シェム・ハと会話をしていると、ソウマはふと疑問に思ったことを彼女にぶつけた。
「ねぇ、そういえばそのドライバーには複数の人格があるみたいなことを言ってたけど何人くらいがいるの?」
「ん、あぁ、私を含めて8人だ。一応全員の合議制によって基本的な判断をしている」
「へぇ、なんか議会みたいだね」
「実際には、アークが管理者であり、必ず結論が出すという意味では議会とは少し強制力が異なるがな」
彼が説明に納得と理解をし始めていると、彼女は話を切るように向き直る。
「そろそろ未来が起きるが、何か最後に聞きたいことがあるか?」
「じゃぁ、なんで、未来がライダーの力を持ってるの?」
ソウマが先ほどから気になっている疑問を彼女に投げ掛けた。
疑問を受け取ったシェム・ハは眉をひそめてから答える。
「よりにもよって、その質問とはな、残念だが答えられん。しかし、助言があるとすれば、お前の死が原因だ」
完全に想定外の回答に頭の歯車の動きが止まる。
「俺の……死……?」
口に出すことでようやく言葉の意味を読み込もうと歯車がぎこちなく回りだす。
自身の死が原因だと説明を受けたとして納得できるものはなく、今自分が生きていることに対する矛盾による違和感と死に対する嫌悪感が沸き上がる。
しかし、次の瞬間沸き上がった感情が少しずつ抜け落ちるように消えていき、頭の中が澄み渡る。
「それってどういう」
「あぁすまないが答える時間はない。ではな」
そう告げて彼女は意識を落とす。するとベルトがまた泥に戻り、影に帰る。
影に戻った途端に未来が目を覚ます。目を開けると心配そうにみつめるソウマの姿が視界に飛び込んできた。
彼の顔が近くにあることに驚きと羞恥から無意識に彼を突き飛ばす。
「いてて」
彼が壁にぶつかった頭を半目になりながら擦っている姿に一気に羞恥と驚愕で茹で上がった頭が急速に冷える。
「ごめん、急にびっくりして……大丈夫?」
彼に駆け寄り、隣に座り込む。
「うん、大丈夫だよ。よかったよ、意識が戻って」
「あ~えっと、うんちょっといろいろあって」
「ねぇ未来、さっきまでつけてたドライバーは何? それに契約って……」
彼の質問に背筋に汗が一筋つたう。
自分のやったことへの多少の罪悪感から彼女は眼をそらす。
「ごめん。追い詰める気はないんだ。ただ未来に危険な目にあってほしくないんだ」
ソウマは自身の行動が未来に対して何か圧力になったのではないかと彼女に謝る。
「ううん、ソウマが謝る必要がないよ。全部私が一人でやってることだから……」
彼に言い訳じみた言葉を発する中、今自分がしていることが響が私に行っていた行動そのままだった。
「はは……私も響のこといえないなぁ……こんな気持ちだったんだ……」
「大丈夫?」
自嘲気味に下をむいて彼に聞こえないように言葉をこぼす姿に彼を不安にさせてしまったことに少し慌てるものの、自分の中で一つ納得いった満足感と彼が珍しく見せる人間的な感情から少しの優越感を得た彼女は首を横に振る。
「ううん、大丈夫だよ。ただ、私も響のこと言えないなぁって思って」
彼は首を横に傾げて疑問を口にする。
「? 響と未来って似た者同士じゃん」
「え……」
「思った以上に2人ともそっくりだよ。寂しがりやなところとか、思った以上に芯がしっかり通っているところとか、それに」
「もうやめて……」
彼の言葉を聞くたびに顔に熱が集まっていく。両手で顔を覆うが、その手の下では無意識に顔が緩んでいく。頭はどこかシンと静まり、自身と響が似ているとの言葉に彼が私たち2人にどう思っているのか少し理解できたような気がした。
(やっぱり……そうだよね。ソウマはずっと私たちを大事に……愛してくれていた。たぶんソウマは気づいてないんだろうな……ふふ、やっぱり私も響もどうしようもないなぁほんとに)
「?」
未来が後ろを振り向きソウマから顔を見せないようにしているが、体中から歓喜にも似たオーラが溢れ出していた。
(さっきから落ち込んだり喜んだり、やっぱり女心は解らないなぁ……)
