TS異世界転移-男がヒロインで大丈夫かよ-   作:変T

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1ボスとお風呂

 触手に股間をまさぐられて強烈に女を感じてしまった。

 俺は正気ではいられなかった。修也に助けられ、須木根と呼ばれてようやく正気を取り戻せた。情けない話だ。俺は他人に名前で呼ばれることがない。睦(むつね)という名前よりも苗字だけで識別できること、家族以外には下の名前で呼ばれることはない。家族も基本的にお兄ちゃん呼びだから滅多に陸(むつね)とは呼ばれることはない。

 だからあえて、この世界では下の名前で呼ばせようとした。修也たちが下の名前で呼びあってたこともあったが、決別の意味も含んでいた。俺にとって睦(むつね)という名前は昔からあるのに親しみがない。それは俺が女の状態であることと陸(むつね)という呼称を自然とイコールで結びつけてしまうほどだった。俺自身もそれに気づいていなかった。

 修也は俺を苗字で呼んだ。

 それだけで一瞬で女を感じていた脳は男を取り戻した。須木根と呼ばれる俺は男のときだったからな。

 

「……」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

 

 直感だろうか?

 なんにせよ修也には一度に2回も助けられてしまった。命を助けられたことと、心まで女になりかけてた2つの意味で救われた。

 

「そろそろ落ち合えそうだ」

 

 もう近くにいるのか。ならば、かの恨み晴らさざるべからずや。

 

「おーい! 誰だー、トラップ発動させたやつはー!」

「あ」

 

 修也がしまったという感じで口を開けたまま固まった。今さら隠そうとしたってもう遅い。私罪で処断してくれる。合流手前で大声をあげて、俺が怒り心頭であることをわからせてから、顔を合わせると、気まずそうにシスターさんが手を挙げる。

 お前かよ。

 絶対俺白目向いてるわ。

 

「わ、私です。……申し訳ありませんでした!」

 

 ……。

 …………。

 空河と奈央香がニヤニヤしてる。シスターさんがやってしまったから、自分がやってないなら無罪放免と考えて、責任追及する俺を嘲笑っていやがる。ちくしょう許さねえ。

 

「なるほど、よし死刑!」

「ちょっ!? 裁判長! 私怨がすぎますよー!」

「ええ!? まだイオーネさんは1回目だよ!? 俺たちみたいに2回もやってないから情状酌量の余地を! 裁判長ー!」

 

 そうだった、誰が死刑か言ってなかったな。顔面蒼白のシスターさんには悪いことした。

 

「安心しろ、死刑なのはシスターさんじゃねえ。空河と奈央香だ。反省の色なくニヤニヤ笑いやがって」

「あ」

「やべっ」

「ライトブレッド!」

 

 ぎゃあああ、という悲鳴をあげながら、俺は逃げ惑う2人に光弾を放ち続ける。後方の魔法耐性の高い奈央香と元々防御力が高い空河には当たっても大したダメージにはならない。俺は計100発のライトブレッドを叩き込んだ。2人とも結局無傷だったな。ちっ。

 

「このシャトルランきっつ……」

「ようやく光の雨が止んだ……」

 

 少しは反省しろ。

 城の防衛とはいえ、トラップ多すぎるのもどうにかしてほしいものだ。そして俺は一体いつから罠の餌食になる星の元に生まれたのか。そんな星知らねえけど。俺は別に罠を作動させてはいないというのに。

 ガコンという嫌な音が聞こえた。俺は全力でその場を退避する。

 

「おい、今の罠の作動音じゃないのか?」

「俺が踏んだ気がする」

 

 なんだパーティーメンバーコンプリートいなきゃいけないのか。どんな縛りプレイだ。でも、今回の罠は作動しないみたい——。

 何か他ぶつかる音のようなものが聞こえる。

 音源は上から、俺は見上げた。

 上から何かが降ってくる。俺は飛びのいた際に修也側に飛んだことを後悔した。

 

「しゅうぅぅぅやぁぁぁ!!」

 

 背後から巨大な丸い岩が俺たちを押しつぶそうと近づいてくる。当然走って逃げる。

 

