灰色のカーテンを抜けると病院の長廊下が眼前に広がる。
周りを確認すると。真横にある病室に立花響と書かれた名札がかけられている。
「ドンピシャだよ。まったく」
ぴったりの位置に転送されたことに賞賛を挙げる。
しかし、どこから走ってくる足音が聞こえてくる。
そちらに振り替えると未来が息を切らしながら、走ってきたのであった。
彼女は元陸上をやっていたのもあって、息を切らしている姿は本気で焦っているのだろうと察する。
どうしても、彼女が焦っている理由が分からずソウマは困惑していると未来は息を整えて彼と向かい合う。そうすると、安堵したように笑顔になる。
「よかったぁ」
「どうしたの、未来がそんなに焦っているなんて」
「ううん何でもない」
満面の笑顔に少し気圧されるソウマは、苦笑いを浮かべるのみで、首の裏に手を回すのであった。
「そういえば、よく響の病室がわかったね。確か、教えてなかったと思ったんだけど」
「あぁ七実さんに連れてきてもらったんだよ」
「ん~、まぁ響のお見舞いに来たなら、早く入りましょう」
首を傾げて、より疑問が膨れ上がった未来は、疑問について気にすることを後回しにして病室の引き戸を開ける。
開けた際に、強い風が吹き、少し未来が目をそらすと脂汗を描いた立花響が目を覚ましていた。
目を開いた響は目は信じられないものを見たいような表情で悪夢を見ていたのではないかと推察できるようそうであった。
未来は勢いよく飛び出し、響に抱きつく。心の底から心配していたというのがわかるほど強く抱きしめていた。
しかしながら、打って変わって響は少し笑顔が少し引きつっている。おそらく体の傷が原因であろうか
(あれじゃぁ響が苦しそうなんだけど……まぁ、でも……)
「ほんとに、心配したんだよ、響」
微笑みながら、響に対して、心配する気持ちを伝える。
「アハハ、ごめんね二人とも……ッ」
響は少し申し訳なさそうに、惚けるように腕を上げて頭をかこうとするが、傷が痛み顔が歪んで手を落としてしまう。
「しばらく養生して、怪我を治すことに専念しないとね」
「ハハハ、ゴメン」
「まぁ、安心してよ。俺がノイズをなんとかするからさ、だから安心して、休んでてよ」
その言葉を聞いて響の顔が曇る。乾いた笑みが浮かび、眼から力が失われる。
ソウマはその様に多少の違和感を得るも、まぁ大丈夫だろうと見落とすことにした。
しかし、未来は響の様子が少しおかしいことから意識を逸らさない。強烈な違和感とそれに付随する不気味さがそれに拍車をかけていた。
「ソウマ、ごめんね。ちょっと飲み物を買ってきてくれないかな……」
「え……うん……わかった」
未来のただならない気配に怖じ気付いたソウマは素直に従い飲み物を買いにいく。
(こうなった場合、未来は怖いからなぁ……素直に従わないと)
ソウマが部屋から出ていくのを確認すると未来は響に向き直る。
「ねぇ、響……何を隠してるの……」
「それは、えぇっと、一応、シンフォギアを使ってノイズと戦うことをやってて……ごめん、黙ってて」
「違うよ……それじゃないよ。響はソウマが代わりに戦うっていって、顔をしかめたよね」
未来の言葉に肩を竦めて、目線が空を彷徨う。
「何のこと……」
「惚けないでよ! あの時も同じ顔して、そしたらこんなにボロボロになってッ!」
未来は感情的になり、目尻に涙を貯める。
「私ってそんなに頼りないかな……ねぇ……」
「そんなことないよ。未来はとても頼りになるし、私なんかよりずっと……」
響は未来の言葉から逃げるように目を伏せる。
二人の間に重い沈黙が支配する。
「あのさ、響。私ね、響に嫉妬してるんだよね」
「え……それってどういう」
「簡単なことだよ。響はずっとソウマに大切にされているし、何かあるたびにソウマは自分のことよりも響のことを優先するんだよ。気づいてた?」
まるで何でもないことを話すように自分の心の内を曝け出す。だけれども微笑んでいる表情の奥からほんの少しだけ負の感情があふれ出していた。
「響はさ、どうしてそれ以上を求めようとしてるのかなって、私もソウマのことが好き。でも彼は私よりもずっとあなたのことを大切にしている」
「私のほうがすごいっていうけど、私に戦う力もなければ、彼を支えるだけの力もない。でも響はどっちも持ってるんだよ……私が欲しいものを全部持ってるんだもん……」
未来は続けて本心を話そうとするが口を閉じて、出てこようとした
「違うよ、未来……ソウマは未来のことのほうが大切にしているよ。だって、彼が好きなのは……彼が好きなのは」
目尻に涙が浮かび、言葉が尻込む。言葉を続ければ、きっと二人の間に亀裂が入る。そんな予感を感じながら恐怖で手足の感覚がなくなり、世界から音が消えていく。
「好きなのは……」
だが、心の底から負の感情が大きく膨れ上がり、口火が切られる。
「彼が好きなのは未来のほうなんだよ! 私のことは妹を可愛がるようにしか扱ってくれない……私のことを女としてみてくれない。それなのに未来は私のほうがソウマに愛されてるっていうの?」
壊れた笑みを浮かべる響としかめっ面の未来の二人の間には以前まであった穏やかな気配はなく。ただただ互いへの悪意のようなものが漏れ出し続ける
「私には、響のほうが愛されているようにしか見えないよ……」
「家族愛のようなものしか向けてくれない私が、女としての愛を向けられている未来より愛されているって……本気で言ってるの?」
二人の間の亀裂が徐々に深くなっていくなか灰色のオーロラが二人の間を通りすぎる。
「はいはい、そこまで、これ以上の喧嘩は犬も食わないよ」
二人の間に立っていたのは少しボロボロになった七実が立っていた。
「さてと、立花響、あなたに用があるの」
そういうとオーロラが七実と響のみを通過させ、別の場所に転移した。
未来は先ほどまであった喧騒が止んだことで先ほど自分の口から出てきた言葉にショックを受けてその場にへたり込んでしまった。
「……ごめんね」
謝罪の言葉だけが空を舞い、空気に溶けていくその謝罪は響に対してか、自分に対してか、それとも別の何かかどうか理解できずにただ涙を流すのであった。
その姿を彼女の影から、アークではない一つの影がそれをただ見つめていた。