気だるい。
とんでもない夢を見た気がする。
目を開けたくないな。まぶたが重いのだけど、それ以上に寝心地のいいベッドの中から出たくない。俺の布団こんなに肌触り良かったかな。冷気が顔に当たって布団の中に顔を埋める。あったかい。ここは天国だな。布団の外の世界とか知らない。
「おはよー、ムツメ」
「ここは地獄か」
「朝から何言ってんのよ。もう7時回るよー、朝食できたってさ」
昨日、浴室で最後にシスターさんの叫び声にノックアウトされたんだな。それでここに運ばれたと。
女子部屋か。
奈央香も同室で隣のベッドで寝てたのだろう。というか寝相悪っ。布団全部床に落ちてるし。
「ヘイシリ、今日の朝食を教えて」
「ロールキャベツだよー」
布団に包まっている間にシスターさんが訪ねてきたのだろう。その対応を奈央香がやっていたな。寝ぼけて布団にくるまりながらも音だけは耳が拾っていた。
少しずつ頭が冴えてきた。昨日の出来事は現実で夢ではなかったか。ということは狐耳も尻尾もついていて、相棒は家出していると、……あれ?
「尻尾が……」
「寝癖すご」
「寝癖にカテゴライズされるのか、とりあえず歯みがこ……」
「といてあげる」
「お願いします」
寝ぼけて目を擦りながら、洗面所で歯を磨いていると、尻尾を手のひらから放たれる魔法のドライヤーで奈央香にとかしてもらう。そのうち奈央香が飽きたら俺がとかなきゃダメだよな。尻尾が元に戻ったら奈央香が顔を埋めていた。
「はえー、最高級ベッドよりも心地良いよー」
頬ずりやめろ。また後でとかし直しになるだろ。
足音が聞こえ、部屋の戸を叩く音がした。誰だろう。シスターさんか?
「おはよー、ムツメ」
「帰れ変態」
おい、ここ男子禁制じゃねえのか。あ、俺男子だったわ。
閉めようとしたら足先をねじ込まれた。無理やり閉めるか。
「いたたたた! ちょっ、待って! 朝の優雅なひと時を俺にも恵んでくださいぃぃぃ!」
「どの辺が優雅なのか知らないけど、しゃーない、少しだけだぞ」
こいつも奈央香と同じタイプだったな。
ケモナーの素質がある。
大方目的は俺の尻尾だろう。昨日ずっと俺の尻尾見てたし、この世界に来てから俺と目が一切合ってないからな、だいたい下向いてた。たまに目線より上に行くこともあるけど。
尻尾も……、なんとかしておきたいし触らせていいか。昨日は空河に対して鞭ばかりだったから飴でも与えるかと部屋の中に招く。
「気持ちいいなー、うえへっへへ」
奈央香以上に頬ずりをされた。
奈央香も奈央香で関節頬ずりされているけど大丈夫か。ちなみに俺は大丈夫じゃない。男に俺の体の一部を頬ずりされるとか気持ち悪くて仕方ない。空河に対する嫌悪感が尋常じゃないほど高まっている。
先の言葉を訂正しよう。
「きもいから返せ」
「あー!? なんでよムツメちゃん! 奈央香はよくてなんで俺はダメなんだ!?」
「きもいからって言っただろ」
「酷っ!?」
ガーンと効果音がつきそうなほど落ち込んだが、すぐ目線を上げ、今度は俺の耳を穴が空くほどに見つめてくる。
欲望に正直か、少しは反省しろ。
こいつに安全に飴を与えるのは至難の技だな。あと、次ちゃん付けしたらもれなくライトブレッドだから。
俺は初級魔法に満たないほど小さな熱風で尻尾をとかす。
「2人は同じ部屋なんだな」
空河が真面目に切り出した。
もしかして幼馴染の奈央香の身を案じたのだろうか。
俺も奈央香という一応女性の、しかも未成年と同室なのだ。成人男性の俺が未成年婦女子と同じ部屋で寝るなど犯罪もいいところだ。もちろん犯罪はしていないのでグレーゾーンに違いないが、そこを指摘されると痛い。
空河め、何が狙いだ。
「やっぱりムツメも奈央香と一緒はダメだろ。奈央香もそう思うよな」
「なんでよ、女同士だからいいじゃない」
「ムツメは男だっただろ」
だったってなんだ? 確かに体は過去形だけど、心は現在進行形だぞ。
「だから、俺と一緒の部屋で寝よう。修也の分と合わせてベッド2つしかないけど、ムツメは小さいから2人で寝られるよ」
あ、うん、わかった。死んでくれ。
「なんでそんなに冷たい目をしているのさ!?」
「空河さすがにキモいよ」
「何言ってんだ男同士だぞ、間違いなんて起こるわけないだろ!」
