魔王を含めた魔族の最高幹部たちとの一戦を終えた俺たちは、馬車に揺られて帰路についていた。
俺の向かいに修也が前かがみで座っている。その隣には奈央香が座って、俺の右隣には空河が外を眺めている。
「……寒いな、ブランケットとかあったりしない?」
「魔道具の保温効果効いてませんか?」
馬を引いているイオーネさんから返事が入る。馬車内の魔道具は確かに効果はあるが、俺がごまかしごまかしで話しているから真意は通じないだろうなあ。
外を眺めていた空河が俺の方に振り返る。
「膝掛け持ってないの?」
「馬車の中はあったかいって聞いたから」
「冷えるの?」
「……ちょっとね」
「よし! 俺がムツメちゃんの艶かしいふとももをさすってしんぜよう。按摩してあっため————ぐほっ!?」
えるぼー。
「何か言ったか?」
「なんでもないです」
まったく、空河はなんですぐに痴漢行為をしたがるのか。
……あ、元男だから痴漢してもセーフみたいな理論か?
わからなくもないのが嫌だな……。それに俺は嫌がってるんだから男女問わずやめろ。
背後からイオーネさんの声がかかる。
「私の使いますか?」
「それは遠慮しておきます」
「そうですか」
冬の外気に触れながら馬を引いているイオーネさんのブランケットを強奪するわけにはいかない。
どうしようか……。修也に助け舟が出せない。
「修也、大丈夫?」
「あ、ああ……、大丈夫だ」
奈央香が背中をさすっているけど、あれ逆効果じゃね?
いや、背中をさすることによって不自然じゃない前屈みに!? なんというさりげないフォローの仕方!?
完敗だ……。
奈央香の気配り力がすごい。
「なんだ修也、まだ毒が抜けないのか?」
「あ、ああ……」
「俺は防御特化だからな、怪我病気すべて効かん!」
なるほど、俺を含めた女性陣3人は気づいていて見知らぬふりをしているが、空河は普通に気づいていないんだな。
というか、単になんとかは風邪ひかないとかでは?
「そろそろ休憩したいのですが……」
イオーネさんが魔力の欠乏したらしい。馬のスピード落ちてるし、ここらで野宿か。修也と空河は敵が現れた時に備えて馬の強化は行わないらしい。
野宿になり、夜ご飯担当となってパエリアを振る舞うことにした。魚介系は以前訪れた港町のクレーテという街からの支給品にたくさん入っているらしく、俺も支給品の一部を譲り受けている。エビ、イカ、貝と具沢山だ。
「うまい」
味見で確認。よし、会心の出来だ。30分も待たせて悪かったな。
「ぐぬぬ……、おいしい……」
「ふっ……、さすが俺」
「もー! もー! もー!」
「牛さんかな?」
奈央香は料理できないらしいからな。俺がおいしい料理を作るたびに悔しそうな顔をする。空河はおいしいおいしい連呼する機械になっていて、イオーネさんも高速にうなづいている。評判はすこぶるいい。
そして修也は……、修也はそれどころじゃないらしい。食べるには食べているが、そのペースはあきらかに遅い。
「ごめん、もう、お腹膨れた……」
「ぁ……」
スプーンを置かれた。
そうか……。……そうか……、……やばい、かなりショックだ。
即興じゃないからおいしく作れたはずなのに、味わってもらえないのが辛い。
体に残っている毒で強制的に発情させられ性欲が高ぶっているからか、食欲が出ないのかもしれない。そうだと思いたい。でも、仮に毒のせいだとしても悲しいものは悲しい。
「おいしかった……」
告げられた言葉が真意なのかわからない。
態度で示してほしい。
残さず食べてほしい、っていうのはわがままかな……。
わがままだな……。
修也が食べ残した分を食べきれるかは不安だけど、俺は修也が残した分を口に運ぶ。
たくさん食べたら身長伸びるかな? このメンバーの中で一番背が低いし……。というか体や顔つきからして15歳くらいだけど、成長するのだろうか。
思考を無理やりにでも変えないと涙が出そうになる。
食事を終え、馬車の中で体を拭く。ようやく揺さぶられていた感情が落ち着いた。体を拭き終えたら、次の奈央香が馬車に入っているタイミングで、俺はイオーネさんに小声で話しかけた。
「イオーネさん」
「何でしょう?」
「修也のことなんだけど……」
イオーネさんはゆっくりと修也の方に顔を動かす。修也は切り株に腰掛けたまま、膝に両肘をついて、指を組んで、組んだ指に額を乗せている。あれで誤魔化しているのだろうか?