「すまん! 悪気はないんだ!」

「悪気のあるなしじゃない! なんで鑑定スキル持ちのお前が罠を作動させるんだぁぁぁ!」

「合流と同時に鑑定スキルを切ってた!」

「なんでだよ!? 合流したのにまた分断じゃねえか!」

「それは……、その……、込み入った事情があるんだ」

「どんな事情だ! 説明次第じゃお前もライトブレッドシャトルラン行きだからな! あと声小せえ! とにかく走れ!」

 

 巨大な岩に追われる際に最初に地下に入った入り口を通過する。ここから先はトラップゾーンだ。

 

「おい、この先トラップ地帯じゃ……」

「大丈夫だ。もうほとんどのトラップは作動済みだ。問題ない」

「なるほど……、ワー、安全ダナー」

「ムツメ?」

「『ムツメ?』じゃない! 誰があのトラップ群の被害にあったか言うてみ? ああん!?」

「テンションが乱高下している……」

 

 ここで何か別のトラップを作動させて背後から迫ってくる巨大な丸岩にひき潰されてジエンドなんてかっこ悪すぎるからやっぱり罠作動させておいてよかったな。

 ってなるかボケーッ!?

 俺は誰にツッコミ入れてんだよ。

 とにかく走る。強化されている俺たちの身体能力でギリギリとかどんだけ早いんだよ、この巨石は。

 

「前方に巨大な空間だ。そこへ抜けられる」

「よしそのまま突っ込んで、巨大空間に出てすぐ横に回れば巨石は回避できるな」

 

 横に良ければ巨石からは逃げられるだろう。巨石に追跡機能はないはずだ。俺がこの罠を作った罠師ならつけるけど。直線しか移動しないって思いました? ぷーくすくすってな。

 

「よし巨大空間に出たら左右に分かれるぞ。俺は右だ!」

「いや、すまん。言葉足らずだった。今ここは空中だ」

「はっ?」

 

 なんで下ねえんだよ!?

 巨石に追われた先の空間が空中とかずるいだろ罠師!

 落ちるーーー!

 

「どぅへっ!?」

「危ない! 巨石が落ちてくる!」

 

 尻餅ついた後に手を引っ張られて、修也に抱えられ、降ってくる巨石からなんとか逃げられた。

 

「一回落としてから助けんな! けつマジ痛いから、尻尾の付け根にぐりっていったから。マジ超いてえ。空中でお姫様抱っこくらいしろやアホ! かつ女扱いしないようにで、だ!」

「えぇ……」

 

 あかん、精神が錯乱していた。変なことを口走った気がする。あと少しだけ関西弁になってたような。バリバリの関東人だけど。とにかくこの怒りは収まらない。

 修也め、覚悟するがいい。

 

「フシャーーー!!」

「狐というか猫じゃないか? ……うん? なんかいるぞ」

「ん?」

 

 修也が見ている方向を眺める。暗い。全然見えないが、トーテムポールの魔物がいた場所ほどじゃない。薄っすらとだが影が見える。魔族がいるのだろう。

 

「てめえらやれ!」

「なんだなんだ? どなた?」

 

 トラップから逃げられたと思ったら、叫び声が聞こえた。注視して見ると、大量の骸骨たちがのそのそと近づいてくる。見えないからフレアで明るくしよう。天井も遠いから光量が足りるかわからないけども。

 

「フレア」

 

 フレアを放って多少明るくなると巨大空間の全容が見えてきた。

 

「あれか?」

「たぶんあれだな」

 

 骸骨たちの後ろには体長が5mほどある巨大骸骨がいた。その後ろには何やら壊れた機械っぽい巨大な設備がある。俺たちが落ちてきた巨大な空間はドーム状で結構な広さがあった。

 

「目的地一番乗りだな」

「ふん!」

「いたっ!?」

 

 皮肉めいた発言をする修也の脳天に杖を振り下ろしておく。目的の敵も目の前だし、ライトブレッドシャトルランは後回しにしてやるか。

 

「骸骨ならいけるか」

「ムツメ?」

「ここは少し暴れさせろ。ストレス解消だ」

「あ、はい」

 

