四大魔将
トラックに跳ねられて死ぬはずだった運命から女神に助けられ、地球では死亡扱いとなった俺、須木根陸は異世界に転移した。女神に力を授かった際に俺は性転換して女の姿になった。異界からの侵略者である魔族と戦いながら、いや、戦ってないな。女の心を持つようになった俺は紆余曲折ありながら、一緒に転移した3人のうちの1人である修也という少年を好いてしまった。
「……ん?」
朝か。
誰かに抱きつかれてる。尻尾が足の間に挟まれてて抜けない。
誰だろう……。
昨日、エルシアと同一化して、修也に告白して……。それで、背後にいるのは修也か? 昨日一緒に寝たはず。
「くうがの、ばかー」
「奈央香かよ。しかも寝言だし」
よくよく感触を研ぎ澄ませれば奈央香の巨乳を察知できるわけで……。なんかイライラしてきた。女の感覚、女の心を持つようになっても、もともとは男だ。おっぱいの感触は嬉しいはずなんだけどなあ。奈央香は別だ。これが修也を誘惑するとわかっているとすごくむかつく。
別にいいか。尻フェチ星人には俺の方が……。
「……」
「……おはよ」
「……おはよう」
「なんで、お尻撫でてるの?」
「なんとなく、それと尻尾返して」
「ん? 太ももに挟んでたのね」
ようやく解放された。俺は伸びをする。
よし、勝ってたな。
「なんでお尻撫でてたの?」
「ふっ……」
「あ、なんかむかつく」
「いたたっ!? ほっぺ引っ張るな!?」
「ところで修也は?」
「さあ?」
修也と奈央香と俺の3人並んで俺のベッドで寝たはずなんだけど……。
昨日は確か————。
『この泥棒狐!』
『泥棒じゃありませーん! 修也は奈央香のじゃないし』
『はあ!? 先に告白したのは私なんですけど!』
『修也が迷ったってことは俺にも可能性が残っていたってこと、むしろ迷っていたところがあるってことは俺の方が上だし』
『誰も上とか下とか決めた覚えないが? 勝手に決めるなよ』
違う違う、最終的に修也に怒られた話じゃない。
その後だ————。
『修也ぁ、あいつらに触られた感触が残ってて、気持ち悪いから慰めて……』
『なにその猫なで声!? キモい! 気持ち悪い! 修也! 今のムツメちゃんはぶりっ子モードだからね! 騙されちゃダメだから!』
『はあ!? 可愛い声の方が男には効くんだよ!』
『本人を前に言うなよ……』
違う違うこれじゃない。まだ寝ぼけてるのか……。
えっと、もう少し後の————。
『今日からここで寝ます!』
『いいよ、俺は修也のベッドで修也と寝るから』
『はあ!?』
『俺のベッド1人用だぞ』
『俺小さいから一緒に寝れる』
『尻尾入れたらムツメちゃんの方が大きいでしょうが!』
ああ、うん。思い出した。修也の部屋と繋がっているのがバレて、寝込みを襲いかねないということで、奈央香も一緒に寝ることになったんだ。それで3人川の字になって寝てたのか。起きたら修也いなかったけど。
どこ行ったんだろうか。朝練とかしてるのかな? 朝5時だけど……。
隣で寝息?
「修也、寝てるじゃねえか」
「え?」
隠し扉を抜けた先で修也は自室のベッドで寝ていた。
俺たちが寝た後で自室に戻って寝てやがったな。美少女2人に囲まれる贅沢を放り出すとかそれでも男か、まったく。
それにしても、修也の寝顔……。港町を助けにいく任務のときに見たきりだったか。
「かわいい……」
奈央香が修也の顔を覗き込んでいる。顔近いだろ、こら。
俺も奈央香同様に顔を近づける。
小さい寝息をすーっ、すーっと立てている。弟はいびきかいてたからなあ。男って寝るときうるさいもんだと思ってたけど、修也は結構静かなんだな。
「ん゛……」
「……?」
なんか急に閉じてる目に力が入って苦しみ始めた。嫌な夢でも見ているのだろうか。
よし、いいこと考えた。
「ムツメちゃん?」
「起きちゃうから、静かに」
俺は修也が向いている左側の布団に入り込み、ゆっくりと抱き込む。
「あ、ずっる」
「しっ」
「もう」
奈央香が反対側に入って修也の頭を抱き寄せる。
まあ、半分こか。俺が正面を陣取っているからな、奈央香にも修也の頭を抱かせてやるか。
……。
抱かせて……。
あ、やっぱり巨乳はずるいから無し。
「朝から騒がしいぞ」
「あ、起きた」
「何時だ?」
「5時」
「早い。もう少し寝るから放っておいてくれ」
俺と奈央香を振りほどき、布団を頭まで被って寝てしまった。
たぶんだけど、俺たちが寝た後にこっそりと戻ってるから寝つきが悪くて寝不足なのかな? まあ、そんなところだろ————、ん?