「……淫毒ですね」
「淫毒?」
「はい。魔族は我々の魂を喰らいます。そのために生き物を殺害します。殺害するのに抵抗されては支障になります。相手の行動を封じるための毒の1つとして、快楽で思考と肉体を鈍らせる効果を付与できます」
あ、そういう使い方か。エロいことに発展するわけじゃないのか。
「戦場では厄介な毒となりますが、戦場でなければ淫毒は害はありません。むしろ人口が減り続けているこの世界において、子どもを作る促進剤的な効果になりますので受け入れられています」
これはひどい。
「ですので、シュウヤ様の身体に残った淫毒は毒として認知できずに解毒できなかったのでしょう。毒と名が付きますが、命に別状があるどころか命を増やせますから」
「上手いこと言わなくていいよ。……ということは今の修也の状態を治さないと戦闘はしづらいと?」
「……格好を気にしなければ十二分に戦えるはずですよ」
それなんて羞恥プレイ?
男としてそんな恥ずかしい状態で戦いなんてしたくないだろう。股間もっこりした勇者とか嫌だぞ。
「解毒法は?」
「対症療法……、いえ、対処療法になります」
だから上手いこと言うな。
つまり、ヌキヌキしろということだな。うん。
……素面(しらふ)で?
いや、えっと、どうなんだ?
修也には確かに好意を持ってるし、発情期でもない素の状態で迫ったらさすがに痴女だよな。いや、もう片足突っ込んでるか。片足どころか全身突っ込んでるかもしれないけど……。
前回はエルシアが発端で修也に体を舐めさせるという、完膚なきまでにエロい行為をさせるのに成功したわけで、これまでの行為はすべて受け身だった。今回は攻めろというわけか。
そうだな。いい機会かもしれない。
まともに好意を寄せても奈央香には勝てない。引き締まった体に出るとこは出ている完璧なスタイル、優しく気配りもできる上に、ボケもできて、顔面偏差値70を超えてくる美少女で、RPGなら白魔道士のメインヒロインっぽさが強い奈央香だ。
……強敵すぎる。
それに対して、俺はサブヒロインっぽさしかない。黒魔道士のロリっ子。獣人というケモナー属性も対象である修也には効果があまりない。しかも性転換者という純正な女の子じゃないという最大の欠点を抱えている。俺と奈央香を比べて俺が勝てるわけがない。強いて勝てるのは料理の腕前くらいだが、料理上手のブスと料理下手な美人を比べたら男は基本的に後者を選ぶ。性転換ってのはそれだけ重たいマイナス要素だ。料理が多少うまいだけだとひっくり返せない。
つまり、勝つには別の要素が必要になってくる。
そうエロスだ。
ぶっちゃけ1ヶ月前は右手が恋人状態だったわけで、ヌキヌキとなればもはやプロレベルの実力だ。実戦経験も豊富にある。
……考えてるだけなのに悲しいなあ。
そんでもって今の俺は姿形もなく美少女、いや、妹そっくりだから、男だった頃の面影残りまくってるけど男感は薄れている。しかも処女。
つまり処女ビッチ的な要素を持ってるわけだ。
……これ武器になるのか? むしろ欠点だったりしないよな?