 俺は骸骨の群れに突撃する。バネを生かしながら、杖による棒術で骸骨たちを粉砕していく。さながら無双もののゲームをやっているようだ。集団戦は本来なら魔法使いの得意領域だ。だが、地下で重要設備が近くにある今、俺の魔法は封じられている。そうなれば下級魔法か接近戦になるのだが、

 振り下ろし、なぎ払い、振り下ろし、杖を床のくぼみに突き刺して、杖を支えに跳び蹴りを入れ、そのままの勢いで着地し、またなぎ払う。棒を回して後ろからの剣の攻撃を柄の先端で受け止め、弾いて薙ぐ。

 

「棒術もやったことないけど、結構使えるな。ライトブレッド!」

 

 杖で戦いながら杖の矛先からライトブレッドを飛ばして、近接戦闘をしながら光弾も攻撃に加える。数百体はいた骸骨が半分まで減るのにそう時間はかからなかった。

 

「くそっ、くそっ、小娘ごときに! ワシが潰す!」

「そういや冷静に戦っていたけど、あいつしゃべるんだな」

 

 他の魔族一切喋らなかったけど。というか骸骨だから声帯ないけど? 死んだら空気に溶け込むあたり生き物でもなさそうだから考えるだけ無駄だな。

 巨大骸骨が持つ剣すら巨大だ。だが、俺はそれを受け止められると判断した。

 

「なるほど、ちょっとは重いか」

「なにっ!?」

「弾くのは無理そうだな。蹴りの要領で、ライトブレッド!」

 

 ちょっと扱いが難しいけど、前蹴りをいれながらつま先からライトブレッドを放つ。剣を受け止めていた杖が自由になると、杖先をひるんだ巨大骸骨に向ける。

 

「ライトブレッド・ディエス」

 

 10発のライトブレッドを叩き込む。空中で連射を放ったせいで反動をそのまま受ける。煙が晴れると巨大骸骨は片膝はついて、骨にひび割れはできたが、それ以上のダメージが見受けられない。

 

「ありゃ、あまりダメージないな」

「結構タフだな」

「修也……」

 

 近距離で放ったライトブレッド・ディエスの反動で後退した真横には修也が立っていた。

 

「獲物を横取りか?」

「そんなところだ」

「だが、残念。そいつはダメだ。俺はあいつに恨みがあるんだ。あいつの手下に少しやられたからな」

「背後の装置をこれ以上破壊しないように倒せるか?」

「むぅ……」

 

 俺の次の手は遠距離から避けきれないほどの100発分の下級魔法の連射による縦断爆撃を行う予定だった。緩慢な動きの巨大骸骨なら避けることはできないはずだ。だが、俺の魔法のコントロールも確実性があるわけではない。魔族の一団を取りまとめているのだ、巨大骸骨だってずっと攻撃をくらうほど馬鹿じゃないだろう。

 

「くそっ、こうなったら、ワシの真の姿を見せてやる」

「お?」

 

 最初のボス格で変身とかしちゃうのか? というか部下は半分倒したけど、本体と交戦して1分も経っていないのにもう変身すんの?

 

「ウオオオォォォ!」

 

 なんか大地が揺れるというか、空間が揺れ始める。敵の骸骨兵がどんどん崩れ落ち、倒した骸骨たちの骨も空を舞い、どんどん巨大骸骨に収束していく。そして次第に骨が重なっていき、巨大骸骨は巨大な骨の龍へと変化した。

 

「フハハハ! この俺様の真の姿だ! 人間どもの魂を喰らいさらに進化したこの俺様に勝てる希望があると? 片腹痛いわ!」

 

 でかい。ドームを覆い隠さんとするほどに巨体だ。もうどれくらい大きいかわからない。ざっと30mぐらいか?

