TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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相性最悪

 異世界初日、夕刻。

 俺たち4人の転移組に案内してくれるシスターさんを加えて、5人で初の任務、王都結界制御装置奪還作戦が開始された。

 

「あれか」

 

 制圧されている地下にいる魔族が地上に出てこないように見張りをしている王国兵と思しき一団が見えた。街中に駐屯している。近づけば2手に分かれて道が開いた。

 

「あれが勇者?」

「俺のガキと同じくらいの年齢じゃねえか」

「獣人?」

「獣人だ……」

 

 彼らのぼやきを優秀な聴覚が拾ってしまうが、気に留めても仕方ない。獣人に対する差別的な視線はないと、なんとなく理解できるが、獣人が勇者にいることがそんなに珍しいのだろうか。

 

「イオーネ様」

 

 兵士の1人がシスターさんと何か会話している。地下の状況を聞いているのだろう。側に修也もついている。なんだか絵になる2人だなあ。

 

「さっきはごめんね?」

「いやいいよ、あれは気にしないで、俺も反撃したし」

 

 奈央香が先ほどの件を謝ってきた。ちなみにたんこぶは治癒魔法で治したらしい。

 

「いや、あれは……、なかったなあって……」

「うーん……、俺もどうしてあんな風になったのかわからないし、ちょっとこの体、変かもしれない。獣人だから人間とは違うのかもな」

「本当にごめんね……、無遠慮だったし……」

「いいって、奈央香に悪気はあったにしても想定外だっただけだから」

「悪気はなかったって言わないんだね?」

「あっただろ」

「……あったけど」

「奈央香が反省しているならそれでいい。あと、俺も殴って悪かった」

「いや、それはむしろ殴ってくれなかった方が困るというか」

「……マゾ?」

「いや、マゾじゃないからね!? 何も仕返しとかされないで避けられる方が辛いし」

「なら、この話は終わりでいいな」

「うん」

 

 まだ少しぎこちないけど、一応の仲直りはできた。

 

「何の話?」

「死にたいの?」

「奈央香の目がゴミを見る目に!? なんで!? 俺何もしてないよね!?」

 

 首突っ込もうとしたからだよ。触れられたくない話題だってあるんだ。空気読め空河。名前の字が泣いているぞ。

 兵士からの連絡を聞き終えた2人が手招きしてさっそく地下に入り込んでいく。

 公的な建物っぽい外観から整備された道を降りていけば立派な通路が見える。地下の壁がレンガってそんな造りにできるのか?

 

「ここから先は魔族が出るらしい。空河を先頭に、俺とイオーネ、奈央香とムツネは並んで進む。奈央香とムツネが最後尾だが、後ろの守りをムツネに頼みたい」

「わかった」

 

 バランスを考えるとそうなるか。先頭に重きを置くから、後方の俺はかなり重要な役目になる。背後を突かれたら、適切に対処しないとな。

 シスターさんが兵士さんから聞いていただろう注意を促した。

 

「この先には国の防衛トラップがあるのでお気をつけください」

 

 敵の仕掛けたトラップじゃなくて、国側の侵入者用のトラップか。そんな中を魔族のリーダーは進んでいったのか。まあ、それなら大丈夫だよな? ちょっと不安だけど。

 

 

 

 トラップ地帯を進んで10分。俺はキレていた。

 

「おい、空河、奈央香、今すぐ土に帰るか、俺の魔法で塵芥(ちりあくた)になるか選ばせてやる」

 

 俺のこめかみには青筋が立っていることだろう。

 

「それ一択だよ、わざとじゃないって!」

「ムツメちゃんごめん!」

 

 全身に水を被ってしまった。11月だよ、寒いよ。この地下で火起こしするぞ。酸素無くなっても知らんからな。

 トラップ矢、粘着糸、電気ショック、そして今度は大量の水。

 大量の水に押し流されないように杖を地面に引っ掛け必死に耐えた。なのに俺以外の4人は安全地帯に退避していた。4人用のな。俺は見事にあぶれたわけだ。しんがりを任されている都合上、一番安全地帯に遠かったからな。それは仕方ない、仕方ないが……。

 

「ムツメ」

「なに」

「あまり怒らないでほしい、2人ともわざとじゃないんだ」

「はあ……」

 

 流石に大人気ないか。いや、大人気ないって言われても堪忍袋の尾はブチギレてしまっている。もうすでに俺は4回目のトラップ被害だぞ。これが俺が作動させてしまったトラップならまだしも、空河と奈央香が作動させたそれぞれ2つずつのトラップの矛先が俺だ。俺のポジショニングがまずいのか? それ決めたの修也だからな。修也にもキレているからな。