まあでも、まともにやって奈央香相手に勝ち目がないんだから、試してみる価値はある。奈央香と同じ土俵には登らない。登ったら負ける。俺の強みを生かさなければ。
決行は早い方がいい、今夜だ。
決意すると同時に馬車から奈央香が出てきた。
「ムツメちゃんが微笑んでいるってことは、良からぬこと考えてるね」
「言いがかりが過ぎるぞ」
このとき、尻尾が左に揺れているのに俺は気づかなかった。
馬車を背に、簡易的なバリアーが張れる魔道具を使って側室の野宿空間を用意する。これで夜はある程度安心して眠ることができる。
俺はイオーネさんと奈央香の間に挟まれ、男性陣と女性陣で真ん中に焚き火を挟んで寝ている。俺は眠気に負けそうになりながらも、耳に神経を集中して修也の動向を探る。もぞもぞと動いている音が聞こえるから、まだ眠れないのだろう。
さらに5分くらいしてから修也が動き始めた。
3週間は最低でも処理しなかったのに連日の処理になるとは。
こっそりと後をつけると修也が足を止めた。そして振り返る。
「おい、ムツ————」
「しっ、起きちゃう」
振り返った修也に急接近して口を閉じさせる。
「なぜついてくる」
「だって、それ……、直した方がいいだろ」
「俺は頼んでいない」
まあそうなんだけど。センシティブな内容だし、俺がついて行く意味はない。だが、俺はここでしか真価が発揮できないから、修也に俺の強みというものをわからせなければならない。
「さっきね。本当は全部、食べて欲しかったな……」
「……ごめん」
初っ端から意地悪すぎたかな?
「……ううん、これは俺が悪いか。修也は食欲なかったんでしょ? 食べれない状況だったのに、……修也を責めるようなこと言って」
「そんなことない、せっかくムツメが作ってくれたのに……」
好きな人に作ったご飯を食べてもらえないっていうのはすごく辛かった。だから————。
「手伝うから」
「……いや、それは……、自分で……」
「ダメ」
意味不明な理論だろう。
性欲が高ぶって食欲がなく、出された食事を食べきれなかったからといって、自慰を手伝うことにはならない。勝手に解消しろというのが普通だ。だけど、俺はそれをイコールで繋ぐために、不機嫌感を露骨に出して、ジト目で修也を睨む。機嫌悪いから俺の意見を通せという理不尽な理論を突きつける。
修也も困惑している。奈央香のこともあって性的な好意には及びたくはないだろう。
だけど、ここでしか奈央香には勝てないんだ。引くわけにはいかない。
「いい?」
「断るって選択肢がないんだろう?」
「うん」
「酷いな。……はあ、……わかった」
「ほんと?」
「ああ、奈央香には……」
「言わないよ。アピール方法なんてそれぞれだし」
「……いや、アピール方法って……」
性転換娘の最大の特技だぞ。技量が高い理由は口に出したくもないけどな。男らしさが出て萎えさせるわけにもいかない。今の修也が萎えるとは思えないけど。
「大丈夫、絶対うまくやれるから」
「まあ……、うまいだろうな……」
「……」
「……」
失言っ!!
考えてたそばから!!
男っぽさが前面に出た……。
「……」
「……」
「そ、それじゃあ、背後から……、直接は見ないようにするから」
体格差あるから背中に抱きつく形になってしまう。かちゃかちゃとベルトを外していく。自分でも思うけど手馴れすぎだろ……。って————。
で、でかっ。
俺の手のひらが小さいとはいえ、指が回らない……。
あ、そうだ。
「この瓶に入れて」
「瓶?」
「無駄撃ちするくらいなら薬にするから、……万が一、万が一必要になるかもしれないし」
「……わかった」
本当に必要になる時が来るかもしれないからな。
さっそく薬の材料採集を開始する。
「どう?」
「あ、ああ……」
「……」
「……」
「ああ、じゃわからないけど?」
「……良い」
「そう」
「……」
「……」
「我慢しなくていいからな」
「悪い、もう————、くっ……」
はっや……。
これは口に出しちゃダメだな……。
俺の採取能力が高かったから、もしくは淫毒の効果か。
……。
…………。
この匂い、やばい……。
発情スイッチが入ったかもしれない……。
会心の出来のご飯を残されたら絶対恋心は冷める。今回は理由があったけど。
次回も3日後。
章管理がおざなりだった。いつかきっと直します。