今年の節分が2/3だと思ってた情弱です。
2部構成。
雰囲気/ごめんなさい
修也と奈央香と王様による上級魔族討伐により、奪還した城が魔族戦線の最前線となる。その城を前線基地にするために物資を運搬する仕事を1週間やってきたわけだが、物資運搬の護衛中にちょっとした事故が起きた。
「勇者様! 勇者様ー!」
「なんだ?」
「この先で土砂崩れが発生しました!」
「土砂崩れ……、この時期に?」
冬だぞ、雨というよりは雪が降る季節、雪の重みとかで崩れたのか?
現場に直行してみれば土砂が道を完全に塞いでいた。地面はだいぶぬかるんでいる上に近くには水が流れて小さな滝ができていた。
連日の冬には珍しい温暖な気候が続いていたせいか、雪が溶けてぬかるんだ斜面が崩れたのだろうか。
「ムツメちゃん、頼める?」
「うーん……」
隣に立つ空河から声がかかる。
目の前の土砂だけなら簡単に退かすことができるんだけども、今の土砂崩れの状態で山が支えられている。つまり目の前の土砂を退かしても再び山が崩れてくる。いっそのこと山ごと吹き飛ばした方が早いかもしれないが、そうすれば山頂にある城が崩れてきて拠点どころの話ではなくなる。
空河にめちゃくちゃ尻尾撫でられるているのが気にかかる。
「おい、集中できないんだが?」
「目の前に尻尾をぶら下げているのが悪いんだよ!」
その理論だと獣人全員が悪者じゃねえか。
「ムツメちゃんの尻尾、最近ごわついてない?」
「え? 嘘……」
「ほら、枝毛」
「マジかよ」
毎日手入れしているのに……。荒っぽかったか? 最近は寝不足というわけでもないし。昨日、1週間ぶりに一緒に寝た奈央香に尻尾を下敷きにされたせいか? 1日でキューティクルが痛むとは思えないけどなあ。
「それでどうなん? 土砂は退かせそう?」
「無理だな。これ退かしたら連鎖的に土砂が崩れていくと思う」
「あ、そうなんだ。じゃあ迂回するしかないか」
「迂回ルートなんてあったか?」
小高い丘の上に立つ城、その裏手から山中を通って物資を運搬していたのだが、王都と直線で結んだ際にもっとも距離が短く、最速のルートになっているのだが、この道が使えないとなると廃墟となった城下町方面に回り込むしかないな。地図を広げてみるにだいぶ遠回りだ。
「城下町方面ってことは少し引き返す必要があるな」
城下町に迂回してたら今日帰れるのか?
日帰りの任務なのに、この新拠点で一泊か。空河とか。修也がよかったなあ……。といっても、他にも運搬の担当兵とかがたくさんいるし、2人きりというわけでもないけど。
山路を迂回して城下町の方から拠点となる城を目指す。崩れた町並みと壊れた道路のせいで馬車が足を取られたりしたが、無事に城にたどり着いた。もうすっかり夕方である。
今から王都に帰るとなると面倒ごとが増えるだろうな。兵士たちも疲れているだろうし。
「夜道は危ないし、拠点で一晩明かすしかないか」
「勇者様、お夜食の準備ができました」
「はっや」
何の指示も出していないのに何もかも用意されるのは、俺たちは護衛の最高戦力としての立場だからだ。物資の運搬とか手伝うには手伝うが、それが俺たちの役目ではない。魔族が襲来しなければただのお荷物でしかないが、いざとなれば彼ら兵士の先頭に立って戦うのは俺たちだ。
