歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第25話 0000/積年の恋情

 爆発音と共に舞う粉塵にまみれてギアを纏った響は衝撃で背中から吹き飛び宙を舞い、地面に転がり地を這う。

 

 

「どうしたの? 戦いの基礎は貴女に叩き込んだでしょ。少しは私に一撃ぐらい加えられないの?」

 

 

 呆れるように顔を反らす七実が晴れた砂煙の中から現れた。

 

 

「いや、あれが教えたって言うんですか?」

 

 

 実際に七実の教え方は最初に基礎と体力トレーニングを教えたのみで、応用である実戦用の訓練は、この実地訓練のみであった。

 

 

 基礎についても、さらうだけのもので身に付けさせるというものではない。現在の状況を対処できるだけの技能は身に付いていない状態であった。

 

 

「あら、あれで十分でしょ貴女には、違う?」

 

 

「そんなわけないじゃないですか!」

 

 

「はぁ~どうしてもムカつくわね。やっぱり鏡を見ている気分……本当に不愉快……」

 

 

「え?」

 

 

 目の前の彼女の姿がブレて消える。

 

 

「!」

 

 

 後ろから裏拳が飛んでくる。その殺気を感じた瞬間、彼女の中で何かが声を上げる。

 

 

 響は反射的に攻撃に対して防御を行いながら、腕を軸にして彼女の腹部に蹴りを入れる。完全に想定外の攻撃から体が吹き飛ばされる。

 

 

「ハハッ、いいね本当に最高だよ。立花響!」

 

 

 立ち上がりながら、興奮したようにいつも見せない凶悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 無意識に自分の行った反撃に無意識に自分の体に視線を落とす。

 

 

 膝に手をつき、立ち上がり、構える。

 

 

「いえ、一旦休憩にしましょう。目的は十分達成されたもの」

 

 

 先ほどの狂気は鳴りを潜め、ギアを待機状態にする。

 

 

「え? 達成って……ッ」

 

 

「どうしたのッ」

 

 

 突如頭を押さえてその場に蹲る。しかし、痛みは引かず、その場で尻餅を付き暴れる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!」

 

 

 まるで頭が割れるような痛みから心配し近づいてきた七実を振り回した手で殴る。

 

 

 常軌を逸した痛みが引くと先ほどの反撃の際に感じた感覚を響は完全に失っていた。

 

 

「はぁ、どうやらまた引っ込んだみたいね。どれほど起きたくないのかしら……でも」

 

 

「ハァ……ハァ……どうしたんですか……」

 

 

 弱弱しく彼女に声をかける響。しかし、七実は少しだけ不機嫌になるが、暫くすると諦めたように笑顔を向ける。

 

 

「いえ、もう一度基礎を鍛え上げましょう。思った以上にあなたは意気地なし(ヘタレ)みたいだし」

 

 

「どういうことですかぁ~」

 

 

「ふふッ」

 

 

 愉快に笑う七実と意味が分からず罵倒された響の悲鳴が空に木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかわからない湖に面した洋館の大広間一室に半裸の女性が、ソロモンの杖と呼ばれる完全聖遺物を手に持ちながら、英語で何かしらの会話を電話越しに行っている。その様相を張り付けにされているクリスは薄れていく意識と正気の中見ていた。

 

 

 半裸の女性、フィーネは相手の品のなさからイラつきを隠すことなく、クリスの前に移動する。

 

 

「あそこに誘い出したあの子をここに連れてくるだけでよかったのに……しかし、まさかオーマジオウが生きているなんて、思わなかったわ」

 

 

 少し思案するように顔を伏せるフィーネにクリスは安堵の表情を見せるが、暫くした後、残酷な笑みを浮かべる。

 

 

「でもねクリスあそこまで有利な状況で空手で帰ってくるなんてね。お仕置きよ」

 

 

 隣にある装置のレバーを引くと、クリスの身体に電流が流れる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 

 苦痛から喉が焼けるような声が上がる。

 

 

 先ほどまで、薄れていた意識は覚醒し、正気が失せていく。

 

 

 少ししてからフィーネは電流を止める。

 

 

 彼女はクリスに抱きつき彼女をあやすように彼女の頬を撫でる。

 

 

「クリス、貴女が悪いのよ。でも、痛みこそが人と人を繋げるの……分かるでしょ……さぁ食事にしましょう……」

 

 

 フィーネの言葉に安堵し、彼女に対し安心感を抱いた瞬間、クリスの身体にまた電流が流れる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 

 フィーネの表情は先ほどよりも残酷に歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終えて、クリスが自室に戻っていったのを確認すると、椅子に座りながら、自身の計画の障害として現れた存在に対してフィーネは考えていた。

 

 

「まさか、オーマジオウが生きているなんて……あの時に出会ったときから変わらない、いえ寧ろ若くなっていた。それだけじゃない。あのライブの日に突然現れて消滅したはず……それに彼、榊ソウマのプロフィールは存在しても、親族が全て死亡ないし行方不明だなんて、何か作為的なものを感じてしまうわね」

 

 

 手元に置いてある榊ソウマに関する米国が調べ上げた資料とその写真を睨みつける。

 

 

「もしかしなくとも、アダム、パヴァリア光明結社の暗躍も充分に考えられる。でも、今しかない、バラルの呪詛を払うには。これ以上の好機は存在しないわ……」

 

 

 椅子に座りながら、体を背もたれに預け、天を仰ぐ。

 

 

 どれだけの時間を果たしても自分の神(エンキ)ともう一度会うために計画を建て、実行する。それだけの覚悟はフィーネにはあった。

 

 

 しかしながら、どれだけの手段を取ろうとも自身の神に再開することは、絶対にないと知るのは文字通り神のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスは、自室から窓の外に目を向ける。しかし、外に対して意識を向けているのではなく、あの時に出会った銀色の特撮ヒーローのような存在を思い出していた。

 

 

 ノイズを聖遺物、シンフォギア以外の技術を使って倒すことができる。そんな力がこの世の中にある。シンフォギアのようなものやそれを除く技術とも戦術面においては一戦を画すものであることはクリス自身であっても理解ができた。

 

 

「何で、あいつことが頭から離れねぇんだ……」

 

 

 あの時の融合症例助けるために自分に迫ってきたこと、自分に怒気と殺意を向けられることに途轍もない絶望感と焦燥感を感じた。そして、自分よりも融合症例の少女を優先したことに嫉妬の感情が渦巻いていた。

 

 

「どうして、アイツにあんな感情を向けられるのがこんなに怖いんだ」

 

 

 負の感情を自分に向けられたくない。彼だけには自分を見捨てないで欲しいと無意識に抱く。

 

 

 焦燥感と彼に捨てられる恐怖、そしてそれが現実になっている絶望感から自分を抱き締める。

 

 

「なんで……なんだよ……わからねぇよ……」

 

 

 窓にうっすらと映るクリスの顔は見捨てられた子供がただ戸惑っている顔と変わらない。幼い頃の両親を失った日の自分そのままであった。

 

 

 恐怖を痛みで打ち消すように腕を強く握り締め、顔を伏せる

 

 

「…………」

 

 

 目から涙が零れ落ち、それが只管に頬を伝い続ける。

 

 

 自分の中の絶望と恐怖を押さえつけるために泣き続け、嗚咽の声が部屋に響続けるのであった。

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