文脈崩壊したかもしれない。……いつもだったわ。
「エルシア?」
「……」
私を呼んでくれた。修也が私を……。
「シュウヤ、反対になって」
うつ伏せで寝転がる修也に仰向けになるように体を揺らす。
「おい、ムツ————」
仰向けになった修也の口を塞ぐように顔の上に跨がる。
あ、ショーツ脱ぎ忘れた。
ショーツに指をかけた瞬間、修也の手が私の手首を掴んできた。
「何をしている」
「むぅ」
修也に脱ぐのを妨害されてしまった。まだ修也は本気で私を退かそうとはしていない。呼吸ができないくらいに体重をかけていたのに、片手で軽くおしりを持ち上げられてしまう。
「ぅんんっ、もう、おしりもみもみしすぎ」
「はっ!」
「安産型だから、身長の割りに私のおしりおっきいよねー」
「……」
「……もしかして修也っておしり好き?」
「ソンナコトハナイ」
「揉んでいいよ、減るもんじゃないし」
右手首を掴まれているからショーツは脱げないが、左手で仰向けにした修也の股間をまさぐる。すぐに掴まれた。
「もう、なんで掴むの」
「掴むだろ、あほか」
「けど、……いいの?」
「何がだ?」
「おしり支えてなくて」
俺の両手を掴んでいる。フリーになったので重力のままに体を落とした。
「……おいっ」
「えいっ」
修也の顔に秘部を押し付ける。
「んんっ」
「んーーっ! んーー!!」
「もう、しゃべらないでよっ! んあんっ!? 先っぽ擦れたぁ……」
「ぷはっ! 何するんだ!?」
お、右手が解放された。ショーツ脱ごうと思ったけど、今はそれより気になるものが視界に入っている。
「あ、おい、こら!」
「ふーん、おっきくなってるじゃん。どうしておっきくなってるのかなー?」
「ムツメ! いい加減にしろ!!」
「……」
「……ムツメ?」
「私はムツメじゃない。ムツメじゃないもん」
修也が呼んでくれたのにどうして気付いていないのかな……。
「……エルシア?」
「そうだよ」
私はエルシア。
ムツメであり、ムツメじゃないもの。
「どういうことだ……」
「今はエルシア。それだけわかってくれたらどうでもいいの」
「よくない。 って触るな!」
「聞こえなーい」
「ふん!」
「ひゃあああああ!?」
いたずらする私の体を一瞬で浮かした。宙に浮いた私の体を修也はお姫様抱っこで迎える。なにこの高い高ーい亜種は……。
これはこれでいいけど。
「修也ぁ……、ちゅー」
「どういうことだ、まったく」
「してよ」
「するか! 第一にエルシアってなんなんだ?」
仕方ない。話さないと修也は納得してくれなさそうだ。
「私はエルシア、ムツメのもう1つの人格だよ」
「もう1つの人格……、ならなんで鑑定で見抜けない……、鑑定スキルならどの人格が表面にいるかはわかりそうなものだが……」
「エルシアはムツメで、ムツメはエルシアだからじゃないかな」
「は?」
「ほら、答えたんだからちゅーして」
「しない」
「なんでよ」
「余計わからなくなった」
「仕方ないじゃない、曖昧な状態なんだから」
修也がゆっくりと私を下ろして、相対する。ベッドの中で真剣な話はできないか……。さっきは軽く聞き出そうなんて言ったくせに、重い話とわかると真剣になっちゃって。
「私はムツメの本能、もう1人の自分で、それ以上でもそれ以下でもないよ」
「もう一人の自分……」
「そ、ムツメの女の子なところ。だからちゅーしよ」
「待て、おかしくないか? ムツメの本能だというなら、ムツメは男だ。元男だろうが、本能なら女性に対しても恋慕だったり下心を抱いたりするはずだ。無条件で男の俺に恋情が偏るとは思えない。もちろんムツメを見てきたからわかるが、同性愛の気は無かったはずだ」
鋭いなあ……。
「さすがは修也だね。いい洞察力」
「……ムツメに芽生えた女心の化身と言われた方がまだ納得ができる」
「そして、それが正解」
一瞬でたどり着いちゃうとは……。
ムツメが肯定できなかった自分の心。
修也という同性に対する恋慕を否定し続けた。とにかく自分は男だからという理由で、修也を好きになったりはしないと、最初から恋情を否定し続けた。たとえ修也を性の対象として見ていても、恋慕の対象からは外していた。
その結果、心の内に溜まった恋情に、恋情の化身たる女神リシアに付け込まれる隙を作った。
そんなところかな。私が生まれた原因は……。
でも……。
「もうすぐ私は消えちゃう。きっと、今日が最後の日」
「消える?」