そんなこんなで、甚だ不本意だが、まさかの空河と同室の寝室となった。
どうしてそうなる。
「ムツメちゃん、暖房具ある?」
「あるけど」
忘れたから寒いし一緒に寝よう、とか言い出したらふん縛って廊下で凍えさせてやる。
「いやー、俺だけ自分の分持ってきてたからムツメちゃんが寒がったらどうしようかなって」
誰だこいつ。
いつもなら、確実に両手ワキワキさせて布団の中に潜り込もうとしてくるはずなのに。普通の紳士的な対応を取られると少し戸惑う。
「……」
「あのー、なんで杖をこっちに向けているんですかね?」
「ライトブレッド」
「ほわっ!?」
「なんだ本物か」
「どんな確かめ方!?」
弱小魔族であればオーバーキルなんだけど空河の持ち前の防御の前じゃ無力なんだよなあ。ダメージないし。最近はさらに硬くなって中級魔法のホーリーショットですらほとんどダメージがない。マゾヒストだから防御力高いのか、防御力が高いからマゾヒストになるのか。
「あ、そうだ。ムツメちゃん尻尾解くよー」
「ああ、頼む」
いつも俺に対してセクハラしてくる空河もいいところはいくつかある。1つは尻尾を解くのが一番うまい。修也は解いてくれないから、空河と奈央香と俺が解くのだが、空河は俺と奈央香よりもうまい。
「ひゃん!?」
「ん? なんかまずいところ触った?」
「根元は……、ゆっくりで頼む」
「あ、ごめん」
わざとじゃないから叱れない……。なんか普段通りのおちゃらけた空河じゃないから調子狂うなあ。
「……」
「……」
なんで空河とこんな静寂な空気になるのだろう。普段のセクハラ発言やセクハラ行為はどこいった?
「ムツメちゃん、なんか最近女の子になったよね」
「……? どういうこと?」
女の子に……、思い当たる節があるとすれば、修也に惚れてしまったことだろうか。だけど、言葉遣いとか特に変わったところはないと思うけど。
「なんか、こう雰囲気?」
「疑問形じゃねえか」
雰囲気ねえ。
それを察して俺へのセクハラは控えているのだろうか。奈央香や他の女性に足しては基本的に紳士な態度を取る空河だが、俺が元男だからか、もしくは現在獣人だからか、俺に対してはよくセクハラしてくる。パンツ何色履いてるのとか、ブラ着けられるようになったんだ、ムツメちゃんモミモミしていいとか。普段からセクハラ発言をしては俺に撃退されるというのが日課になっていた。
今日はそんないつもの空河じゃない。空河の言葉では雰囲気が女になっているというが、そうなのだろうか。恋する乙女、……いや、乙女というにはいささか語弊があるか。女性として男性に恋をしている、懸想していることが俺の雰囲気として表れているのかもしれない。
「女の子の日?」
前言撤回。抹殺モードに移行する。
「タイムタイムっ! ただ心配なだけだって!」
むぅ、仕方ない。言い訳くらいは聞いてやるか。
「なんかこう、いつものムツメちゃんじゃないというか、初めてあった時とは違うなあって」
「そりゃ1ヶ月も共に行動してれば印象は変わってくるだろう」
「そうかな? ムツメちゃん以外に雰囲気が大きく変わった人なんて知らないんだけどなあ。だからムツメちゃんにイタズラしづらいというか何というか」
「ほう?」
「今のは語弊ではないっ!」
威張っていうことじゃねえ!
