TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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修也視点
またの名を勘違い視点


男心

——修也視点

 

「ひゃあああああぁぁぁぁぁーーーーー……………」

「ムツメ!!」

 

 誰かが作動させてしまった罠に再びムツメが引っかかってしまった。次は自分が代わりに彼女、じゃない彼に変わって被害を受け変わろうと考えていたのだが、どうにも彼は罠にかかる才能があるらしい。ムツメは悲鳴をあげていたが、その悲鳴もすぐに聞こえなくなってしまった。

 

「お、俺じゃないぞ!?」

「わ、私でもないから!」

「すみません! 私です!」

 

 聖女のイオーネさんが地面のトラップを作動させたという。ムツメは突如開いた地面に吸い込まれるように落下し、その地面は一瞬で修復され、ムツメの姿は見えなくなった。

 

『鑑定』

 

 俺は頭の中で鑑定のスキルを発動させ、落ちたムツメを探す。真下の方向にムツメの反応がある。ムツメの体調に変化はあまりない。高所からの落下だがダメージはなさそうだ。

 

「ムツメが落ちた場所はわかりますか?」

「えっと……、確か北口の地下牢かと、この道を進んでも合流はできません。敵戦力の分断用のトラップでしたので……」

 

 意気消沈しているイオーネさんを慰める言葉よりも、責任を追及する強い言葉が出てきそうになるのをグッと堪える。罠の作動回数で言えば空河と奈央香の方が多いからイオーネさんにだけ文句を言うのは筋違いだ。

 

「そこへいく一番の近道は?」

「この地下の道の反対側へ行き、3階層降りる必要があります」

「わかった。みんなは後で来てくれ、嫌な予感がする」

 

 直感が急げと言っている。

 俺は3人の返答を聞くのを待たずに全速力で駆け出す。女神からの転移特典というものは俺に多大な力をもたらした。スプリンターのように走る技量が備わり、遠路を走破する軍人のように鎧をつけていても滑るように走り、脚力はもちろん地球人の領域を逸脱する速さを兼ね備える。俺は瞬時に地下へと続く道を探し当て、階下に降りていく。

 情報に目をずらせばムツメが交戦している。MP、マジックポイントだろうものが減っている。本人には自覚がないほどに魔力を持っていて、魔法のスタミナが尽きることはないし、体力は減っていないが、メンタルへのダメージが著しい。

 女装した時も仲間の中で俺の許容量分のメンタルが削れていたが、それでもムツメの精神力は尋常なほどの高さを持っていたため、なんとか女装も受け入れていた。その異常すぎる精神力が今、ものすごい速さで削られている。

 

「……魔族か? 邪魔だ」

 

 視界に入った魔族の骸骨を通り抜けざまに切り裂く。片手剣は攻撃力に乏しいが、速度に乗り、体重を乗せれば一撃で倒せる。まだまだ簡単に倒せる程度の敵だ。

 

「ちっ」

 

 スライム系の親玉が侵攻方向に現れる。大きい。体長は10mほど、超巨大な魔族だ。今遭遇した骸骨が新しい最大サイズならその5倍以上更新するほどの大きさがある。離れた距離から知覚され、敵のスライムは臨戦態勢をとっているみたいだが、大きすぎて動きが緩慢なスライムなど敵ではない。

 スライムは粘液部分を切り離し、核へ攻撃する。それがチュートリアルで戦った時の対処法だ。2、3発攻撃して鑑定しながら戦った際にスライムの倒し方を理解した。そして目の前の相手は学んだ対処法で倒すべきなのだが、そう簡単にはいかないだろう。

 

『鑑定』

 

 体液が強力な消化液だ。鉄すらも溶かしかねない。

 俺は自分が持っている武器の片手剣を一目見る。壊れたらムツメの場所に向かうまで時間がかかる可能性がある。失うわけにはいかない。俺は壁のレンガを1つ、力を込めて抜き取り、全力でスライムに向けて投擲する。

 

「よし」

 

 溶かす速度と体液の粘性を貫通してスライムの核に直撃した。しかし、粘性で威力が減衰したのか投擲だけではスライムを倒すには至らない。だが、消化液がなくなり露出したコアを破壊するのは容易である。巨体なスライムのコアは地上から5mほどの高さにある。跳びながら下から上に剣を振るい、剥き出たスライムの核を両断する。

