「うぅ……」
熱が引かない。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
下腹部に熱球が植え付けられているかのように熱が溜まっている。全然引いてくれない。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……、うぅ……」
枯れた涙だと思っていたのに、まだ目から溢れ出してくる。
修也は俺を選ぶんじゃなかったのかよ。
そもそも俺が修也を拒絶したんだろ。
思考が頭の中で渦巻いて渦巻いて、後悔の念に囚われている。
「なんでだよ……」
なんで、俺を当てがった。
あの女神は一体なんで……。
……。
…………。
わからない。
理由がわからない。
操られて、惑わされて、この地に拐かされたのか。
この好意は真とは言えないものでも、いまだに修也のことが好きだから……、この感情を否定して、否定し続けて……。
好きなのか好きじゃないのか、答えはわからない。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
修也……。
苦しいよ……。
「……ぁ」
苦しいのは嫌いだ。
慰めても慰めても、まるで効果は出ない。
てらてらと光る指を見て、魔法の存在を思い起こす。
「修也の精……」
俺はまた発情期になっているのだろう。
発情期の症状がいくらか緩和すれば、この苦しい思いも、胸を締め付けられる感覚もなくなるのかな?
男の体液を取り込む必要がある。
亜空間に保存してある体液は修也の精しかない。
俺は保存されている瓶を取り出す。
白い液体を見て、ぞくりと全身が震えた。
体が歓喜している。
……嫌になる。修也のことは好きじゃないはずだろ……。女神によって植え付けられた偽物の感情だ。
自己暗示をかけるように自分に言い聞かせる。
発情期を抑えるためだ。
俺は蓋を開けて、ぐいっと粘つく液体を口に入れた。
あれ?
でも、確かこれ、薬にしないとダメだったような……。
口にしてから違和感を思い起こすが、すぐに別の思考回路に切り替わった。
「おいしい……」
味も匂いも最悪だ。
最悪のはずなのに、とても甘美な味がする。
まだまだ欲しくなる。
喉に絡みつく感触を味わっていると、瓶に大量に入っていた分を簡単に飲んでしまった。缶ジュース1本分くらいあったのに全然物足りない。
まだ何本かあったはずだ。
「あっ……」
2本目を取り出したところで思い出した。
そうだ。
薬にしないと、薬にする工程を挟まないと。
以前の修也の唾液による発情期の押さえ込みとは違う。この精液には、淫毒が含まれているから、精の部分を抽出して薬にしなければならなかったはずだ。
思考が覚醒した。
「やばっ」
発情期の体に、淫毒が入り込んでしまった。
それに気づいたと同時に、俺の心臓が高鳴った。
どくんっっ。
「んんんひぅぅっっ————————!?!? —————————!?」
一瞬意識が飛んだ。
やばいやばいやばい。
シーツを握りしめて、心臓の鼓動に注意する。
どくんっっ!!
「ひぅぅぅううううんんんっっっ————————!!」
今まで感じたことのない快楽が、下腹部から全身に伝わる。
全身に力を込めて、快楽に抗うが、抵抗むなしく、体が跳ねる。
仰向けの状態から仰け反り、足は爪先立ちになるほどに体が跳ねてしまう。
理性を手放さないように、奥歯を噛み締める。
「う……、うぅ、んっ!」
快楽の波が引いた瞬間に、俺はベッドから飛び出し、立ち上がる。
横たわったままだと、余計に快楽を感じてしまうと判断した。
落ち着け。
深呼吸して、呼吸を整えなくては……。
「すーっ、はあぁぁぁ…………、すーっ……、はあぁぁぁ…………、すーっ——————!?」
ベッドの天蓋を支える柱に手をついてもたれかける。
「はぁーーーっ、はぁーーーっ、あぶ、なっ」
なんとか堪えたけど。
これ、無理……。
「歩け、ない」
歩いたら達する。
1歩でも踏み出したら、股の間から快楽の証拠を漏らしてしまう。
「耐えろ耐えろ耐えろ」
心頭滅却。
……。
…………。
よし。
「……ん、……んぅ」
歩くだけで快楽に抗わなくてはならないが、どうにか歩くことはできた。
「……んぅ、……ん?」
待て。俺は一体どこを目指している?