あ、なるほど。
なるほどなるほど。
ちょっと残念だな。手伝っても良かったのになあ。寝る前にナニかして、一風呂浴びたんだな。……獣人の嗅覚すごいな。探偵かよ。
ベッドから抜け出して、寝る前に運動して、風呂入って、寝たのは1時ってとこかな? 寝不足にもなるよな……。というか、この匂い初めてってことは、こいつ1月近く我慢してたのか。
……昨日の刺激は効果あったってことかな?
「寝かせてあげよっか」
「……そうしよう」
奈央香は自室に戻り、俺も隣の自室に戻って着替える。
おお、さむぅ。
なんだ?
足音がする。
こんな時間にイオーネさん?
「どうかしました?」
「ムツメ様……、修也様は?」
「まだ寝ているけど?」
「そうですか……」
何かあったのか? 昨日のことで俺に対して何か思うことがあったか、何か言いかけてたイオーネさんは、吹っ切れているというか、それどころではないらしい。
「何かあったの?」
「昨晩四大魔将のうちの2人が合流し、我が軍の3000人が殺されました」
「————っ!? 3000人!?」
「はい。国境を守っていた兵が皆、やられました……」
この末期世界で3000人も失うのは痛すぎる。国境を守っていたということはどこかの砦か。そうか、忘れていた。奴らは夜に襲撃してくる。だからこの時間に訃報が届くのか。
「修也を起こしてくる」
「お願いします」
修也を起こしたとき、機嫌が悪かったものの、死んだ人数を伝えれば飛び起きた。
「あれ? 王様は?」
「馬車に魔力補強をしすぎたらしく、疲れ切った状態だそうです」
「馬車?」
「ナオカ様にこき使われたとか……」
「ああ、なるほど。それで奈央香は昨日早く帰ってこられたわけだ。まあ別に王様はいてもいなくても構わないだろ」
「扱いがぞんざいですね」
「普段の行いのせいだな」
「確かに、いてもいなくても変わりませんね」
イオーネさんもじゃねえか。
踊り場に出ると空河と奈央香が待っていた。
「先にナオカ様に会いまして」
なるほどな。遅刻の多い空河が先に待ってたから驚いたけど、部屋に戻る奈央香と先に話していたのか。
俺たち勇者組4人が日も登らない時間帯に活動を開始するのはかなり珍しいことだ。それが今回の異常事態の恐ろしさを示している。
久しぶりの実践か……。
緊急会議で参謀本部に集合した面々は7人とかなり少ない。異世界組の4人を除けば、元帥さんと大将さんとイオーネさんしかいない。
「今回の作戦は早急な反撃ならびに、四大魔将の2体を討伐するのが目的となります」
「急いだ方がいいな」
「はい、今我々に訪れている災厄を跳ね返し、人類の反攻を声高に叫び、天へと帰った彼らへの弔いにしなければなりません」
元帥さんの目には泣きはらした痕がある。感情を自制し、堪えているのがわかる。もしかしたら親族が巻き込まれたのかもしれない。
「シュウヤ様、クウガ様、ムツメ様、ナオカ様、そしてイオーネ様の全員でリント地区の砦を襲撃してもらいたい」
「俺も?」
砦を奪われたのに俺も出撃になるとはな。役目なさそうなんだけど……。
「はい。砦の奪還は今回の作戦ではありません」
「……つまり、四大魔将2体を打ち破れば、砦を失ってもいいということだな」
「はい」
「……」
乗り気はしないな。
魂を喰われているのはわかるが、死体は心臓を貫かれたりして残っていることがあると聞く。というかほとんどの魔族は死体は食べることがない。つまり、死体は放置されているか、埋められているか、焼かれているか。何かしらの形で残っている可能性はある。だが、その回収は諦めて、俺にすべてを吹き飛ばしてこいというわけだ。
「跡形も残さなくて構いません」
「そうか、わかった」
これ以上辛い言葉を元帥さんに告げさせるわけにはいかない。俺は黙って従おう。
「でも、全員行かなくてもよくない? 私は王都に残ろうか?」
