イデアが仮面ライダーについて語り終えると、白衣を着た科学者のような風貌の女性が疑問を口にする。
「質問をいいかしら」
「君は確か……あぁ櫻井了子だったね今のところは」
意味深に彼女の裏があることをそれとなく仄めかす彼に対し、櫻井了子は流すように軽口で返す。
「神様に名前を憶えていて貰えるなんて光栄ね」
「質問は2つ。あなたやソウマ君のもつフォニックゲインを無力化する力とあの化け物がフォニックゲインを吸収していたことについてよ」
先の戦いでの戦闘データより、ライダーの力を纏っていた2人は絶唱の衝撃をある程度殺し切っていたことや、戦闘時のフォニックゲインを彼らの周辺で無効化されている等のことがソウマ達を除くこの場にいる彼らの共通の疑問になっているようであった。しかし、専門用語の塊で、ソウマは理解しようとするが思考を停止してしまう。それに対しアスカは錬金術師としての自身の知識に照らし合わせながら理解を進めていた。
「あぁ、そのことか」
疑問に対して、神の権能についても交えて説明を始めていく。
「我ら悪なる神が所有する権能は共通していてね。自己を確立する力さ」
「自己の確立とは、他者の干渉の影響を一切受け付けない内面の形成だ。故に人はそれぞれ別の自己を持つゆえに、根本的には分かり合えない」
「つまり厳密にはフォニックゲインというよりも、他者に干渉する歌の力を完全に無力化しただけなのさ」
他者を拒絶する力である自己を確立する力ゆえに、ソウマは先の戦闘時の歌の歌詞が聞き取れなかったことについて納得を得た。
「歌の力の無力化ってどういうことかしら」
「簡単だよ。歌は月が人を惑わすよりも前に存在した言語に最も近しいものだからよ」
イデアの傍にいた七実は、訳知り顔で説明に加わる。
「かつて、ルル・アメルたちがカストディアンたちから渡された力。彼女、善なる神・ミラが持つこの世界に初めから存在する力。それをただフォニックゲインと君たちが定義付けただけに過ぎない」
「つまり、善なる神は他者に干渉し、悪なる神は自己を確立する。故に、ライダーの力がフォニックゲインを打ち消したのも説明がつくでしょ」
七実の説明から、ソウマが未来を庇った際に炭化を起こさなかったのは他者の拒絶と哲学兵装の力を並列で使用することで打ち消していたことであった。だが、そうなるとなぜ自分は悪神の能力を使用できるのかとという疑問が浮かび上がる。
「なぁ、イデア、なんで俺は悪神の能力を使えるんだ」
「それを知るにはまだ早いのだよ」
不安そうな声を上げるソウマとは対照的にイデアは妖しく笑う。
彼らの間に流れる悪い空気を断ち切るように、了子は先ほどの質問の回答を急かす。
「ところで、怪物の能力についても話してもらえるかしら」
「ふむ、あの怪物はなぜ、フォニックゲインを吸収できたのかという質問だが、あれは」
「あれは善なる神が作った仮面ライダーの贋作物の贋作物。本来であれば、ライダーというのは、自己の確立、人の心ゆえの力なのよ」
「つまり、アナザーライダー達は善なる神が魔王の力を自分の力で再現しようとしたからこそ、吸収という方向性になっただけ。だから、ライダーの力にはどうしても有利を取れないのよ。どっちにしても猿真似だもの」
説明を遮られ、全てを説明されたイデアは膝から崩れ落ちるのであった。それを見ながらクスクスと七実は笑う。しかし、次の瞬間、イデアと七実、そして未来はそれぞれ何かを感じ取るような反応をする。イデアは剣呑な空気を纏い、七実は感じ取ったものの方角に体を向ける。だが、未来は感じ取ってはいるものの、感じ取った事実に困惑し、自身の気味の悪さに背中に怖気が走るのであった。
「どうやら、ノイズが現れたようだね」
「それはどういう」
「司令、ノイズが工業地区を中心に2か所で同時に発生したようです」
「なにッ」
イデアの反応に困惑しながらも、指令という立場上、指示を行わなければならないため、先ほどの困惑と疑問を意識の隅に追いやる。