修也の元に?
修也は今、奈央香といる。
奈央香としていた。
俺は修也のことが好きじゃないんだ。身を引くしかない。
自分に言い聞かせて、また、後悔の念が押し寄せてくる。
「空河……」
修也がダメなら、空河?
空河は修也の代わり?
空河も自分が誰かの代わりにされるなんて嫌に決まってる。
「どうしよう……」
そもそも俺はなんで焦っているんだ?
ベッドを飛び出してまで……。
それは————。
「怖い……」
そう、怖いから。
怖い、もう制御ができないんだ。
思考も体も制御ができなくなりつつある。
俺が俺じゃなくなる感覚。もう1人の人格として芽生えかけたエルシアに体の主導権を取られた時とは似て非なるものだ。
乗っ取られるような感覚じゃない。俺が変質していく感覚だ。
ここにいちゃいけない。
ここにいたら、きっと大変なことになってしまう。
脳裏に発情期レベルのことがちらついた。
「第5段階……、サキュバス化……」
発情期にブーストをかけるように淫毒を体内に取り込んでしまった。もしかしたら、もしかしたら俺はもう……。
奥歯を噛み締めて、俺は走る。
ここにいちゃいけない。
理性の糸が切れ、誰かを襲うなんてことがあるかもしれない。体が、下腹部から塗り替えられていく。脳まで塗り替えられる予感もある。
走れ。
遠くまで。
少なくとも3人には迷惑をかけないような場所に行け。
城門を駆け抜ける。
門番は男だ。視界に入れたら襲いかねない。
走れば走るほど、快楽物質が脳に入り込んでいる。
最後の理性を総動員して、できるだけ遠くに、視界にもやがかかる。
涙が、邪魔をする。
俺は誰にとどめを刺されるのだろうか。
修也には殺されたくはないな……。
サキュバス化した者たち末路は知っている。修也のことに執われて、本能に従ったまま、淫毒入りの精を体内に取り込んだバカの末路だ。
修也のバカが。
何が誠実な男だ。
俺に何も言わずに、奈央香としやがって……。
「はあ、はあ、んあ、はあ、はあ、ひゃっ、はあ、はあ」
夜の店の明かりを頼りに走る。
振動で震える体が徐々に心地よさすら覚えてきた。気持ちいい感覚に身を委ねてしまいそうになる。
何も言わずに……、いや、俺が修也への好意を否定した時点で、俺に断りを入れる理由はないか。
遠くまできた。
王都の外れの方だ。
俺は、走るのをやめて、一息ついた。
体が震える。
心のどこかで、修也が追いかけて来てくれることを期待したんだけどな。奈央香に夢中か……。
20の男が、17の男に惚れて、17の美少女と恋敵になる。勝ち目なんて最初からなかったことだろう。
膝に手をついた状態で、体が跳ね、背筋が伸びる。
「はあ……、はあ……、あっ、イキそ……、……? 足音?」
聞き覚えのある足音がして、快楽が子宮に帰っていった。
「ムツメちゃん?」
「空河……」
「どうしたの!? こんな場所で!?」
城外に出たのに、空河に出くわした……。こいつ、獣人バーにでも行ってやがったな……。
肩を掴まれ、顔をまじまじと見られる。
オスが目の前にっ————。
「あ、ああ、あああああぁっ!?」
空河と目を合わせた状態で、達してしまった。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
「……どうだった?」
「良かった……」
「本当に?」
「……」
「修也は嘘がつけないね、ムツメちゃんそっくり」
「……」
「ごめんね、こんなことさせちゃって」
「……いや、俺の落ち度だから」
「落ち度って、そんな同情的なこと言われたら傷つくんだけど? 今更か。ムツメちゃんの時は2分もしないうちに出してたのに」
「あのときは淫毒にやられていたから」
「だからって、20分はないでしょ。太もも痛いんだけど」
「すまない……」
奈央香の部屋で、淫らな行為をし終わったところだ。
奈央香にムツメと同様の淫行を行って欲しいと頼まれた。断ろうとしたところ、恋人と決めていない間にしたことで差別するのはおかしいと言われた。
