発情期……、発情期ねえ。
突如女神から告げられた俺に関連する重大な問題に頭を悩ませている。考え事をしながら食事を口に運んでいたが、気づけば皆食事を終えて一人になってしまった。
昼食後に戦闘訓練のために場内にある訓練場に顔を出したら、先に食事を食べ終えていた空河と修也が木刀で斬り合っている。俺は杖を回し突きやなぎ払い、杖を棒高跳びの要領で支えにして二段ジャンプしてみたり色々と体を動かしてみたが、頭の中から先ほど告げられた言葉が抜けない。
「どうした?」
「空河か……」
「悩み事?」
「ああ、そんなところだ。なんか用か?」
「棒術の練習しにきたっていうのに上の空だから気になってさ」
「まさか空河に心配されるとは」
「どういう意味!?」
空河は昨日大して活躍してなかったからか練習に精を出しているようで、寒い時期なのに汗をかいている。一方で俺は体は温まっているが汗をかくほど運動はしていない。
「俺のことはどうでもいいよ、空河は戦闘スタイル確立できたのか? 女神の用意したモンスターのほとんどは修也が倒していただろ?」
発情期のことを話したくもないから話題を変える。
「攻撃手段のこと?」
「うん」
「あるにはあるけど、俺はやっぱりメイン盾だな」
「あ、そう」
それでいいのかよ。
「ムツメちゃんを守れる戦士になれば満足さ」
なぜちょっとイケボ出した。
「ちゃん付けと気持ち悪い声と気持ち悪い思考と気持ち悪い顔をやめろ」
「全否定!?」
「第一になんで空河は俺に構うんだ? 俺が元男だってこと忘れたか?」
「それは……」
空河にしては珍しく本気で狼狽える。
「それは?」
「ムツメちゃんがめちゃくちゃ魅力的だからに決まっているじゃないか!」
「いや、いきなり力説されてもな……、確かに今は女だけど、元男だ。元男だぞ!」
「ムツメちゃんは自分の魅力を全然わかっていない! 元男なんて関係ないんだよ! 狐耳だよ! 狐耳! 地球にいた頃には諦めていたケモミミっ娘が目の前にいるんだよ! コスプレじゃない本物の獣っ娘! ふわふわモフモフの尻尾がゆさゆさ揺れる可愛い娘が目の前にいるんだよ! それがたとえ元男性でも面影一切ないくらいの超完璧美少女であり、むしろ女の子扱いするとお仕置きしてくれるご褒美付き狐娘なんですよ! 触れられる生ケモミミが存在する上に、生尻尾に顔を埋められるんだよ! この世界に来て本当良かった! リシア様ありがとう! それにムツメちゃんだけじゃないケモミミもいるのはわかるけど、やっぱり手の届くケモミミのありがたみを忘れたらケモミミに失礼すぎるし、なによりムツメちゃんの尻尾の心地よさは他のケモミミの尻尾を触ったことないけど世界一と言える! 1分の1で世界一だね! むしろ宇宙一だよムツメちゃん最高!」
あ、うん、もういいです。途中から何言ってるかわからなかった。
藪蛇だったなあ。
というか途中狐娘とか関係なかった気がするんだけど。俺、鳥肌立っているのはなんでだ?
「ケモナーってやつか」
「俺は軽度ケモナーですけどね」
軽度ケモナーって何?
