戦闘はおまけのはずなんだけど、書き込みすぎた気がする。
「皆様、そろそろリント砦になります」
冬の寒さの中、汗を垂らし、息を荒げているイオーネさんから報告が入る。緊張で杖を握る手に汗をかく。
「反応は1体だけだ」
「もう1体がいない?」
「今は砦内部が索敵に入った程度だ。もう少し近づけばわかるかもしれない」
「だけど、もう魔法撃たないと雑魚たちがわらわらいるんだけど……」
「そうだな。ムツメ、頼む」
「わかった」
俺は馬車の上に登る。修也の肩に足を乗せて登る。
「うんっと。おお、見晴らしいいな」
「なんで登る必要あるんだよ」
「サマになるだろ」
「あっそ」
戦って散った3000の兵士にお辞儀を1つだけして、俺は杖をかざす。
さて行きますか。
本気の一撃を……。
「ザ・ワールド・テンペスト!!」
街一つを平気で飲み込む巨大竜巻と摩擦で発生する雷が周囲を飲み込み、破壊し、プラズマ状態へと電解させる。
「ムツメちゃん!? これ錯覚? あの竜巻めっちゃ近くない!?」
「これでも10キロは離れている。問題はないはず」
「うっそだろおい!?」
「だけど……、さすがに四大魔将は討ち取れないかな」
竜巻の中で誰かが蠢いている。
ザ・ワールド使った上級魔法で倒せないのか。ここにいたら狙われる。とにかく降りよう。変に格好つけるんじゃなかった。
「ダメだった……」
「雑魚を倒してくれて楽になる」
「でも四大魔将っぽいのはまだピンピンしてる」
「恐怖心で魔法をセーブしたんじゃないか?」
「恐怖心?」
「ああ、自分が自分の魔法に巻き込まれる恐怖心で、真の威力が出せなかったんだろう」
「そうかも」
心当たりがありすぎる。馬車の上に乗って飛ばされたらどうしようとかな。
……あれ? 俺アホなのか?
「だが、十分だ。相当疲弊したらしい」
修也が構えたのを見て、俺が放った魔法が徐々に小さくそして引き裂かれた。まさか、あの規模の魔法をかき消すとは……。
「貴様らかっ!!」
遠くから光の線が走ったかと思うと転移で近くに飛んできたようだ。転移魔法……、俺よりよほど魔法の扱いがうまいな。
羽が生え、2本の角を持つ男のような魔族が現れた。
「あ、右腕が」
プラズマに晒されて右腕が蒸発したみたいだ。それでも右腕で済んでいるのか。やっぱり上級魔族は手強いな。
「クソ人間どもが……、右腕の借りだ。今すぐその魂、喰らってやる!」
「よせ! スノラウ! 飛び込むな!!」
いつの間にか近づいていた、もう1体の女性的なフォルムをした魔族が止めにかかるが、怒りに脳を支配された四大魔将のスノラウは俺たちに攻撃をしかけにきた。
「遅いな」
「なにっ!?」
飛びかかってくる前に一瞬で左の羽を切り裂く。左腕にも斬撃の跡が走っていたところを見ると魔力で防御力をあげて咄嗟にガードしたってところか。
「ぐぐぐががっ、ああぁぁーーー!!」
言葉にならない悲鳴を上げながら、魔力弾のようなものを飛ばしてくるが、修也の一振りで相手の魔法は四散する。
今度は身体強化とは違う、遠距離からの魔法、魔族は性別がないから人間の男と女の両方の魔法を扱えるのか?
というか……。
「こんなものか」
「な、なんなんだてめえの強さは————っ!? ぐわあああ!?」
「左手ももらっておくぞ」
つ、つえー……。
あれが本当の勇者ってやつなのか?
