歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第16話 2018/初めての勝利

 雨が降る工業地帯の建物の頂点に傘を差したイデアと七実が立っていた。

 

 

 

「祝え! 時空を超え、過去と未来をしらしめす、影なる時の王者、その名もシャドウジオウゴーストアーマー! また一つライダーの歴史を継承した瞬間である」

 

 

 

「ねぇ……それってやる必要があるの……」

 

 

 

 演者のように振る舞うイデアに七実は顔を片手で覆いため息とともにジト目でツッコミを入れる。

 

 

 

「まぁ、世界を誤認(……)させるにはこれぐらいしなければね」

 

 

 

「そうだったわね。私も、ツクヨミの格好をしたほうがいいかしら?」

 

 

 

 困った顔で苦笑いするがどこか楽しんでいるイデアに七実はからかうように笑う。

 

 

 

「やめてくれ……まぁ、少々面白い状況になったね。元々、あの少年は助かる予定ではなかったのだがね」

 

 

 

「あのアスカって子がいたからこそ、あの少年が死ぬ前にノイズを倒すことができたみたいね」

 

 

 

「あぁ、楽しみになってきたね。だが、少し彼のことを調べてみるとするよ」

 

 

 

 笑顔を深め、本気で期待している表情を浮かべる。そんな無邪気なイデアを七実は暗い生気のない目で見つめる。

 

 

 

 その後、イデアはストールを翻し後方に灰色のオーロラを出現させる。

 

 

 

「どこに行くの?」

 

 

 

「Dエンドの未来にだよ」

 

 

 

「あぁ、彼はその時代の縁者だものね」

 

 

 

「なぜ、彼がシャドウゲイツの力を持つのか……もしも計画の邪魔になるようであれば私の手でこの世からご退場願うよ」

 

 

 

 彼は無邪気な笑顔のまま、灰色のオーロラの中に消えていくのであった。

 

 

 

「イデア…想定外の奇跡はそう簡単には起らない。だからこそ、あなたは期待しているんだものね…」

 

 

 

 彼女は、感情がざわつき、いつもの冷静さを保てなくなっている自分に嫌悪感を強く抱く。

 

 

 

「やっぱり、私もあの女の娘か…親子揃って男の趣味が悪いのも、嫉妬深いのもそっくりてのは考え物ね…」

 

 

 

 自嘲の表情を浮かべながらも、目に生気は宿らないまま、胸元の赤いプリズム状のペンダントを握り締める。

 

 

 

「さて、私も行かないとね。クォーツァーの役割を一時代行しなければいけないし」

 

 

 

 彼女の服装が一瞬にしてイデアと同じ緑色のコートとストールに変わった。

 

 

 

「私はもうあの女の駒じゃないことの証明のためにも、これを使えるようにしないとね。まぁレクチャーも兼ねてアークにでも会いに行こうかしら」

 

 

 

 ソウマたちを見下ろしながら微笑む彼女の手には飛蝗の絵が描かれている白と黒の長方形のデバイスと黄色の装填部が目立つ武骨なベルトが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、天羽か……」

 

 

 

 奏の顔が歪む。どうやら何となくではあるが状況の把握はできてしまったのであろう

 

 

 

「あぁ、目の前で両親がノイズに殺されたみたいでなこの場から離れようとしないんだよ」

 

 

 

 それを内心察しながらも状況の説明を行うアスカではある。アスカからしてみればいつもの光景であるからこそ、どう声を掛けるべきかわからなくなっていた。それに対しソウマもどうしてか怒りの感情は湧くが、どうしても底に穴が空いたコップのように湧いては抜ける感覚から立ち直させる声が見当たらない様子であった。

 

 

 

 二人は揃って掛ける言葉を持っていない。故に少年が泣き止むのを待っているのであった。

 

 

 

「両親はお前に死んで欲しいって思ったのか」

 

 

 

 奏は自分とは違う選択をした少年に問いかける。その問いに少年は顔を見せず首を横に振る。

 

 

 

「だったら、ここにいちゃだめだ!」

 

 

 

「あたしが、親だったら自分の子供が生きるのを諦めることなんて望んでないはずだ」

 

 

 

 少年は顔は見えないが立ち上がる。ソウマは少年の背中に手を当て声をかける。

 

 

 

「いこう。後で弔ってやらないとね」

 

 

 

 ソウマは変身を解き、少年の近くの炭を手に取り、ハンカチに乗せて縛る。それを少年に手渡す。

 

 

 

「これしか今はできない。ごめん。でもこれを墓にいれてあげて……墓が空っぽっていうのは寂しいからね」

 

 

 

「天羽さん。後はお願い」

 

 

 

「あぁ……いこう」

 

 

 

 異様なものを見たような空気を感じ、ソウマは首を傾げる。

 

 

 

「あれは、普通しないだろうが……」

 

 

 

「やっぱり?」

 

 

 

 気の抜けた自覚が一切ない返事でアスカの方に向く。

 

 

 

「そうだろうな。でも……きっと救われたんじゃないか? あの少年は」

 

 

 

「だといいんだけどね。でも」

 

 

 

 納得のいっていない顔を浮かべて空を見上げる。

 

 

 

 いつの間にか雨が上がり、空には雲の隙間から光が降ってくるような風景が広がっていた。

 

 

 

 綺麗だ、と答えるのが普通であるが、今はどうしてもそんな気分になれない。

 

 

 

「なぁ、もっと速く駆け付けれたら間に合ったのかな……」

 

 

 

「なんだ、いきなり?」

 

 

 

「だって、俺たちが早く来ていたら」

 

 

 

 掴みかかりそうになるのを抑えてアスカは怒りの感情を滲ませながら鋭い目でソウマの傲慢さを咎める。

 

 

 

「俺たちは神様じゃない。だからこそ割り切らないといけないこともある」

 

 

 

 刻み付ける様に仲間たちの最期の言葉が頭の中でリフレインする。

 

 

 

「今がその時だ」

 

 

 

 目の前の魔王になるはずの男が今はどこにでもいるような人間に見える。

 

 

 

 あれだけ、恨んでいた男をどうしても憎めなくなってきているのはアスカ自身の甘さにあるのであろう。

 

 

 

 ソウマは無理矢理気分を変え、テンションを高く装う。

 

 

 

「助けられてよかった」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「そうだ、アスカ! うちに寄ってかないか」

 

 

 

「おまえ……」

 

 

 

 先程までの感情を失くしたようにケロリと笑う男に頭を掻きながら溜息を吐く。

 

 

 

 そんな中、アスカの頭に疑問が湧く。

 

 

 

「そういえば、今日は平日じゃないのか、学校はどうした?」

 

 

 

「アハハ、サボり?」

 

 

 

「なんでこんなのが、魔王になるんだか……ハハ」

 

 

 

 やはり、ソウマが魔王になることへの確信が持てなくなっている自分とソウマの馬鹿さ加減に呆れを通り越して達観の感情が湧いてくるのであった

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

 

「誰のせいだ!!」

 

 

 

 心にしこりが残る二人の口喧嘩が空に木霊するのであった。




 世界の誤認
 本来の運命とは異なる結果に誘導するために、存在の概念を歪める行為。神性を保有する存在でさえもその性質が歪みによって消滅する可能性がある禁忌の手段であり、イデアはソウマに対しこれを実行している。
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