とりあえずホーリーショットでシメた。例によってほとんどダメージはないだろう。
ある意味、こいつはこいつで男扱いしてくれていたのか。
……。
…………。
過去を振り返ってもこいつが俺を男扱いしてた覚えがないな。セクハラしたかっただけだろ。
「雰囲気が変わったか……」
「ムツメちゃんセンチメンタルぅ」
茶化すな。
「俺の勘違いじゃなさそうだね。なんかあった?」
「まあ、多少はな」
詮索はされたくはないな。
「変わるのは悪いことではないと思うけど?」
「そう、なのかな……?」
「変わりたくない?」
「うーん……」
女として生きるってことだろうか。
俺はまだ、修也を好きになって、付き合いたいとも思っていても、中途半端に男と女が入り組んだ状態のままだ。ある意味で生まれ変わったと言ってもいいかもしれない状況だけども、産んでくれた両親や俺の過去全てを捨て去ることはできない。。俺は俺自身に男の感情を含めた上で修也と恋人関係になりたいと思っている。たぶん修也以外の男にはこんな感情は持たないだろうな。だから俺の中の男はそのままであってほしい。
「変わらないものも、あってもいいとは思うけど……」
「それってつまり、ムツメちゃんは俺のイタズラがなくなるのが嫌なんだね。イタズラしてくれなくて恋しくなったというわけだな! 一緒に布団に入って暖め合おう! ついでにお風呂も一緒に入ろう! おっぱい揉ませて!」
「何しれっといつもどおりになっているんだ!」
雰囲気台無しじゃねえか。
ダイブしてくる空河を杖の反対側で腹を突き刺し、怯んだところに空中蹴りを3発叩き込んで廊下に叩き出した。
「ぐへぇ……」
「そこで寝てろ!」
「そんなあ! あ、ムツメちゃん、寝具寝具!」
「ふんっ」
空河の布団を顔面に叩きつけてやった。
俺はドアを閉めて、自分の布団の中に入る。
「ぐごー、ぐごー」
「寝るの早えし、うるせ。廊下に叩き出して1分でいびきかくなよ……」
俺は異空間からブランケットを取り出して、廊下で寝ている空河の布団の上からかぶせてやった。5枚だ感謝しろよ。なんか暑苦しそうな顔をしているが、冬場だから暑いくらいでいいだろう。
土砂崩れ以外何事もなく王都へと帰還し、少し時間が浮いたため、足を運ぶのを戸惑っていた場所に意を決して向かうことにした。
その場所とは孤児院だ。
俺が貴族に捕まる原因になった子どもたちがいる場所、あれ以来、王都の街がほぼ完全復旧となって孤児院に顔を出す機会はなくなった。気まずいっていう理由もあってここには来れなかった。魔王一派と戦ったり忙しくもあったけど。
「こ、こんにちは……、あっ」
「あっ、……姉ちゃん」
扉を開けたら、例の3人の少年のうちの1人、ユアと目があってしまった。いきなりエンカウントするとは……。
「シスターさん呼んできてくれる?」
「……わかった」
めちゃくちゃ気まずいな……。
他の子達の姿は見えないな。外で遊んでいるのか、訓練ごっこでもしているのか。
しばらくすると、シスターおばさんがユアを連れてやってきた。シスターの後ろに他の2人も来ていた。
「この子たちのことありがとうございました」
「いえ、私も助けることできませんでしたので」
「客人を立たせたままとは大変失礼しました。こちらへどうぞ」
客人というほどでもないけどな。この子達の様子を見にきただけだし。
案内された部屋はシスターさんの部屋だった。他の子達には聞かれたくない内容だしな。
「ほら、ムツメ様に言うことがあるでしょ」
少年たちは叱られた子どもそのもののようだ。落ち込んでいる。これって俺が怒っているように見えるってこと?
「3人とも、まずは座ったら?」
「ムツメ様、甘やかさないでください」
いや、確かにこの子たちのせいで俺は危ない目にあったが、頭ごなしに叱りつけるのはどうなのだろう。俺が歳下の子どもに甘いだけか?
「姉ちゃん!」
「うん?」
背筋を伸ばして、気まずい顔を押し込んで、俺と目を合わせてから頭を下げた。
「姉ちゃん、その……、ごめんなさい!!」
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
ユアの言葉に他の2人も続いた。
「はい、よく謝れました! 許してあげます」
「ムツメ様」
「これくらいはいいでしょう?」
「はあ……」
シスターさんがため息をついてしまう。そんなに甘いですかね?
「うぅ……、姉ちゃん、ムツメ姉ちゃん……」
ユアが泣き始めてしまった。あらら。
「泣くなよ、男の子だろう」
「だって……、だって! 姉ちゃん、どっか行っちゃってたって思って……」
んー?
