歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第29話 0000/二者択一

 夜の帳が降りてくる中、2台のバイクが並走し、少しずつ活気付いていく街道を走り抜けて行く。

 

 

(……なんかこうやってくっついてると、ドキドキしてくるなぁ)

 

 

 内心緊張が走る未来は抱き着く力を強める。少しだけ感じる力が強くなったソウマは一瞬だけ未来にも意識を向けるが、交差点が視界に入り、意識を運転に集中する。

 

 

 

 

 

 暫くすると、目の前に自分が住んでいる学生寮が見えてくる。

 

 

「……」

 

 

 一抹の寂しさを、ソウマの体を強く抱き、紛らわせる。

 

 

 少しずつスピードが落ちていき、やがて完全に静止するとソウマが優しく声をかけてくる。

 

 

「着いたよ。ここでよかったっけ?」

 

 

 気を遣わせてしまったかと思い、体を彼から離し、横顔を見ると、表情は怪訝な顔になる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「えっ……あ、あぁ、うん、ここで大丈夫。ごめんね送ってもらって」

 

 

 彼の反応に驚き、周りを見渡すと、敷地に入る門の横であり、部活帰りの学生が此方に奇異と好奇心に満ちた目で見ている。

 

 

「ふふっ……気にしないでよ。俺と未来の仲でしょ。これぐらいさせてよ」

 

 

 ソウマは視線に意識さえ向けず、冗談目かしに肩を竦める。

 

 

 未来はバイクから降りると、門に向かって走り出す。

 

 

 門の近くまで行くと振り返り、少し朱を帯びた顔で感謝を告げる。

 

 

「……ありがとう!」

 

 

 その顔に咲いた満開の笑顔にソウマの顔に熱を帯びて思考回路がショートする。

 

 

「おい、なに固まっているんだ……おい、おーい!」

 

 

 お手本のように固まったソウマの視線の前を横から手で遮るが一向に意識は戻らない。

 

 

 見かねたアスカは、手刀をヘルメット越しに当て、彼を正気に戻す。

 

 

「ッ! あ……あれ、ごめん、ボーとしてた。ごめん」

 

 

「はぁ~お前は、あの女が好きなのか?」

 

 

「え……う、うん。まぁそうなんだよね」

 

 

「お前は……いや、気にするな」

 

 

「うん? まぁいいけども……さて、僕らも帰ろうか」

 

 

「あぁ」

 

 

 短い返事のみで、すぐにバイクに跨り、エンジンに火を灯し、彼らは正門を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来は駆けていく二人の姿を柵から眺めていた。二人の姿というよりもソウマの姿を目で追っていた。

 

 

 自分たちにとって、彼はある意味で特異点であり、自分と響の関係においては、ある種の中心点であった。自分たちはそれぞれ彼に対して、一般的に言われる恋と呼ばれる感情以上のものを向けている確信がある。

 

 

「響になんて謝ればいいのかなぁ……」

 

 

 昼頃において、あった理由のない自信は鳴りを潜め、不安と自分の中の彼女への不満感が顔をのぞかせていた。

 

 

 謝らなければならない。そう自覚している。このままでは決して3人で一緒にいることができなくなると。しかし、自分の中の響きへの不満と怒りが胸に沸く。きっと響が自身に抱く劣等感も全く同一なものを抱えているのだとも無意識に実感する。

 

 

「……うん? あれって……」

 

 

 空には満天の星空とは名ばかりの都会の光に負けた星が浮かぶ中、王の星はどこか自分を見定めるように照らすように輝いていた。

 

 

 

 

 

 ソウマとアスカは、マンションの1室のリビングの食卓に挟まり、少し遅めの夕食をとっていた。

 

 

「やはり、知識で知っていたとしても不気味だな」

 

 

「ん、なにが?」

 

 

「お前がこうやって料理を作って、俺に振舞っていることがだ」

 

 

「いやだった?」

 

 

「そうではない……ただ今まで想像していなかっただけだ」

 

 

 ソウマの家庭的な面は決して理解できないことではないが、自分の見ている魔王としての側面のみであり、一つの側面しか見ていなかったということは、この時代にきて初めて自覚し、ようやく飲み込むことができるようになっていた。

 

 

「俺は、お前がもっと非情であり、人の心などないと思っていた」

 

 

「……」

 

 

「気にするな、俺にとっても、お前が非情な魔王でなくてよかったと思っている……きっと仲間たちは怒るだろうがな……」

 

 

「どうして……そんな……」

 

 

「さぁな、もっと親しくなったら教えてやる……」

 

 

 自己矛盾を孕んでいるにも関わらず、彼の表情はどこか落ち着いていて、安心感に満ちており、ゆっくりと、手に持った箸を進め、目の前の料理を口に運んでいく。

 

