病院の屋上の場所まで翼と響は無言でここまで来ていた。
「「……」」
(……えっと、二人の彼氏ってことは、つまり二股ってこと……どうすれば……)
翼の内心では、自分が眠っている最中にこんな状況になっているとはつゆほどにも思わず、自分が一切合切に面倒な状況に陥っていることに少々辟易してしまっていた。
しかし、実際の響は自分の中にある力との向き合い方がわからなくなっていた。
(……私は……どうすれば、いいのかな)
「あ、あの……私はどうすればいいんでしょうか……デュランダルを手にした時に、暗闇に飲み込まれかけて、それで、ソウマが、あんなことになって……私はどうしたらいいんでしょうか……」
「……(え、えぇ、彼氏の二股の話じゃないの!?)」
微妙な表情を浮かべる翼の姿に気が付かないほどに、響は自分の中にある絶望感から周りが見えなくなっていた。
「……自分の中にある力で大切な人を傷つけてしまったってことでいいのかな?」
「……はい」
「自分の中にある力が制御できずに今回の爆発事故を引き起こしてしまったと……あなたは、やっぱりこの戦いから手を引くべきだ」
「え……」
「当たり前だ。そんなに迷っていては、結局のところは何も意味がない」
「どういうことですか……」
響が疑問を投げかけるが、それ自体に意味がないといわんばかりに、表情が冷たくなっていく。
「自分の中にあるものが何であれ、それを使うと決めたときに、どうすればいいかわからないでいるとは、これ以上に危険な状況はない」
「それは、そうですよね……」
翼はこちらに向かって輝いている太陽に目を向けると、その光に目を細めると、口から自分の意思に反して言葉が出てくる。
「自分にはできることはいつでもできるわけじゃない。その時、その時しか機会がなくなっていく。どうしようもないことに追い込まれていって、どうするかどうかすら自分で決めることすらできなくなる」
「どういうことですか……」
「私みたいになるなということだ……」
そこにいたのは風鳴翼は、自分の知る彼女以外の何かに見えていた。
どこか大人びているように、彼女はこちらに歩いてくる。
「翼さん……」
「立花……頼むから、私と同じ過ちを犯さないでくれ……頼む!」
翼は意識を失うように、その場で倒れる。
「つ、翼さん!?」
駆け寄ると、意識を失った体は重く、その事態に響は対処できないことを理解し、近くにいる看護師を呼びかけるのであった。
ソウマの看病を終えて、響と未来の二人は一緒に帰る道を進んでいった。
どうすればいいのかわからずに、沈黙がただその場を支配している。
公園の入り口付近に迫ったときに自分の持っていた電話が鳴っていた。
「? ……はい、もしもし」
『響くん今すぐそこから逃げるんだ! ネフシュタンの鎧の少女が近くにいる!』
「え、……ッ!」
「……変身」
【アークライズ‼】
意識がアークと変わるように未来の意識と切り替わる。
黒い泥が二人を覆い渦となる。
クリスの鞭が黒い渦が弾くと合わせて、渦が弾けて中からアークゼロに変身した未来と驚いて目を見開く響がそこにいた。
「ほう、どうやら、もうこの時が来るとはな……」
「……み、未来、その姿は……一体」
「あぁ、私はアーク、小日向未来と契約した悪魔だ」
いつもと違う口調と声でアークは響に話しかける。
契約という言葉から響の情緒が大きく乱れる。
「安心しろ、まだ仮契約だ。だから気にする必要はない」
「アーク……」
「さぁ、歌うがいい、立花響。それが君の役目だ」
アークの声が響を立ち上がらせる。
「アーク、このことは後で聞く! でも今は!」
響の歌声が響き渡る。しかし、歌声は今までの響の歌声に反するように、暗く沈むような、闇のような歌が響く。
響はシンフォギアを纏う。先日とのクリスとの闘いの時と同じように口元をマフラーで隠す。しかし、その目は歌と同じく、どこまでも暗く、飲み込む深淵を宿していた。
「あぁ、ずっと、会いたかった……会いたかったよ……」
自分の中にある絶望と自責を怒りという炎にくべる。
一方クリスの瞳は戸惑いを宿しながらも、自分の中にあるものに目を向けているのみで、響を見ているようで一切に見ることはなく、ただただ、空虚に目を向ける。
「お前を倒せば、私のことをフィーネが見てくれる。アイツだって、お前さえいなければ……」
「貴女の境遇なんて関係ない。貴女がこんなことするから、彼は傷ついた。今も眠ったまま……だから、貴女を倒す!」
響は、地面を蹴りだし、そのまま拳がクリスに向かって振り抜く。しかし、その拳がクリスに当たることはなく、空を切る。
「ハッ、完全に八つ当たりじゃねぇか」
「そうだよ、でも、貴女と戦う理由なんて、これで十分だよ!」
遠心力を生かして回し蹴るがそれを呼んでたとばかり、身体を縮めて、膝の力を生かして飛び上がる。
鞭の先端にエネルギーが収束し、光弾を形成する。
「これでッブッ飛びやがれ!」
『NIRVANA GEDON』
光弾が、響に向かって飛んでいく。
「こぉっのぉぉ」
彼女は自身の身体をバネのように使って、拳を振り抜き、光弾を打ち落とそうと、殴る。
「あめぇよ、持ってけ、ダブルだぁ!」
もう一つの光弾を作り出し、それを相手が止めている光弾の後押しをするように、投げ込む。
大きな爆発音とともに、響の姿が炎と煙にまみれて見えなくなる。
「これで……ようやく……ッ!」
「はぁぁぁぁ」
自身のギアの力を利用して光弾を押さえ込み、自分のエネルギーに変換して吸収する。
「な、何で──」
「うおぉぉぉ、りゃぁぁぁぁぁ!」
しかし、クリスの言葉は最後まで紡がれることなく、目の前にいた彼女の姿が消えたと認識する。気が付くと、響は懐に入り込み、その拳でクリスの腹部に向かって打ち込むのであった。
地響きする爆音と火柱とともに、クリスはそのダメージを受け止めることとなり、振り抜く勢いで彼女は後ろに飛ばされて木にぶつかる。
「ガハッ……」
ただではすまない攻撃だが、ネフシュタンの鎧に大きく穴が空いている。
「クソッタレ! ……このままじゃ、やられる……」
「うおりゃぁぁ!」
響の追撃が止むことなく、彼女の回復が間に合わなくなっていく。
拳と鞭が火花を散らしながらも、接戦を繰り広げるが、少しずつ力負けをクリスは起こしていく。
(畜生! 何でこいつに、勝てねぇんだよ……)
蓄積していくダメージと体力の消耗から、自分の意思さえ危うくなっていく。もう限界が近づいてくるなか、クリス痛みから、一瞬意識が途絶えかける。その隙を突くように響は踏み込んで、クリスに殴りかかる。
「これでぇ! 終わりだぁ!!」
「クソッタレ……アーマーパージだ!!」
響の動きがゆっくりと見えるなか、響の鬼気迫るを目にし、自分の奥の手である力を解放するために、白雪姫はドレスを脱ぎ去る。
白い鎧の破片が懐に迫った響を直撃する。かわすことも、受けきることもできずに、後ろへと吹き飛ばされる。
孤独に満ちた歌を歌い、赤いドレス──イチイバルを纏う。響に対して、絶望と怒りを込めて、睨み付ける。
「よくもアタシに……よくもアタシに歌を歌わせたなぁ!」
彼女の怒号のみが響き渡り、響の歌をかき消すようにその刺々しくも、悲哀に満ちた歌をクリスは奏でるのであった。