イオーネさんから聞かされた真実。
俺たちが呼ばれたのは天界からの魂の放出。つまり、俺たちが子を成すことで天界の魂量を減らすことができ、この世界の魂の成長を阻害しなくて済むようになるとのことだった。
女神の狙いは、失われた神々の復活のためらしい。
「お二人の合間に割り込み、申し訳ありませんでした」
イオーネさんが頭を垂れる。イオーネさんにとって、俺たち4人の存在はあくまで自分が敬愛する神の復活のための活動だという。魔王討伐はおまけかよ。
俺は右から受ける視線に合わせた。
「なんだよ」
「また……、違うって」
「言わねえよ。俺は……、修也のこと……、す……」
「……」
「す……、……ふんっ」
「ムツメ……」
「うぅ……」
今更、この感情が嘘だと言うつもりはない。女神が仕向けた感情かどうかの確信はないが、俺は修也と共に生きる決意はしてある。そこに女神の介入があろうとなかろうと変わることはない。
ただし……。
奈央香とえっちなことをしたのは別だろ。
俺はそう簡単に許したりはしない。
「ムツメは俺が言ったこと覚えているか?」
……。
…………。
やばい……、全く覚えていない。俺が正気を失って奈央香を攻撃しようとしていた時のことか。修也が俺に何か叫んでいたのは覚えているけど、聴覚が機能していなかったのか、まったく聞こえなかった。
「……」
「……覚えていないのか?」
「か、関係ないだろ」
「関係ある。俺はムツメの……」
「俺の……?」
「……言わない」
「むっ」
「言わないことにした」
「はあ!? なんだそれ、俺はあの時、聞こえなかったんだぞ!?」
「やっぱり聞こえなかったのか、俺は何度も叫んだのに」
「叫んだって、……聞こえないんだから仕方ないじゃん……」
隷属魔法で意識を強制的に操作されて、聴覚を遮断されていた状態だった。口を動かし、喉が震えていたのは覚えているけど、修也が何を言ったのかは覚えていない。
「あと、空河の裸で正気を取り戻すとか、酷い話だ」
「む、それは修也が本気で俺の心に響くようなこと叫べばよかっただけだろ。イオーネさんもそう思うよな……、イオーネさん?」
顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。
「あ、あれは、わ、私は聞いていませんから、しょ、贖罪の代わりに修也様の言葉を再現しろなんて言わないでくださいね。自殺しますよ!?」
どんなセリフ吐いたんだこいつは!?
自殺選ぶほどの恥ずかしいこと言ったのか!?
俺は奈央香たちが先ほどまでいたところを振り返ると、そこに空河も奈央香もいなかった。
「あいつら、どこに……」
「ムツメが聞こえなかっただけで、空河と奈央香から聞き出すのか?」
「……いいだろう。お前からもう一度聞き出してやる」
「絶対に言わない」
その言葉を最後に俺と修也は両方顔を逸らした。
顔はそっぽを向いても、指先だけを絡めて、どこか行かないように、離れないように、でも許せなくて、でも甘えたくて、甘えて欲しくて、また指を絡める。
「甘酸っぱ過ぎますよ」
「ん?」
「なんでもないです」
イオーネさんも反省だからな。
まあ、結果として俺と修也の仲の発展には寄与しているわけで、強くは叱れない。
それにしても、女神は何を考えているのだろうか。
すべてバレた今、俺たちの仲が再び破綻したら、女神の理想の世界にはならない。もしかしたら、修也と奈央香、俺と空河を引き合わせるつもりだったのだろうか。
俺たちの子か……。
魂を放出するため、という理由で生まれてきて欲しくはないよな。
いやいやいや、俺は何を想像してんだ!?
