにせよよかった。あの頼み方でもそれなりな戦いができるようにはしてくれたのか。女神サンキュー。薄っぺらい感謝ならしておく。
『まだ到着まで時間がかかりそうなのでチュートリアルをしましょう』
「いきなりなんでしょうか?」
『チュートリアルです。戦い方というものを知っておきましょう』
「戦い方……、つまりは模擬戦ですか?」
『いえ、実戦です。あなたがたにはいきなり実戦を行なっても問題がないほどに強くなっていることを知ってもらいます。先ほど捕らえた魔族をそちらに転移させますので』
いきなり魔族戦かよ。心の準備なんてできてねえぞ。最悪の場合、勇者職のイケメンくんの背中に隠れよう。
「あれ? どころで武器は?」
『あ、そうでした。どうぞー』
「忘れんな!」
宙に魔法陣が出現してそこから武器が落ちてくる。俺はその1つを受け取る。
「まんま杖だなあ」
思い描いていた木製じゃなくて、普通に金属製だし、少し重い。
他の3人もそれぞれ武器を持っている。勇者こと修也くんは片手剣と盾、重戦士こと矢部くんは大きな盾と片手槍、紺野さんは俺と同じで杖を持っている。でも、彼女のは攻撃性能がないのか。俺の持ってるの杖は棒術にも使えそうなくらい長い。
それにしても制服に武器って似合わねえなあ。俺も私服に武器だし似合わないのだろうか。そもそも男ものの衣類に狐娘は似合わないだろう。
『行きます』
女神の声で空中にまた魔法陣が現れ、ぼと、ぼとと次々と塊が落ちてくる。
『それはスライムです』
魔族っていうからゾンビとかスケルトンとか吸血鬼とか人型想定してたらモンスター含むんかい!?
『あとコウモリ型の魔物も送りますね』
「魔物って言ってるじゃん!? 魔族じゃないじゃん!?」
『いえ、日本人のあなた方は魔族を魔獣や魔物に細分化されていますので、そちらの方がわかりやすいかなと』
「お気遣いありがとうございます!」
ひっくるめて魔族か。とりあえず納得した。
宙に浮かんだ魔法陣はコウモリの魔物を排出する。大きさはカラスほどにでかい。
「ひっ!?」
「ちょっと、おっきくない!?」
紺野さんもでかいこうもりに臆している。
ちょっと待って? コウモリの大きさにツッコミいれてたのが紺野さんならもしかして『ひっ!?』って悲鳴、俺かよ。
『前衛のお2人は体を慣らしてください。後衛のお2人は魔法を使いましょう』
「どうやって!?」
前2人は攻撃を開始した。スライムも軟体生物とは思えないくらいにはよく動いているが、転移特典持ちの2人相手に即座に倒されていく。
スライムって物理効くんだな。最近のスライムは物理耐性があるって聞いてたのに。20匹くらいいたと思うんだけど、一瞬で片してるなあ。あとは空をバッサバッサ飛んでいるコウモリだ。
『魔法はイメージしたものを言霊に乗せて発現します』
「なるほど、すごいな、一瞬にして恥ずかしい光景が浮かんじゃったよ」
『恥ずかしがってはダメですよ。イメージです。イメージ』
あれか、魔法を叫ぶ必要があるのか。
『言霊は大きければ大きいほどいいですよ』
「大声でサンダーとか叫ばなきゃいけないの!?」
『はい』
すごいね、本当にすごい。魔法。どれくらいすごいかって、だってもう魔法職引退したいくらいすごいもの。
「頑張れよー、サンダーだぞ、サンダー」
熱血漢くんめっちゃニヤケてやがる。いい性格してるじゃねえか。あとでシメてやる。
それにしても魔法を撃つの恥ずかしくてできるわけない。俺もう20歳だぞ。詠唱がないだけマシかもしれないけど、魔法名叫ぶだけでも恥ずかしい。
紺野さんもキツイだろう。
「さ、サンダー!」
「やったよ!?」
空から雷が降って来て一瞬でコウモリの魔物を何体も倒してしまう。
「あばばばばば!?」
「おい! 空河大丈夫か!?」
「あー……、狙った?」
「もち」
人を揶揄うととんでもない反撃が飛んでくるから、熱血漢くん、今後も気をつけようね。俺も反撃しかねないから。
「紺野さんの魔法であれだけの規模の攻撃か」
「どうしました?」
「いや、俺は紺野さんの3倍火力があるんだろ。危なくないか」
「大丈夫ですよ。味方にはダメージないみたいですし」
「え、でもあれ食らってたような……」
「ええ、ダメージないでしょう?」
「あ、はい」
めっちゃ痺れてるんだけど、ノーダメージなんだな。うん、そういうことにしておこう。紺野さんは結構根に持つタイプだな。
「ちょっと離れててー!」
「おう」
「ふーっ」
気合いを入れて、無心無心無心。恥ずかしくない恥ずかしくない恥ずかしくない。
「アブソリュート・ゼロ!」
「ぶふっ」
むかっ!
熱血漢くん、あとでマジでシメる。
俺のイメージした魔法は大気を一瞬に凍らせ、コウモリたちは落下し、砕け散った。
「さっむー!?!?」
「おい! 火を出せ、火を」
「須木根さんやりすぎ!」
魔法の影響は凄まじく、周囲を一瞬で凍らせ、俺たちの周囲の温度も一瞬で氷点下まで持っていくほど。さすがに絶対零度はやりすぎだったな。あれだけ美麗な草原が一瞬でダメになってしまいそうだ。一瞬で固体化したからか、凍らせた場所に地面はぶくぶくと沸騰している。液体酸素とか液体窒素とかたくさんできたんだろうなあ。
「ふぁいあー」
絶対零度を発生させた空間に火を投げ込む。
「アブソリュート・ゼロの使用はしばらく禁止で」
「はい……」
熱血漢くんをシメる前に勇者のイケメンくんに説教されました。
あと、エターナルフォースブリザードを叫ぶのはさすがに無理でした。
Rまでの道のりは長め