雪音アスカは榊ソウマの家を離れて県立の図書館に来ていた。
様々な情報を集めるため、かつ、身分の証明を必要としないものとしては県立の図書館は最適であった。しかし
「やはり、情報としては精度はあるがどれも最新の情勢については調べられんか……」
状況の変化についていけない確定した過去の歴史の積み上げでしかなく、現行の社会情勢、国際情勢は新聞で得られるものが全てになっている。
「ふぅ、少し長居をしすぎたな」
県立の図書館をでて、近くの河川に向かって歩いていく。
もう時計は4時を指しており、平日の夕方の河川敷では子供たちがサッカーや野球に興じており、今ある平和を謳歌している。
「あぁ……」
口から感嘆に似た憧れの感情が口に漏れる。
河川敷の坂に座りながら、緑豊かな光景を見ながら元居た時代を振り返る。
もはや荒廃し、人が住んでいた形跡すら失くなった廃墟の中が自分の故郷であり帰る場所だった。怪物化する仲間やオーマジオウによって殺される仲間、飢えと疫病により死んでいった仲間たち、オーマジオウを倒せば何かが変わると皆信じていた。
「例え、アイツを殺しても何も変わらない……もしイデアの言っていることが本当であれば……滅びることとオーマジオウの誕生は無関係ではないが、原因ではない。寧ろその逆か」
魔王の誕生こそ世界の崩壊を防ぐ唯一の手段のようなのだろう。
「俺は、なぜこの時代に送られたんだ。俺が居なくとも、あいつは魔王になっている」
何のために自分がここにいるのか分からなくなっていた。
「ん……おい、そんなところで何やってるんだ?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはつい先ほど戦場で出会った天羽奏であった。
「お前には関係ない……」
アスカの隣にゆったりと腰掛ける奏はアスカに顔を向け睨む
「そんな思い詰めてますって顔されてたら警察のおっちゃんたちに捕まるぞ」
「……単純に俺がこの時代に来たことの意味が分からなくなっているだけだ」
「なんでって復讐のために来たんじゃないのか?」
キョトンとした顔で彼の顔を覗き込む彼女に確かに自分は彼のことを復讐の対象のようにしか言っていなかった。
(確かに俺にとっては復讐の対象でしかないはずだった。あいつは仲間や家族を殺した。あれだけの力を持っていても世界を救おうとさえしなかった……だが)
「少しだが、あいつの近くにいて、なんであいつが魔王になったのかわからくなった……確かにあいつの感情は希薄だ。冷酷なことも平然とできるだろう。だが、それ以上に自分以外のために全力を尽くせる人間だとも思った。でなければそんな理由で戦場になんかに向かわない」
驚いたような顔をする奏に問いかける。
「違うのか?」
急に問いかけられた男への回答に詰まる。
自分は家族を殺したノイズを憎んで戦っている。だが、彼は復讐の相手としている相手を理解しようとしている。自分のような存在を作り出したくないという考えは同じであっても、その行動と思想は白と黒のようにまったくもって反対であった。
「じゃぁ、お前はあいつのことが憎くないのか? 自分の家族と仲間を奪ったアイツが‼」
疑問に疑問で返すという愚行を行っていくのを頭の片隅で理解しているが、それでも自身の復讐の意味を否定されている気さえして彼に嚙みつく様に吠える。
「そんなことはない。未来のオーマジオウは俺の仇だ。だが、あいつが魔王になるのを信じられないだけだ」
「それじゃぁ気づいたらソイツが魔王になって自分の手に負えなくなってもか?」
「その時は俺があいつを止める。この命を懸けてもな」
静かに決意の火を心に再び灯す。
そんな前向きな意思を宿す彼に先ほどまで持っていたほんの小さな共感は鳴りを潜めていた。
そこに芽生えたのは少しの寂しさであった。
