TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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自意識

「いってらっしゃい」

 

 修也、奈央香、王様の3人を見送っている。そういえば、この王都に来るまでの道のりで使用した馬車ってめっちゃ速く動くよな。なんで隣町を助けに向かうときに俺と修也は使えなかったんだ? ああ、細い山道もあったから馬車使えなかったんだっけ?

 そんなことはどうでもいい。

 これから毎日同じように戦闘訓練と街の復旧作業をするのだが、俺はそれどころではなかった。異変が起きたのは修也を見送った後すぐに起きた。

 自室に戻り、昨日は一切使用していない、まだ洗剤の匂いがするベッドに倒れる。

 

「……」

 

 修也と離れて、ようやく冷静さを取り戻していたのだ。

 

「うあああああぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 内に秘めた感情をすべて吐露するように叫んだ。

 

「何事ですか!?」

「うぅ……、……なんでもないです」

 

 感情を一思いに吐き出したせいで、外に待機していたメイドさんが部屋に入ってきてしまった。そりゃ、部屋で奇声あげてたら入ってくるわな。途中で感情をしまいこんでしまった。

 うおぉぉぉ、残ったフラストレーションをどこに吐き捨てればいいんだ!

 昨日の行為、いくら発情期だからといっても度が過ぎている……。それに、今朝も完全に正気に戻っててもいいだろ。全然正気じゃなかった。空河から隠れていたときも、そのあと一緒にのぼせたときも。

 うぅ……。俺、女の子になってしまうのかな……。

 いや、もう、あられもない姿を修也に見られているし、修也を昂奮させているあたり、すべてが終わっている気がする。

 もう男として生きていけないだろ……。

 全身がぞわぞわする。

 修也に大事なところ以外の全身を舐められたことを思い出すと身震いが止まらない。

 自分の両肩を抱き寄せる。

 男相手に許容量をはるかに超えるプレイをしてしまったことに対する嫌悪感と、自分が知らない誰かに変わっている恐怖心から体が震える。

 

「うぅ……」

 

 もう一回風呂入ろ……。

 

「はぁ……」

 

 体を3回も洗ってしまうとは……。おかげさまで時間を食った。遅刻だなあ。

 風呂上がりに髪と尻尾を乾かしているとイオーネさんが俺を迎えにきた。

 鬼の形相である。

 

「なんでお風呂に入っているのですか?」

「え、だって……、その……、汗臭いから?」

「シュウヤ様を見送った段階では石鹸のいい匂いがしていましたよ」

 

 思い出したくない過去を掘り返さないでください。

 

「朝に2度もお風呂に入る必要がどこにあるのですか? どんな事情があろうと言い訳は聞きませんよ、ムツメ様。最近メイドをこき使い過ぎです」

「いや、そんなことないでしょ」

「そんなことあるんです。メイドたちの噂でムツメ様がワガママ王女というあだ名が付けられていますからね」

「えっ……、嘘でしょ?」

「日に何度もお風呂に入ったり、シーツをすぐ洗わせたり、1日に3度も部屋の掃除させたり、異世界のデザートを作らせたり」

「最後のメイドさんじゃなくて厨房の人だろ」

「いいかげんにしてください!」

「は、はい、すみません……」

 

 朝からガミガミと怒られてしまった。これはしばらく止まりそうにないなあ。正座でイオーネさんの説教が終わるまで左耳から右耳に聞き流していよう。

 

「聞いているんですか!?」

「いぃ!? 耳元で叫ばないで〜〜」

 

 目がグワングワンと回る。反省します、反省しますから〜〜。

 

「もういいです。……わかりました。今日からシュウヤ様が戻られるまでメイドに命令することを一切禁じます」

「はあ!? なんで!?」

「この1週間の生活態度をふりかえってください。いくら、勇者様といえど、限度があります。城のメイドは優雅に振る舞う気品溢れる選ばれたメイドたちですよ。忙しなく働かせるものではありません」

「俺の報酬だもん……」

「だもんじゃありません! 度が過ぎているのですよ! シュウヤ様の100倍はワガママ言っています!」

「うぅ……」

 

 た、確かにメイドさんに頼りすぎていたかもしれないけど、そんなに怒らなくてもいいだろうに。

 

「まあまあ、イオーネちゃん。その辺にしておき」

「マリン様」

 

 怒られていたところに部屋に入ってきたのは、俺の戦闘指導のおばあちゃんだった。マリンだったっけ?

 

「おばあちゃん」

「おばあちゃんって……、マリン様に対して……、はあ……」

 

 態とらしく大きなため息を吐かれた。

 

「空間魔法を扱うための訓練じゃぞ。遅刻はダメじゃ遅刻は。時間が少しでも惜しい。ゆくぞ娘さんや」

 

 わざわざ俺の部屋まで足を運んでくれるとは、救世主か?

