TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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修也

「はあ……」

「どうしたため息ついて」

 

 奈央香の元気がない。

 2人の世界に入ったムツメちゃんと修也を遠巻きにイオーネさんと奈央香と並んで見ていた。

 

「あの2人イチャイチャしてんな」

「もう色々とため息しか出ないわ。私はなんでこの世界に来たのかしら?」

「死にかけたからじゃね?」

「そうだけど……。厄星ね、ここは」

「それは言い過ぎだろ」

「……空河だって、ここに来なければ普通の男子だったじゃない」

「おう、何も言い返せない」

 

 ケモナーの俺にとって地球はあまりに退屈な世界だったからな。こっちに来て良かったとさえ思っている。ただ、奈央香は全く別だな。こっちに来なければ修也を取られるようなこともなかっただろうし。

 修也がムツメちゃんをあそこまで好いているとはなあ。

 俺はムツメちゃんが元男とわかっていたから完全に惚れることはなかったが、身近に触れられるケモノ娘みたいな感じで、揶揄い気味な接し方をしていた。本当に惚れそうになる1歩手前まで来ていたのだけど。修也ほどではなかった。

 あいつはマジだった。

 

「さすがにあのレベルまでは惚れこめないわ」

「なんのこと?」

「修也のことだよ」

「ああ、さすがに私もどうかと思うけど、それが修也のいいところでもあるんだよね」

「珍しく優柔不断かと思ったら、あんな理由があったなんてな」

 

 修也は真面目なやつだ。俺がムツメちゃんに懸想することがあったとしても、ムツメちゃんのすべてを受け入れるという意味を理解できなかっただろう。

 

「あの修也が、あそこまでになるとはな」

「あんたもあんたよ。こっちに来て変わりすぎ、真面目だったのに」

「ただ、性に従順になっただけだ」

「これだから男は……」

 

 しばらくこじらせそうだ。奈央香は酷い失恋の仕方をしたわけだし、愚痴を言われるのに慣れておこう。

 

「こっちに来てから酷い目にしか会ってないわ。幼馴染も露出狂になるし……、魔王との決戦、何よあれ!」

「奈央香を文字どおり、盾になって守ったんだけど?」

「ケモナーは100歩譲って許容できても、素っ裸で戦う変態にジョブチェンジするとは思わなかったわよ!」

「守ってやったのになんて言われよう。小さい頃から互いの裸なんて見てるだろ」

「全員の前で全裸で戦う幼馴染なんて記憶の底から抹消したいわ」

「それ言うなら、ムツメちゃんの方がかわいそうだけどな」

「あ、うん。それ言っちゃダメなやつね。あれは忘れましょう」

「忘れられん」

「修也に殺されるわよ?」

「……頑張って忘れるか、殺されたくないし」

 

 あれはマジでエロかった。思わず脳内保存してしまった。痙攣する体が……、ごほんごほん、元気なっても仕方ないからな。思い出すのはやめよう。

 

「ところで、イオーネは何しているのかしら?」

「スタンバイオーケー」

「またムツメちゃんが変な言葉を教え……、あんたもしかして、2人を覗こうとしている?」

「……ナンノコトデショー」

「はあ、腐属性があったとは……」

 

 あれ、マジでやるのか?

 修也ならやってもおかしくはないけど。

 

 

 

「性別の決定権?」

「ああ」

「ど、どういう……。あ、もしかして、女神が勝手に俺を男に戻すことを避けるためか? なるほどな。それなら納得だ」

「違うけど?」

「……え?」

「違うけど?」

 

 なんで修也は無表情で俺の言葉を否定するんだ?

 

『わ、わかりました。須木根睦さんの性別の決定権を、天野修也さんに祝福を与える形で付与いたしましょう』

 

 なんかトントン拍子に話が進んでいく。

 俺の性別を女に固定するため、不確定要素である女神から性別の決定権を取り上げるって話じゃないのか?

 修也の周りに光が集まり、弾けた。

 

「……これで手に入ったな」

 

 俺の下腹部に刻まれた紋様で、隷属権を持って、さらには俺の性別の決定権まで持っている。修也は俺に何がしたいのか?

 前者は俺を助けるためだから仕方ないけどな。

 隷属権って、今はただの性欲のコントロールにすぎないんだけど、修也がコントロールしてくれているから、冷静さを保てているわけで、修也に見限られたら、俺は一瞬でサキュバスとなって、男を見れば襲いかねない体質へと早変わりだ。俺を魔力で隷属させて、奴隷のように行使もできる。

 それだけでなく、性別の決定権を欲した。つまりは俺を男に戻されることを危惧して、女神から譲り受けたと思うんだけど。つまり、修也が独占欲を働かせて、俺を女として縛り上げるかのような要素を得ているのだけど、本人曰く違うらしい。

 どういうことだし。

 

『それでは、失礼しますねー。はあ……、どうにでもなーれ……』

 

 なんか不穏な言葉残して、女神の通信が消えていったんだけど。

 

「しゅ、修也? そ、その……、その性別の決定権で具体的に何をするんだ?」

「ん? 今からムツメを男に戻すけど?」

「は?」

 

 はい?

