遅筆ではありますが、今年1年、頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
休日が終わり、1週間、響がいない生活を未来は過ごしていた。
響と一緒にいないと、あまり慣れていない生活の中で、友人たちが励ましてくれるが、いつもそばにいた人がいなくなると心にぽっかりと穴が開いていた。
自分の中で響が占めるウェイトがとても大きいものであったことを自覚してしまう程に、この期間は自分の心情を顧みざるを得ない時間であった。
「…やっぱりどう切り出せばいいんだろう」
響との間にあった口論とすら言えるかどうかわからない短い言い争いをどう互いへの不満と怒りを収めて仲を修復できるかどうか、この1週間の間、考え続けていたが一切打開策を得るに足らずにいた。
自身の心情が行動に現れるというように視線が下を向き、前があまり見えてないからこそ、彼女の正面の人物に気づくのが遅れたのは、必然であった。
彼女は、視線を下に向けていたため、前から歩いてきた人と肩とぶつかってしまった。
「ッ‼、すみません。前を…え…」
「あ、み、未来…」
ぶつかった相手は今一番合いたくない相手、立花響がそこにいた。
「…」
文字通り怯えた表情の響に自分の言葉がどれだけ彼女を傷つけ、自分のことを怯えさせるほどに恐怖を抱かせてしまったことに心理的な衝撃を大きくうけ、未来は一歩後ろに後ずさった。
「…あ、えっと、響ッ…、あのね、あの時はッ」
「…」
響は、未来の言葉を待つ前に、踵を返しもと来た道を走り去っていく。
「あ、待って、響…」
彼女は手を伸ばすが、彼女の背中が遠のいていくことに目の前が真っ暗に染まるような気持ちになり、俯く。
「やっぱり、私の事を許してくれないよね。本当に都合がいいことしか考えられないんだな。私…」
自分の浅ましさと、醜さに辟易し、教室に向かっていった。
一日が過ぎ、夕方になっても、未来は響と話すことができないでいた。食堂、教室等の状況であっていてもそれは一切状況は変わらずにいた。
自分を攻め続けている未来の姿に周りのクラスメイトは声をかけることすらできずにいた。しかし、
「小日向さん、大丈夫ですか」
クラスメイトの一人寺島詩織は、彼女に声をかけていた。
「あ、うん、ちょっと。ケンカしちゃって」
「なにが原因だったんですか?」
少しだけ、物怖じしながらも、彼女に原因を聞くが未来は、少しだけ、躊躇して自分の唇を噛む。
「…私が響に対して、不満をこぼしちゃったんだ。だから、全部私が悪いんだよ」
詩織が話を聞いている間に、彼女の友人である安藤創世と板場弓美も近づいてきており、未来の話を聞いていた。
「でも、一緒に暮らしていれば、不満の一つや二つ出てくるものですよ、だから、きっと立花さんも―――」
「そんなことない‼ だって、私が零した不満は、本当に響のことも考えないで、出したものなのに、それで、響だって、言いたくないことを言わせて、自分は呑気に立ち直った気になって、本当にどうしようもないよ…本当に…」
そんな自己嫌悪の姿に、創世が詩織との会話に割り込んできた。
「割り込んじゃうけど、不満て結局、自分勝手なことなんじゃないの?だってそうじゃなきゃ、溜まったりしないって!」
「え、…それってどういう」
「だってさ、不満って結局、自分がどうしても気に食わないことを溜め込んで、溜め込んでそれで、相手にぶつけちゃうものでしょ。だったら、それは自分勝手なことじゃない?不満を相手にぶつけるってことは」
「うん…」
「それに、ケンカして友情が深まるのはアニメの定番なんだから、大丈夫!きっと仲直りできるって‼」
「いや、こんな時にもアニメって、本当に…」
「別にいいじゃん、アニメを参考にしても」
弓美が創世に続き、未来を激励する。三人がいつもの漫才じみた掛け合いをしているが、未来の耳には届かず、彼女の頭は、先ほどの言葉を反芻していた。
いきなり、立ち上がり、三人に相対するように、向き合うと、彼女たちに感謝を述べた。
「ありがとう。みんな、もう少し、頑張ってみる」
そう言い残すと、彼女は走って、教室を出ていった。
「アハハ、ビッキーとヒナってこんな勢いがいいところってそっくりなんだね」
創世の呆然とした言葉が教室に木霊するのであった。
逃げていた響は、ソウマの部屋のソファの上で足を抱えて、膝に自分の顔を隠していたのであった。
「…未来」
響の心には未来から逃げた自分への自己嫌悪が支配していいた。
(未来は、謝ろうと、仲直りしようとしてくれてた。私も、未来と仲直りしたい…でも)
なぜかわからない恐怖が自分に襲い掛かる。否、自分の中に既に答えは出ていた。
(…私が、怖いのは未来と仲直りできない事よりも、未来から何か言われるのが、きっと怖いんだ)
彼女が自分を罵倒することが、彼女との決別以上に自分が恐れていたことの正体であった。
しかし、それでも、自分がどうしようもないほど彼女と離れることが、想像できない自分もいた。
「…」
頭によぎる都合のいい妄想、互いに謝ってもとの関係に戻ること、自分と彼女の間に何のわだかまりが残ることなく、あの陽だまりがのこると考えてしまっていた。
そんなことない、と自分でも理解していた。しかし、それでも、都合の良い妄想を信じていたい欲望が自分の中を支配していき、また、自己嫌悪で自分を追い込んでいく。
「…、…、」
自覚しないなか、目から涙がとめどなく流れ続ける。どうすればいいのか理解できずにただ、目元を腕に抑え続けていた。
ガチャ、っと鍵が開く音が聞こえてきた。
「ただいま~」
ソウマの少し気の抜けた声が聞こえる。気が付くと響の体は勝手に動き、彼の胸元に飛び込む。
「う、うわぁ…いてて、どうしたの響―――」
彼女の泣いている姿に、ソウマは優しく彼女の体を抱きしめる。
しばらく、泣き止むまで彼は彼女を優しく、抱き留め、彼女の頭を撫で続ける。泣き続ける赤子をあやすようにし続けるのであった。
「…ごめん。ソウマ、いきなり抱き着いて」
彼女は頭をソウマの胸板に押し付けているため、彼女の表情を伺うことができずにいたが、彼女が何か思い悩んでいるのはソウマでさえ、理解することができた。
「ねぇ、響、つらいかもしれないけど、話してみて…ゆっくりでいいから、ね?」
彼の言葉に答えるように、口が意識を無視し、すらすらと、今日あったこと、自分が今悩んでいることを語り始めた。
ソウマは、彼女の告解を静かに聞いていた。その彼の眼には、一切の嫌悪も怒りもなく、ただただ、彼女を見守っていた。
「ねぇ、響は、未来と仲直りしたいんだよね」
「うん、未来ともう一度、友達に、戻りたい‼」
ソウマは彼女のその声に答えるように、彼女を自分の体から、遠ざけて、椅子に座らせると、ポケットから、ファイズフォンXを取り出すと、電話状態に変えて、とある人物に連絡をとったのだった。