「間違いとか言っている時点でアウトだから、血走った目で何言ってんのよ。ムツメちゃん、近づいちゃダメだよ。飴ちゃんにつられちゃダメだからね」
俺はガキか。
とりあえず空河はお仕置きが必要らしいが、今は保留にしておいてやる。
「尻尾は触るだけならいい、頬ずりやめろ」
「ムツメちゃんツンデレー」
空河、アウト。
ライトブレットをビンタとともにくれてやる。
「なんで魔法でぶたれたの?」
「それがわからないなら尻尾は触らせん」
「こ、これが俗にいう女の子の『私が怒っている理由わからないの!?』ってやつか」
もう一発行くか?
俺が尻尾を触らせている、いや触らせたい理由は昨日の一件だ。
思い出したくはないが、足を掴まれるくらいなら体制を軽く崩される程度で済むが、尻尾を引っ張られたときは抜けるかと恐怖感を持った。慣れない感覚から尻尾が抜けてしまうと判断したのかはわからないが、とにかく俺の弱点になっているのは確かだ。尻尾を引き抜かれる感触に慣れることと、どれくらい耐久できるかも把握しておく必要はある。ひとまずは感触だ。他人に触られても平気なくらいには慣れておきたい。
今度は奈央香が顔を埋めている。
触れよ、埋めんな。
「美少女の匂いがする、くんかくんか」
「頼むよ、ムツメちゃん! 俺もくんかくんかしたい」
ヘイシリ、こいつらをぶっ飛ばす方法を教えて。
『朝から元気ですね』
「お前がシリかよ、絶望した」
『女神に向かって何言ってるのですか! それにいいのですか? なぜあなたが尻尾を快く触らせているかお話ししても』
「え……?」
お前心の声を……。
女神の言葉に俺は二の句を継げなくなる。奈央香は尻尾から顔をあげて、空河と目を合わせて互いに首を傾げた。
「尻尾触るのになんか意味あったの?」
さっそく奈央香から質問が飛んでくる。
俺は昨日のことは伏せておきたい。尻尾が弱点という話をすると昨日の痴態の件に話が及びかねない。直接助けにきた修也ですら、痴態を見られずに済んだのだし、その後も触手にやられていたときの話に戻すことはなかった。
ここで話題をぶり返すわけにはいかない。
「ちょっと尻尾がな……、くすぐったくて弱点になりかねないから、他人に触られるのに慣れておこうかなって」
『あらー? 本当は尻尾を引っ張られて、あへあ——』
「メテオ!」
『ちょっ!? なにやってるの!? この星滅びちゃうじゃない!!』
滅んでしまえ。
というのは冗談で、星にかすらせる程度にかつ、女神がいるだろう宇宙空間に隕石を射出した。女神の強さとしては問題にはならないだろうが、俺の抗議の意思だ。手加減はしない。
『無駄な労働を強いられました』
「知らんな」
『酷すぎますよー、ただでさえ忙しいのに』
愚痴を言われるが、どうやら話を戻すことはしないらしい。助かった。
『あ、また魔族が性懲りもなく……、仕事舞い込んできたので、一旦さようならです』
「じゃあな」
なんだったのか。特に連絡もないみたいだけど。ただ単にからかいにきただけか。
「で、尻尾を引っ張られてー、なんですか?」
助かってないじゃないか。
話を戻されたせいで表情筋が固まる。奈央香はいい笑顔だな、おい。
奈央香に少しでも女神の話を聞かれたのはまずかったか……、空河は頭を傾げているままだ。そのままの君でいてくれ。
「ムツメちゃーん、お姉さんに教えて欲しいなー、尻尾引っ張られてどうしたのかな?」
くそっ、どうする。確信を持って俺に尻尾を触らせる理由を追及しようとしてくる。
反論を考えていると、今度は足音を捉えた。
よし、救援が来た。
部屋の扉が開く音がする。
「おい、朝飯食いに行かないのか?」
ナイス修也。グッドタイミングだ。
「ちっ」
露骨に舌打ちすんな。
「飯か、行こうぜ」
「しょうがないなー」
「先行ってて、着替える」
奈央香はもう着替えていたし、空河も修也も準備ができている。俺は1人になってから服を抜いで、ベッドのそばに畳まれていた衣服を着込んでいく。割とすぐに着替え終わった。
部屋を見回すと等身大の鏡があった。これ活用すべきなのだろうが、俺の精神衛生的に活用はよろしくはない。
姿見か……。
鏡なしで着替えたけど、そういえば自分の顔、鏡で見てなかっ————!?
