TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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タイトルは適当です。


三タコ

 熱血漢くんを紺野さんと一緒に攻撃していたら例の迎えが到着した。召喚された場所が高台だったから地平線がかなり遠くまで見えたのだろう。何十キロという長さがあったと思うのだが、思いの外早く到着した。

 

「勇者様方、先ほどの戦闘を感知しましたが大丈夫でしたでしょうか?」

 

 馬車の中からシスターと思しき人が現れ、駆け寄ってくる。遠くに馬車の護衛として数人の騎兵が待機していたが、武装解除なのだろうか。全員馬から降りて膝をつく。

 勇者扱いなんですね。

 

「大丈夫ですよ。問題なく対処しました」

「そうですか」

 

 ある意味大丈夫じゃなかったけどな。1人ぜーはーぜーはー言っているし。ざまあみろ。

 お、イケメンくんが背中に隠した手で0の合図を送ってきた。

 たとえ敵意をもっていても脅威にはなりえないか。

 

『相手を俺が観察する。といっても脅威になるかどうかだ。5は交戦、4は制圧、3は臨戦態勢、2は警戒、1は注意、0は無害といった感じで合図を出す』

『相手の強さの尺度か』

『指を見ておいてくれ』

 

 一団が到着する前に万が一にも敵意を持っていたら交戦する考えではあったが、どうやら杞憂みたいだ。交戦するまでもないほど俺たちは強いのだろう。

 シスターはイケメンくんの前で足を止める。

 

「はじめまして勇者様方、女神様のお告げにより、参上致しました」

「こちらも女神様から話は聞いている。案内してほしい」

「それでは、勇者様方にはこれから王都へと来て欲しいのですが」

「わかりました——」

 

 歳上なのにナチュラルにリーダー譲ってしまったよ。俺勇者じゃないから別にいいけどさ。獣人の娘がリーダーだと違和感あるか。2人は話し込んでいるみたいだし、俺は棒術の練習でもしようかな。クルクル回すの楽しいし。

 あれ、おかしいな。

 シスターさんの目が俺の足元に向かっているような。

 下を見てみる。

 尻尾揺れてた。

 別に嬉しいとか思っていないんだけど、なんで揺れるんだよ!? 棒回しをしているからか?

 今度は意識的に左右に振ってみる。

 おおっ、目が泳いでいる。

 左、右、左、右。

 

「あの、聞いてますか?」

「ひゃい!? 聞いてます!」

「……」

 

 げっ、イケメンくんがこっち睨んできた。出来心ですすみません。でも目を奪われるシスターさんも悪いと思うぞ。

 尻尾を振るのは良くないようだ。俺は棒術で突きや払いの練習をする。手は肉球じゃないから拳でパンチとかもできるのかな?

 考え込んでいたら話はひと段落ついたらしい。

 

「よし、みんな馬車に乗ってくれ、道中向かいがてら説明する」

「おう」

「わかった」

「了解」

 

 馬車に乗り込もうとして歩き始めたら、バランスを崩した。

 

「ぐへっ!?」

「須木根さん大丈夫!?」

「足が……」

 

 あ、背が縮んで服ブカブカだった。裾を踏んづけて転んだのか。

 

「……俺もしかしてボクサーパンツ系女子かよ」

「あとで下着買いましょうね」

「……」

 

 結構心に刺さります。

 注意しないとずり落ちそうになる服を持ち上げながら馬車に向かう。馬車の中は4人用らしく、本当はシスターさんも乗り込みたがっていたが外れてもらった。

 

「尻尾邪魔なんだけど、どうやって座れば……」

 

 めっちゃ視線が突き刺さる。3人とも関係ないしな。他人事だよな。くそぅ。

 

「あ、私が持ちますよ」

 

 ちょっと信用ならないが、尻尾を右に座る紺野さんに預けて、椅子を半分だけ使う形で座る。

 背もたれ使えねえ。

 

「あのあまりこねくり回さないで……」

「えー」

「くすぐったいから」

「えいっ、こちょこちょ」

「やめっ、やめてよ! このっ!」

「ぎゃっ!?」

 

 チョップで尻尾は取り返した。俺も自分の尻尾をなでなでして遊んでよう。毛並み崩れてるし。

 

「もういいかですか? 話しても」

「俺のせいじゃないし」

「あはは……」

 

 馬車が進み始め、イケメンくんが話を切り出したが、俺のせいにされているようで睨んでおく。紺野さんのせいだからな。

 