「俺はケモミミを愛しているんです。ムツメちゃんを愛でたいんです」
「愛でられたくないです。他のケモミミ愛でてください」
「そんなぁ……」
なんとなくわかったが、こいつこの世界に来てしまってタガが外れているな。たぶん地球じゃここまではっちゃけてはいなかったはずだ。そのうちケモミミハーレムとか作りそうな勢いだ。先に言っておくが俺は入らないからな。
日が暮れた。
空河と駄弁ってから思い悩むよりも体を動かそうと、汗をかくくらいには棒術の練習をした。汗をかきすぎて王が帰ってくるというのに先に風呂に入り、体が火照った状態で顔合わせになってしまった。だが、王の帰還ということで仰々しい催しにでもなるかと思えば、案内されたのは昨日も訪れた作戦会議部屋だった。
城の中で過ごしているからか、高待遇なせいで忘れていたが、世界は本当にやばい危機的状況下である。そのことを少し忘れていた。王といえど、ただの1人の人間、1つの魂に他ならないということか。
「おかえりなさいませ」
シスターさんが扉を開け、王を部屋へと導いた。
ごくりと誰かが唾を飲む音がする。
俺だったわ。
思いの外緊張しているらしい。
「うむ、初めまして。勇者の方々。この国の王をやっているヘイストスだ」
挨拶は実にシンプル、実に丁寧。とても好感のもてる王様だろう。へりくだることもなく偉ぶることもなく。だが、見た目が違う。見た目に問題があるぞ。
「異世界の方は魂の総量が多いと聞くが少し華奢すぎる。体づくりもしっかりとやっておかないと、いつ命を落としても不思議ではない。っと、来て早々説教くさいことを垂れてしまったが、君たちには絶対に死なれては困るのでな」
なんだこのゴリマッチョ。筋肉すげえ。緊張吹き飛んだわ。
「というわけで、今から私と一緒に筋トレをしよ——」
「王?」
シスターさんが呼びかけると王様がびくんと震え上がった。
シスターさんってめっちゃ偉いんだな。王様叱りつけられるんだ。
「あ、はい。……ごほん、よく来てくれた歓迎しよう」
なるほど。筋トレ趣味の王様ね、メモメモ。またキャラが濃いのが現れたなあ。
奈央香に肩をトントンと叩かれた。
「この国大丈夫かな?」
「大丈夫だろ」
城内のメイドから話を聞いたが、今代の王様の戦闘に関しては、技量だけでなく下地も強いとのこと。つまり筋肉だろうな。普通筋肉を重くしすぎたら動きに支障が出たりするものだが、男だから神託でバフ効果を得られる。バフがあれば筋肉の重みで動きの遅さも補えるだろう。戦闘スタイルは正面突破の無双型、武器はハルバード、戦績も魔王直属配下の四大魔将の側近を瞬殺するくらいには強いらしい。正直、側近と言われても、相手の強さがどの程度かはわからないけど、四大魔将とタイマン張れるくらいには強いんじゃないだろうか。
人格については知らん。
「勇者の君らも自己紹介してもらえるかな?」
俺たちは席に着き、促されるまま軽く自己紹介を始めていく。まずは俺からか。
「俺……、……私はムツメ。スキネ・ムツメ。攻撃型の魔法使いです」
「ほお、獣人の女性か。珍しいな。ああ、あと一人称は俺で構わないぞ。オレっ娘属性はなかなか熱い」
ん?
「そうですよね! オレっ娘最高ですよね!」
「ほお、なんだいける口か。わかる、わかるぞー。しかもただのオレっ娘じゃない、狐っ娘でもある。素晴らしい!」
「王様が同士だったとは!」
んん?
「ライト——」
「ちょっ! ムツメちゃん抑えて抑えて!」
悪は倒しておいたほうがいいだろ。奈央香止めるな。目の前で立ち上がって机を挟んでハグしている気持ち悪い男2人を倒しておかないと。
「イオーネさーん」
「はい、ムツメさん一旦抑えてくださいね。あとで王様の分のお肉をおかずに入れておきますので」
仕方ないな。タンパク質は貴重だ。怒りを抑えよう。
「あれ? 私のお肉は? 1ヶ月ぶりのお肉は?」
「今なくなりました」
「そんな……」
「口は災いの元ですよ」
あとついでに空河の分もよこせ。
その後、各自の自己紹介を終えたところで、次の作戦の会議となった。参謀部の人が資料を持って話し始める。
「勇者様方には先にお伝えしましたが、現在幾億の魔物がここに進軍中です。破壊された結界制御装置は技術士が寝る間も惜しんで復旧作業に当たってます」
城で爆睡してて申し訳ないな。
「進捗状況から、結界は第一陣の防衛には間に合わないかと」
「なに? ここに帰ってくる道中に、間に合うと聞いていたが?」
「どうやら物資の搬送に手間取ったせいですね。地下に運ぶのに、作動していたトラップに苦戦し、うまくいかなかったと」
俺は横目で奈央香と空河、ついでにシスターさんを睨んでおいた。全員目を背けた。
修也は3人を庇うかのように話を進める。
「幾億の魔物といっても強さは大したことないのでしょう?」
「え、ええ。まあ……、ですが数が数なので」
「ムツメ」
修也が俺に目を向けてきた。
「できるか?」
「わからない。まだ全力で魔法を使ったことないから」
一応宇宙空間に向けて全力でメテオを撃っているから放ったことがないわけではないけど、全力の上位魔法を放った結果は知らない。魔族の進行が億単位だというのも、まず億単位という規模を実感できないし、その数にどれほど全力の魔法が効果的かもわからない。
「ムツメは大規模攻撃魔法を持っています」
「ただのオレっ……げふんげふん。ただの獣人の女性ではないというわけか」
ん?