「……え?」
背丈は150cmくらいなのは知っているが、顔つきは幼さが全面に出ている。男の時にはもう成人した顔していたのに、目の前の姿見に映る美少女は14、15くらいの見た目年齢だ。獣人は見た目が若いかもしれないが、セミロングほどの長さの金髪に、ロングスカートの端からは毛先がプラチナブロンドになっている金色の尻尾が見え隠れしている。目は力を抜いて気だるげにしているのに、ややジト目気味でありながらもぱっちりとしている。鼻筋もまっすぐ通って、口は小さく、しかし艶やかなピンク色をしている。
「え、ええっ!?」
鏡の美少女も俺と同様に驚く。
これ、俺か?
俺なのか?
面影とか一切ないけど?
ただの美少女だけど?
これ、俺、なのか……。
いくら鏡を覗き込んでも目の前には美少女がいるだけ。俺は鏡に手を合わせると、美少女も手を合わせる。当たり前だ、鏡だぞ。
「はは……、マジかよ」
あまりにも自分とはかけ離れた美少女っぷりに乾いた笑い声が漏れる。誰だよこれ、俺だよ。
何度鏡を見返しても彼女を俺と認識できない。
「……誰もいないな」
近くに誰かいないか聞き耳を立ててみたが、少し離れた場所で足音が聞こえるくらいだ。鏡に向き直る。
ウインクしてみるか。
おお、めちゃくちゃかわいいなあ。
「これ俺なんだよなあ……」
ウインクしてすぐ自己嫌悪に陥った。
アイデンティティがとんでもない方向に飛んでいってしまっている気がする。
我考える故に我あり、よし、俺だわ。この思考回路は俺。俺に違いない。
鏡を見る。
俺じゃねえわ。
「ははっ、なにしてんだろう……」
とりあえず、俺はこの美少女、この美少女は俺。
よし、これ以上は考えない。
「それにしても本当に美少女だなあ……」
奈央香が構いたくなるのもなんとなくわかる気がする。あどけなさが残り、大人な部分が見え隠れする年頃。完全に中学生だな。稀にいる中学生の美少女を5倍くらい可愛くした感じだ。俺が同級生なら告白して撃沈するまである。
中身は成人男性だけど。
「でも、なんか変なんだよなあ……」
もう一度聞き耳を立てる。まだ近くで足音がするが、これは階下だな。
姿見の前で横を向いたり、後ろを向いたり、しゃがんでみたり、いろいろとポージングをする。
なるほど、変な感覚の原因がわかった。
ロングスカート似合わねえ……。
見てくれから推察するに、巫女服とかが似合うのだろうけど、どんなにポージングしてもロングスカートが似合わない。尻尾の部分がモコってしているのが原因だ。人によっちゃありかもしれないけど、尻尾がほとんど隠れてしまっているから狐娘としての魅力が半減だ。尻尾が外に出るような服があれば超絶美少女狐っ娘らしくなるのかも————。
「忘れ物したー」
体がビクッと反応したが、扉を開ける過程でそれは見えなかったはずだ。
「な、なにを?」
「……」
「……」
扉を開けた奈央香はこっちをぼーっと眺めて、すぐに口が三日月状にニヤけた。
「鏡の前で何してたのかなー?」
こいつほんとにいい性格しているなあ!
