裸の男の氷の彫刻と、かっこいい悪魔像みたいな彫刻ができあがった。
「空河、生きてるよね?」
「解凍すりゃ生き返るだろ」
俺たちの物語の終わりがこれかよ。俺が正気に戻った要因とか考えたくもないんだけど。
頭を抱えてしまう。
「んっ……」
「ム、ムツメ様、サキュバス化していませんか?」
「して、るね」
サキュバス化って言っても羽が生えたり、サキュバスっぽい尻尾が生えたりしているわけではない。とにかく体の芯から暑くなる衝動、渇きを感じている。男の精が欲しいと体が訴えかけている。
「サキュバス化しているのに、理性を保てるなんて……」
確かに。
獣人の書に抱えれていた文言では正気を失い、男をひたすらに求め、殺してしまう危険な存在と言われていたはずだ。俺は今、なんとか理性を保とうとしているから耐えられてはいるが、気を抜けば修也を押し倒してしまうだろう。
修也のこと、見れるかな?
もう一度修也の横顔を眺めると、衝動が大きくなった。
やばいな。
目が合えば、理性を手放すかもしれない。
心臓の鼓動が鳴り止まない。
……。
…………。
しばらくしたら、また……。
そしたら、俺は……。
「……」
「どうした?」
「ん、別になんでもない」
修也の声が耳に入るだけで震えてきた。
「空河、どうしよっか……」
「なんで後ろ向いたままなんだよ」
「逆になんで見れるの!?」
「いや、ミロのヴィーナス的な? 彫刻と思えば別に恥ずかしいとは思わないけど? 元男だし」
「それはムツメちゃんだからでしょ! 戦ってる時も本当に嫌だったんだから!」
奈央香ってすごい初心(うぶ)だよな。耳年増というか。そういう知識はあるし、実際に行ったりしているのに、恥ずかしがっているとか、天然男たらしだ。対する俺はTSあばずれビッチやぞ。
あーなんか、ムカついてきた。
「ムツメ、下がれ」
「え?」
魔王の氷の彫刻が割れ、中から魔王が飛び出してきた。
「くはぁ、はぁ、はぁ、ぐうおおおぉぉぉ」
空河が死なない程度の魔法だと厳しかったか。
「ムツメちゃん!! 俺凍ってんだけど!?」
なんであいつは氷の彫刻のまましゃべれんねん。生命力ゴキブリ超えてんだろ。
「なんで空河はしゃべれるの!?」
「俺に聞くな、本人に聞け」
「だって、ぶらぶらしてるじゃん」
大丈夫だ。今は静止画だ。動いていない。
「ムツメちゃーん!!」
「ほら、ファイア」
瞬間解凍なら体組織もそんなには傷つかんだろ。
「あったまるわー」
「燃やしてんだよ、気づけ」
空河はなんでもありだな。
「貴様ら、よくもコケにしおって!」
「いや、知らんがな」
魔王も大概な生命力だ。全身を絶対零度まで冷やされたにも関わらず、ピンピンしている。
「次は俺が相手をしよう」
修也、鬼畜か?
弱った相手をタコ殴りにするのか?
「以前の俺とは違うぞ。あの頃より3倍は強い」
おい、戦闘力インフレしてんぞ。なんでひと月で戦闘力が3倍になるねん。
「な、なんだと!?」
驚きすぎだろ。はったりかもしれんのに。
前言撤回。
なんとか拳とか使いそうな波動を発してるから3倍くらいにはなってそうだな。
「ならば、こちらも最終奥義!」
展開早っ!?
えぇ……。
もうちょっとほら、なんかさ、なんかあるじゃん。展開早すぎない? 復活してから一瞬で最終局面迎えているけど? 魔王と戦ってた時間って、ほぼ裸の変態じゃねえか。
というか、ここ、ただの街はずれだけど、魔王城とかで決戦じゃねえの? 再戦とかしないの?
「奥義だと? そんなもの、俺には通用しない」
まあ、あくびしてても修也なら勝てるだろ。俺は体の熱をどうにか逃していよう。
「勇者よ、そこの小娘を殺されたくはないだろう?」
……?
なんのことだ?
俺を指してる?
「ふん!」
「ひぅぅぅんっっっ!?」
なっ!?
下腹部に衝撃が走って、後ろにのけぞって倒れてしまった。
「ムツメ!?」
「ム、ムツメ様!?」
な、何が起きた!?