「それで、話ってのは? あの女の人と話していたんだろう」

「はい、端的に言えばこれから王都に向かうのですが、そこの作戦本部に直接出向くことになりました」

「作戦本部? こういうときって王様に謁見とかじゃないのか?」

「いえ、王族も出払っていて忙しいらしく、俺たちに挨拶をしたいとのことですが、とにかく切羽詰まっているからすぐに救援に来て欲しいとのことです」

「つまりいきなり作戦会議に参加して、さっさと戦えと」

「そうなりますね」

 

 いきなり馬車馬の如く働くことになるのか。やっぱり女神に詐欺られたか。まあ、俺たちが軽いノリとテンションで決めてしまったことだしなあ。

 馬車の外に目をずらせば、穏やかな景色が見える。この光景と女神から聞いている魔界との戦いのイメージは一致しない。生きとし生けるものを喰らうというが、それは植物も同じだと思っていた。植物には魂がないのか? 確かに鳥とか虫とかぜんぜん見ていないからそっちは魔族にやられて喰われているのだろうか。

 

「みんな質問あったりするか? あ、そうだ、須木根さんタメ口でもいいですか?」

「うん? ああ、そうだな、構わない。どうせ同じ釜の飯を食う仲になるんだろう? いちいち気にしてたって仕方ないし、そもそも君らの先輩というわけでもないし。気を遣わせて悪かった」

「ありがとうございます」

 

 俺は杖でイケメンくんの頭をこつんと叩く。

 

「……ありがとう」

「ん」

 

 杖を立てかけ、俺は尻尾をいじる。ふわっふわである。あと右隣でよだれをじゅるりと吸っている方は見ない。しばらくはモフらせてはやらないからな。

 馬車あまり揺れないなあ。

 イケメンくんと熱血漢くんが話し込んで、シスターさんから聞いたことを事細かに説明しているらしい。俺も知っておいた方がいいのだろうけど、船頭多くして船山に登ってちゃ意味がない。俺はサポート側に位置した方がいい。なにより、今は自分のことで精一杯だ。

 

「じー」

「……」

 

 個人的に恐怖心を感じているからな。

 

「じーーー」

「…………」

 

 ……。

 …………。

 

「じーーーーーー」

「ああ、もう。乱雑にするなよ」

「はーい!」

 

 紺野さんに尻尾を取られる。さわさわと触られる感覚がむず痒いが我慢しよう。

 はあ、心の中でも現実でもため息をついてしまう。

 そういえば、馬車は揺れないけど、速さも異常だ。まるで車のような速度で馬車が移動している。

 

「魔法かな……」

 

 おそらくシスターさんの魔法か何かだろう。

 馬に乗っていた護衛の兵士の人たちも並走している。すごいな。身体能力強化って乗馬している馬にも効果があるのだろうか。この速度についてこれるくらいにはこっちの世界の馬がすごいのかもしれない。

 景色がみるみる変わっていく光景を頬杖をしながら見ていると、尻尾をくんくんと引っ張られる。

 

「何さ?」

「あ、引っ張ってごめんね。須木根さんのこともう少し知っておきたいなって」

「ああ」

 

 忘れてた。軽い自己紹介しかしていないし、そもそも信頼に値しない程度の時間しか過ごしていないからな。こういうことは俺が積極的にならないとまずいのにわざわざ声をかけさせてしまった。

 

「須木根さんって大学生ですよね」

「都内の大学に通ってた。20歳だよ」

「見えないですね」

「そりゃあそうだろうさ」

 

 この格好をまじまじ見ながら言わないでほしい。背丈的に中学生くらいだろうか。

 もしかして20歳の女性の顔立ちだったりするのだろうか。そしてすっぴんだったり? あれ? すっぴんだと老けて見えないだろうか。もしかして三十路くらいに見えてたりするのか?

 

「なあ、俺の顔ってどんな感じ? 変わった?」

「変わりましたね、可愛らしいですよ」

「うっ……」

 

 可愛いと言われても嬉しくない。

 

「正直須木根さんじゃないって言われても信じてしまうくらいには変わっています」

「そんなにか、やっぱり老けたのか?」

「え? 老けた?」

「うん、20歳に見えないんだろう?」

「ううん、逆。若い。妹みたいです」

「妹?」

 

 妹みたい? ということは……。

 

「つまりロリババアなのか……」

「20歳はババアじゃないでしょ、私たちと3つしか違わないし」

「君たちは17歳か」

「はい、3人とも誕生日はもう来たので」

 

 もう11月だからな。俺も誕生日は来ているし、学年も3つ違いか。中高では遭遇しない年齢だ。

 

「紺野さんたちは俺1人でいいけど、俺は3人を知らなきゃいけないんだよなあ」

 

 親睦を深めなくては、生活のこととかかなりざっくりとした判断をしてきたから、これからはきっちり考えなくちゃならない。人付き合いも円滑にする必要があるだろう。もとより俺と3人は赤の他人だ。信頼関係を構築しなければこの先やっていけない。

 男子2人がこっちめっちゃ見てる。さっきまで盛り上がってた会話はどこへ?