 巨大スライムは溶け、2つに割れたスライム核がドロップするが、回収に戻る時間が惜しい。俺は巨大スライムを倒した勢いのまま地下道を進む。

 

「灯りが全然ないな」

 

『視野強化』

 

 暗視能力も女神の特典で向上しているが、それだけでは物足りないので強化をかける。光を一切通さないほどの暗闇の世界。地下牢としては長らく使っていないのだろう。古びた鉄格子が壊れている場所がいくつもある。灯りがなくて当然か。

 ムツメはさらに奥にいる。ムツメの精神力を表す数値がミリしか残っていない。おそらく0になれば精神崩壊してしまうのだろう。

 想定外だ。

 異世界初日、軽い判断で俺たちは異世界に来た。というのも退路を立たれていたから俺たちは女神の進言に乗るしかなかったのだが。女神も俺たちに死なれては困るのは事実なのだろう。女神の言では危険は少ない、戦闘はできる、そう言っていた。それも事実だ。戦闘に関してはまったく問題ないと異世界の人間の強さを鑑定したり、チュートリアルの敵と戦って実感した。今も敵の対処には苦労がない。

 だが、精神攻撃は想定外だ。

 味方のムツネがピンチに陥り、今にもやられかねない。それも味方の自爆で起きているとか笑い話なのだが、当事者の身では笑うに笑えない。とにかく間に合いそうだ。ムツメの精神力が落ちているものの、減っている速度に対して、ムツメまでの距離が縮まる方が早い。到着手前でムツメが急激に錯乱し始めた。

 

「ムツメ!」

 

 ムツメの姿が見えない。何かに覆われている。

 

「邪魔、だあああ!!」

 

 ムツメが拘束されている場所を鑑定できたので攻撃が当たらないように周りを攻撃する。ムツメの顔が見える。顔面蒼白で目には涙を浮かべていた。か弱い女子があられもない姿になっているのを見て、感情が暴れるのを抑え、しかし、持て余した怒りは敵にぶつける。俺は即座に跳び、ムツメを攻撃していただろう。変な魔族を次々に倒す。

 ムツメを覆う物体を斬ると体液が飛び散る。白い体液は甘い匂いがした。俺はとっさに鼻を塞ぎ、口呼吸に切り替える。

 

「大丈夫か? ムツネ」

「ありがと……、うぅ……」

 

 精神錯乱状態。鑑定でこれ以上覗き見るのはやめよう。何かムツネのことを、か弱い女性を覗き見ているようで自分の行為なのに不快に思えてしまう。

 

「涙、止まらなくて……、ごめん……」

「大丈夫ですよ、須木根さん」

「……修也?」

 

 俺はあえて苗字で呼ぶことにした。それに何の効果があるかはわからない。でもそうした方がいい気がした。無理をしていた気がしたから。

 須木根さんが顔をあげる。苗字を呼ぶだけで須木根さんの涙が止まった。

 

「申し訳ありません、助けるの遅くなりました」

「そんなこと、ない……」

 

 須木根さんのステータス的にはやられる相手じゃない。そうか、なるほど。俺は辺りを見回す。須木根さんの魔法は大規模攻撃。こんな狭い地下で使えば落盤してしまう。だから最小限の規模の魔法攻撃に抑えたのか。しかも火を使えば酸欠、水を使えば浸水。氷を使うと冷気の逃げ場もなく凍死もありえる。あのぶにょぶにょとした柔らかい敵の体に杖による打撃武器は効果が薄い。罠で分断されて1人で相手をしなければならず、場所も魔族も相性が悪すぎた。

 相性だけで命を失いかねない。いくら耐えても精神には堪えるはずだ。

 須木根さんは手が汚れているからか、腕で涙を拭っている。

 

「ありがとう、修也」

 

 須木根さんが立ち上がる。涙はすぐに止まり、もうなんともないという顔を見せる。一瞬だけ弱い部分が見えたが、すぐに鉄面皮というわけでもないのだが、心の奥底に本心をしまいこんでしまったかのように感じた。

 