尻餅ついて倒れてしまったけど……。おい、これ……。
服をまくって、下腹部を確認すると、ピンク色のような紫色に紋様が輝いていた。
「れ、隷属魔法です! このままだとまたムツメ様がっ!」
まだ魔力のラインが残ってたのか!?
「魔王、貴様っ! ならばこうだ!」
「ひゃあああぁぁぁ!?」
下腹部に修也が手を当てて、俺に魔力を注入してきた。
視界が弾けるような感覚と、脳天を貫く衝撃が全身に走る。
「————はっ!? 待って!! 待て待て待て!!! お前何してんだ!?」
「ムツメ、耐えろ」
「やばいやばいやばい!! やばいの!! わかれよアホ!!」
「うおおおおお!! 魔王の渾身の魔力だ!!」
「ひぐぅぅぅ!?」
「俺の全魔力を注入する!!」
「いやあぁあぁあぁ!!!」
2人の魔力が下腹部の紋様に注入されて、俺は下腹部から伝わる快楽に脳が焼き切られる感覚になる。
「なにこれ……」
俺が言いてえわ!
なんで俺の隷属をかけた戦いになってんだよ!
「ムツメ様! お気を確かに!! 魔王に洗脳されてはいけません!!!」
「そうじゃないってばあああぁぁぁ!!」
やめろ、やめろやめろやめろ!!
今、ここに、全員いるんだぞ!?
これ以上はやばいって、もう耐えられ——————!?
「うおおおおお!!!」
「おおおおおおっ!!!」
——————!?
「————かはっ!? はあ、はあ、はあ」
体が跳ねる。
「はあ、はあ、はあ」
荒れる呼吸、冷たい空気が気管を冷やしてくれる。白い息を何度も吐いて、呼吸が徐々に整っていく。
「はあ、はあ、はあ、んく、……はあ、はあ、はあ」
喉が乾く。
すごい声を上げた気がする。
「はあ、はあ、はあ」
ビクビクとした震えが収まっていきながら、ショーツの中が大惨事になっていることを確認した。
「うぅっ、うううぅっ……」
しばらくすると、快楽の波は引いて、体は正常に戻った。
「勝ったぞ、ムツ—————痛い」
思いっきりビンタをしてやった。
魔力が枯れ、シワシワのミイラのようになっていた魔王にイオーネさんがとどめをさすと、辺りは青白い魂で満ち、地平線まで広がる魂たちが天界へと旅立っていった。
幻想的な光景だ。
「ムツメ、怒っているか?」
幻想的な光景だなあ。
「すまなかった」
魂と聞くと悲しくなってしまうが、幻想的なことに変わりはない。
「ムツメ、聞いてるか?」
「あ?」
「ごめんなさい」
「ふんっ」
魔王は倒した。
倒した。
うん、倒したんだな。俺たちがこの世界にきた役目は終わった。思ってたのと全然違うけど、いや、全く違うけど。
俺が修也を無視していたら、気まずそうに奈央香と空河が近づいてきた。
睨んでおいた。
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫に見えるか?」
「わ、私は何も見てないよ?」
「なんで疑問形なんだよ」
「み、見てないからね! ムツメちゃんが海老反りになっているところとか見てないから!!」
がっつり見てるじゃねえか。
「え、えろかった……、正直、今も俺、ガチぼっ————ぐほっ!?」
修也のすら、ガチった状態は触っただけで見たことないのに、お前のは視界には入れたりはしないからな。
お前は何も見ていないことにした。直近の記憶を吹き飛ばしてやる。後頭部を中心に杖で100回叩けば、元に戻るだろ。
「いくら叩いても空河の防御力は突破できないと思うぞ。たぶん俺でも無理だ」
なんで修也は修也で、冷静に解説してんだ。ぶっ飛ばすぞ?
「怖い……」
睨みつけたら素直な感想ですこと。修也も生意気小僧になったもんだ。
「ムツメ、本当にすまなかった」
「……ふんっ」
あーもう、嫌になるな。この世界、俺嫌いだ。碌な目にあってない。
「ムツメ様、大事な話があります。私の贖罪です」
「食材?」
「贖罪です」
「あー、謝るって方ね。別にイオーネさんは何もしていないだろ」
「いえ、とても……、とても礼節に欠いたことをしております」
「ふーん」
今更何言われても驚かないけど。
奈央香と空河も別に謝ることじゃなかったし、ふーんだ。
俺はただただ、いじけていたが、俺はイオーネさんの贖罪の意味を全く知らず、この地に呼ばれた本当の意味を知ることとなる。
ツンツンムツメ。
次回は4日後、3/16で
3日は無理ぽ。