歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第34話 0000/咲き誇る花

 20時を過ぎ、世間が平穏な家族団欒を送っている平日の夜、響とソウマは、部屋でそれぞれ、飲み物を飲んでいた。

 

 

「ねぇ、ソウマ。なんで、この時間に来客がくるってどういうこと?」

 

 

「うん? それは、お楽しみかな。ただ、少し、覚悟を決めておいたほうがいいとは思うよ」

 

 

「え……」

 

 

 彼の言葉の不穏さに少しだけ感じながらも、目の前のグラスに意識を向けなおす。

 

 

 グラスの水面を眺めていると、未来から逃げ出した光景が映し出されているような錯覚に陥る。

 

 

「ッ‼」

 

 

 目線をグラスから逸らすと、チャイムの音が聞こえる。

 

 

 ソウマが、玄関まで、行き、扉を開けると、そこには響の想像から無意識に外していた人物がそこにいた。

 

 

「ごめんね、こんな時間に呼び出して」

 

 

「ホントだよ。ソウマ、こんな時間に呼び出して、何かあったの?」

 

 

 聞きなれた女性の声が耳に入ってきた。

 

 

「……」

 

 

 未来の声が聞こえた瞬間、はっと、玄関側に視線を向けるとそこにソウマと会話する未来の姿に血の気が引き、恐怖から体が強張る。

 

 

「あぁ、未来、ごめん。ようやく落ち着いたからね……」

 

 

「? ……え、ひ、響ッ‼」

 

 

「未来……」

 

 

 未来が部屋の中に視線を向けると、こちらを見て固まっている響に気が付く。

 

 

 二人が顔を向かい合わせるが揃って、ソウマに向き合う

 

 

「「ねぇ、ソウマ、どういうことなの‼」」

 

 

「わぉ、息ピッタリ‼」

 

 

「何やってるのよ? 相変わらずの喧騒さね」

 

 

 未来の後ろから、聞きなれた、響にとっては、あまり思い出したくもない声に目を見開く。

 

 

「な、七実さん‼」

 

 

「あら、どうしたの愛弟子?」

 

 

「い、いやぁ~どうしたかっていうと、その~あまり気にしないでいただけるとうれしいかなぁ~と」

 

 

「フフッ、まぁいいわ、気にしないようにしましょう」

 

 

 七実の到来に、先ほどの喧騒とは、異なる喧騒に変わる。しかし、一度、会話が切れると、また、冷たく張り詰めた空気に戻る。

 

 

「まぁ、未来と響をここで合わせたのは、ど話し合えるようにするために場を設ける必要があったからかな」

 

 

「「え」」

 

 

「では、七実さん、俺たちは、この近くのファミレスにでも移動しようかな?」

 

 

「それだったら、響は逃げ出すでしょうが」

 

 

「え、あ、そうか、完全に失念してたよ」

 

 

「はぁ、まぁ私がここを見ておくから、あなたは席を外しなさい」

 

 

「え、どうして?」

 

 

「この朴念仁‼、あなたがいると話が進まないからよ、いいからファミレスで1時間、時間をつぶしてきなさい」

 

 

「う、うんわかったよ。じゃぁ、あとお願い」

 

 

 七実の勢いと怒りの表情に気圧され、ソウマは急いで、玄関を出ていった。

 

 

 

 

 

「さてと、当の本人は今、外に行ったから、話し合いを始めなさい」

 

 

 そう言いながら、冷蔵庫の中にある、麦茶とケーキを取り出し、食器棚から食器を取り出す。

 

 

「えっと、そう催促されると、話しづらいというか……」

 

 

「いいから、始めなさい」

 

 

 七実は言い切るとソウマが用意したケーキを食べることに集中し始めた。

 

 

「「……」」

 

 

 七実の食事の音以外に音がないと感じるほどに静寂となった。

 

 

「響……ッ……ごめんなさい!」

 

 

 未来は恐怖を噛み殺し、口から謝罪の言葉を告げた。

 

 

 頭を下げ、必死に、涙を堪えながら、唇を噛む。

 

 

 彼女の言葉に響は目を丸くして、口が半開きになっていた。

 

 

「え、えっと、み、未来────」

 

 

「あの時、あんな酷いこと言って、本当にごめんなさい……」

 

 

 響の言葉を遮った自覚さえ起きないままにさらに言葉を重ねる。

 

 

「……」

 

 

 しばらくの間、返答がないことに耐えられなくなった未来が、恐る恐る顔を上げる。

 

 

 未来の眼には先ほどの放心から、一切の回復を見せていない響の姿が飛び込んできた。

 

 

「ひ、響?」

 

 

「え⁉、み、未来、ご、ごめん、ちょっと……なんていうか、びっくりして」

 

