早朝の秘め事
体が熱い。
何か大きなものが体を温めている。ああ、何かに抱きついているのか。
人?
ゆっくり目を開けると、目の前の修也が寝息を立てていた。
「……そっか」
昨日修也に発情期の治療してもらったんだった。ここは修也の部屋か。そして修也のベッド。これが朝チュンってやつか。あまりに早く寝たから起きたのも深夜だ。外真っ暗だよ。
本番どころか結局キスすらしていないのに、恋人でもしないであろうエロティックな行為をして、そのまま気絶したのだろうか。
ショーツ、ガビガビなんだけど……。
「……」
昨日は大胆な行動をしすぎた。人生初告白が、あのタイミングだなんてな。しかも奈央香に触発されてつい咄嗟にとってしまった行動だ。
「うぅ……」
自己嫌悪が表に出てくる。
好き、か。
まあ、修也のことは好きだけど。異性として好きかと問われたら答えられないな。衝動的に告白してしまったが、俺自身こんな性急に距離を縮めることは想定していなかった。異世界に来てとりあえず人の役に立って豊かに暮らせる第2の人生というイメージだった。一応それは達成されているのだが、付随してきたオプションが俺を悩ませている。
告白か……。
修也に、恋、しているのだろうか?
いや、恋という感じはしない。正確には取られたくないっていう独占欲だろうか。奈央香に修也を取られると困るからそれを阻止しようとしているのだろう。
俺の都合で、もともとは俺の都合ではないのだけれど、この体の熱を治めるためには修也の協力が必要だ。昨日修也に言われたように修也以外の人でも発情期を治めることはできるが、俺は元男という特異な立場ゆえ、信頼できる相手にしか相談はできない。他の男なんて無理だ。抵抗感が著しく増してしまう。
修也だけが平気なのは、修也は俺に性的な目を向けたりはしないから。
「矛盾してるなあ、俺」
修也に女として見られたいと思っているのに、男に性的に見られることを嫌悪する。そして修也は性的に見てこないから俺は修也に好意を持って、女として見て欲しいと思っている。
俺は自分のことを全然わかっていないな。
女になってから、それが顕著だ。
俺はどうしたいのだろうか。修也と恋仲に? いや、夫婦になりたい?
……どちらも近いけど、何か違う。
俺は……。
「……ムツメ?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや……」
目をしょぼしょぼとさせながら、まだ眠ろうとしている修也に、少し強く抱きついて寝させないようにする。
今日には上級魔族の討伐のためにしばらく帰ってこなくなる。
まだ一緒にいたい。
そう思った。
「……臭い」
「おい、お前の匂いだぞ」
匂いがこべりついたり、汗臭かったりする体を洗うために、朝風呂に2人で入ることにした。場所は男湯だ。深夜3時に入るやつなんていない。そもそも、この王宮のお風呂は、王様と聖女のイオーネさんと勇者の4人以外に使用しない。道中で王様はぐーすか寝ていたから起きてくる心配はないだろう。空河は寝息くらいだったかな。他は女性だから男湯にはまず来ない。
「結局、一緒に入るんだな」
「背中くらいは流してやる」
「もうすっかり男モードだな」
それはどうだろうな。完全な男の俺なら一緒には入らないと思う。
修也の前で裸になるのか……。
昨日の変態行為に比べれば余裕だな。というより、修也の裸を見たいという願望が強い当たり、発情期でもないのにもう本格的に女になってきている気がする。
「見過ぎだろ」
「お互い様だよ」
俺も視線は普通にわかるからな。
大浴場に入る。構造は女湯と変わらないな。入って前と右側にシャワーがある。女湯はちょうど反対だ。
俺たちは2人は正面のシャワー2つに並んで互いに体を洗おうとしていた。
いや、背中流してやるって言ったのになんで普通に入っているんだ。
「頭、先洗う?」
「ああ、そのあと頼むわ」
「待って、頭も洗ってあげよっか?」
「……頼んでいいか?」
「うん」
なんとなく洗ってあげたくなった。弟と妹にはこうしてよく頭を洗ってあげたっけ? わしゃわしゃするの結構楽しい。泡だらけにしたら、今度はボディーソープに手を出す。
「流さないのかよ」
「体もやってから」
ちょっとしたいたずら心が疼いた。めちゃくちゃ泡立てて石鹸まみれにしてやる。
「……これ、洗えてるのか?」
「洗ってるよー、前もやってあげる」
「前は自分でやるって」
「それだと泡だらけにならない」
「趣旨変わってるぞ」
「泡で隠すからいいだろ」
前を向いた修也の体を見る。修也はシャンプーで目を開けられないのだろう。
……でかくない?