ああ、しばらく孤児院に足を運んでなかったからか。あの事件を機にどこか遠くに行ったと思われてたのか。
「最近は魔王と戦ったりしてたからねー」
気まずかったから来なかっただけなんだけど。俺は小学生かっ。
「尻尾」
「さーせん」
なんでシスターおばさんにも左に揺れると嘘ってバレてんだよ。
「姉ちゃん……、ありがと……」
「もう! 泣くなよ……、って泣きたい時もあるよな……」
ぶっきらぼうな言葉と、目尻に涙を浮かべて感謝の言葉を述べる3人を抱きしめる。
無事でよかった。
今は違う言葉を投げかけるべきだな。
「3人とも私を助けようって頑張ってくれて嬉しかったよ」
怖かったはずだ。ナイフで首の皮を切られたりしたもんな。俺が最後争ったせいでユアは特に危険な目に合いそうだったからな。
頭を撫でると顔を真っ赤にしてうつむきながら小さな声でボソボソと呟いた。
「ね、姉ちゃんはあいつと、えっと彼女なの?」
「うん?」
なんだ?
あいつって……、修也のことか?
「えっと、修也のこと?」
「う、うん」
「彼女じゃないけど」
「そうなの?」
「まだね。絶対彼女になるけど」
「……」
奈央香には負けられないし、勝つつもりだからな。修也が今はどう思っていようと最終的には落としてみせる。
シスターさんが目を手で塞いで天をあおいだ。どうした?
今度はユアたちも下唇噛んだりして唸っている。どうしたし……。
「うぅ……、うぅ……」
「なんだなんだ? どうしたのさ……」
「お、俺、姉ちゃんよりもおっぱい大きい子と結婚するし!!」
は?
「お、俺も!!」
「俺もだ!!」
捨て台詞のように吐き捨てて、部屋から3人が飛び出していった。
……は?
なんで俺罵声浴びせられたん?
「ぶふっ……、あ、ごめんなさい」
おい、おばさん。喧嘩売ってんのか? 買うぞ、今なら4倍で買うぞ?
「まったく、あのガキども、なんてこと言いやがる」
「怒らないであげてください、彼らも辛いので」
「怒ってないですよ」
「本当ですか?」
「……」
ガキでも人のコンプレックスに触れていいものじゃないからな。後で尻ペンの刑だな。
「……本当にあの子たちを助けていただきありがとうございました」
「いえ、私が解決したわけではありませんので」
改まったシスターさんにまた感謝の言葉を告げられる。
全部修也の手柄だしなあ。俺はいいようにやられていただけだし。あのガキどもも修也にありがとうを言えって話だ。
俺自身も修也には感謝しているし、あれがが惚れてしまった原因だからなあ。その前から体(エルシア)が修也には反応していたけど、心から好きだと思えるようになったのはあの事件が原因だ。あんなにかっこよく助けられるなんて思わなかったからな。
やばい、思い出しただけで心臓の鼓動が高鳴ってしまう。
剣を振り上げて、眼光鋭く貴族たちを睨みつけ、すぐに上着を被せに来たとき、修也の足音以外の音が消えていたような気さえした。それだけ修也の威圧は凄まじかった。
ただただ格好良かった。
「私はあなたの恋路を応援しています」
「……ありがとうございます」
「神のご加護があらんことを」
そいつは不吉だな。
退室と同時に、ペタペタと自分の胸を触る。
「……」
修也も大きい方が好きだよなあ。
どうせ性転換させるならおっきくしておけよクソ女神様。
いや、母さんも妹もそんなに大きくなかったか、つまり、血縁的にも性転換させた俺の素の姿がこれというわけか。ちくしょうめ。
次のエロスへの下準備。
今回も書き終えたのはギリギリでした。でもやっぱり次回も3日後に。
たぶんだけど半分は過ぎたかな。