 

「いや、なんで?」

「なんでって、逆に聞くけどなんでそんなことを聞く」

「いや、聞くだろ。もう俺は女として生きる決意はしてあったんだけど、お前に告白した段階で!」

「……なるほど、なるほどそういうことか」

「……」

「俺はな」

「……」

「俺はムツメが好きだ」

「お、おう……」

 

 わけわからんけど、好きと言葉で聞けたのは嬉しい。

 だが、すぐに俺は寒気を感じ取った。

 

「俺はムツメの全てを受け入れられる」

 

 冷や汗がダラダラと垂れてきた。

 

「男の姿は過去のムツメの姿というわけだ」

 

 こいつが何をしようとしているのかがわかった。だが、理解はしたくはない。

 

「つまり、過去のムツメ、男の頃のムツメも当然受け入れるべきだと思う」

 

 修也は本当に、本当に『誠実』である。つまり、過去の俺、男の頃の俺も含めて好きになったということだ。

 

「時間はかかってしまったが、最近、男のお前も抱ける気がしてきたんだ」

「俺にそっちの趣味はねえよ!?!?」

「そっちの趣味って、そもそも俺に告白している時点でそっちの趣味では?」

「そういう意味じゃねえから!! 違うから! 全然違うから! 俺は女の姿なら抱かれてもいいけど、男では嫌だぞ! 好いてくれるのは嬉しいけど、男の姿で抱かれたくはないからな!! 絶対に!! 絶対にだから!!」

「声でかいぞ」

「でかくもなるわ!! お前、えぇ……、え……、えぇ……」

「どうした?」

「混乱しているんだよ! 修也のせいで!」

「とりあえず男に戻すぞ」

「戻すなボケ!!」

 

 頭痛くなってきた。修也が俺の告白をすぐに受け入れず、でも俺と決めていたのは、男の頃の俺も含めて好きになれるかどうか考えていたってことか。そんなの俺は度外視してたぞ。

 

「俺はムツメが好きなんだ」

「わかった。気持ちは全部わかった。ありがとう。でも男に戻すなよ。俺は抱かれる気は一切ないからな」

「そうか……」

「なんで、しょげてるんだよ!?」

 

 念押ししているのに、全然諦めてくれない。マジでこれは注意しておかないと、いつの間にか後ろを貫かれる心配が出てきた。

 

「俺は性別関係なく、ムツメを愛したいんだ」

「うん……」

 

 こいつ全然諦めてねえぞ。

 

「だから、男に————」

「よしわかった! どっちも好きなら女のままでもいいよな! な! どっちでもいいなら、今の女のままでいいんよな!! な!!」

「……わかったよ」

 

 ふぅ。なんでこんなに説得し続けなくちゃならないんだ。俺に芽生えたばかりの乙女心が、とんでもないほどの拒絶反応を見せたぞ。

 女としての裸なら見せられるけど……。

 男の俺と、修也が……。

 

「おええぇぇぇぇ……」

「おい、ムツメ! 大丈夫か!?」

 

 なんでこいつ平気なんだよ。

 あーもう、背中びっしょり汗かいたよ。

 でも、俺と修也は最終的に結ばれた。なんで好きになったのか聞きそびれている気がするけど。

 

 

 

 ん……。

 んぅ、眠いな。揺れている。

 普段寝ているベッドの中じゃない。そもそも重力の感じ方からして違う。誰かにおぶさるように体を預けて、ゆさゆさと揺れている。

 

「……ん?」

「起きたか?」

「修也……、どうしたの?」

「もうちょっと寝ててもいいぞ」

 

 なんか久しぶりに修也におぶさっている。今回は走っていない。

 昨日は、祝勝会を開いてそのまま寝ちゃったんだっけ?

 残り1体の四大魔将を倒すだけとなって、気が抜けてて、お酒飲める年齢だから、酔いつぶれて……。修也に介抱されて……。

 そして、どうしたんだっけ?

 ゴォォォという聞き慣れているのに、聞き慣れない音が、後ろから迫り、追い抜いていった。

 ……。

 …………。

 なんだ今の音……。あれだけの轟音が猛スピードで背後から迫って来たら命の危険を感じてもいいのに、まったく感じなかった。

 命の危機を感じなかったのは聞き慣れていたから、でも、この体では聞き慣れていない音。

 で、思考を戻して、なんで俺は修也におぶられてんだ?

 

「修也、今の……、何?」

「今のってなんだ?」

「今、ごぉぉって……」

「ごぉぉ?」

 

 顔を上げて、修也の横顔を見たら、視界の奥にとんでもないものが見えた。修也にとっても聞き慣れて、気にする必要のないものだった。

 

「……おい」

「どうした?」

「俺は、夢を見ているのか?」

「安心しろ、起きている」

「……」

「……」

「なんで……、なんで、車走ってんの?」

 

 車が前方から横を通り過ぎていった。

 

「ここが日本だからだけど?」

「……はい?」

 

 俺は修也から降り、自分の体をペタペタと触る。頰を引っ張り痛みを感じ、耳を覆う毛を撫で、スカートの中で動かす尻尾の感触を確かめる。

 そして、1つ深呼吸をする。

 排気ガスの匂いだ。

 

「なんで地球にいんの!?!?」

「声がでかい、まだ夜の3時だ」

 

 口を手で塞いだ。確かに暗いのに大声はまずいな。

 いやいやいやいや、そうじゃなくて。

 

「お前最近、やることなすこと説明足りてないからな。寝て起きたら地球って、地球ってどういうこと!?」

「とりあえず、祖父母に会いに行きたいんだ。ついてきてくれ」

「説明足りてないって言ってるだろうが!」

 

 俺たちはふるさとの星に帰ってきていた。




 ようやく地球に帰ってこれたぞ。

 次回はたぶん4日後。
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