赤いドレスを身に纏い、クリスは戦場で歌を歌う。
彼女の歌に答えるように腕の鎧が武器となり、ボウガン形状の武器から、光の矢が響を襲う。
「ッ!」
まるで、身体がその攻撃パターンを理解しているように躱していく。しかし、響の回避行動を予期するように矢が掠り始める。
「お前の行動ぐらい予測できてるに決まってんだろうが!」
響は一か八か賭けに出るように攻撃を躱して距離を詰めていく。
クリスは笑みを浮かべる。
アームドギアをボウガンから長弓の形状に変形させて、弦を引き絞る。
「え……それは!?」
「甘ぇんだよ!」
実体を持った矢が響の腹部に向けて放たれる。
反射で、腕を使い防御姿勢を取るも、勢いに押されて後ろに吹き飛ばされる。
「クッ! ……ッ!?」
【BILLION MAIDEN】
武器を長弓からガトリング砲を形成し相手に対して一斉掃射する。嵐のように弾丸が響の視界を覆い尽くす。弾丸の雨から逃げるように背部から噴射し、空中で姿勢を修正し、地面に着地しながら、逃げ走る。しかし、弾丸で破壊されていく木々が逃げ道を塞いでいく。
(このままじゃ……)
その場を反射と経験に任せる形で行動を選ぶ。切り返し、空高く飛び上がりながらクリスに向けて飛び蹴りを行う。
「おりゃぁぁ」
「……だと思ったぜ!」
【MEGA DETH PARTY】
腰部から、小型ミサイルを格納するラックを形成し、打ち出す。
小型ミサイルで空中にいる響の逃げ道を塞ぎきりながら彼女を打ち落とす。
「ガハッ……あ……」
地面に叩きつけられる形で地面に転がり、肺の息が一気抜け出す。その響の元で小型ミサイルが迫り、爆発する。
クリスは煙で視界が塞がれる。それでもなお、ガトリング砲の弾丸が更に煙にばらまかれる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
歌を歌いながら戦うこと久しく行っていなかったためか、クリスは息を切らす。少しずつ砂煙が晴れていくとそこに響の姿はなく、金属の壁があった。
「盾か……いや、これは」
「剣だ」
声の主に視線を向けると、そこにはギアを纏った翼がこちらを見下ろしていた。
「病み上がりが……もっと寝てればよかったんじゃねぇのか? なぁ、歌姫さんよ」
「そうだな、だがな、私と立花のみに意識を割いていていいのか?」
「何をいって? ……まさかッ」
クリスは翼と響に意識を割いているが、後ろから迫る気配に対して、反応が僅かに遅れる。
「ハァァァ!」
振り返るとそこには、奏が槍を片手に飛び込んでくる。しかしながら、その動きに対して重心をずらし、自身に迫る槍の穂先をガトリングを使い、反らしながら、左足を重心に回し蹴りで奏を蹴り飛ばす。
「奇襲する奴が声を上げるかよ! ……ッ!」
「……ッ!」
奏の攻撃に気を取られていると上から飛び降りてきた翼が刀をクリスに向けて振り下ろす。
刀が迫る事実が彼女の意識を狭める。
「この野郎!」
ガトリングから、ボウガンに切り変えて光の矢で迎撃する。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」
視線を下に向けた瞬間、響の拳が自分打ち込まれる瞬間であった。
「グハッ……」
先程の響のようにクリスは地面を転がり、背中が倒れた木に強くぶつかった。
「これで、お相子だよ。クリスちゃん」
いきなり名を呼ばれたことに一瞬、目を見開く。
「アタシのことについては調べがついてるってわけか……」
「全く、相変わらずの粗暴さだな雪音」
「翼、こいつとそんなに親密だったか?」
「クリスちゃん……」
一歩ずつ倒れているクリスの元に歩を進めていく。
クリスは迫る響から距離を取ろうと立ち上がろうとするが先程の背中のダメージから立ち上がることができない。
「どこにいこうとしているのかな? クリスちゃん?」
「ハッ、このまま、捕まるわけにはいかねぇんだよ」
目から光が消えた彼女の視線が突き刺さる。
拳を振り上げ、殺意を持って振り下ろそうとする。
「止めろ、バカ」
「立花ァ!」
翼と奏は、一瞬反応が遅れるも、響の行動を止めようとする。
(ハハッ……)
脳裏に自分の認識のない記憶が頭を過る。
キッチンに立つ、知らない少年の後ろ姿を幻視し涙を流す。
迫り来る死から怯えて目を伏せる。
「……ッ」
「そこまでだ」
響の身体を灰色の布に拘束され、彼女への拳が止まる。
「……ッ……離せッ……離してよ!」
「悪いけど、それは聞けない相談だね」
そこには、アスカを引き連れたイデアが響を拘束した布の片方を手に持っていた。
「アスカ! 何でそんな奴と一緒にいるんだよ」
「あぁ、ここに向かっている最中に捕まったんだよ」
「いいじゃないか、君の危機を救ったんだから」
「……感謝する」
「ハァ? 救ったってどういう意味だよ」
奏はイデアの言葉が理解できずにいるが、アスカは納得しているため、イデア言動に軽い反応のみしか示さない。
「あぁ、それはね──ッ!」
イデアが意識を空に向けて、バリアを展開するとノイズが弾丸のように飛んでくる。ノイズはバリアにぶつかると消し飛ぶように弾けて消える。
「相変わらずの力みたいね」
沿岸部に視線を向けると、金髪の黒ずくめの女が手すりに身体を預けており、手にはソロモンの杖が握られていた。
「ハハハ、誉められるとは思わなかったよ。フィーネ」
「誉めてないわ。本当にあなたの力は面倒なだけ」
彼女が苦言を呈すると散らばったネフシュタンの鎧の破片が粒子となり、彼女の掌に集まっていき、吸収される。
「……」
イデアはそれを興味のないような冷たい目で眺める。
「フィ、フィーネッ」
「あら、クリス無事みたいね」
フィーネの視線は彼女のつけているサングラスのせいでわからない。だが、その声音は心底どうでもいいことに対する反応そのものだった。
「あなたは本当に私の期待を裏切ってばかり……何で言いつけの一つすら守れないのかしら?」
「そ、それは……」
「もういいわ、あなたはもう必要ない……私の計画に貴女はもう必要ない。だから、何処へなりとも行けばいいわ」
そう告げると、フィーネはそこから立ち去っていく。
「フィーネッ待ってくれ!」
クリスは身体の痛みを押さえ込んで、フィーネの去っていった方向へと向かっていった。
「アイツッ!」
奏をイデアは手で制止する。
「何で、邪魔するんだ!」
「それは今の君には関係ないことだよ」
噛みつく奏を端にイデアは響に視線を向ける。彼女の目は光を取り戻すことはなく、冷たい闇がそこに宿っていた。