ニヤニヤと笑う奈央香を前に俺の脳みそはフル回転していた。回転しすぎて何を言えばいいかわからない。俺の脳みそテンパっているじゃねえか。
「え、えっと、その……、着替え」
言い訳をしようとして頭が回らない。次第に顔に熱が集まる。
「むふふ、着替え? 本当かなー? ほらほらお姉さんに教えてみ? 鏡の前でどんなポーズとってたの?」
くそっ……、感情の制御ができない。顔が真っ赤になったまま、食堂に行くまで奈央香に頭を撫で回されてしまった。
朝ごはんを食べ終えた俺たちは、街の復旧の手伝いかと考えていたのだが、今日は休みでいいらしい。昨日は来て早々に作戦に出撃という多忙だったからだという。
夜にはこの国の王が帰ってくるから、それまで自由時間とのこと。
修也と空河は武器を扱う練習に、俺と奈央香はシスターさんの指導の元、この世界の勉強だ。何かと違いがあってわからないことも多いから、勉強しなくてはならないとのこと。
今は落ち着いて話せる図書館へ向かっている。
「勉強ってのはわかるけどさ、俺も修也たちみたいに棒術くらいはやっておきたいんだが……」
「申し訳ありませんが、ムツメ様が特にこの世界の常識を知る必要があります」
「えー……」
「ムツメ様はこの世界の獣人と違い過ぎます」
おかしいな。女神が俺を獣人にしているのだから、こっちの世界の獣人とギャップがあるとは思えないのだけれど。
誰もいない図書館のテーブルにシスターさんに向かい合うように奈央香と並んで座る。
「ま、まあ、獣人のことはひとまず置いておいて、まずはこの世界の現状のお話からしましょう」
歯切れ悪いな。何か言い出しづらいことでもあるのだろうか。
「この世界、この星のことですが、1週間ほど前から、人類以外でも新しい生命が誕生しなくなりました」
「……」
「魂についても説明いたしますね。死した魂は天界に登り、再び地上へ戻り、繰り返される生と死で魂は成長し、天界を大きくしていきます」
そんなサイクルがあったのか。天界ねえ。
「魂の総量は天界の大きさになり、大きければ大きいほど神々が存在します。現在は女神様が一柱まで減るほどに魂は枯渇しました。そして現在、天界の魂は枯れ果て、今生きている生命がこの星の限りになります。しかし、昨日の一戦で王都で喰われた魂が帰還していますので、また命が誕生することになりますが、昨日の分ではすぐに新しい生命が誕生して、天界の魂のストックは間も無く枯渇してしまうでしょう」
天界の魂が枯渇すれば、生命が誕生しないのか。
昨日の晩餐で少量の肉が出てきたけど、俺たち4人分だけで、他の官僚やシスターさんの食事にはなかった。今朝はロールキャベツだ。つまり肉類は貴重な魂を割いて育成しなくちゃならないから超高級品扱いか。あれが最大限のおもてなしか。
「質問が1つ、魂ってのは植物にはないのか?」
「ありません」
「わかった」
生命を考えると細胞の中のDNAとかを考えるが、どうやら魂には関係ないらしい。この星に降り立った時に草原があり、森があった。俺の日本人として生きてきた価値観と結構異なる。
「敵の強さについてもお教えします。今、この星を攻めている魔族は魔王という大将を頭に、数十億という数がいます。大半は神託を受けていなくても倒せる程度の弱い魔族ばかりです。しかし、中には神託を受けている兵が数人いても瞬殺されてしまうほどの強い魔族もいます。街中に入り込んだ骸骨の魔族がそれに該当します。魔族の強さとしては中間くらいでしょう。数にして数千くらいでしょうか」
あの骸骨、そんなに強かったのか。この世界の兵士の強さをきちんと認識しておく必要があるな。あと意外と少ないんだな。
「他にも神託なしでは戦えないほどの強い魔物が大量にいました。勇者様方は簡単に倒してしまいましたが」
俺の脳裏に触手の魔族が浮かび上がってきた。確かにあの魔族の触手も俺観点ではそこそこの速さにしか見えなかったが、普通の人間には高速でうごめく触手になるだろう。
