改行は多いです。
目の前に修也がいる。
嬉しい。
好き。
天国だ。
近くにいるだけで満たされる。修也の匂いに包まれていると、すべてを投げ出して、修也と一緒になりたくなる。
彼の腕を抱きしめ、胸元の匂いを息いっぱいに吸い込む。
あー、幸せだなあ。
目をゆっくり開ける。
慈しむように、愛するように、目を細め、修也に体を投げ出していた。
でも。
あいつは嫌い。
嫌い。
嫌い。
嫌い。
大嫌い。
俺と対等と考えて、ずっとライバルでいてくれたのに。
おれが女としてダメなところをキチンと直してくれたのに。
オレの恋路を可笑しいと嗤うこともなかったのに。
ワタシと彼の仲が深まったら嫉妬しても、まだライバルでいてくれたのに。
わたしと喧嘩してもわたしにできなかった仲直りをしてくれたのに。
私が落ち込んで、何もできなくなったところで声をかけてはくれなかった。
結局、おいしいところは自分のもの。
いい味出してた?
最後に美味しくいただいた、その甘美な味はどれほど至福の味だったのかな?
「しね」
あ、思わず声に出しちゃった。
嫌い。
嫌い。
嫌い。
大嫌い。
どこにいるかわからないから、あの部屋を爆発させようとした。
私は嬉しかった。
これで嫌いがなくなる。
すっごく疲れたけど、嫌いは消えた。
嬉しくて、彼により強く抱きついてしまう。
至福の時はすぐに終わった。
悲しい。
なんで嫌いの名を呼ぶの?
誰かが嫌いを読んでいる。
うるさい。
彼と私の間に入ってくるな。
彼は呆然と嫌いの最期を眺めている。
うん。いいよ。少しだけ、少しだけだよ。
少しだけ嫌いのこと、考えてもいいからね。
そしたら、一緒にいよう。
一緒に生きよう。
彼と一緒に過ごせる。
どんなときも守ってくれる彼が、私のもの。
好き。
嬉しい。
幸せ。
彼との時間は大切なもの。
でも、私は優しいから、分かち合うこともできるんだよ?
私は彼を独占したりはしない。彼にばかりついていたら嫌われちゃうかもしれない。私はずっと一緒にいたいけど、嫌われるなんてもっと嫌。
だからね。家族で分かち合おうね。
私と彼の子なら、時間は使ってもいいよ。
彼を独占できなくなるけど、子沢山に恵まれて、彼の命を紡ぐことができるなら、私はそれでいいかな。ずっとは一緒にいられないのはわかっているなら、彼の命を紡いであげたい。彼の命に私が絡み合うことができるなら、私はそれで本望なんだよ?
だから幸せ。
でも、幸せは訪れなかった。
嫌いが目の前に現れた。
「しね」
嫌い。
嫌い。
嫌い。
大嫌い。
なんで?
なんでなんでなんで?
なんで嫌いを守るの?
押し倒された。
嬉しい。
抱きしめるように私を抑え込む。
何か言っているけど、言葉がよくわからない。
頭がずっとぼーっとしているから、口がパクパク動いているのはわかる。
両腕を押さえつけられて、目と鼻の先で、何か叫んでいる。
訴えかけてる。
なんだろう?
私を好きって言ってくれているのかな?
それとも、嫌いを擁護しているのかな?
どっちかわからないや。
でも嫌いは消す。
私は好きと言われたい。
両方でよくない?
だから私は叫ぶ。
「し——」
今度は言葉を発する前に彼の左手が口を押さえた。
これじゃ、何も言えないよ。
……。
口を塞ぐなら、キスがよかったなあ。
あれ?
そういえば、私、彼とキスしていない。
好きなのに、あれだけ肌を重ねているのに。
口付けみたいなことはしても決定的な口付けはしていない。
また何か叫んでいる。
何を言っているんだろう?
一生懸命訴えかけている。
彼が普段見せない表情だ。
口下手な彼が、必死に何かを訴えかけてくる。
こんなに表情筋が動いている彼を見るのは初めてだった。
何を言っているんだろう?