女として生きていく決心もあるし、修也の女になる心構えもしてあるけど、まだ出産の覚悟はないぞ。
「大丈夫だ」
「え?」
「大丈夫だ。俺がなんとかする」
修也は俺が悩んでいることを見抜き、何の根拠もなく大丈夫という。
虚勢でも張っているのだろうか。修也はいい加減なことを言うタイプではないけど、何か策があるのだろうか。
「ん、期待しておいてやる」
「そうしてくれ、俺も女神に対しては思うところがある」
「そうか」
先ほどまでは指先しか絡んでいなかった手をぎゅっと握られる。安心させるように手を握りこまれる。抱擁されるような感覚を受け、好意を自発的に持ってしまい、許してしまいそうになるから話題をぶり返させる。
「……すけこまし」
「え? どうしてそうなる?」
「奈央香としてたくせに」
思い出すのは、泣きながら自分を慰めていたこと……。
嫌な記憶だ。
「それは悪かった」
「……ふん」
「だが、ムツメと同じことしただけだから許してほしい」
「……?」
俺と同じこと?
……。
…………。
入れるってそういう。
太ももの間に『入れる』かよ!?
「で、でも、俺って決めたんだろ?」
「ああ」
「……ふーん、それでもしたんだ」
「すまない」
「決めてたのに、したんだ」
「ムツメだって俺のこと拒否して」
「言い訳するんだ」
「……ずっと対話しなかったのはムツメだろ?」
「はあ?」
「俺だって奈央香の気持ちは無視できない」
「そういうこと言うんだ」
「……」
あ、ちょっと言い過ぎたかも。しつこくねちっこく修也を責め続けたら、嫌われるかもしれない。たとえ相手に非があっても許せる心の広さは見せておかないと、わがまま言い過ぎて嫌われたくはない。
「ぁ、うぅ……」
何か口に出して許せばいいだけなのに、言葉を紡ぐのが難しい。責めるような言葉しか見つからない。
「……」
「……」
……え? このまま引き下がれないような状態が続かないよね? どうしよう……。修也が悪いのに、悪いけど、悪いけど……。そうだ。
「お、俺にも、一応、少し、ほんの少しだけ非はあるから、ま、まあ許してやらなくも……」
「……」
「……な、なんか言えよ」
「別に」
「はあぁ!? あーもう頭きた。お前が悪いだからな」
「ムツメが取り合わなかったのが悪い」
また喧嘩が始まったけど、手は握ったままだった。
「喧嘩、ですかね?」
「イチャついてるだけじゃん、言い合ってるのに手は握ってるし、……はあ」
「……奈央香様、隠れていなくていいのですか? あの2人の痴話喧嘩に巻き込まれますよ」
「別にいいよ。もう2人きりの世界に入ってるみたいだし、……まさか、ムツメちゃんに負けちゃうなんてねー、負けるつもりなかったのに」
「……ムツメ様が元男性だからですか?」
「うん」
「そうですか」
「……なんでかなー?」
「……料理の腕の差では?」
「ぐっは!?」
私もまだ知り合って2ヶ月が経った程度ですが、ムツメ様が男性だと思えたのは口調と、初めてあった時の立ち振る舞いくらいで、1週間もすれば立派な淑女……、口調は荒れてはいますが、小柄な体格もあって、普通に女性としか見ていませんでしたね。
修也様が叫んだ言葉でわかった。
元男性……。
いまだに信じられません。
湯浴みも共にした仲ですし、体も洗いあったこともありましたし、
異性っぽさを感じていたのでしょうか? わがままで、世話焼きで、1歩引いたところから修也様を見守っている感じが、とても女性的で母性的でした。
元男性ですか……。
やはり信じられません。
「だから、あの方は私にあのようなことを……」
ムツメ様のことを諦めるというより、ただ、修也様と共に生きていくムツメ様を見てみたいと思ったから、私は彼らを応援した次第です。リシア様、あなたの意向で世界は進んでいくでしょうか。私にはそうは見えません。
特に、修也様を侮ってはいませんか?