本番はしていないが、出し終えた俺は酷く心が荒んでいる。
ムツメになんて言い訳をすればいいのだろうか。
「あーあ、やっぱりダメか……」
「奈央香?」
「あのね、私、初めてなんだよ?」
「初めてって、していないけど?」
「本番はしてないけどね。でもさ、初めてエッチなことしたわけじゃん」
「……そうだな」
「それでした相手が、終わった後に落ち込むのを見せられるってどう思う?」
奈央香の強烈な一言が俺を現実に引き戻した。
「……」
「そこで謝らないってのも修也らしいなあ……」
「……」
「したくなかったんだよね? 私とは」
「……ああ」
「だろうね。私が無理やり誘っただけだし」
「……」
今更だ。
ようやくわかったんだ。
ムツメが俺を好きじゃないと言おうが、俺はムツメが好きだ。
それを俺自身がきちんと理解していなかった。
「私、醜いよね」
「醜い?」
「わかっているでしょ? ムツメちゃんが塞ぎ込んでいる今、私が修也を縛り付けていることを」
奈央香から色々と頼まれることは増えた。
俺もムツメにどう声をかけていいかわからず、手を拱いている状況でよく相談に乗ってもらっていた。相談と称して、俺がムツメと仲直りする機会を減らしていたのか。
「醜い、……か」
奈央香が自分で蔑むくらいに自分を責めているのがわかる。なら、俺が追い打ちをかけるように責めることはしたくはない。奈央香の行動も一理あるし、理解もできる。
それに、俺も責めれる立場にはない。俺も心に決めていたことを放棄して、奈央香と行為に至ってしまった。断ろうとすらせずに……。
俺は後悔している。
「だからさ、私がもっと醜い女になりきる前に、ムツメちゃんと仲直りしなよ。じゃないと、既成事実で縛り上げるよ」
「それは、怖いな……」
奈央香が布団を被る。
「1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「ムツメちゃんのどこに惚れたの? ムツメちゃん男だよ」
「それはムツメに直接言うまでは言わない」
「……そっか」
静寂の間に、2つ、水滴が落ちた。
「お前はいい女だ」
「……」
「……これ以上は褒めることはできない。俺はもう行くよ」
「……うん」
ドアを閉める瞬間、奈央香が外を見て、何かを呟いたようだったけど、その声を拾うことはできなかった。
……。
……………。
順序はかなり狂っているが、奈央香の告白に対する返事をすることはできた。
ムツメはどうしているだろう。
ムツメは俺を好きじゃなかったと言った。
それがなんだ。
確かに俺がムツメを好きになるより先に、ムツメは俺に惚れた。順番なんてどうでもいい。今、この瞬間、俺はムツメが好きなんだ。たとえ今更、ムツメが俺を好いていないと言っても、俺はムツメを好きになったんだ。惚れた相手に、もう一度振り向いてもらえるように頑張るだけだ。心を開いてくれないなら。開いてくれるように、いくらでも手を伸ばそう。
ムツメの部屋の前で足が止まる。
この2週間は重たい扉だった。
開けることすらできなかった扉だ。
今の俺なら簡単に開けられるだろう。
取手に手を伸ばしたところで、俺の中で電流が走った。
「なんだ?」
胸騒ぎがする。
1ヶ月くらい前だろうか。貴族の男にムツメが襲われているのを感知して以来だ。
この胸騒ぎは一体なんだ?
「ムツメ!」
ドアを開けるともぬけの殻だった。
「まだ暖かい。……湿っている」
ムツメの淫靡な匂いがする。
まさか、発情期か?
「……っ!」
俺の中で嫌な光景が思い浮かび、俺は五感強化の魔法を一気に展開して、ムツメの居場所を探る。
無事でいてくれ。
これくらいのエロスは標準装備になってしまいました。新鮮味がない。
当然、本番はしてません。奈央香はムツメが先にしたことをなぞらえただけですね。実際に目撃していましたし。
寝取られかって聞かれたら、違うかな。寝取られっぽさは出したけど。
なのでタグにはありません。
寝取られ風のオナをさせたかっただけです。
次回は3日後、3/4。