 

「次はぶちぎれる自信しかないぞ」

「ムツメちゃんの寛大な心にありがとー!」

「はー、もう今すぐキレそう」

 

 許してやろうかと考えた直後に奈央香が調子よく抱きついてきた。

 俺が杖をくるくる回したら腰にしがみついてきた奈央香は空河の影に隠れる。生贄を差し出している。

 

「これは聖水ですね。魔族に効きます」

「別に聖水被ったからって、ありがたいとか思わないけど?」

「あ、ごめんなさい」

 

 自分でも結構キているのがわかるくらいには、怒りが充満している。そのせいでシスターさんにも八つ当たりしてしまう。

 

「激ツンモードだな」

 

 俺の耳は小声も捉えることを忘れているらしい。

 

「ああ!?」

「ひっ! けど可愛い!」

 

 戯言をほざく空河には俺と同じ目にあってもらう。

 アクアブレッド100発で許してやった。

 

「さむっ!? 寒いよ!? ダメージで痛いとかじゃなくて、純粋に寒い! 冷える!」

「自業自得じゃん」

「奈央香、何か温まる魔法ないのか?」

「ムツネに頼めば?」

「凍らされるわ」

「自業自得じゃん」

 

 11月に水浸しになる辛さを味わえ。

 

「何にせよ他に変なところ触れないで——」

 

 ガコンという音が聞こえたすぐ後に浮遊感を感じる。

 

「ひゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー、ぐへっ!?」

 

 いってー。衝撃が……。

 いや、かなり落ちていた感覚が続いた割には痛くない? 下がヌメッとした液体だったおかげだ。臭っ!? ヘドロかよ。

 ちくしょう、今度は何のトラップだよ。ヘドロまみれだ。

 もうキレた。マジキレた。ブチギレた。

 いや、待て、それよりも——。

 

「ふっ!? あ、セーフか。漏らしてない」

 

 ヘドロも侵入していない心地よい布地の感触がある。体が浮いて落下する感覚に恐怖を覚えていたが、どうにか大丈夫だったみたいだ。

「はあ……、よかったー、ってよくねえよ」

 

 周囲は真っ暗だ。落ちてきた場所さえ見えない。落ちる前は明かりがある通路だったから、ここに光が届いていてもおかしくないはずなのに。

 

「暗い……」

 

 一寸先すら見えない。こういうときは魔法だな。

 

「ライトブレッド!」

 

 光の弾を打ち出すが、壁にぶつかって弾ける。

 

「ひっ!?」

 

 一瞬だけライトブレッドの明かりで照らされた。今何か見えたような?

 

「このままじゃまずい! えっと、えっと」

 

 足音が近づいてくる。

 

「アクアガード!」

 

 ガンという音が聞こえ、水の壁に刃物がぶつかった音がする。

 そうだ。照明弾のように明るくするしか、火はダメだ。よし、できるかわからないけど、天井に向けて放つ。

 

「フレア!」

 

 魔法が天井に張り付き、周囲を照らす。眩しいくらいに視界が開けた。

 そして目と鼻の先に骸骨がどアップで映っていた。

 

「ひゃあああああ!?!? いや、大丈夫、水の壁、大丈夫……」

 

 骸骨は持っている剣を振り上げて斬りかかるが、再びガンという音が聞こえ、攻撃が水の壁に阻まれた。

 骸骨、スケルトンの魔族だろう。ゾンビの親戚みたいなやつだ。

 

「マジでもう少し尿意あったらまずかったぞ……、ビビらせやがって、ライトブレッド!」

 

 今度は視界良好だ。外すことはない。しかし、骸骨に当たる直前でライトブレッドが炸裂した。

 

「ぎゃん!?!?」

 

 なんだ!?

 何が起きた!?