彼は本気ですよ。
イオーネさんを許して、俺と修也は2人で王宮に帰ってきた。他のメンバーは先に帰っている。
とりあえず喧嘩は互いに謝って落ち着いた。俺も修也に嫌味言い過ぎてたしな。
王城では明日魔王を討伐した報告を世界に伝達し、盛大に祝福する準備で忙しくなるらしい。王様が現場に居合わせているから、事実確認の手間が省ける分早く話が進みそうだ。明後日には祝勝会を開くんじゃないかな。
そして、俺たちは忙しそうな王城とは別に、王宮の屋上に来ていた。先ほど、爆発させたけど、奈央香の部屋が吹き飛んでいるだけで、他はほとんど無傷と言っていい。奈央香ごめんな。
屋上に着いて、修也は宙を見上げた。
「ここが、ムツメが女神リシアと交信した場所か」
「ああ」
修也は女神と何か話したいらしい。
「あの女神と対話が成立するとは思えないのだけれど」
「とりあえず聞いてみるだけだ」
『お久しぶりですねー、修也さん。ムツメさんは最近お会いしましたねー』
間延びする音声が頭の中に響く。案外すぐに現れたな。
『お疲れ様でしたー。魔王討伐ありがとうございますー』
「そのことについてなんだが」
『なんでしょー?』
「俺たちは命を救われこの地で魔族と戦うことになった」
『……そうですねー』
「魔王討伐の褒賞は出ないのか?」
『……なるほどー。そう来ましたかー』
命を救われた代わりに、この世界で魔族と戦うことを認めた。だが、それは魔王も含まれる内容だ。
『褒賞というのはー?』
「安心してくれ、地球に返せなんて言わないし、地球に帰れる転移魔法を寄越せとも言わない」
『そうですかー』
「……」
『……』
なんか2人とも黙ったけど。
「無理なら無理でいい」
『……まあ、いいでしょう。褒賞は何を希望しますかー?』
「叶えてくれるという約束があれば言おう」
『それでは呑めませんねー、叶えられるものと叶えられないものがありますのでー』
「ああ、ならそれでいい」
『んー? どういうことでっ—————そういうことですかー。厄介なことを考えますねー』
どういうこと?
「今ここで女神は魔王討伐の褒賞を勇者に与えないことを宣言した」
『いいえー、まだ宣言は致していませんよー。保留中ですー』
「教会の力は相当弱まっているとは聞いた」
なんだなんだ?
俺にもわかるように説明してくれってばよ。
「どうする?」
ニヤリと修也が笑う。
教会……。
教会の力が弱まっている……。
確か、人類が魔族に喰われ、天界の圧縮が起きたことで、女神リシアは唯一神で絶対神になった。前任の絶対神を崇める教会は今の女神リシアとは相性が悪い。人類という種が、根絶しかけているような状況で踏みとどまったのは、女神リシアのおかげと言われ、というのも主に俺たちの貢献だが、旧絶対神の信仰は薄れていった。そんな絶対神の街道をまっすぐ歩いて、人々に認められている女神リシアが、勇者たちに魔王討伐の褒賞を与えないとしたら?
なるほどな。
教会の力が息を吹き返し、かつての絶対神への信仰が蘇る可能性も出てくる。俺たち勇者4人は自覚はないが、人類にとっては英雄も英雄、後世に語り継がれる存在になっている。自覚はないけどな。
つまり、魔王討伐の褒賞を与えないと女神リシアのメンツが立たないということか。修也も結構ずるいこと考えるんだな。
『いいでしょー。この地を、この世界を抜け出るような褒賞でなければ、叶えてあげましょー』
「その言葉に偽りはないな」
『はいー。それにもとより、修也さんもこの世界から出る褒賞以外を望んでおられる気配がありましてー』
「そうだな、合っている」
ふーん。
俺は地球に帰れるなら帰りたいけどな。女神にいいように使われるのはもうごめんだ。特に恋愛感情という疎い分野じゃ、騙されているかもわからないし。
だが、女神は俺たちをこの世界に束縛する必要がある。いつまでも唯一神のままだと、何か問題があるのかもしれない。
それにしてもうまいな。女神の弱点をよく知っている。修也は勤勉だから、この世界の事情についても、もう詳しいのか。俺は走りくらいしか知らないのに。
ところで、修也は何を望むんだろう。俺に関することっぽいけど。
『それでは、願いを言えー、どんな願いも1つだけ叶えてやろー』
どこの龍のパクリだ。それに、叶えられないものがあるところまでパクらなくていいだろうに。
「俺が望むのは、須木根睦の性別の決定権だ」
「は?」
『は?』
……は? なんだって?
唐突な肉体的BL。
次回は4日後。3/20。