 

「ほれ、逃げ惑うがいい!」

 

 俺たちは骨龍の尻尾の薙ぎ払い攻撃を避ける。

 

「どうした? 避けるだけか?」

 

 なんだろうこの感情。ちらりと修也を見る。ああ、うん。俺もそんな顔しているんだろうな。むすっとした唇をたたみ、真顔を作り出している表情だ。

 

「なあ……、ムツメ」

「聞こえない」

「いや、無視するなよ」

 

 今日もいい天気だなー。地下だけど。

 

「どうしたどうした? 避けるだけか? 反撃してみたらどうだ!」

「ほら、反撃しろってさ」

 

 反撃したら負けな気さえしてきた。

 

「ちょこまかと、これならどうだ? 骨のシャワーだ」

 

 自らの手の骨を砕き撒き散らして、宣言どおりに骨がシャワーのように降り注いできた。それを俺たちは踊るように避ける。見てから回避、余裕でした。

 

「な、なにっ!? これを避けるだと!? ほう、少々侮っていたようだな、この俺様——」

「うっさい、飽きた。ホーリーショット」

 

 俺は骨龍の上空に飛び、ライトブレッドの上位技、ホーリーショットを脳天に叩き込んだ。壁を崩さないように貫通するホーリーショットは地面に叩き込む。衝撃は落盤を起こすことはなかったが、床がえぐれてしまった。

 中級魔法でこの威力か。あのとき使っても良かったかな。いや、崩れる心配があったし。

 結構な高さを飛んだが、着地の怖さというのはなかった。考え込んでいると俺の顔を修也が覗き込んできた。

 

「……なんだよ」

「いや、なんでもない。あいつなんだったんだろうな」

「それは俺も同じ意見だ。なんだったんだろうな」

 

 人の魂を喰らいパワーアップした。そのセリフを聞けば怒りという感情が芽生えるだろうと思ったのだが、あまりにも弱かったので拍子抜けしてしまった。いや、違うか。決して弱くはないのだろう。神託を受けていない人間には驚異的な強さだったに違いない。だが、俺たちは神託を受けている。あの程度の敵は驚異にはならない。

 

「骨に剣ってどうなん?」

「有効ではないな。打撃の方が効くだろう」

 

 修也は俺の武器へと目線をずらす。俺も自分の杖を眺める。骨を砕きまくったのはいいが、結構傷ついてしまった。

 

「おーい! ヒーローは遅れて——」

 

 遅い。

 

「終わったぞ」

「ええっ!? ムツメちゃんに格好いいところ見せようと思ったのに、がくっ」

 

 がくって効果音を口に出すな。

 

「ふん!」

「痛っ!? お尻蹴らないで!」

 

 蹴りやすい位置でうなだれたのが悪い。それに俺をちゃん付けで呼ぶんじゃない。

 俺たちは指定された依頼を達成した。チュートリアルを終えた最初のボスとしてはまったく歯ごたえなかったけど、命がかかるのなら、この程度の強さでよかったのかな。

 本当の敵は味方だったけどな。

 

 

 

 酷い目にあった。今日は本当に酷い目にあった。

 

「ああーー」

 

 極楽である。

 王族も少なく、城も半壊状態だが、入浴施設に一切の被害がないため、大浴場でのんびりと過ごせている。

 ちなみに女風呂だ。

 体が女だから仕方ないだろう。奈央香が俺と一緒に風呂に入りたがっていたが、当然断った。あと体洗うのもなかなかためらったが、いつまでも汚い状態でいたくないから、全身を泡だらけにすれば良い。あれは良い思いつきだった。そして体を洗い終えた今、今日の疲れを癒す大浴場でのんびりと風呂を満喫している。魂が少ない世界というのは無機の物資は余っているらしい。水もだだ余りだとか。

 

「ああーー」

「失礼します」

「ひゃいん!?」

「? どうかなさいましたか?」

「シ、シスターさん!?」

「お背中を流しに参ったのですが、もう終わっていましたか」

 

 来るの遅いよ。もう体も頭も洗った。

 

「——っ!? ……あれ?」

「どうかなさいましたか?」

 

 素っ裸を想定して目を逸らしたのだが、シスターさんは違う服を着込んでいた。湯浴み用の服かな。俺は素っ裸だけど。

 近づいてきたシスターさんにじーっと見つめられる。衣服をきているから俺も見返しているけど、眼力の圧が強すぎる。強すぎて吃ってしまう。

 