 恐る恐る目を開けると目の前に骸骨がいた。

 

「や、やあ……、あ、それともハロー?」

 

 骸骨は剣を振りかぶる。とっさに横に飛んで攻撃を避ける。

 

「あぶっ!? こいつ魔法効かないのか? どう見てもアンデッドなんだから、聖属性の魔法なら、こうかはばつぐんってなるだろ。ってアクアガードどこいった……?」

 

 ……。

 …………。

 なるほど。

 俺はアホだったらしい。顔が熱くなってきた。誰もいなくてよかった。誰かいたら真っ赤な顔をからかわれる。

 

「自分で貼った魔法障壁なら自分の攻撃が貫通するとか、そういうゲーム理論は存在しないってことだな」

 

 フレンドリーファイアもきちんと存在するリアルの世界だ。忘れていた。

 

「ライトブレッド!」

 

 今度は遮るものはない、骸骨にライトブレッドが直撃した。骨は粉砕し、先に見たスライムやジャイアントバットの死後と同様に、空気に溶け込むように砕けた骨は消えていった。その中に青白い小さな光が放たれた。

 

「今のは……、ひょっとして魂か?」

 

 魂を喰らう。それが魔族の行動方針。だとすれば喰われた魂はどうなるのか、消化されるものとは思えない。存在の定義すらよくわからないものを魔族がどう扱って強くなる機構も聞いていない。もしかしたら喰われた魂は喰った魔族を倒せば解放されるのかもしれない。

 

「魂の考察はまた今度でいいか……、それにしてもここはどこだろう。修也たちにどうやって合流しよう……」

 

 そして合流したらこの恨み絶対に晴らす。空河ならアイスブレッド1000本ノック、奈央香なら3段たんこぶだ。

 合流か。

 見上げても合流する手立てはない。上から落ちたはずなんだけど、落ちてきた穴みたいなものはなかった。

 

「フレア!」

 

 今度は杖先に光源を設置し、松明がわりにして地下を進む。地面はぬちゃぬちゃとしたヘドロのようで歩きづらい。

 そうだ。修也は離れた相手も観測する手段がある。俺の位置も捕捉しているかもしれない。あれ? だとすれば動かない方がいいのか?

 どうしよう。

 迷っていると何かが迫る音を耳が捉えた。

 なんだろう?

 地下は音が反響して、音源の方向がイマイチ特定できない。

 

「足元っ!?」

 

 足の装備が空いている場所から攻撃がきた。スカート型だから足元はガラ空きだ。

 何かが足首に纏わりつく。

 ヘドロの中を進んできていたのか。

 何か細長いものの先を目で探すと、そこにはトーテムポールのような縦に細長い物体から、いくつもの触手が生えているモンスターがいた。

 

「うえっ!? 気持ち悪っ、あれも魔族かよ。この!」

 

 触手は軟体というか、刃のない杖では簡単に傷つけられない。杖で触手が多少凹むくらいだ。

 

「柔らかいせいで打撃に耐性あるのか。なら、エアーカッター!」

 

 地下で大規模魔法を放てば自爆してしまう。そのため地下に入る前にいくつか使いやすい魔法を考えていた。そのうちの1つがエアーカッター。イメージは飛んでいく斬撃。触手は真っ二つになり、そのまま斬撃は進んで、うねうね動くトーテムポールみたいな魔族に当たる。ダメージはそんなにない。

 

「距離があるから本体にはそこそこのダメージにしかならないってことかな? ならライトブレッド!」

 

 光弾が魔族にあたり、触手を出していた魔族は破裂し、体液を撒き散らしながら消滅した。

 

「あれ?」

 

 体液が消えない。

 

「……魔族を倒すと報酬が手に入るけど、まさか体液じゃねえだろ……」

 

 骸骨は骨は消えたが剣は残った。スライムは核が残り、ジャイアントバッドは羽が残った。なら今の魔族は体液なのか。薬の原料になるとかか? 良薬は口に苦しというが、なんか腐った匂いがするぞ。絶対口にしたくない。

 

「うへっ、最悪な魔族だな……、見た目はキモいし、報酬は臭い液体とか……」

 

 早く迎え来ないかな……。

 ゴソゴソとまた同じ音が聞こえる。

 

「ちっ、骸骨の方が億倍マシだっていうのに。エアーカッター! ライトブレッド!」

 

 新しく現れたトーテムポールの魔族に攻撃を加えるが、今度は距離がある。しかも1本だけじゃなく、何本もの触手を伸ばしてきた。

 クラゲみたいに麻痺毒がある触手じゃなくてよかった。最初に掴まれた場所も気持ち悪い感覚だけで、痛みや痒みはない。毒がないなら拘束して喰らう系のイカとかタコみたいな魔族だろうか。

 

「エアーカッター! エアーカッター! ほれほれ、触手がなくなるぞ? エアーカッター!」

 

 それにしても臭い。ヘドロの臭さも合わさって鼻がもげそうだ。倒してもこの匂い消えないんだよなあ。

 触手を軽くあしらっているとキーンという音が耳に入る。

 

「うあ!? なんだ!? ジャイアントバット!?」

 