「……」

「修也?」

「あ、すみません考え事をしていました」

「……」

 

 ムツメの言葉を聞きそびれた。何か言ってただろうか。立ち上がろうとした須木根さんがヘドロに足を取られて倒れそうになるのを支える。

 

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫だ」

「そうですか……」

「……」

「本当に?」

「意外としつこいな、大丈夫だよ」

 

 意外ととはどういう意味だろう。心配しすぎだろうか。

 

「それと、ムツネでいいよ。もう大丈夫だから」

「……」

「なんだよ」

「無理してませんか?」

「してない。あと敬語も禁止だ」

「……」

「……」

 

 須木根さんの空元気のように思える。内心は打ち明けてくれそうにない。だが、それじゃダメだ。今の一件でわかったが、俺たちは半人前くらいの認識の方がいい。いくら力を女神から受け取ったからといって、それを十全に活かせない場合もある。ならば、自分が窮地に陥った時に助け合える信頼関係というものが重要なはずだ。

 俺は須木根さんのことをあまり知らない。当然だ。知り合ってまだ数時間しか経っていない。

 だが、俺たちはこれから苦楽をともにしなければならない間柄に違いない。それを須木根さんは見越していたのだろう。だから無理して呼び捨てに……。

 

「なんか神妙すぎる顔しているぞ」

「須木根さんは背負いこみすぎではありませんか?」

「背負いこんでる?」

「はい」

「何を? 悩みとか?」

「そうです」

「女になってしまったなあ、ってことか」

「それだけではありません、俺たちに呼び捨てで呼ばせようとか。少し無理に社交的というか……」

「あー、そっちか。それは単純明快だぞ」

「単純?」

「死なないためだ」

「……?」

「お前たちを助けることで助けてもらえればそれでいい。なら必要な信頼関係を構築するのに呼び名を平等にしないままなら、どちらか一方が頼りっぱなしの状態ができかねない。俺が欲しいのは縦の社会関係じゃない。横の友人関係だ」

 

 横の友人関係……。今しがた俺が想定したことと一致した。

 

「ですが、結局無理しているように見えます」

「それは当然だ。こんな境遇だぞ。死にかけて、女神に選択という名の強制転移をさせられ、異世界初日に国が滅ばないための任務に付けと、ブラック企業かって話だ。てんやわんやに事が立て込んでしまうと急いで信頼関係を作りたいと思うのだけど? ちょっとくらい強引に行くだろう。変に意識しすぎないようにはしてたつもりだったけどな」

「そうですか……」

「俺はお前たちの友人じゃなかったからな」

「須木根さんって友人多そうですね」

「八方美人なのは自覚ある」

 

 八方美人か……。俺とは真逆な人かもしれない。俺が友人といえるのは空河と奈央香くらいだ。

 何にせよ無理していないならいいか。

 精神値が減っていってしまったから、俺も動揺して須木根さんの内心で無理している部分を聞き出そうとしてしまっていたのかもしれない。そもそも敵の攻撃で神経をすり減らしていたというのに、俺たちとコミュニケーションをとるために精神をすり減らしていたら、話している時に精神値が減っているのに気づくだろう。

 とんだ勘違いをしてしまった。

 あれ?

 勘違い?

 何か腑に落ちない。何だろう。俺は須木根さんの口述で考えをずらされているような……。

 なんで、苗字呼びで須木根さんは精神が回復したんだ?

 核心的なことを聞き出せていない気がする。

 

「で、話は変わるが、いつになったら呼び名をムツネにするんだ?」

 

 俺は心配しているのに、あっけらかんとされると少しムカつく。須木根さんは今まで周りにはいなかったタイプの人だから、俺も彼の対応に慣れていないのだろう。こっちの意向を無視して気丈に振る舞う。ムカつくという感情も久しぶりに感じる、少しだけ意趣返しがしたくなった。

 

「呼び名を戻すのは須木根さんが臭くなったらですね」

「うわっ、忘れてた! アクアバルーン!」

「えぇ……?」

 

 軽い冗談のつもりだったのに、須木根さんは水の球体を宙に浮かべて顔から突っ込んだ。呼び名を戻して欲しいというより、臭い自分が嫌だから臭い消しで奇行に移ったのだろう。俺の中で須木根さんのイメージが変な人物よりの認定になった。