 

「……」

 

 

「なに、しょぼくれた顔をしている。お前が気にすることではない。未来のことでしかない、まだ未確定の結果だ。自分がどんな未来に進むかなんて解からないものだ……誓っただろう。お前が魔王になるのであれば、俺が止めると、だから、今は気にするな」

 

 

 二人の間に言葉はなく、ただ箸を動かす音と食器の音が流れ続ける。しかし、アスカもソウマの顔も幸せを噛み締めるような穏やかな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 あの夜の日から、既に1週間近く経っていた。不思議なことに、響についてはまだ入院しているということになっていた。どうやら悪神が何か裏で工作を行ったようであった。

 

 

 朝の少し冷たい、冬の気配さえ少し感じさせるほどの冷え、乾燥した空気が部屋を包む。

 

 

 ソウマは眠気に襲われながらもカーテンを開けると結露した窓から朝日が差し込んできた。

 

 

 陽光はビル群の端から漏れ、眩しい光となり、部屋を照らす。

 

 

 アスカと同居を始めてから、初めての休日に少しの期待を胸に秘めて、エプロンを着けて、朝食の準備に移る。

 

 

『ピンポーン!』

 

 

 朝早いインターホンに怪訝な顔をし、先程付けたばかりの火を止め、玄関に向かう。

 

 

 扉を開けると、そこには2課の指令である風鳴弦十郎、その人が黒服を引き連れて立っていた。

 

 

「日をそれ程置くことなく、早朝に失礼する。少し話がしたい。上がってもよろしいかな?」

 

 

 頭を此方に下げて、礼儀を尽くす彼の姿に、休日の朝での訪問についての不快感について溜飲が下がる。

 

 

 チャイム音に反応してアスカが起きてくる。弦十郎の姿を視認するや否やドライバーを腰に装着し、ウォッチを構える。

 

 

 そんなアスカを諌めることなく自身もドライバーをエプロンの上から装着する。

 

 

「どうやら歓迎はされていないようだな……」

 

 

 黒服達を下げるように指示をする。二人の敵意を意に介することなく、泰然自若に用件を伝える。

 

 

「君たちの身柄を拘束させてもらう……申し訳ない」

 

 

 目を伏せ、彼らに用件を伝える。その言葉を聞いたソウマ達は、瞬間、ほんの少しだけ眉を潜めるが、想像していた事態にに意識は完全に戻る。

 

 

「悪いが、君たちの意見を汲み取ることはできない」

 

 

「いや、想定内の状況過ぎてね。少し呆れているところだよ」

 

 

「……」

 

 

 弦十郎の目を開くと、その目にはこの場で戦うことも辞さない意思を持っていた。

 

 

 空気が凍り付く気配が立ち込める。しかし、暫くするとソウマはウォッチを持つ手を下げて、肩を竦めて笑う。

 

 

「……さすがに、この場で戦うのは不味いかな」

 

 

「では、君たちの装備を含めて、此方に……」

 

 

 黒服が走って弦十郎に走り込んでくる。

 

 

「申し訳ありません。司令、急ぎの報告がありまして」

 

 

「ん? ……なんだと」

 

 

 耳打ちで受けた報告があまりにも想定外であり、先程までの冷静さを欠かせるほどのものであった。

 

 

「話が変わってすまないが、どちらか片方の身柄の拘束をさせて貰いたい、君たちの装備についての接収はしない」

 

 

 ソウマとアスカは聞こえた言葉に虚を付かれ、間抜けな表情が顔に張り付いていた。

 

 

「いや、あの、さっきまでといっていることが違うんですが……」

 

 

「事情が変わってね、指示が変更になったんだ」

 

 

「あ、はい……」

 

 

 先程の空気から一転気の抜けたものになっていた。

 

 

 ソウマとアスカは顔を見合わせる。

 

 

「だったら俺が一緒について……」

 

 

「いや、俺が付いていく」

 

 

「どうして、俺が行くからここで待っててよ」

 

 

「何を言っている。お前が行くよりも未来から来た自分が行く方が色々と都合がいいんだ」

 

 

「アスカ……」

 

 

 アスカは会話に割ってはいってまで、ソウマの行動を止める。

 

 

 無言の圧力でソウマを牽制しつつ弦十郎に近付いていき玄関の外に出ていく。

 

 

「では、付いてきてくれ」

 

 

「あぁ」

 

 

 彼は振り向き、ソウマを見る。

 

 

「俺は大丈夫だ、行ってくる」

 

 

 朝日が差し込む通路を歩いて、彼は弦十郎と黒服に連れていかれていった。ソウマはただその姿を見ていることしかできないでいた。

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