「もし勇者様方の留守を狙って、魔王が王都に襲撃してきた場合、ナオカ様だけが残られていると万が一、命を落としかねません。魔王クラスの襲撃の場合、我々は死を覚悟していますが、ナオカ様を死なせるわけにはいかないのです」
「……つまり、そのリントの砦? って方に向かうメンバーと一緒にいた方が安全ってことね」
「そういうことになります」
「王様は?」
「王も我々と同じ思いですし、いくら王といえど、勇者様方のレベルにはついていけないかと……」
「そう。昨日は迷惑かけたけど、そういうことなら異論はないわ」
奈央香もあっさりしているな。というか、この異様な空気感を読み取って引き下がったと言うべきか。
そうだったな。最近の浮かれようから戦時中だと言うことを頭の中からすっかり消していた。俺たちは殺された3000人を守るために派遣された勇者じゃない。俺たちは魔族を滅ぼすための兵器で、命をつなぐため、星を守るために召喚されている。亡くなった彼らは命の最後をレーダーとしての役目で終えたんだ。四大魔将の位置を知らせるための……。
……やるせない。
「さっそくですが、リントの砦に向かっていただきます。道中はイオーネ様が魔力を使って馬車を引いてください」
「了解しました」
イオーネさんが?
「では、行きましょうか」
今はそれどころじゃないか。ピンチをチャンスに変えなければならない。俺たちは四大魔将の2体を討伐するこのチャンスを物にしなければならない。
明け方に馬車に乗り込んで、俺たちはリント地区を目指して進む。イオーネさんはなぜか馬を強化できていた。
「イオーネさんって実は男なの?」
「いえ、女ですよ。お風呂一緒に入りましたよね?」
「いや、だって触れた馬の身体能力を強化できるって……」
「必ずしも女性が男性の魔法を使えないわけではありません。厳しい修行を乗り切れば女性も身体強化はできますし、逆に男性も女性のように魔法を放つことができます。効率はよくはありませんが……」
「あ、そうなんだ」
「今となっては、私だけしかできませんが、次代の聖女がいつ現れてくれるか……」
「……相当きついの?」
「はい。私以外の200人の聖女候補は皆脱落しました」
やばそうな修行だな。
「毎年何百人と修行しますが、20年に1人が達成するかどうかでして、そもそも聖女候補に選ばれることが1000人に1人と言われています」
1年で200人が修行すると考えると400万人に1人の達成率かよ。ハードル高え。今の総人口が500万だから妥当なのかな。俺も身体強化使いたかったけど、自分に甘い俺が厳しい修行に耐えられるとは思えないしなあ。
諦めよう。そうしよう。修也みたいな戦い方もかっこいいんだけど。
「そういえば朝飯食べてないな」
確かに、腹は減っては戦はできない。というか朝ごはんくらいなら引き返して食った方がよくね?
あ、でも今更引き返すのもよくはないか。もう出発して10分くらい経ってるし。
「2時間ほど走らせた後にしませんか?」
イオーネさんが提案してくる。
「体力的な意味で?」
「はい、私も休憩を駆使して馬車を進めていきたいので」
断る理由はないな。起きたばかりだし、まだ腹は持つだろう。
……修也は我慢しろ。
「……わかった。なら、料理はムツメが作ってくれないか?」
「別にいいけど」
……?
どうした?
他の3人が黙ってしまった。
「ああ、もしかしてできないと思ってる? 一応言っておくが、前に港町を救出しに修也と行ったときは俺が料理担当してたし」
「え? 本当に料理できるの?」
奈央香が失礼なことを言う。
「何その意外そうな顔」
「え……、だってあのムツメちゃんだよ!? 部屋でゴロゴロしてるだけのムツメちゃんだよ!?」
「料理くらいできるわ」
「電子レンジなんてここにはないんだよ!?」
「失礼だろうが!」
まともに料理できるっての!