 

「ふがふがふが」

「何言っているかわかりません」

「ぶはっ! 言霊ってちゃんと発音できなきゃ解除できないのかよ。バースト」

 

 水の球体から顔を出して魔法を唱えると水が破裂した。勢い自体は強くはない。攻撃魔法にもならないが、匂いがしみ込んでいた水が散らばるわけで、俺にも降りかかった。最悪だ。

 

「あ、わりぃ」

「……ヘドロが」

「いや、すまん。マジで」

 

 甘い匂いもしたけど、あの変な生き物の体液なんて嗅ぎたくもない。

 

「それにしてもさっきの魔族の体液も相当ひどい匂いだったなあ、ヘドロ臭いのも嫌だけど」

「え?」

「さっむ! うわっ、尻尾がぺちゃんこになってるし、……まあいい。もう一回、アクアバルーン! 今日何回水に浸かればいいんだよ……」

 

 須木根さんはもう一度アクアバルーンを使って、宙の水に浸かることで体を簡易的に洗っている。俺はそれより気になったことがある。須木根さんに向けて使用を控えていた鑑定を俺は魔族の体液に向けて行なった。

 

『鑑定』:ローパーの体液:媚薬、惚れ薬の材料。人によって匂いの感じ方が違う。

 

「ぶっ!?」

「なんだ? どうした?」

「いえ、なんでもないです」

「吹き出したのに不自然なくらいにポーカーフェイスだと逆に気になるんだけど?」

 

 これは絶対に須木根さんには教えられない。彼の体は今は女性だ。なのに媚薬だの惚れ薬だの考えたくもないだろう。

 

「その反応だと隠し事していますって言っているようなもんだぞ。人間1つや2つくらい隠し事があるもんだ。ほれほれ、お兄さんに言うてみ? 秘密を共有することで仲良くなるものだぞ」

「共有って……」

 

 須木根さんに話しにくいから隠しているのに……。あと、その姿でお兄さんは無理がある。俺はこの鑑定結果を隠す必要があるんだ。なら、彼の提案に乗っかって有耶無耶にしよう。

 

「それなら須木根さんが最近できた他人に言えないことでも話してください。先に提案してきたのは須木根さんでしょう」

「え? 最近……、あっ……」

「え?」

 

 なんか変な反応したような?

 顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 男性同士のはずなのに、やはり表面が美少女だからか、男性的な反応をされないとものすごく気まずい。

 空気を変えるために声を張る。

 

「……ムツネ!」

「なんだ?」

「これでいいだろ? 匂いももうしない」

「そ、そうだな」

「ムツネにも俺に言えない秘密がある。ならそのままでいいだろ」

「……そういうことにしておいてやる」

 

 なんとか鑑定結果は隠せたようだ。いつかはバレるかもしれないけど、精神をすり減らしているムツネに伝えるわけにもいかない。逆にムツネの秘密ってなんだろう。少し気になるが、聞くのは野暮だな。

 

「……なんにせよ助かった。ありがとな」

「仲間だから」

「次は俺の口からその言葉を言ってやるよ。だからピンチになったら俺を呼べよ」

「ピンチになれと?」

「おう、そしたら魔法でちょちょいのちょいだ」

 

 拳を前に突き出して、男らしい笑い方をしていた。今回の一件で須木根睦という人物のことが少し理解できた気がする。ゆっくりはできないかもしれないけど、これから彼のことを知っていこう。

 あと、もし俺がピンチになっても魔法に巻き込まないように助けて欲しいなあ。




 エロい目にあっていることを知らないし、精神がすり減っている理由も勘違いし、なぜ苗字呼びで精神が回復したかもわかってはいない。でも主人公にとっては一番男扱いしてくれるありがたい存在の修也くん視点でした

 更新頻度は中2日かなー。R-18一歩手前に入るまでは5話くらいかかりそうです。あとフェチ方面というか少しアブノーマル方面なのもご了承を
 TSの時点でアブノーマルだけど

 ちなみに恋愛に関しては10話くらい先からです(詐欺かな?)
 まだまだ精神は男なので
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