「そう、消える。理由はシンプル。ムツメに芽生えた女心をムツメが肯定したら私の存在意義が終わるだけ」
「あっ……、……そう……なるのか?」
「困惑してるね」
「するだろ……、いきなり現れたムツメの第二人格が、いきなり消えるとか言うんだぞ。消えていいのかよ……」
「いいんだよ。ムツメが私のことを、女としての自分の心を見捨てないなら」
「……そう、なるのか?」
「そうなるの。だって私と————俺は最初から同一人物だから」
修也は目を見開く。
ありがとな、エルシア。もう大丈夫だよ。俺はもう、本心に嘘はつかないことにする。
怖いけど……、大丈夫……。
「どっちだかわかる?」
「……ムツメ、なんだな?」
「そうだよ。エルシアじゃなくて、男の頃からのムツメ」
「……」
「エルシアは俺の女の部分だった。ただ、それは今、俺の中にある。俺はエルシアにはならなかった。なれなかったんだ。エルシアだけには、女の心だけにはなれなかった……。……だから、……っ、だから」
言わなくちゃいけないのに……。
開いた口が震える。
まだ怖い。
意を決したはずなのに、エルシアが俺自身で、俺の女としての本能であるならば、それを受け入れるは当然だ。それに、いつまでも自分に嘘をつくわけにはいかない。目を逸らすわけにもいかない。エルシアが俺なのだから、修也に言わなくちゃいけないことがある。
だが、怖くて震える。
「……え?」
修也が俺の震える手を握ってくれた。
待ってくれている。
これなら……、言える————。
「本当の女の子じゃない……、そんな俺でも……、修也のこと、好きになってもいいですか?」
胸が張り裂けそう。
真剣な告白。
人生で初めてだった。
元男という事実がある俺は、嫌われると思っていたから、気持ち悪いって思われると思ってたから。
修也が男扱いしてくれるから、好意を抱いて、それが恋情になって男扱いされるのが、すごく辛くなって……、絶対に言えないと心に嘘までついて……。
代わりの純正な女の心を持つエルシアにはなれず、不完全な女の俺が修也に告白するなんておこがましいかもしれないけど……。
好きだから。ただただ、好きだから。
ひた隠しにした感情をようやく吐露することができた……。
返事を待つだけ……。
怖い。
ぎゅっと目を瞑る。
「いいに決まってるだろ」
頭に修也の手が置かれ、目を開けた。
「修也、ほんと……?」
「ああ、嬉しい。ムツメに好きと言われて嬉しいよ」
「本当の女の子じゃないよ……?」
「だとしてもだ」
優しく頭を撫でられて、抑え込んでいた感情がとめどなく溢れてくる。
「うぅっ、ひぐっ、んっ……」
「泣くなよ」
「だって……、だって……、気持ち悪いって思われたら……」
「思うわけないだろ」
修也は俺をゆっくりと抱き寄せて、頭を撫でてくれる。俺は溢れ出る歓喜なのか、安易なのか、緊張からの解放なのか、とにかく涙が止まることがなかった。
「泣きすぎだ」
「しょうがないじゃん、怖かったんだから……」
「そうか」
「修也に気持ち悪いって言われてたら、自殺してた……」
「大げさな」
「それくらい怖かったんだよ……」
「アホだな。第一にムツメのことを気持ち悪いって思ってたら、俺が勃っている理由はなんなんだよ」
「……」
「……」
「一気に冷める発言すんなよ」
「よし、泣き止んだな」
この野郎……。
俺が泣き止まないから、とんでもない変化球で泣き止ませにきたな。っていうかまだ勃ってたのかよ。告白全部台無しだよ。一世一代の告白したら相手が勃ってたとか酷すぎんだろ。
本当、一瞬で泣きやんだよ。緊張感返せ。
「それにしても、エルシアがムツメの本能の姿ってことは……」
「……」
「発情期関係なしに、心の中では俺とエロいことしたいって思ってたのか?」
「〜〜〜〜〜〜!?!? な、なにいきなり言いだすんだよ!?」
「いや、だってそうだろ。俺の股間触ろうとしてたし、顔に尻押し付けてきたし、エルシアのときの行動はムツメの本心なんだろ?」
「黙れ、黙れ! 尻フェチ星人!」
「その呼び名はやめてくれ!」
「なら萎えろ、いますぐ萎えろ!」
「無茶言うな」
はあ……。もう……。
でも、惚れた弱みなのかな。告白時に勃っているとか酷い話だし、心の底を暴かれのも最低だ。それでも全然修也のことが嫌いにならない。むしろ勃ってて嬉しいとか思ってしまっている。俺は末期か?
でもなあ……。一世一代の告白だったのに……。
あれ?