 

「はいはーい、須木根さんじゃなくて、ムツメちゃんって呼んでいいですか?」

「は?」

「あ、ガチトーン……」

 

 熱血漢くんはお仕置きが足らなかったみたいだね。また針のむしろにしてくれる。

 

「でも、そうだな。親しくなる必要があるわけで、下の名前を呼び捨てにしあうってのはアリかも?」

「俺も同意する。気軽に修也と呼んでくれ」

 

 このイケメンまじ話が早いな。女の子との会話は盛り上がらなさそうなんだけど。ファンクラブはあるけど、案外モテなかったりしそう。

 

「ムツネちゃんはダメですか?」

「却下」

「そんな……」

「俺はムツネな。空河って呼ぶから」

「お、おお、名前覚えるの苦手っていうから忘れられてたと思ってたけど」

「苗字は忘れた」

「矢部ですよ、矢部!」

「いい、どうせ忘れる」

「なんていうツンツンロリ狐っ娘、可愛いなあ」

「は?」

「あ、なんでもないです」

 

 なるほどな。

 空河には気をつけよう。こいつ絶対俺をモフりたがっている。手の指がそわそわしているのがその証拠だ。あと尻尾見て話すな。俺と話しているのになんで右隣の紺野さんの手元を見ているのか。こいつ俺が男ってこと忘れているのではないだろうか。

 

「私はムツネちゃんって呼んじゃダメ?」

「……ダメ」

「えー? 今少し間があったよ? 女子同士でちゃん付けは普通だよ」

「俺は女子じゃない」

「あ、そうか。女性だった」

 

 そっちじゃないよ!? 20歳だけどさ!? 初対面では普通に男だったはずなのに……、今は違うけど……。

 

「俺も、えっと……、紺野さん?」

「ちょっ!? 私の名前忘れたの!? 奈央香だよ、奈央香」

「女子を下の名前で呼ぶ習慣がないんだよ。それについては謝る」

「謝罪は1日5モフでいいですか?」

「よくねえわ」

「じゃあ、耳! 耳触らせて!」

「……じゃあそれで」

「やったー!」

 

 納得いかねえー。

 

「おおーふわっふわ」

「うっ、はわっ!? ちょっ、くすぐったいから」

「ほれほれほれ」

「お、おい。やめっ」

「ういやつめー」

「なんか敏感だから、ちょっ、ストップ」

「えー」

「ぞわぞわする」

「女の子なのに耳毛生えてても可愛いなんてずるい」

「気になるところか、そこ……」

 

 狐は耳毛くらい生えてるだろ。それに普通の人間と違うし。

 ……普通の人間と違うか。ファンタジーものでよく人種差別的な題材を扱うことが多いけど、俺はそれに該当するのだろうか。奴隷紋とか押されたくないぞ。

 

「真面目な顔しているね」

「ちょっと考えてただけだ。そんなに顔に出るか?」

「出てるよ。そりゃもうね」

「む」

 

 顔をむにむにといじる。すべすべだな。

 

「可愛いなあ」

「俺男だからな」

「知ってるよー」

「本当かよ……」

 

 年長枠だったはずなのにいつの間にか可愛がられ役に落ち着きそうなんだけど、ものすごく不本意なんだけど。

 

「俺のことはもういいだろう。俺自身も今の獣人姿とかよくわからないし」

「狐娘ね」

「はいはい、狐だろうと、犬だろうと、猫だろうとどうでもいいです」

「よくないよ! こんなふわふわ尻尾は狐っ娘の特権だし!」

 

 俺がモフられる対象じゃなければ同意したかもしれないな。

 

「3人のことも知っておきたい」

「自己紹介の続きっすか?」

「うん、これからのことを考えると、知らない間柄でいるわけにもいかないだろう?」

「そっすね」

「あと空河、体育会系の敬語っぽい話し方はしなくていい」

「りょ」

「……」

「じょ、冗談っすよ」

「……」

「冗談です……」

「……」

「……冗談だよ」

「よろしい」

 