疑問に感じたことではあったが自然と彼自身も顔を綻ばせるのだった。
「ねぇ、ソウマ、響が帰ってくるまで……ううん何でもない。やっぱり自分で何とかするよ」
「う、うん頑張って……?」
どこか晴れ晴れした未来と疑問に満ちたソウマの二人がそこにいたのであった。
閑散とした森の中に響と七実は移動していた。
「いった、ここはどこ?」
響はベットにいた高低差でその場で尻餅をつくが、そんな彼女を七実は感情を移さない目で見ていた。
「ここは風鳴家所有の一種の訓練場、まぁ少しぐらいなら暴れても大丈夫」
「え……」
「安心して許可は取ってるから」
困惑している響をよそに、彼女の肩に触れ、自身の胸のペンダントを掴み歌いだす。
それは、どこかで聞いたことのあるような歌であり、どこか共感を覚える歌であった。
その歌に呼応するように響の体が光、傷が塞がっていく。
「これって一体?」
「気にしないで、これも私の力の一つ」
「いえ、それ以前にあなたは一体?」
疑問符を浮かべた彼女に疑問符を返す。
「? ……あぁ、あなたには実質初対面だったわね。初めまして、私は七実、善なる神たちに造られた、ただの……神様よ」
苦虫を嚙み潰すように自分の自己紹介をを行う。
また、困惑が加速加速していく響の顔をみると、溜飲が下がったような顔を見せる七実
「あぁ、その顔が見れただけで結構満足したよ。さてと、傷も癒えたことだし、あなたを鍛え上げるのが私の今の役目なの。早く立ちなさい」
少し笑顔を向けてから、表情を怒りを滲ませたものに移り変わる。
意味の理解できない悪意を向けられた響はさらに疑念が増し、恐怖の感情が強くなる。
「早く立ちなさい、まぁ頑張れるように少し発破をかけるしかないかな?」
渋い顔をして、尻餅をついている響に近づいて胸元を掴む。
「早く立ちなさい。あなたが今強くならなかったら、多くの人が悲しむよ。あなたの大切な小日向未来も死ぬ」
未来が死ぬという言葉に一瞬の動揺が浮かぶが、同時に先ほどあったことが頭をよぎり顔が青ざめる。
「未来が……私には関係ないよ……」
「はぁ~あのさ、あなたたちも男を挟むと仲が悪くなるとは思ってたけど、本当に小日向未来が死んでもいいって思ってるの?」
胸倉を掴みながら、青ざめた顔で響は目を逸らす。
「あなたは、未来もソウマもどっちも大事なんでしょ! 一緒にいれば相手に嫉妬することもあるし、悪感情を抱くこともある。でも、それでもあなたにとって大事な人であることには変わらないでしょう? 違うの?」
少し声を荒げながら、ただ、目線には憤慨の意思が確実に秘められていた。
「……けないで」
「?」
「ふざけないで! 私が、二人が大事じゃないなんて思うわけないでしょ!」
怒りに身を任せ、掴んでいる七実の腕を掴みながら、立ち上がり、反撃する。
「ずっと、一緒にいたい。ずっと3人で笑いあっていたい! あなたが私の、私たちのことを語らないで!」
七実は笑いながら、手を放す。
「じゃぁ、始めましょうか、訓練を」
後ろ向きに歩みながら響と距離を取り、歌を歌う。
その声にこたえるように彼女の胸のプリズム状のペンダントが光輝く。
彼女の体が光に包まれると彼女は歌を歌い終わる。
彼女が最後に歌った詩は響に取って慣れ親しんだ言葉であった。
(え……いま、確かに"
彼女の驚きが引く前に光が消えるとそこには白のガングニールを纏った七実がそこにいた。
「さぁ、あなたもギアを纏いなさい」
彼女は、マフラーで口許を覆い、静かに拳法のような構えを取るのであった。
・アーカイブシステム
アークが管理しているアークドライバーの中枢システム。
管理者のアークと7人の知能と高度な情報処理システムが並列に情報を処理する特殊なものであり、元になったシステムとしてマスブレインシステムがあるが、高度な情報処理システムと管理者のアークが最終決定権を持っているという違いがある。
7人の知能はそれぞれ生前に生きていた人間と神の精神をデータ化してシステムに組み込んでいる。これの実現にリンカネーションの技術が転用されている。