「ちょっと待って? 返事もらってない」
重大なことを忘れていた。
「そのことなんだが……、奈央香にも告白されているから、答えはしばらく……」
「よし、死刑!」
「なんでだよ!?」
「なんでもだよ、ばーかばーか」
「ムツメの方がばかだ」
「うるさいっ!」
修也にタックルしてベッドに押し倒した。俺は修也の上に覆いかぶさり、胸に顔を埋める。
この流れならオーケー出せ、ばか。
「ムツメさん、退いてくれません?」
「聞こえませーん」
「なら返事すんな」
頭をグリグリと押し付ける。ああ、もうどうすればいいんだろう。どうしたらこのモヤモヤする感情を発散できるのか。
それに勢い任せに押し倒したから、絶対に顔赤くなってる。恥ずかしくて顔があげられない。
逆に考えろ。顔を見なければいいのか。
「修也……、好き」
「聞いた」
「……それだけ?」
「……」
「いじわる」
「いじわるなのはお前だ。答えを急かさないでくれ」
「うん、わかってる」
「……そうか」
「でも、もやもやする。それが我慢できない」
「……わかった。文句は黙って聞く」
「そうしろ、あほ」
「……ばか」
「文句黙って聞けし!? ばかって言った方がばかでーす」
「それならムツメはあほだろ」
しばらく無言の時間が流れた。修也は俺が顔を上げるのを待っているのか、何も言わない。
俺もようやく顔から熱が引いてきた。
ゆっくりと顔を上げる。
「1つ聞いていいか?」
「……なに?」
「どうして俺を好きになったんだ? 正直好かれることなんてした覚えは……」
好きになった理由……。
「それは、たぶん」
「たぶん?」
「〜〜〜〜〜〜! 言わない! 絶対言わない!!」
「なんだよ」
「恥ずかしいんだよ、こっちだって!」
手で仰ぐが顔から熱が引かない。また元どおりになってしまった。
「わかった、もう聞かない」
たぶん、修也を好きになった理由はいくつもある。少なくともすぐに3つは浮かんだ。1つ目は、修也が歳下で誠実で一所懸命な姿が、妹や弟と被ったから親近感が沸いたこと。2つ目は男扱いしてくれて俺の心の平穏を保ってくれたこと、これは逆に厄介なことになったけど。
そして3つ目、本当にピンチな時に助けに来てくれたこと。存在しないはずの乙女心をくすぐる奴がいるのかって話だ。目の前にいたけど。
「修也が助けに来てくれたから、だよ」
「ムツメ?」
「本当にダメかと思ったのに……、王都にいないんだよ? 王都にいないはずの修也が助けに来てくれて……、あれで惚れない女の子はいないよ。……嬉しかった」
「仲間がピンチなら駆けつけるのは————」
涙ぐむ俺の顔を見て、修也はそれ以上言葉を続けなかった。
「エルシアのことも、ありがとね」
「……エルシア、か」
「あの子、最後にキスしたがってた……」
「……」
修也は口を閉ざした。
「だから……、ね?」
真剣に俺と向き合ってくれている。修也の目が俺を見ていて、俺は修也の目を見つめている。
どちらが視線を切ることもせず、俺たちは長い時間をかけてゆっくりと近づき、次第に瞼を落としていく。
「修也……」
「ムツメ……」
セミロングの髪を右手でかきあげて、修也の唇に————。
ドドドドドド————。
「まさか、この足音……」
「こらーーー!! ムツメはどこじゃーーー!!」
「キャラ変わってんぞ」
もう少しだったのになあ。エルシア(俺)を使ってまでキスを迫ったけど邪魔が入るとは。
「はあ……、はあ……、まさか、こんなことに、なるとは、思わなかった。はあ……、はあ……」
「ごめんね、奈央香。やっぱり黙って取られるのを見過ごせなかったよ」
「やってくれるじゃない、この泥棒猫!」
「まだ狐に化かされているのかな?」
皮肉で返し、わざとらしく耳と尻尾を動かす。奈央香は少しキョトンとした顔を見せた後、奈央香も俺も同じタイミングでニヤリと笑う。
俺と奈央香の視線がぶつかり、火花が散った。
泥棒猫ならぬ泥棒狐。
エルシア=ムツメとわかっていても、効果があるキスの迫り方。ムツメちゃんは結構えげつない迫り方をします。人によっては『それ、お前のことだろ』ってなるかもしれませんが。
タイトル回収。『本当の女の子じゃないけど好きでいいのか?』という話です。
本当の女の子じゃないを強調するために二重人格にしました。他にも強調する方法はあったと思うけど、思い浮かばなかった。
少しはBLっぽさが残ったかな?
ムツメの完全なメス堕ちとか期待しているかもしれませんが、それはこの先次第。
修也が尻フェチと判明。
獣人フェチと匂いフェチは判明してたけど、奈央香はまだかかる。
次回は3日後。