指の親指と小指を精一杯開いて長さを測る。俺手のひら小さくなってたわ。
「洗わないのか?」
「あ、ごめんごめん」
さらに泡立てたスポンジで胸板から腹筋を泡だらけにしていく、秘部は一旦放置で、太ももスネ、足と洗う。
なんか放置してる一部だけが逆にピックアップされているみたいで、露出狂の変態に見えるな。こんなこと言ったら一瞬で不機嫌になりそう。
俺は最後の場所に手をかける。
「お、おい」
「大丈夫だって、扱いは知ってるし」
爪で引っ掻いたりしないように、スポンジをあてがって優しく擦る。
「あ……」
大きくなって————。
「——っ!?」
更衣室で物音!
空河か!?
やばい、見つかる!?
「おー、修也。朝早すぎねー?」
「空河っ!?」
「どうした驚いて」
あぶねー!
なんとか入り口から直線で見られる位置から、入り口のあえて真横に退避して、突然訪ねてきた空河の死角に入り込めた。
なんで起きてんだこいつ。
「修也なんだそれ、泡だらけじゃねーか」
「あ、これか、……偶にはな、こうやって体を洗いたい時もある」
俺のせいだけどな。
ちょっと笑える。空河には修也が1人で自分の体を泡だらけにして洗っているように見えるもんな。あんなド硬い男がお風呂の泡で遊んでいるとかウケる。
修也は目元の泡だけ取り除いてこっちをみている。忍者がかぶる覆面? あ、やべえ、変な想像して吹き出しそうになった。
「あと独り言か? ちょっと不気味だったぞ」
「鼻歌だ」
それは無理があるだろ。そんなことしたら鼻の中泡まみれだぞ。
それと、俺の態勢も無理がある。扉の真横の壁に張り付くように立っているから、ちょくちょく修也の視線が飛んでくる。見るなバカ。
「ガッツリ喋ってたぜ、王様でもいるのかと……?」
あっぶねー。
空河が右を見てきたから、咄嗟にさらなる死角の空河の右の足元へ退避した。
「ぶふっ」
「どうした? 思い出し笑いか?」
修也、あとでぶん殴る。こっちは必死なんだぞ!
「いや、なんでもない」
口角ピクピクと痙攣しているからな。
「空河はなんで?」
「あー、忘れ物だよ。金をポケットに入れてたからな。このままじゃメイドさんに洗われちまうし、取りに来た」
お金?
俺は自室の金庫にしまってあるけど、俺たちに使う機会なんてあったか? 街には復旧くらいでしかいかないし……、外食も王宮の飯の方が絶対に美味い。防具の新調とかか?
「いやー、本物の獣人ちゃんたち相手だと散財しちゃうなあ。あったあった」
……は?
「修也もどうだ? さすがに酒は飲まないけど、可愛い獣人ちゃんたちとおしゃべりできる店があるんだよ」
こいつ高校生のくせになんちゅう店に通ってやがる。
「俺は遠慮しとくよ」
ここで『俺も行く!』なんて言いだしたら粉微塵にしてやるところだ。
「いいよなあ、ムツメちゃんに好かれている奴は」
俺?
「……お前の態度が悪いんじゃないか?」
「常識の範疇だと思うけど?」
「それはない」
それはない。
「まあ、ムツメちゃんも元男だし、まだ複雑な心境だろうからね。あまりグイグイ行くと引かれるし」
「いつの間にかキャラ変わってないか? お前はそんな軟派なやつではなかっただろう」
「男子、三日会わざれば刮目してみよ!」
「退化してるぞ」
「それは言っちゃおしまいよ」
「自覚あるじゃねえか」
この状況で長引く会話すんな。入り口の冷たい空気がダイレクトに浴びているから冷えるんだよ。
「ぷくく、泡遊びのことは奈央香には内緒にしておいてやるよ」
「余計なお世話だ」
扉が閉められる。
ようやく帰ったか。
「……」
「……」
「さっき笑っただろ」
目を背けられた。
空河の突然の来訪があってからというものの、なんとなく気まずい空気になってしまった。
空河の最後の言葉、奈央香には黙っておく……か。やっぱり、俺よりよほど関係が進んでいるのだろうな。もともとこの異世界に来るより前から2人の関係は恋人のそれに近づいていたのだろう。
体を洗い終え、入浴しようとしたところで、先に入っていた修也の視線を浴びる。
「……えっち」
「いや、今更だろ」
余裕のある修也の態度がムカつく。少しはあたふたしてほしい。
「尻尾、ぺちゃんこになるんだな」
そっちかい。
エロさも微塵もない体だからな、見ても反応しないか。子どもの体、風呂に入る前は修也の反応を期待していたけど、ここまで反応がないと悲しくなる。奈央香は本人曰くEカップあるって言ってたし、俺はAだからな……。クソ女神様も少しはえちえちな体にしてくれても良かっただろう。
「はあ……」
「俺、先上がるよ」
「待って」
立ち上がりかけた修也の手を掴む。
「もう少し、一緒に……」
「わかった」
指を絡めたまま修也の横に着く。
結局、2人とものぼせた。
今年はあと1回の更新かな。3日後か4日後。