暫くすると、アスカはソウマのいる病院に歩を進めていた。どういった理由からかわからないが奏も彼の後ろを歩いていく。
「どうして、ついてくるんだ。一緒に来たところで何もないぞ」
「同じ病院に翼がいるんだよ。見舞いに行くのは悪いのかい?」
いつもの調子に戻った奏は悪態じみた返答にアスカは気にせず、歩みを進んでいく。
無言のままの空気にのまま、気が付くとソウマたちのいる病院にたどり着いた。
病院の正面玄関に入り周りを見渡すと休憩スペースでジュースを飲みながら寛いでいるソウマと未来の姿があった。
「何をしているんだあいつらは……おい!」
急に声を掛けられ、周りを見渡すソウマはアスカを見つけると手を振って無邪気に自分の場所をアピールする。
呆れながら彼らのところに二人そろって向かう。
「まったく、何を寛いでいるんだ。見舞いは行けたのか?」
「ハハッそれがさ、なんか響が七実さんに連れていかれちゃって……」
衝撃の内容に言葉が詰まる。
「お前、そんな状況なのに何平然としているんだ‼」
「あぁ~なんか大丈夫だと思うよ」
「そんなわけあるか、何か確証でもあるのか?」
「ない!」
「元気よく言うなぁ‼」
ソウマの隣にいる未来は呆れながら、二人の喧騒に笑っている。
「その制服は、確かリディアンの……」
奏は未来の着用している制服に彼女に見覚えがあった。
「あ、はい……リディアン音楽院高等部1年の小日向未来です」
自己紹介をしながら頭を下げる。一番最初に2課で出会った時から、自分と同じ学校に通っている生徒が件のソウマと一緒にいることに疑問を抱いていた。
「なんで、こいつとこんなところにいるんだ?」
「私と響とソウマは同じ中学出身なんです。それからリディアンに入学してからも時々あってて、響が入院したって聞いてお見舞いに来てくれたんです」
自分たちのことを語る未来の姿に奏は罪悪感に苛まれる。
ノイズやあのネフシュタンの鎧をまとった敵が直接的な原因といえ、自分のライブでの行動が響のこの惨状に繋がったと考えてしまう。
少しだけ、顔に陰りを見せた奏に未来はその表情に気が付くと少し笑って
「気にしないでください。戦うって決めたのも響ですから、だからそんな顔しないでください。響が帰ってきたら、3人で遊びに行くんです。だからそんなに思い詰めないでください」
「あぁありがとう……」
自分のほうが慰められている状況に少しの気恥ずかしさが増してくる。その気恥ずかしさを誤魔化す様に先ほどのアスカが言っていた内容について聞く。
「なんか、七実って怪しいやつに連れていかれたって聞いてるけど本当なのか?」
「あ、はい、目の前で連れてかれちゃったんで、でも七実さんなら大丈夫ですから」
「どうして、そんなに信頼しているんだよ……」
「ん~、あれ? なんでだっけ?」
「え……?」
「そんなに心配なら見に行くかい?」
その場にいた4人が全員声の主に意識を向ける。
その声の主は、とてもラフな格好をした青年と呼べる年齢の男性であり、近くにいるだけで少しの息苦しさを感じる。
「フフフ……」
笑いながら、灰色のオーロラを出現させその場にいた4人を飲み込む。
気が付くと4人は崖の上に移動していた。
周りを見渡しているとソウマが声を上げる。
「あ、響と七実さんだ」
崖の下をソウマが覗き込むとそこには七実と響が一緒に戦闘訓練を行っていた。その場の全員が彼女が訓練している状況を覗き見ていた。
「これで満足できたかな?」
先ほどのラフな男は笑いながら、自分たちの後ろに立っていた。
「お前は誰?」
ソウマが疑問を向けると男はニヒルな笑みを深めると自分を名乗る。
「俺はアーリ、悪神アーリだ。よろしく頼むよ。我らが魔王?」
笑う彼には一切の影が存在せず、彼の姿が歪んで見えてくる。影がないはずだが、とても深く昏い夕闇のような恐怖を放っていた。