 

「びっくりって、どうして……」

 

 

「それは、その~」

 

 

「「……」」

 

 

 またも、静かな時が流れるが先ほどと異なる生ぬるい空気が二人の間に漂う。目線が交差する。

 

 

「「……ぷっ、あはははは」」

 

 

 互いの気まずさから、笑いが二人の口から噴き出す。

 

 

 自分の中にあった恐怖も笑いとともに消え去っていった。

 

 

「あはは、ごめんね未来、私も、未来のこと、信頼できなかった」

 

 

「……」

 

 

「私は、自分の中にある劣等感に勝てなかった」

 

 

「響、それは私も──―」

 

 

「違うよ、違うんだよ、未来……結局、私が未来のことを信じ切れていなかったんだよ」

 

 

「響……私もね、貴方への嫉妬心に負けて、貴方を傷つけた。ごめんなさい」

 

 

 二人の間にあった冷たく張り詰めたものが、ゆっくり、ゆっくりと二人の涙によって溶け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣きはらした目をした二人の姿をぼんやりとしながら見てz七実は、麦茶を傾け、のどを潤す。

 

 

 グラスを置き、時計を見る。先ほどソウマが出てから、1時間が経とうとしていた。

 

 

「そろそろ、時間よ、どうする?」

 

 

「え、どうするって?」

 

 

「そんなの決まってるじゃない。あの朴念仁をこのまま放っておいていいの?」

 

 

「え~と、まぁ」

 

 

「……」

 

 

 響は七実の問いに頷くが、未来は神妙な顔をする。

 

 

「ねぇ、響、ソウマに一泡吹かせよっか‼」

 

 

「えぇ~~⁉」

 

 

 素っ頓狂な声をあげる。それでも、未来と七実は涼しい顔をしていた。

 

 

「だから────」

 

 

「え、そ、そんなことって、でも、未来は嫌じゃないの?」

 

 

「それこそ、響は嫌じゃない?」

 

 

「そんなことないよ。私は、ぜんぜん」

 

 

「じゃぁ、やっちゃおう」

 

 

「うん‼」

 

 

 二人の表情が悪戯を前にした子供の様なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ少し肌寒い空気がソウマの体を包み込む。階段を上りながら、響に言われていた。喧嘩の理由が自分にあるということが、今になって、頭を過った。

 

 

「う~ん、俺が理由か……それってどういうことなんだろう」

 

 

 自分の中に感情と欲望が渦巻いている。

 

 

 何ひとつ自分の中に渦巻くものの正体を理解できないまま、ただただ、歩を進めていく。

 

 

 気が付くと、目の前には自分の部屋がそこにあった。

 

 

「結局、何が何だかさっぱりだなぁ」

 

 

 扉を開けると中から、賑やかな女性の声がいくつも聞こえてくる。

 

 

(まさに、姦しいっていうのはこうなのかな)

 

 

 完全にを扉を開けると、3人がこちらに視線を向ける。

 

 

「おかえり、ソウマ、ごめんね。1時間も外にでてもらっちゃって」

 

 

「ホントにごめんねソウマ」

 

 

「いや、気にしないで」

 

 

 響と未来がソウマに謝ってくるが、七実は面白そうにいつもと異なり、目まで笑っている。

 

 

 彼女の不自然さに少しだけ、気にかかるが、二人に視線を戻す。

 

 

「そうだ‼ケーキで──―」

 

 

「この時間は甘いものを控えてるの‼」

 

 

「え~未来いいじゃん!」

 

 

「だ~め、響もそういうこと少しは気にしないと」

 

 

 二人の姿に少し、笑うと二人がこちらに向き直り、覚悟を決めたように表情を引き締める。

 

 

「ねぇ、ソウマ」

 

 

「は、はい‼」

 

 

 その、雰囲気に呑まれるように、自分の表情も硬くなる。

 

 

 しばらく、無言が続く。

 

 

 二人は見合わせ、深く息を吸い込むと、口が同時に開かれる。

 

 

「「ソウマ、私たちと付き合ってください‼」」

 

 

 いきなりの告白にびっくりするが、その言葉に引っかかる。

 

 

「え、達ってどういうこと?」

 

 

「そのままの意味よ、魔王」

 

 

 今まで、静かにしていた七実が茶々を入れる。

 

 

 二人の不安がる表情から、自分の中の感情と欲望が自分の中で形になっていく。

 

 

 彼は目を深くつぶり、軽く下を向く。

 

 

「二人は、それでいいの?」

 

 

「うん、私たちは納得してる」

 

 

「うん」

 

 

「そうか……」

 

 

 しばらくしてソウマは、顔を上げる。

 

 

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 二人の不安の表情から2輪の花が咲き誇っていた。

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