イデアとソウマが再び、窓の外で星を見ていると、泣き腫らした目の奏とそれを介抱するアスカを引き連れた七実がやってきた。
「イデア、翼ちゃんは、いつも通り危篤状態よ」
七実は、微笑みながら、イデアに現状を報告する。
「あぁ、だが、助かったよ。私と我が魔王を二人きりにしてくれて」
「えぇでも、あのおじいちゃんを素通りさせてほんとによかったかしら」
「あぁ、おかげで、我が魔王も立ち直れたし、ウォッチも継承できて万々歳だよ」
イデアと七実は、世間話をするように話している。実際に人一人が死にかけている状況に反している様相であった。
「あんたら、人が重傷になっていて、なんで、そんなにヘラヘラ笑ってるんだよ‼」
奏は、大切な相棒が重症になっている現状に、自分が守ると考えていた少女が傷ついて倒れた現状を馬鹿にされたような二人の反応に限界と、二人の超越者に牙を剥き、胸の待機状態のギアを握りしめ、今にもとびかかりそうなっている。その殺気にも似ている激情を受けても、超越者である二人には関係のないように話し始める。
「あぁ、彼女がこうなるのは予定調和なんだよ。まぁ、立花響がアナザーライダーのせいで、ダメージを受けすぎたのはかなり、現在が計画外の状況なのが悪すぎるからね」
「そこは、私が軌道修正するわ。だから、とりあえず、ルナアタック終結までには、最低でも6個継承してもらわないといけないのよ。だから、魔王のことはあなたが何とかしなさい」
「わかっているさ」
二人の自分たちは眼中にないような言い方に我慢の限界が訪れるとびかかろうとする。しかし、ソウマが手で制する。振り返って首を横にふるう。
「ここは、任せて。俺のことを信じられるほど付き合いがあるわけじゃないけど信じてくれ」
奏は信じられないというような反応だったが、ソウマの自信にあふれた姿に気圧される。その隙に振り向いてイデアに苦言を呈する。
「なぁ、イデア、俺も今回は、ヘラヘラ笑っているべきじゃないと思うよ。例え、それが決まっていたことでもね」
ソウマの変わりように、イデアは、笑みを深める。悪意とも呼べるものが感じられるほどに
「君も、随分と業がなじんでるようじゃないか。これは本当にうれしい誤算だね。君が望んだからかな……」
だが、と口にしながら、先ほどの笑みはなりを潜め、苦笑に変わる。
「我が魔王。今の君は覇道を進むか、王道を進むか以前状態なのだよ。だから、君は進まなければいけない。世界の破滅を防ぐためにね」
【世界の破滅】という、一転して聞きなれない単語に、脳が一瞬理解を拒む
「世界の破滅なんて聞いてないけど」
「伝えてなかったかな、君が魔王にならなければ、世界はほんとの意味で滅びる。まだ、荒廃した未来のほうがましさ」
重要事項といえる内容をうっかり伝え忘れていたなぁという風にとぼけて答える。それでも、荒廃のほうがマシだと、アスカを意味深に見る。
「なんだと……未来では、みんな、苦しんでいた。俺の仲間もみんな……だからこそ、あんな未来を回避するために、榊ソウマには消えてもらう。世界が荒廃した原因であるこいつにな」
脳裏に焼き付いているものがアスカを苦しめる。仲間たちが塵に還っていく様子が、虫を潰すように簡単に消えていく命が理性の鎖を破壊していく。
「今は、何も言っても意味はないからね。何も言わないことにするよ。だがね、世界が荒廃した日。そうだね【逢魔の日】とでもいっておこうかな」
アスカを煽った当人は、説明を無駄といい、それでも、軽く説明は必要かと悦明を行う。
「逢魔の日には世界は間違いなく君の手で救われた……が世界が荒廃を始めた日でもある。真実は今は語らないよ。だが、君はいつも変わらず、世界を守るために戦っていたよ」
しかし、イデアの説明では納得がいくものではない。守るためとは、到底信じられない言葉に、感情の高ぶりが抑えきれないでいるアスカと哀れなものを見る目で見下すイデアの舌戦は続く。
「守るためだと……笑わせるな‼オーマジオウの手で仲間たちがどれだけ犠牲になったと思ってる‼」
「それは、君たち錬金術師が一番わかっているはずさ」
イデアは、アスカの怒りに意味が分からないというように一蹴する。あまりにも認識の差が隔絶している2人に対してソウマが二人の間に割り入って二人の仲裁に入る。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて、ね……ねぇ逢魔の日ってどういう日なのかもう少しだけ教えてくれないかな。そうじゃないと対策も立てられないからね」
ソウマは、話題を反らし、状況の改善に努める。イデアは、仕方がないと言いながら、手に持っている本を開き、答える
「今回の翼君の絶唱もすべて決まっているのさ、すべては善なる神のシナリオだからね。だが、君がライダーの歴史を受け継ぎ、魔王となるのも決まっていることなんだよ、それが我ら悪なる神のシナリオだからね。その決着がついた日、それこそが逢魔の日なのだよ」
善神と悪神という、またも想像の埒外ともいえる単語に頭を抱えるものの、これらの会話で出した結論はやはり、王であるが故の回答であった。
「じゃあ、俺が、アスカの言う通りの魔王にならなければいいんだよね」
「それでは、世界が滅んでしまうよ」
「俺が、世界を荒廃させずに世界を救ってみせるよ」
それは、どこか傲慢さを感じてしまう回答ではあるものの、それはいまさらというように、己が意思を掲げる。それに2人の超越者は呆れるように、だが納得したような反応を見せる。
「では、そう信じてみようじゃないか。いこう七実、これ以上は野暮というものだ」
七実がイデアに近づき、イデアのストールに包まれ、姿を消す。その突風のように場をかき乱すだけかき乱した二人は姿を消したのだった。
病院の屋上にワープしたイデアたちは、星を見つめながら、疲れたように答える。
「我が魔王、世界を救うだけでは意味がないんだよ」
その言葉は、面と向かっては口にはできないものであるが、いつかは気付いてほしいと思っていることであった。
満点の星空に仮面の英雄を重ねながら、超越者達は【今回こそ】はと寒空の下で肩を寄せ会うのだった