ちょうど、昨日の出来事から24時間が経っていた。
自分以外が誰もいない、昨日と同じ冷たい空気が支配する。
「やっぱり、少しだけ、寂しいな……」
一人で迎える朝はいつもよりも余計に寒く感じる。
あれからアスカは2課と協力するために彼らの居住区を間借りしている。間借りといっても、どちらかといえば軟禁されている状態に近い。
「アスカは大丈夫かなぁ」
暫くしてから、奏は自分対し、頭を下げに来た。彼女に自分たちのことを見逃してもらい、2課とは非協力関係でいることでは、やはり上手い落とし所にはなりえなかったようだ。
弦十郎は自分達の立場の保証を訴えてくれていたようだが、政府からの圧力が強く、2課に正式に命令が下ったとのことであった。
ソウマは、朝の洗顔等を済ませると、給湯器のお湯を使い、コーヒーを入れる。
「一度状況を整理しようかな……まずは2課との部外の協力者としての契約かな」
2課側からの要求は2点であった。1つは、アスカの身柄の安全を保障する形で、身柄の監視下に置くこと、2つ目は、自分とアスカが2課の部外協力者なることであった。
「やっぱり、ノイズを倒せる人間が野放しっていうのはまずいよね……でも、1つだけ不自然なんだよな」
彼は、部屋の片隅に安置してある3つのライドウォッチが装着されているライドウォッチダイザーに目を向ける。
「どういうわけか、俺たちのウォッチにも一切の没収がなかった点がやっぱり不自然だよなぁ~」
2課の対応には、レジェンドライダーのウォッチの回収以外にも自分たちのシャドウウォッチについても、一切の没収等の措置が講じられていない。
「何か、上から命じられているようだったけど、どういった意図があるんだろう?」
ソウマの頭には、あの夜の日に自分に檄を飛ばした老人の姿が頭に浮かんでいた。
「たしか、風鳴……訃堂さんだっけ?」
彼の身なりと周りにいた黒服からこの事態に何かしらの介入を行ったのだろうと想像していた。
彼がそんな思案に耽っていると、日曜日だというのに、朝からインターホンを鳴らされ、昨日の事が頭を過る。怪訝な表情を浮かべ、玄関扉のドアスコープを覗き込むと、意外な人物がそこにはいた。
「え、響!」
急いで扉を開けると、そこには、ドアに当たらないようによけて立っていた立花響の姿があった。
「どうしたの、こんな朝早くから。というよりも、七実さんとの訓練は……」
休日というのに、制服姿で恥ずかしそうに体を揺らし、体の前で手の平を組みながら、顔を伏せている彼女はソウマの質問にまで頭が回っていないとすぐに察せる状況であった。
「……えっとね、ソウマ」
先ほどまで、恥ずかしさのあまり、一文字に閉じていた口が開かれると一つのお願いが飛び出してくる。
「私を、ここにしばらく……泊めてほしいんだ」
顔を真っ赤に染め、から笑いを浮かべる彼女の疑問にソウマの意識が一瞬だけ飛ぶ。その後戻った意識から、ただ一言のみ発するのであった。
「え……どういうこと?」
困惑するソウマと顔どころか、頭から蒸気すら吹き上がるほど赤くなった響を傍目に鶯の一鳴きが朝のマンションの通路に響き渡るのであった。
二人の間に、何とも形容しがたい空気が流れる。先程までの空気とは違い、穏やかな暖かさを二人の体を包み込む。その暖かさは本当に朝日により、気温が上昇したのか、それとも、二人の熱を帯びた頬と緊張が、暖かさと勘違いしているのだろうか
「……それで、どうして……ここに」
「え、え~と、なんと言うか、その~、あ~」
ようやく開いた口からでた質問について、響は一切まともな回答は一切出てこない。
目と手は空を泳ぎ、汗が流れる。
そんな姿を先程入れたコーヒーを一口のみ、彼に響が答えられるように、彼女の慌てふためく姿を見つめている。しかし、その手は少し震えている。
「え~と、私……未来、と……喧嘩……しちゃって……」
涙目になりながら、口を少しずつ開く。喉がひきつり、声が震える。自分の中にある罪悪感と後悔が彼女を蝕み、俯き自分の手を握り締める。
「うん、大丈夫だよ。焦らずゆっくりでいいから……」
コーヒーカップをソーサー置きに、泣く彼女の隣に移動し、隣にしゃがみ、彼女の手を解き、握る。彼女を安心させるように、彼女の顔を覗き込む。自分を見つめる彼の顔が視界に入り、心が締め付けられる。未来と自分の間に生まれた亀裂の原因である彼が本当に自分を心配し見つめてくる。
「あ、あぁ……」
「……響」
3人で一緒にいれた時は、辛いことばかりがあったが、間違いなく幸せであった。今は、昔の辛いことはなくとも、3人一緒にいられることはなくなった。変わろうとすることが今の悲しみを招いた。だからこそ
「ずっと、3人で……3人で、一緒にいたかった。変わらずに、ずっと」
「俺もだよ、響。未来と響と俺の3人でずっと一緒にいたい」
口から漏れる彼女の願いに応え、手を強く握る。
だが、二人の願いはある一点でどうしようもなく交わらない。
「ソウマ、私たちが喧嘩した原因はソウマなんだよ」
泣きながら、微笑みながら、彼に対し、彼の鈍感さへの意趣返しに近いことを伝える。
「……?」
「ふふ、気にしないで、ソウマ?」
「え、え~」
響の茶目っ気の出した笑顔にソウマは先程の疑問が吹き飛ぶほどの感情が彼を包み込む。その感情は何時ものように消えることはなく、ずっと残り続ける。
「……」
自分の中にある感情で消えないでいるものは響と未来に関するものだけであった。
「……ソウマ?」
呆然としたソウマを不自然に思い今度は響を心配していた。
「一緒に朝食をとろう、悩み事はそれからだ」
「え、うん」
「まぁ、大方、悩み事は未来に会わせる顔がないってところでしょ」
「え、なんで」
自分の悩みを当てられ、自分の心情を見透かされることから驚愕し、内心引いてしまう。
「で、原因は俺か……思い当たる節が……」
「え……」
自分の抱く恋心が彼が見透かしているのかと心臓が強く締め付けられ、握っていない手で胸元を握り締めるが
「わからないなぁ~」
彼の言葉にガクッと肩を落とし、口からため息が盛大に漏れる。
「……? どうしたの響……」
「なんでもないよ……この朴念仁」
小声で彼への罵倒をこぼすが彼の耳には届かずに首を傾げるのみであった。
響もソウマの微妙な間が急に可笑しくなり、二人は揃って笑いだし、ソウマは朝食の準備を進めるのであった。