俺は修也の方に向き直ってぶっきらぼうな態度を隠すことなく告げる。
「……リクエストは?」
「えっと、……なんでも」
「はい、ハンバーグな。知ってる」
17歳にもなってハンバーグは恥ずかしいって?
確かに空河あたりが揶揄いそうな話だけど、恥ずかしがるなって。
「修也くーん、ムツメちゃんの手作り料理食べてるとか聞いてないんだけどー?」
「言ってないからな」
なんか予想した展開と違うな。空河が敵対心燃やしているような……?
「へ、へー。ま、まあ、ムツメちゃんだしー? あまり期待しないでおくよ」
オーケー戦争だな。俺は妹以外に料理の腕前で負ける気は無いぞ。王宮の料理はうまいが、日本料理なら俺の方が上だ。必ず舌を巻かせてやる。
2時間馬車を走らせた後、料理を開始した。
ちょっと間は空いたけど、前に修也に料理を振る舞った甲斐あってか、手早く朝ごはんを作ることができた。冷静に考えたら朝食からハンバーグってどうなんだ? 起きてから2時間経ってるし大丈夫か。
「な、なんでこんな短時間で煮込みハンバーグなんてできるのよ!?」
「ムツメ様、これは食べられるものでしょうか?」
「おい、女子2人、喧嘩売ってんのか? 買うぞ、今なら3倍で買ってやるぞ」
恐る恐る食べようとすんな。まあ、俺の普段の生活態度から料理ができるとは思えないのは仕方ないのかなあ。くっそー。父さんと母さんが死んでからは俺が弟と妹の面倒見てきたんだぞ。料理の腕前は自信あるからな。妹にすぐに抜かれたけど……。
「おいしい! おいしいですよムツメ様!」
「はっはっは、そうだろそうだろ」
感謝したまえ。讃えたまえ。ムツメちゃんのお手製料理だぞ。味わって食べろよ。
「ムツメちゃーん! 超おいしいよ! 愛してる! 結婚しよ!」
飛びかかってきた空河を後ろ回し蹴りで撃退する。ガッツポーズも加えておく。
「よし!」
「よくは、ない……、ぐふっ……」
まあ、いつもの光景だな。食事直後に鳩尾に蹴りを叩き込まれて苦しそうだ。やらなきゃ俺も反撃しないのに。
「はい、あーん」
「いや、これ、ムツメが作った料理だぞ……」
奈央香は何やってんだ!?
「いいのいいの。ほら、あーん」
「あーん」
「ああ!? 何すんのムツメちゃん!?」
「うん、まあまあだな。即興でこのレベルの味なら、さすが俺といったところか」
「私の分なのに!?」
「知らんな」
第一に他人が作った料理であーんする奴がいるかってんだ。自分で作った料理でやれ。だが、これはいいな。真似させてもらおう。
「はい。修也、あーん」
「あーん!」
「甘いぞ! 奈央香ぁ!」
奈央香に食べられる前にフォークを引っ込める。食われてたまるか。
「ムツメちゃんが先に食べたじゃん!」
「俺が作った料理だもんねー!」
「ぐぬぬ……」
やり取りが小学生以下のレベルな気がするけど、この戦いは引き下がれないんだ。
「お前ら静かに食べろよ……」
これくらい賑やかでいいんだよ。って、言わなくても修也もわかって発言しているのか。表情でなんとなくわかった。呆れながらもどこか見守る目をしていた。
そう。力を抜くときは抜かないと。緊張でガチガチになるよりかはマシだ。相手は3000人の兵士を軽々となぶるような強敵だからな。移動中に緊張しても意味ないし。
……。
……この戦いが終わったらうんぬんかんぬんは、さすがに死亡フラグだよな。万が一死の危険性があることを念頭に入れると、どうしても修也に何か要求したくなってしまう。例えば、この作戦が終わったらキスしてとか。
死亡フラグなんて迷信めいたことだけど、とりあえず口に出すのはやめておくか。心の中だけで思っておこう。
「俺、この作戦が終わったら、料理上手なムツメちゃんとピクニックデートしたい!」
お前は逝け。
空河くん久しぶり。
エロハプニングの仕込みのさらに前話。次のエロスは遠いなあ。
次も3日後。
あとがき書いてるとネタバレしたい欲が出てくる謎現象に見舞われている。