 

「イオーネさん、訓練あるのでまた後で」

「ムツメ様! 説教は訓練後もしますからね! お部屋に戻られたら覚えていてください!」

 

 おー、怖。プンスカ怒っているイオーネさんは先に行ってしまった。

 

「それじゃあ、行こうかの。エルシアちゃんや」

「はいはい」

 

 助けに来たのにボケてるとかどういうこと?

 あれ?

 おばあちゃんはなんで俺の部屋知ってるんだろう。城内に住んでるとか?

 

 

 

 朝の戦闘訓練が終わって、正午に入り、午後は街の復旧作業の手伝いだ。お昼ご飯の時間である。だが、楽しい昼食の時間は訪れることはなかった。

 

「部屋に帰ってないのに……」

「何を言い訳しているのですか? ムツメ様?」

「何も言ってません……」

 

 昼ご飯を食べながら、休憩時間にシーツを洗って干して、部屋の掃除をする計画を立てられてしまった。俺はただ頷くことしかできない。

 久々だなあ、自分の家事をするのは……。

 

「はぁ……」

「ため息ばかり吐いていると幸せが逃げていくぜムツメちゃん、否、マイハニー!」

 

 その口にくわえている花はなんだ。普通に気持ち悪いぞ空河。

 

「薄幸のムツメちゃんよ」

「薄幸は余計なお世話だ」

 

 自分の非だから幸薄くはねえよ。

 

「この空河様がイオーネさんに怒られてしゅんとしている哀れなムツメちゃんに褒美を持ってきたぞ。これが目に入らぬか!」

「なんだよ、もう……ってそれは!?」

 

 グラスにもられた甘味の数々、視覚だけでなく、嗅覚もそれが本物と認識させる。

 

「そうチョコレートパフェだ!」

「なん……だと……!?」

 

 どうやってそれを! 再現するには自力で頑張るしかないはずだったのに!? どこで手に入れたんだ!?

 

「ちなみに厨房にフルーツパフェを毎日のごとく要求していることは調査済みだぜ」

 

 あ、こら。余計なこと言うな。横にいるイオーネさんからの視線が痛い。

 

「へー、毎日。毎日ですか?」

「あ、そのー、たまに?」

「毎日はたまにとはいいませんよ、ムツメ様」

 

 青筋が一本追加された。余計怒らせちゃったぜ。

 

「ちなみに厨房の人にめっちゃ睨まれた」

「はぁ……」

 

 ナイス空河、ヘイトが分散してくれた。お前も怒られてしまえ。っていうか料理長、チョコレート作れるんだ。今度お願いしよ。

 

「それで、これくれんの?」

「おいおい、ムツメちゃん、人から物をタダでもらおうなんて、そうは問屋がおろしませんってな」

 

 お前もほとんどタダで手に入れただろうが。

 

「……俺に何かして欲しいのか?」

「ふっふっふ、そういうことだ。ムツメちゃん、おすわり!」

「……」

 

 ……。

 …………。

 なるほど、この野郎。そうきたか。

 チョコレートパフェごときで俺がプライドを捨てて犬畜生に成り下がるわけが——。

 

「お、してくれた」

「ムツメ様……」

 

 成り下がってしまった。イオーネさんから絶対零度の視線を浴びるけど知らん。チョコレートパフェだぞ。

 

「今日日、獣人の夫婦でもそのようなマニアックなプレイは致しませんよ」

 

 ペット扱いじゃなくてプレイ扱いかよ。今日日ってことは昔はやってたのか。

 

「次は、お手!」

 

 ほい。

 

「おかわり!」

 

 ほい。

 

「伏せ!」

 

 ほい。

 

「ちんちん!」

 

 ほいーーー!!

 

「あぎゃー!?」

 

 伏せした状態から起き上がりながら、股間に蹴りをくれてやった。

 

「よし、これで終わりだな。チョコパフェはいただいていくぞ」

「お、おお……、ムツメちゃん、この痛み知っているのに、なんてことを……」

「ちんちんして欲しかったんだろ? ん?」

 

 地べたに這いつくばって股間を押さえている手に足を乗せる。

 

「意味違う……、防御が固くても弱点は……、ぐふっ」

 

 悪は成敗した。

 さて、いただくとしよう。

 

「これ、うっま」

 

 口どけは若干悪いが、チョコレートが普及していない時代で、この味なら十分どころかお釣りがくるレベルだ。アイスクリームと絡めるとさらに美味しい。

 あれ? イオーネさんが目を点にしている。

 

「……それでいいのですね」

「なんのこと?」

「てっきりクウガ様とプレイを最後までやり遂げるのかと」

 

 イオーネさんはむっつりだよな。奈央香も言ってたけど。空河とはありえねえよ。

 この後きっちり自分の部屋を掃除した。

 

 

 

 午後の復旧活動が終わる頃には日がまだ暮れていない。午後3時といったとろこだろうか。訓練場に忘れ物をしていたので、戻ってみたら、おばあちゃんがお茶を飲んでいた。ここを日向ぼっこにするなよ。

 

「忘れ物かい? エルシアちゃん」

「そうなんだけど、たぶんこの辺だったはず」

 

 空河にペットのわんこプレイを強要された時に落としたはずだ。ポケットに入れていた修也の薬はどこだろうか。修也に対しては思うところがないわけでもないが、必要に駆られる場合は持っておいたほうがいい。それにしても、なんで俺は修也にあれほど体を許してしまったのだろうか。もしかして発情レベルが上がっているとか?