すごく気になる。
でも、聞こえない。
なんで?
なんで聞こえないんだろう。
「……?」
誰かが嫌いと戦っている。
嬉しい。
そのまま嫌いを倒しちゃえ。
彼の拘束が弱まった。
「しね」
言葉を発せられた。
爆発した。
終わった終わった。
違う違う。
これで始まるんだよ。
始まり始まり。
彼と私の物語が1つ終わって、次が始まる。
……。
…………。
あれ?
まだ死んでない。
地面に土まみれになっていても、嫌いは生きている。
誰かが、間に入っていた。
誰かはピンピンしている。
服が弾けて、真っ裸になっている。
さすがに私も目が点になった。
嫌いを倒すために、私と応援してくれる人の2人がかり攻撃を耐えているんだ。
びっくりした。
しかも、服が弾け飛んだのに仁王立ちしている。
「なにしてんねん」
口から変な言葉が出た。
びっくりした彼が振り返る。
振り返って驚いた顔もかっこいい。
見とれてしまった。
幸せ。
彼がまた何かを訴えかけてきている。
口パクだからわからない。
頭はまだぼーっとする。
裸の人かと応援してくれる人が戦っている。
裸の人は攻撃がほとんど当たらない。応戦してくる人は裸の人に攻撃を当てているけど、全然効果がない。
何の見世物だろうか?
「モザイク入れろや」
また口から変な言葉を発してしまった。
修也がなぜか微妙な顔をしながら俺を眺めている。
なんで?
変な言葉を使う女だから?
もっと淑女たる言動をした方がいいのかな?
……した方がいいのかしら?
うーん、俺っぽくないな。わざとらしい。
あれ?
俺?
いやいや、私だろ。
だろ?
うん?
なんか言動が変だ。
俺は自分の喉元をぐにぐにと揉んで、発する言葉を変えようとするが効果がない。
「はあああああぁぁぁぁぁ!!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「俺に一切の攻撃は通らん!」
「黙れこの痴れ者がっ!!」
なんだこれ?
「いい加減に起きろ! 須木根睦!」
「……? 何を言って……」
ああ、現実(ここ)は地獄か?
目の前で裸の知り合い……、裸の不審人物と魔王が交戦している。
正気に戻ったら、とんでもない世界線に到着していたんだが?
どくんっっ。
「あぁんんっっ——————!?!?」
な、なん、だ??
体っ、体がっ!
びくんびくんと震える体を制御できない。
「ムツメ頼むっ!」
「このっっ、状況でぇっっ、戦えって————ひやあぁあぁ!! ————んあっっ、い、言うのかよぉぉ」
「ムツメ、早く援護を」
いや、ツッコミどころだらけだろ! 俺、あられもない姿なんですけど!? 快楽に悶え苦しんでいるんですけど!? それ一切無視か!?
下腹部の紋様が原因で体に熱を送り続けている。体がビクビクと震える。
「んあぁっっ、この!」
簡単な魔法のライトブレッドをいくつか放つが、バカと魔王の戦いの妨害にすらならない。
「ムツメちゃん!! 俺なら大丈夫さ!!」
こっち向いてサムズアップを決めやがった。
こっち見んな。
もういい、あいつごとやろう。
視界から排除したい。
「んんぅぅっっ」
目が霞む。
息を吸うたびに、修也の匂いが鼻腔をくすぐって、戦うどころの話じゃない。戻った正気を保つのがやっとだ。
奥歯を噛み締めて、目を瞑る。
空河? 知らないなそんなやつ。
目を開いて、敵を視界の中心に捉える。
「ザ・メイガス・アブソリュート・ゼロ!」
時間すら氷づける一撃に、世界が静止した。
一瞬には長すぎる静寂が訪れ、冷気が火照る肌を沈めてくれる。
ちょうどいい。
意識をしっかり保つことができるようになった。まだ体の芯は熱いけど。
「空河、凍ってるぞ?」
「めでたしめでたし」
もうちょっとだけ続くんじゃー。
次回は3日後、守れてらいいなー。
3/11追記:また守れませんでした。すみません。明日には投稿します。