俺も状況が最悪で選択肢がなかった中では奮闘したが、それでも危うく犯さ————、違う、殺されかけたんだ。もっとも魔法が常時ぶっ放せる距離と空間があれば万が一にも負けることはなかった。
あの程度の強さの魔族でも国は滅びうるということがわかったし、逆に考えれば俺たちのやるべきことがわかった。
「強い魔族は大量の魂を喰らっているのか?」
「はい。魔王がこの世界の半分ほどを、側近の四大魔将がそれぞれ1割ほどを、その他強力な魔族が喰らった魂と今生きている生命が残りの1割になります」
「なるほどな。俺たちの役目は全員ぶっ飛ばすことだけど、まずはその四大魔将ってやつを倒すことを目標にすればいいんだな」
「はい、話が早くて助かります」
そこから歴史のお勉強だ。シスターさんも手短に済ませてくれた。
100年以上前は七大魔将だったらしい。神託を得たこの星の勇者が5体の強大な魔族を倒した。足し引きが合わないのは、2体まで減ったら魂を大量に喰った2体が昇格した。それで四大魔将になったとのことである。
普通、魂は一度に地上に降り切ることはなく、100年以上前からじわじわと星の魂の総量を削られた。天と地を行き来する魂が天に戻ることが少なくなれば、天から地に魂が供給され続け、天界の魂は枯渇する。100億人は同時に存在し得たこの世界も、気づけば500万人を上限としてしまったとのこと。
魂は長い年月費やして魔族に喰われ続けている。どちらかというとこの星に魔族が寄生しているようにも思える悠長な侵略だ。そうでもしないと天界に残った魂を回収できないからか。
これらが魔族侵略の歴史とやつらの行動指針らしい。
「女神の頼みは魂を取り返すことか……」
あと気になったことがある。
「魔王は狩場を移さないのか? この世界で刈り取れる魂の量は少なくなっているのだろう? この地に残る意味がなくないか?」
「そうですね。狩場と称するのは嫌ですが、次の標的の星を探しているのは確かでしょう」
「探すのに時間がかかると?」
「はい。まだ攻められていない星々を探すのに時間がかかっているのでしょう。いくつか魂のある星を見つけてもすでに他の魔族勢力が侵攻していたりします。魔族の星の見つけ方は結構地道なもので、魂のある手付かずの星を見つけるのは至難の技らしいです」
「そういうことはなんでわかるんだ?」
「女神様に教えていただきました」
あいつか。
「次の星が見つからないなら、魔族は最後まで我々を喰らい続けるでしょう」
単純明快だな。俺たちは魔族をぶっ倒す。こっちも単純明快だ。
「私たちの目的はわかったし、魔族のこともわかったけど、わからないのは私たちのこと。どうにも私には腑に落ちないことがあるんだよね」
今まで黙って聞くだけだった奈央香が口を開いた。
「腑に落ちないとは?」
「どうもさ、神託と魂ってのがイマイチちぐはぐに感じるっていうか。魂は遺伝する部分があるんだよね?」
「はい、親の魂の総量を子が受け継ぎます」
「ならさ、神託受ける前に子ども作ってから神託で魂削ればいいんじゃないの?」
言われてみれば確かにそうだな。言われるまで気づかない俺の馬鹿さ加減にちょっと引いた。自分に引いた。
「そ、その……」
「うん?」
シスターさんが恥ずかしがっているような……。
「神託はその……、いくつか条件がありまして、性交渉したことのない方にしか神託による能力譲渡はできませんので……」
……。
…………。
なるほどなるほど。
性交渉前ということは子どもを作ってからでは神託は得られないと、なるほどなるほど、それなら確かに魂の量を引き継げないのも納得がいく。
なるほどなるほど。
……俺は20歳童貞ですって言っているようなものじゃないか。
「ちょっ! なんでよ!? 修也たちには言ってないでしょうね!?」
「そ、そのうちバレるかと……、それと、やはり知らなかったのですね」
奈央香とシスターさんが騒ぎ立てる中、俺は机に両ひじをついて、手を口の前で組む。
「なにその『15年ぶりだな』って言いそうな格好は……、……あ、うん、ごめん。20年かな?」
そっとしておいてくれ。