「さて、我が魔王。ノイズの発生地域にいこうじゃないか。折角手に入れたウォッチの実践にちょうどいいんじゃないかな。もちろんアスカ君にも協力してもらわないとね」
「なんか、作為的なものを感じるんだけど」
「気のせいだよ」
どこか意図のあるタイミングとも取れなくないが、実際のところは偶然であるというのは理解している。しかし、彼のどこか先のみを見ているような立ち振る舞いからか、どうしても、この襲撃を利用しているようにしか思えないのであった。彼は灰色のオーロラを出現させるとソウマとアスカの判断を待つように、腕を組み、近くの壁に寄りかかる。
「お前と協力するのは癪だが、民間人を放置する訳にはいかないからな」
アスカの釈然としない顔ではあるものの、民間人の命を第一と考えている点から、本人の気質が底なしのお人よしだというのは会って間もないソウマ達にも伝わっていた。ソウマはそんなアスカを傍目で見ながら、昨夜のことを思い出す。
(俺は結局、響を守れず、風鳴さんが傷つく事態にしかできなかった……でも、なんか、行かなきゃいけない気がする)
心の底から湧き上がるこの状況への不快感と焦りを戦いへの恐怖心諸共、震えながらも掌で握りつぶす。目を閉じ、肺で空気を吸い、覚悟を決める。
「それじゃあ行こうかみんな」
「じゃあ、風鳴さん。俺たちはこれから片方のエリアを対処に向かうからまた今度」
振り返り、弦十郎に対し約束を交わす程度の軽さで灰色のオーロラに向かっていく。
「じゃあイデア、未来を頼む」
未来はソウマが戦いに行くことに対し、消えない不安が付き纏う。昨日の朝にみた悪夢が頭から離れない。
「それじゃあ、未来行ってくるよ」
「ソウマ……」
「大丈夫、イデアが寮まで届けてくれるから」
無音の空気が二人の間を支配する。ソウマは未来を心配し、未来は行ってほしくないと言い出せずに下を向いていた。
「任せたまえ、そうだ、ウォッチを使ってみるといい。きっと戦闘が楽になる」
「あぁ、使ってみるよ」
2人の空気を壊すようにイデアは介入して、話を進める。ソウマはイデアに未来を任せ、そのまま灰色のオーロラにアスカとともに消えていった。
「さて、では、また今度お邪魔するよ諸君」
イデアは、特異災害対策機動部二課のメンバーに別れを告げ、ストールで未来と七実を包み込み、消える。
その後、特異災害対策機動部二課のメンバーは台風にでもあったかのような微妙に乾いた空気が流れていた。
寮の前に景色が移り変わると、イデアは未来にニヒルな笑みを深めながら問いを行う。
「さて、未来君。君もそろそろ、何かを思い出しかけてきているんじゃないかな」
「どういうことですか」
未来の頭の片隅に昨日の悪夢が浮かぶ。しかし、それではないというように七実が糾弾するように見てくる。
「ふふッまぁいいか、どうせ何時かは思い出す。君の行動には期待しているんだよ未来君」
「なにがいいたいんですか……」
「さぁね。アーリほど詳細は知らないんだよ。なんせ、私が消滅した後のことらしいからね」
「まぁ、君が戦う力を欲するなら、いつか思い出すさ」
2人が去った後に未来は最後に彼らが言っていた言葉に理解できずに寮のなかに入っていた。しかし、彼女から伸びる影からは赤黒い得体のしれないものが身を潜めているのであった。
善なる神・ミラ
作中世界を創造した神の一柱であり、世界の根源たる神。歌の力を代表とする人の心に干渉する力を持つ。文字通り、統一言語そのものともいえる存在であり、世界から外来種といえるアーリの力の影響を世界から消し去ろうとしている。争いのない世界を是とする神であり、人類に平和への道を示す女神である。
悪なる神・アーリ
作中世界を創造した神の一柱であり、世界を侵食した神。心の内面を保護する力をもつ。世界において外来種ともいえる神であり、榊ソウマをこの世界に誕生させた存在。争いのある世界を是とするが、悪徳を好まない側面をもつ。基本的に人類に不干渉な怠惰な男神である。