 意外にも空河は俺のことを歳上として認識しているってことは、男と認識している可能性も高いな。問題ないかもしれない。

 

「そうだな、俺から話そうか」

 

 修也がいの一番に話そうとするがそれを止める。

 

「いや、自己紹介ではなく他己紹介で頼む。そっちの方がわかりやすい」

「タコ?」

「蛸?」

「凧?」

 

 三者三様に他己に反応しているけど、一体何を考えているのか。

 

「いや、他者を紹介するってこと。他人から見た自分は、自分から見た自分と案外違うものだし、俺が君たちを知るのは結局他人から見た景色だからな」

「ふーん」

「大学でやったりするんだよ」

「へー、面白そう」

 

 奈央香は乗り気のようだ。声色が若干上がった気がする。

 

「じゃあ、修也を紹介するね。……なんか友だちに良い人紹介しているみたい」

「……違うからね」

「わかってまーす。……修也はそうだね。効率的な人間?」

「いきなり切り込みすぎでしょ」

 

 行動力に富んでいるのはわかる。合理的なタイプなのだろうか。そもそもここに来ている時点で合理的とは思えないけど。

 

「いや、直感的っていう方があってるぞ。しかもその直感が正解になりやすいタイプだ」

「センス派か」

「そうそう」

 

 待って、リーダーの人選間違ってね? 修也で大丈夫か? 直感が絶対に当たれば大丈夫かもしれないけど、それに命を預けるの嫌なんだけど……。

 

「あとイケメンだな」

「見りゃわかる」

「そうっすよねー、ははっ……」

 

 口調戻っている上になんかへこんでいるし。自分で言ったのに。

 

「俺のことはもういいか?」

「うん。じゃあ、空河は?」

「空河か、そうだな。空河はいいやつだ」

 

 ……。

 …………。

 

「こっち見ないでよ」

「見るだろ」

「そうね、空河はお調子者かしら」

「見たまんまだな」

 

 さらに落ち込んでいる空河は放っておく。どんよりした空気は1人で背負いこんでくれ。負のオーラを撒き散らすな。しっし。

 

「私と空河は幼馴染でね。小さい頃から一緒なのよ。幼稚園から小学校、中学校、高校ってね」

「へー」

 

 こっちの2人は繋がりが強いのか。

 

「修也は高校から?」

「そう、3人とも部活が一緒だから」

「何部?」

「文芸部」

「ダウト」

「ちぇっ、わかるか。バド部よ」

「ラケット持ってなかったけど」

「部室に置いてるし」

「それもそうか」

「今日は部活が定休日だったから」

「なるほどな」

「あとはそうね。空河は基本的に頼りになるわ」

 

 特に雑用で、っていう小さなぼやきは聞かなかったことにしよう。

 

「いやあ、照れるなあ」

 

 知らぬが仏だな。

 復活した空河を見てお調子者だってことはよくわかる。空河も修也と同じで直感的なタイプの可能性が高いなあ。

 

「じゃあ最後は私だけど」

「奈央香はブス」

「はあ!? 非モテ男子のブスの上に、性格ブスなあんたに言われたくないわよ」

「はあ!?」

「なによ!」

 

 あ、はい。なんとなくわかったのでいいです。いちゃいちゃしているなら放っておこう。これが幼馴染の男女関係ってやつか。

 

「修也から見た奈央香は?」

「奈央香か、そうだな。奈央香はいい女だ」

 

 ……。

 …………。

 

「なんでこっち見るのよ」

「見るだろ」

「そういう関係じゃないからね!?」

「俺に怒っても……、発言したのは修也だから。あと尻尾ブン回さないで」

「うぅ……」

 

 この反応は修也のことが好きなのか?

 あー、うん。なるほど。3人とも結構さっぱりした性格している割には意外とドロドロした関係かもしれない。

 空河が奈央香を、奈央香が修也の三角関係か?

 いや、さすがに勘繰り過ぎか。

 そもそも、男子から見た女子っていうのは俺と同じで女心がわからないんだから、正確な捉え方はしていないだろう。奈央香は時間かけて仲良くなるしかないだろうな。最悪モフらせれば仲良くなれるだろう。

 馬車が速度を落とし始めた。

 そろそろ目的地に到着か。




繋ぎの話でした。もうしばらくお待ちを……。
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