 

「そうじゃ、エルシアちゃんや。空間魔法の復習じゃ、少し使ってみてはどうじゃ? 落し物も減るじゃろう」

「空間魔法のバッグなら使えるって、落し物取りに来ただけだし」

「基礎の反復も大事なことじゃよ」

 

 訓練の初期段階で説明したはずなんだけどなあ。ボケてるな、この婆さん。毎日空間魔法のバッグは使っている、これくらい朝飯前だ。俺がやりたいのは自分の転移だ。

 

「ほら、使えるだろ。これは簡単すぎる」

「ほっほ、見事な手腕よ。前よりもずっと素早く綺麗に使えとる。すぐに転移魔法も使えるじゃろう」

「そうか」

 

 あまり手応えを感じていなかったから、訓練の成果が出ているとわかるのは嬉しい。ただ、ボケてるばあさんからの評価だからなあ、あてになるかどうか。

 

「エルシアちゃんや。肩を揉んでくれんかねえ」

「はいはい」

 

 なんで訓練場の椅子に座って、日向ぼっこして、お茶飲んで、孫娘くらいの年頃の娘に肩を揉ませているのやら。

 

「ところで、イオーネちゃんはどこにいるか知っているかね?」

「イオーネ? まだ街にいるはずだけど」

「それなら、エルシアちゃん、”ムツメちゃん”を呼んできてくれるかのう?」

「はいはい、わかりました」

 

 ムツメの部屋ってどこだっけ?

 確か修也の隣だ。

 肩を揉み終えた俺は道すがら別のことを考えていた。なんで会議で俺を上級魔族討伐に参加させてくれなかったのだろうか。上級魔族の手下の数は少ないから雑魚専の俺には出番がないのはわかるけど、万が一にも数を押し返せる俺がいた方がいいに決まってる。それに、このままじゃ奈央香に修也を取られてしまう。奈央香だけポイントあげるなんてずるい。修也は奈央香のことが好きだろうし……、どうしよう……。

 ムツメの部屋に到着した。

 そうだ、ムツメを呼ぶ前に少しだけ。

 俺はムツメの部屋から隠し扉を使って修也の部屋に侵入した。

 

「修也の匂い、しないや」

 

 メイドが洗ったのだろうか。洗剤の匂いしかしない。

 仕方ないか。

 それより、ムツメを呼ばなきゃ。

 おばあちゃんに言われていたし。

 俺はムツメのベッドに入ってムツメを呼び出す。

 

「おばあちゃんに呼ばれてるのか……」

 

 ベッドから重い腰を起こす。そういえば、シーツ自分で変えたんだっけ?

 

「あれ? 俺、今、誰に呼ばれた?」

 

 ……。

 …………。

 まあいい、とにかくおばあちゃんのところに行かないと……。

 

「ムツメ様?」

「げっ、イオーネさん」

「げ、とはなんですか? まだ復旧作業は終わってませんよ! 美味しいもの食べているのですから、その分働いてください!」

「それは……」

 

 あれ? なんで俺、復旧作業してたのに自室に戻っているんだ?

 

「忘れ物を取りに行ったら戻ってくるとおっしゃっていたじゃないですか! 何しに訓練場に戻ったのですか! 部屋でサボるためですか!」

 

 訓練場に戻った? 俺が? これから訓練場に向かわなくちゃ行けないのに……。

 あれ? 俺、訓練場に行ってた? 確か昼食後に街に降りて、確か……。

 

「もう! ムツメ様はクレーテで戦果をあげてから体たらくが過ぎます!」

「うぅ、頭が……、痛い……」

 

 目の前が歪む。思考だけが回転している。逆再生のように自室に戻る経緯が見えてきた。俺はすでにおばあちゃんに会っている?

 

「聞いていますか! ……もう、次はなんなんですか? 仮病ですか?」

「うぅ、くっ……」

 

 イオーネさんの声が頭に重低音で響く。

 まずい……、もう、無理だ……。

 

「ムツメ様? ……ムツメ様? 冗談ですよね? ……ムツメ様! しっかりしてください、ムツメ様!!」




 次回は年明けのいつか。3日までには出します。

 余談。
 ムツメちゃんの名前途中からずっと間違えていました。1週間前あたりかな。全部直しました。
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