四大魔将とかいう、中ボス的な存在を相手に、弱いものいじめしてる。右手は俺が消しとばしたけど、残った左手を魔力で強化していたにも関わらず、ガードの上から斬り落としやがった。
「修也強すぎじゃね?」
「引くわー」
「恐ろしいですね……」
初めて修也のガチ戦闘を見た俺、空河、イオーネさんの感想である。
結局修也はあっという間に四大魔将の一角を倒してしまった。
胴を真っ二つにされた四大魔将の体から破裂するかのような光が散乱する。爆散したかのように見えた光は青白く、その青白い球体が魔族の内部から溢れ出てきたみたいだ。
青白い球体が、泡沫状に変わり、空へと消えていく。
「これ全部、魂なのか?」
「はい……、……皆様、おかえりなさいませ」
イオーネさんは敵前なのに祈りを捧げてしまっている。
もう1体の敵が目の前にいますけど? 修也いるから別にいいのか。
俺たち必要あったのかな?
修也一人ですべて事足りるじゃねえか。
「ムツメちゃんと修也だけでよかったね……」
「だな」
「お前ら気抜きすぎ」
女性っぽい見た目の魔族と修也がつばぜり合いになっている。下手に突っ込まずにこっちの戦力の分析はできたってことか。
「あれ?」
分析ができているなら普通は逃げないか?
修也の力量を考えたら逃げ一択だろ。逃げきれないという判断なのか、あるいは……。
「空河、警戒して!」
「え?」
直後、地面が激しく揺れ、空河は味方を守るスキルを発動させたのか、瞬時に両手で奈央香とイオーネさんを抱えて移動した。少し離れた場所にいた俺は、地面から飛び出てくる何かの衝撃に晒され吹き飛ばされる。
「ぐぅ、くっ!」
空中で体勢を持ち直し、バク宙の要領で着地する。
「危ない!!」
「え?」
修也に押し倒され、すぐ横を剣が通り過ぎた。
「ちっ、逃さぬ!!」
「今度は俺が間に合うぞ」
修也に抱きかかえられた状態で肩越しに空河が俺たちを守ったのが見えた。油断をしたつもりはまったくなかった。近距離戦は多少は戦えると思っていたけど、それは見当違いもいいところだった。目で追うのがやっとの世界、その速度での攻防で修也と空河は戦っている。さっきの四大魔将はまだ戦えると思えたが、今目の前で繰り広げられている戦いはとてもついていけるものではない。
「おっりゃあああ!」
「ちっ」
「今だ! 修也!」
修也が背後から斬りかかったが、動きが鈍く、逃げられてしまう。
「動けるだと!? ありとあらゆる毒素を仕込んでいるのだぞ!?」
修也は斬り傷をわき腹に負っている。地面から現れたもう1人の魔族が俺の視界に入った。次の瞬間、攻撃されていた。
「ぐっ」
「ちっ」
「ホーリ、ショット、セスタ!」
斬撃を杖の柄で受け止め、弾き飛ばされる。そのまま魔法を打ち込む。中級魔法も防御行動を取るということは簡単に相手をその場に縛り付けることができるというわけだ。
「イオーネさん!」
「はい!」
仕込み杖から細剣を取り出して素早く斬りかかり、斬撃の合間に攻撃魔法を供えて、連続攻撃で相手の反撃を許さない攻めだ。さながら魔法剣士といったところか。さらに奈央香の援護も加わり、新たに現れた魔族は押さえ込まれた。そしてもう1体の魔族が地面から現れる。
ゴキブリかよ。1体見たら3体いると?
俺と新規の魔族。
奈央香とイオーネさんの相手の魔族。
修也と地面から最初に現れた凶悪な魔力を持つ魔族。
空河と相対する最初にいた女性的なフォルムの魔族。
4つの組み合わせがにらみ合いの状態となった。
「魔王に四大魔将全員ですか……」
「マジで?」
そういうことか。対峙している相手が魔族の最高戦力というわけだ。ただ、1体は倒しているから数的有利は取れても、真面に相手取るためにはこっちは5人必要になる。修也が怪我を負ったのが痛いな。目の前の相手も油断なんか1ミリもできはしない。
「スノラウがやられたか」
「すみません」
「やられたものは仕方あるまい、回収は?」
「できませんでした」
「そうか、それなら、失った魂はこいつらで補うとしよう。随分と大きい魂を持っている」
大きい魂?