「なんでもないぞ。それで、他に問題はあるか?」
「侵攻は南側から主に来ますが、取り囲むような動きを見せていますので全方位からやってくるかと」
「セオリー通り、包囲攻めだな。あー、そうだ。この世界の籠城戦のセオリーを知っているか?」
知らないな。勉強会ではそんなこと教えてもらっていないんだけど。
「ずっと籠城したままということはない、打って出なければ遠距離から魔法で炙り焼きにされてしまうからな」
魔族も魔法を使うんだな。骨のドラゴンは……、あれ魔法だったのか?
「基本的に敵陣を打ち破りにいくのは男どもで遠距離の打ち合いには女性が戦う。だが、ムツメさんの魔法が強力なものであれば、本陣切り込みはムツメさんにしてもらおうか。切り込みといっても本陣にいたまま敵を崩してもらうぞ」
訂正するタイミングがないから、さん付けされてしまう。ちょっとむず痒いな。
「1つ質問がある」
「どうぞ」
修也が手を挙げ、王様が発言を促す。わざわざ挙手したあたり真面目な話か。
「籠城戦に攻撃をしかけるということは炙り殺しにした後にでも魔族は魂を回収できるのか? だとしたら死んだばかりの魂ってのはどれくらいの期間地上に滞在するんだ?」
「7週間だ」
49日(しじゅうくにち)じゃねえか。地球というか日本要素がいきなり出てきたんだけど、え? 全宇宙共通事項なのか?
「なるほど、味方がやられても時間を稼いで喰べられないようにするとかは意味ないんだな」
「そうだな、そういうことになる」
修也は普通にスルーしたな。騒ぎ立てるほどのことでもないか。
そうだ。俺も質問がある。
「南側の城壁を見ておきたいんだけど」
「城壁?」
俺の言葉に反応したのは元帥さんだった。王様じゃないのか。
「城壁というか防備というか、第二陣の本隊が南側以外から来た場合、来る方角に速やかに移動しなくてはいけませんので」
「それならば、ムツメ様の案内役をイオーネにしてもらいましょう」
イオーネさん雑用しすぎじゃないか?
「かしこまりました」
かしこまっちゃったよ。元帥さんの指示で護衛兼案内役をゲット、ということになるのかな。
「作戦に関しては私たちで考えますので、今一度勇者様方の特徴といいますか、強さを知っておきたいのですが……」
俺が大規模攻撃魔法を扱えることをそもそも話していなかったから、話がこの会議でトントン拍子に進みすぎて予定と大幅にずれてしまったのだろう。この国の参謀にも最初から俺たちの強さに関しては伝えていないままだった。
「と言いましても、俺たち自身、自分たちの強さに関しては測りかねています」
「あ、そうですか。先ほど全力を出したことがないというのは……」
「自分の力の危険度を正しく認識できていないので、今回の侵略である程度測ろうかと」
「わかりました……」
参謀本部としては困るだろうな。使える戦力が未知数というのは扱いが難しい。でも最低限、王都を侵攻した骸骨よりは強いという認識はあるはずだから、それで勝てるなら問題にはならないだろう。勝てないなら少し考える必要があるだろうけど。
「今どこかで上位魔法を放つのは得策じゃないな。相手が引いてしまいかねない。攻め込んでくるところを一網打尽にできるかもしれないんだ。その機会を逃したくはない」
「……そうですね。一応今わかっていることはこの城の規模程度なら木っ端微塵にはできるかと」
『なっ!?』
「ですが、数億となれば……、あれ? どうかしましたか?」
俺たち4人とイオーネさん以外が全員席を立ち上がって驚いていた。あ、もしかして魔法に関して言っちゃまずかったか。
「別に城に魔法は撃ち込みませんけど?」
『王ッ!』
参謀本部の方々が王様に詰め寄り始めた。
「あんな失礼な態度とって! 今すぐ謝りなさい!」
「王という以前に人間性が疑わしい!」
「年端もいかない少女に向かってなんという言葉を、恥を知れ!」
「この筋肉ダルマが!」
最後ただの悪口じゃねえか。
王様は部下に責められ続け、へこんでいる。一方で俺は危険度からか畏怖対象からか、もてはやされてしまい、なんだか魔王になった気分だ。
魔法のこと言わないほうが良かったな。怯えられてしまうだろう。むしろ魔族との抗争が終結した後に危険分子として国外追放とかされそうだ。もう言ってしまったから仕方ないし、どうせ魔法を使えばバレる話だけど。
ちなみに後で聞いた話だが、参謀本部にいた彼らと王様は学生時代に同級生のため、咄嗟の出来事では硬い口調が砕けてしまうらしい。
空河の性癖ともう1人のケモナー
あと1話挟みます
話はそれからだ
推敲なにそれ美味しいのをやりすぎている気がする
そのうち第1話とか直さなくては