 うるさい。耳が痛い。これもしかして超音波か? 女神の用意したチュートリアルの初戦じゃ、遠くから対処したから知らなかったけど、地下で反響するからか耳に大きな音が聞こえてくる。人間ならこうもりの超音波なんて聞こえないのに、獣人の聴覚が優秀すぎる。

 

「くっ、ライトブレッド! ライトブレッド!」

 

 ジャイアントバットが動き回るせいでなかなか当たらない。範囲系の魔法は使えないから、動きを予測して当てるしかない。

 

「ライトブレッド! よし当たっ——、ひゃわ!?」

 

 

 くそっ!? またしてもスカートの中に触手が、また新しいトーテムポールの魔物か……、せっかくジャイアントバットを倒したというのに……。

 

「この、エアーカッター! エアーカッター!」

 

 ぶちゅっ、ぶちゅっと肉が切り裂かれるような音と、触手の白濁した体液が周囲に飛び散る。臭い、触手の体液が少し顔にかかって腐敗臭が近距離でする。鼻が痛い。

 

「こいつ! 切っても動くのか!?」

 

 足首に巻きついた触手は切断したはずなのにウネウネと動いている。先ほど倒した時は本体も倒していたから空気に解けたけど、本体が生きていれば分断された触手も残っている。

 

「トカゲの尻尾じゃあるまいし! エアーカッター!」

 

 他に切断系のスキルはないだろうか。地下で炎が使えない、氷や水も使いにくい。大型風魔法として竜巻を発生させる魔法も考えたが、それもやはり地下で撃てば自分も巻き込まれる。

 1体1体エアーカッターなどの小規模の魔法で倒していくしかない。

 不意に尻尾を掴まれた。

 

「あぅ、ああ!? 腰が、抜ける!? 抜けちゃう!!」

 

 触手の力はそれほど強くはない。だが、尻尾が引き抜かれそうな感覚になり、踏ん張ることができず地面に倒れる。仰向けに転んでもまだ尻尾を引っ張られる。

 

「やっ、やめろ! エアーカッター! エアー——ひゃぅ!? 尻尾抜ける!? 抜けるって!」

 

 尾てい骨を引っ張られる慣れない感覚に、俺の頭は混乱していた。

 

「くそっ、やめろぉ……、エアーカッター! エアーカッター! エアーぶっ!?」

 

 今度は口に触手が入り込んでくる。

 

「んむぅ!? んん!?」

 

 声が、声が出なきゃ魔法が……。

 杖で薙ぎ払うも触手の柔らかな感触は棒術で対処をするのが困難だ。とにかく口を塞ぐ触手を弾かなければ。

 杖で薙ぎ払う。

 

「ぶはっ! はあ、はあ、エアー、カッター! ぶえっ! げほっ、こほっ……」

 

 口の中に触手の体液が入り込んだ。

 

「臭い……、口の中最悪だ……、ひぅ!?」

 

 また他の触手が両腕に巻きつき、杖を自由に扱えなくなる。1本なら力任せに外せるが、3本も4本も触手が片腕ずつそれぞれに巻きけば動かせなくなる。

 

「尻尾引っぱんなぁ……、くそっ……、エアー、カッター! エアーカッター!」

 

 どれを倒せばいいんだよ……。

 攻撃しながら、優先すべき対象を探していたが、どれから対処すればいいかわからないほどに多くの触手がうごめいていた。

 そして俺は最後の頼みの魔法すら使えなくなる。目の前に何本もの触手が現れたからだ。

 

「あ……、ああ……、やだぁ……、来るな……、んむっ!?」

 

 目の前の十数の触手が俺の口を塞ごうと構えている。両手両足に尻尾まで拘束された俺が触手に対抗するには魔法しかない。だが、魔法を使うには言霊を叫ばなくてはならない。口を開けば即座に魔法を封じるために触手たちが口の中に入ってくる。

 歯をがっちりと閉ざして口に入ってくるだけは避けるが、魔法は使えない。

 

「ぅう……、……うっ!? んんーー!?!?」

 

 下腹部を這い回る触手の感触に全身の鳥肌が立つ。

 

「邪魔、だあ!!」

 

 修也だ。

 絶体絶命かと思ったら、救援が間に合った。剣で触手は切り落とされ、修也はトーテムポールの魔物へ跳び、次々に魔物を倒していく。

 

「はあ……、はあ……、修也……」

「大丈夫か? ムツネ」

「ありがと……、うぅ……」

 

 俺は自然と涙が出た。




トーテムポールの魔物=ローパー

連続更新は今回まで、次は3日後くらいかな?
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