「……」

「な、なんですか?」

「……」

「え、えっと……、その……」

「もう一度髪を洗いましょう」

「へ?」

「洗い方が甘いです! 特に耳の付け根とか!」

 

 あ、はい。

 狐耳の近くを洗う習慣とかないし。洗い残しみたいなものか。シスターさんに手を引かれて再びシャワーの前に、というかなんでシャワーあるん? 今更だけど、もう一回洗っているけど、ここ中世くらいの世界観じゃないのか。シャワーおかしいだろ。

 

「あーーー!!」

「今度はなんだよ……って、おい——」

 

 声は奈央香だった。あいつ俺より先に風呂入ったはずだろ。

 俺は全力で顔を背けた。首からぐきって音が出たけど大丈夫かな。

 奈央香のやつ湯浴み用の服を着ずにわざと裸で入ってきやがったな。だが、対策はある。俺は頭を洗われている都合上、目を瞑っても不思議ではない。奈央香の方を見たら絶対に後でからかわれる。目をぎゅっと瞑っておく。

 奈央香はなんで初対面の男相手に体を晒せるんだ。やっぱり俺が女になっているからその線引きが揺らいでいるのか。

 心は男でも体が女なら危険はないってことか。女といえど獣人なのだから力関係は結局俺の方が強いんだ、押し倒すことだってできるというのに。

 

「あら? ナオカさんはもう入られたのでは?」

「ムツメちゃんがちゃんと洗えているか見に来たんです」

 

 来んな。俺はガキじゃない。自分のことは自分でできる。体だって洗える。

 

「耳元が洗えてなかったので今洗ってあげています」

「あー、そうなんですかー」

 

 仕方ないだろ。狐耳とか初めてだったんだから。ついでに尻尾洗うのも初めてだよ。ニヤニヤ笑っている奈央香の姿が容易に浮かんだ。

 髪がわしゃわしゃと洗われている音を立てていても、奈央香がゆっくりとペタペタ足を鳴らして近づいてくるのがわかった。

 

「むっつめちゃん! あー、おめめつぶってるー」

「……」

 

 俺は声の聞こえた方からさらに顔を背ける。

 

「かーわーいーいー」

「あのなあ……」

「頭洗っているなら、私、体洗うね」

「ちょっ、おま、やめろ! もう体は洗った!」

「大丈夫大丈夫、ほら、触るよ」

「大丈夫じゃ……」

 

 首元をくすぐられる。

 

「おい! そこはっ……、ん……、……ん……、…………」

 

 目を瞑っていると体の感触がより敏感に感知してしまう。首からずれて、胸にいき、さらに股にボディスポンジが当たるだけでも女を感じてしまう。俺は口を真一文字に結んで耐える。こいつ絶対わざとだろう。

 

「そろそろ交代しましょ! 私も髪洗いたいです!」

「え? あ、はい」

 

 交代?

 交代……。髪洗いたかったのか?

 

「ひゃあああああ!?」

「狐耳がふにゃってるー、かーわいぃ!」

「ちょっ! 耳に指突っ込むな! ふわあっ!?」

 

 唐突に耳に指を突っ込まれたのは驚いたけど、これ、くすぐったいのに気持ちいい……。耳の中に洗剤が入ってシュリシュリという音が心地よく聞こえる。

 俺は狐娘だった。女風呂にいるから、女になったことばかり頭の中で考えていたけど、奈央香は、空河もだけど、俺の狐の耳や尻尾を気に入っている。一緒に風呂に入りたがったのは女同士だからという理由ではなく、狐耳を触りたかっただけみたいだ。さっきの体の洗い方だけは絶対抗議するけど。

 仕方ない風呂上がりに尻尾乾かしたら触らせてやるか。俺もふわふわの尻尾さわりたい。でも自分の尻尾をモフッてる姿は見られたくないな。こっそりモフろう。

 

「ほら、奥の方もやるよー」

「あまり入れすぎるなよ」

「大丈夫大丈夫、奥の方は控えめに、浅いところを重点的にやるから」

 

 ずぽっ、ずぽっと狭いところまで届く。奥まではまだ距離があるみたいだ。

 