俺たちが?
「よそ見か?」
一瞬で相対していた魔族に間合いを詰められた。
「いや、ちょっとした連携だけど?」
「なに?」
俺はニヤリと笑う。
「スイッチ!」
味方と自分の場所を入れ替える魔法だ。空間魔法で自身の見えない距離の移動は困難でも、視界内の味方との位置交換であれば可能にはなった。
その対象は空河だ。居残り組で連携の練習した甲斐あったな。よかったよかった。
魔族の剣が空河に刺さったことを除けば。
「……なんでガードせんねん」
「いや、いきなりスイッチされても……」
「……なんでノーダメージやねん」
「防御には自信あるんで」
俺に斬りかかっていた魔族は混乱している。変わったのはわかってもノーダメージなのが理解できないのだろう。そのまま空河は魔族を掴んで地面に叩きつけた。あいつ柔道部出身だったっけ? バト部設定はどこいった。
「埒があかない。私が潰そう」
「はあああぁぁぁーーー!!!」
「な、なんというマナだ!?」
いや、ちょっと待って? 超展開すぎるんだけど……。
魔王が動き始めた矢先に、修也が力を込め始めて魔族側に動揺が広がっている。ついでに真横にいる俺も動揺している。なんか修也を中心に波動の風が吹き荒れている。
漫画間違えたか?
「はあああ!!!!」
これスーパーなんちゃらじゃね?
強さって何? インフレしていく強さなん?
魔力が視認できるほどに溢れかえり、荒ぶる龍の如く修也を取り囲んでいる。傷も魔力による自然治癒でどんどん回復していく。
「3分しかもたないんだ。すぐに終わらせる」
「ツッコミどころしかねえ……」
修也が踏み込んだ瞬間、地面が割れ、一歩で魔王の正面で斬りかかっていた。動き始めた瞬間しか見えなかった。
ちなみに俺は修也が作った地面の割れ目に挟まった。あとで文句言ってやる。
修也は手負いながらも魔王と互角に戦い、その決着はつかず、俺は先ほど空河が相対していた女性的な魔族を相手にし、空河は俺の相手した魔族を叩きのめしている。奈央香とイオーネさんも四大魔将と思われる一角を相手に有利な戦闘を繰り広げている。
「くっ、勇者の存在は聞いていたが、これほどとは……、あの女神めっ!!」
「ここで終わらせる」
「終わってなるものか!! これならどうだ。ザ・ワールド————」
「なっ!?」
まずい!!