「穢れなき魂だけが分割を可能にするとか……、詳しいことはわかりませんが、子どもを持った人を神託した過去がありますが、いずれも人の身のままではいられなかったとのことです」
実験結果があるんかい。
「魂については私たちも全ては知りません。なぜ魔族に喰われた魂が、何年経ってから倒しても返還されるかとかもわかりません」
確かに消化とかされないし、魔族が魂を体内に取り込むと強くなる理由とかもわからないな。
「それと……、神託が話題に上がったので……、ムツメさんの話をしてもよろしいでしょうか?」
「ん? あー、構わないよ」
ここで俺の話か。このタイミングは嫌な予感しかしないぞ。シスターさんも話しづらいのか一つため息を吐いてから話し始めた。
「神託は成人の15歳からしか受けられないという条件もありまして、それで先の話にも戻るのですが、獣人は15歳まで生娘でいる女性はほとんどいません。噂程度には聞きますが、私自身、見たことはありません」
「なんで?」
「やはり……」
またシスターさんは口を閉ざしてしまった。シスターさんのいう世界の違いというやつか。
「ムツメさんたちの世界の獣人と私たちの世界の獣人は違います」
なんか口調を改めているが、そもそも俺たちの出身の地球には獣人って存在がファンタジーだから。違いも何もないんだけど。
「この世界の獣人には”発情期”があります」
……。
…………。
なんだって?
「発情期?」
「はい、発情期です」
「年に何回かうるさくなるやつ?」
「そうです。春先とか猫がうるさくなるやつです」
ほ、ほう。
な、なるほど、先の話と合わせて考えると……、成人を迎える前に発情期で盛って非処女になるから神託は得られないということでファイナルアンサー?
『ファイナルアンサー!』
「メテオ!」
『間髪入れずに答えちゃダメでしょ! もうちょっと間を溜めて!』
「うっさいわアホ女神!」
『アホちゃうわ』
あー、もう。あー!
あー。もうっ!!!
「ムツメ様、大丈夫ですか?」
「あー」
「壊れてる……」
なんもかんもこのアホのせいだ。ちくしょう。
「あの……、話を戻しますね。獣人は神託を受けることすら稀なのは、普通の獣人は12歳くらいから発情期の期間に性交渉いたします。ですので、ムツメ様のように可憐で美麗で神託を受けている獣人の少女というのは極めて珍しい存在なのです」
発情期とか性交渉とかグサグサ刺さるからやめてください。
なるほどな。街中でも作戦会議でも注目を浴びた理由もよくわかる。美少女獣人かっこ処女か。そりゃ男の視線が煩わしいわけだ。
シスターさんが俺に勉強させようとしてた理由がこれか。
片や12歳で性を知る獣人と片や20歳でありながら少女の姿の処女の獣人か。違いすぎるから勉強して欲しいと。わかってほしいと。わかりたくなかったわ。
「至急、発情を抑える薬を発注しますが、間に合うかどうか……」
「オネガイシマス」
参った。女になって2日目でこんな予期せぬ窮地に追い込まれるとはな。魔族が強いとかじゃなくて、人類が滅亡しかけてとかじゃなくて、発情期で俺の性事情がやばいという窮地になるとは思わなかったよ。
『それと私から一応忠告ね。ムツメさんは地球という異世界出身です。この世界の獣人の価値観とはまるっきり合わないわ。他の獣人には気をつけてください』
「……忠告どうも」
女神め、元はと言えばお前のせいだろう。この腹黒タヌキいつかしばいたる。
ただ、女神からの忠告は1つだけではなかった。口調を変えてフランクに爆弾を投下してきた。
『それとー、ムツメちゃんはお狐さんだから、冬場が発情期になりまーす。今いる国だと12月から1月が発情期なのであと1週間くらいからですねー、たぶんお薬間に合わないです』
……。
…………。
嘘だろ?
俺は全身の毛穴から汗が吹き出る感覚に襲われ、身の毛がよだつ悪寒が全身に走った。
誤字訂正機能とかあったのね。ハーメルン使うの初めてだからさっぱりわからない。
長い説明回かつ駄文ですみません。
ようやく本編に入れそうだぜ。