「ん……」

 

 これ気持ちいいな。奥の方がいい。

 

「気持ちいい?」

「うん……」

「もう少し奥まで入れるねー」

「ひゃわあっ!」

 

 内側は敏感なのか変な声が出てしまう。でも2、3回擦られるともう気持ちよくなる。

 

「奥の方擦られるの気持ちいい?」

「うん……、気持ちいー……」

「奥をずぼずぼされるの気持ちいい?」

「さいこー……」

 

 ほじられるの癖になりそう……。

 

「ちょっと、2人とも卑猥ですからー!!」

 

 近距離で大声を出されて耳がキーンとなってしまう。何事だ!?

 あ、目を開けてしまった。奈央香の裸が視界に入る。一瞬で背後を向いた。あぶない、あぶない。アウトな気もするけど。

 ……着痩せするタイプだな、うん。

 

「もう! お2人は何をしているのですか!? 今のナオカ様の発言はとても看過できるものではありません」

「ナンノコトカナー」

「はぐらかさないでください!」

 

 なんかいきなりシスターさんがブチギレているのだけど、なんで?

 

「ムツメ様もそっぽ向いていないで反省してください!」

「俺何かやっちゃいました?」

「セクハラです! セクハラ!」

 

 確かに現在進行形でセクハラしている状態かもしれませんけど、なぜばれた!? 俺が男だということは話していないはず。それに裸で入ってきたのは奈央香の方だ。俺に非はない。

 

「セクハラされていたじゃないですか! 何を呑気に受け入れているのですか!」

「されてた?」

 

 俺、されてた側だった?

 どういうこと?

 

「なんで首を傾げるのですか……」

「シスターさんの言っている意味がちょっと……」

「わかるでしょう!? ナオカ様にセクハラされていたのですよ!」

「あ、もしかしてこの世界の獣人って耳触られるのがセクハラになるのか?」

「ち・が・い・ま・す!」

「違うの? じゃあ、何さ」

「そ、それはっ……」

 

 黙ってしまった。俺は耳の中を洗われていただけだというのに。そしてゆっくりと口を開くが、その声は音を発さないほどに小さい。

 

「その……、だから……」

「聞こえないよー」

「だから! ナオカ様がムツネ様にっ! その……、耳をほじほじして……」

「耳をほじほじ? うーん? それのどこがセクハラー?」

「だ、だから!」

 

 奈央香の追及にシスターさんの顔が真っ赤になってしまう。先ほどまでは耳が赤かったくらいだったのに、今は顔全体がゆでダコ状態だ。なんか奈央香が楽しそうにしているし、言葉の中に悪意が含まれている。奈央香め、何かしているな。

 

「『奥を擦ると気持ちいい』とか……、『奥をずぼずぼされると気持ちいい』とか……、とにかく卑猥なんです!」

「耳の奥を擦って洗っているだけでしょう?」

「選んでいる言葉がセクハラなんです!」

 

 ああ、そういうことか。

 

「ええっ!? 耳の奥を擦るだけなのに? イオーネどんなこと想像したの!? えっちなことー? やだー、むっつりー。 イオーネのむっつりー」

「くぅうううぅぅぅ!!!」

「ねえねえ、今どんな気持ち? ねえねえ、ねえねえ! 耳を洗っていただけなのにえっちな想像しちゃう聖女サマー。むっつりなことバレてどんな気持ち? どんな気持ち? ねえね——へばっ!?」

 

 シスターさんをいじめる奈央香にかかと落としをくらわせる。

 よし、悪は滅んだ。

 これでシスターさんも落ち着くだろう。

 ……。

 …………。

 あれ? おかしいな、シスターさんが俺の方を指差してプルプルと震えている。なんだろう、嫌な予感。

 

「お……」

「お?」

「女の子が裸で股を開くんじゃありません!!!」

「くぅ————!?」

 

 大声は俺の耳に効く……。

 俺も奈央香に次いで気を失ってしまった。シスターさんの怒声は城中に響き渡ったらしい。

 今日は最後の最後まで酷い目にあった。




奈央香はいい女です。

いい(性格している)女です。
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