「テンペスト!」
「ザ・ワールド・テンペスト!」
先ほどとは逆回転の竜巻を発生させ、魔王の放った魔法を打ち消す。
「ぐおおおぉぉぉ……」
「魔王様!?」
あぶねー。なんとか防げた。そうか。呪文を叫ぶだけで効果があるなら、相手に真似されることも考えなくちゃならなかったのか。
「魔王様、魔力が……!?」
「なんという魔力消費の悪いバカ魔法だ……」
ナチュラルにオリジナル魔法を貶されたんだけど。どうやら、一撃でMPが枯渇したらしい。魔王が腰砕けに倒れていた。倒すなら今しか————。
ドゴッと、隣で倒れる音がした。修也だった。
「3分経ってねえけど!?」
「毒ってたの忘れてた……」
「こっちもピンチじゃねえか!? 奈央香! スイッチ!」
大将が互いに倒れている中、俺はイオーネさんと合流し、奈央香と戦っていた魔族と対峙する。俺だけ四大魔将ほぼ全員相手にしてるぞ、まったく。
流し目で修也は奈央香に治療されているを見る。
状況は五分のままか。一旦体勢を整えられればこっちが有利になるとわかる。魔族側はそう簡単には引かないだろう。状況をひっくり返すための何かがなければ……。
「増援が来ます!」
「増援!?」
むしろ相手側に戦況を変える要素が加わってしまった。
「くそっ、イオーネさん、足止めを」
「わかりました!」
俺に魔法を撃たせまいと相対していた四大魔将がイオーネさんと斬り合いになる。
「雑魚は寄せ付けさせない。ジ・エンペラー・ヴォルケーノ!」
増援の部隊を焼き焦がす。降り注ぐ火山弾に魔族たちが続々と倒れていくが、その間に四大魔将がイオーネさんを壁に叩きつけて突破してきた。
近接戦になる。
魔力で身体強化ができれば近接戦でも優位に戦えるが、俺の体は女だ。身体強化はできない。それでも毎日鍛えたことと女神印の獣人の体の運動神経でなんとか相手の猛烈な攻撃をいなし続けられる。魔力はあるのに、魔力の使い道がない……。このままだとジリ貧だ。
……魔力?
「待てよ? 魔力枯渇だと?」
「ちっ! 魔王様!!」
「奈央香! 今の魔王は魔力で身体能力を強化できない! 畳み掛けるチャンスだ!」
瞬時に魔族側がピンチを察して魔王の元に3体になった四大魔将が集う。
「引きます魔王様」
「クソッ、致し方あるまいて」
「逃すか!! ホーリーショット・シエン!」
俺の魔法は奴らの転移には間に合わなかった。100発の魔法が空振りとなり、ただひたすらに地面を抉るだけに終わった。
「……」
間に合わなかった。絶好のチャンスだったのに……。
たった数分、それだけで辺り一面は粉砕するほどの衝撃な戦争が終わった。
「いろいろな毒が含まれているね。すぐ治すから」
「ごめん、修也……」
修也の傷は俺をかばって負った傷だ。
「別にいいし、そもそもムツメのせいではない。相手の作戦が一枚上だった」
ぶっきらぼうに言う。
イオーネさんの観察で魔王たちが転移魔法を地面の下に埋め込んで突然奇襲を仕掛けてきたというのがわかった。アテナ王国侵攻の失敗で魔王側は勇者の存在を類推し、一気に畳み掛けるつもりだったとみてとれる。それも圧倒的な修也の戦闘力のおかげで作戦負けを帳消しにした。修也強すぎ。
「俺も間に合わなくてすまん」
「奈央香とイオーネさんを守れただけ十分だろう」
空河も咄嗟の判断で奈央香とイオーネさんを抱えて地面からの攻撃から回避した。直接巻き込まれない位置にいた俺は魔王の次の標的にされ、かばった修也が怪我を負った。
「まさか魔族の頂点が勢ぞろいしているとはな……」
それからは予期せぬ総力戦になった。
相手は四大魔将の1人と数億の魔族を失った。こっちは修也が怪我を負ったこと。結果だけ見れば完勝だが、修也の怪我次第では完敗になりかねない。修也がいなければあの魔王には対抗できないことがよくわかる。だから修也に致命傷があってはならない。俺は奈央香ほど治療は得意じゃないし、できることは空間魔法にしまっておいた薬草類とかをイオーネさんの指示で煎じて薬を作るくらいだ。
しばらくして奈央香の治療が終わる。
「イオーネさん、毒素は抜ききったはずなのですが……、修也の体調が優れなくて……」
「そうですか、私たちにできそうなことはやったはずなのですが……、シュウヤ様の回復力にかけるしかありませんね」
どうやら深刻そうな怪我になり————。
「ぐっ……」
「ん?」
なんか……、修也が……、……前屈みになってね?
要約、修也が怪我をした。毒が入ってた。前かがみになった!
次回も3日後。