少し時を遡る。フィーネの裏切りともとれる発言の真意の確認にクリスはいつもの彼女のいる場所に来たのであった。
「フィーネ! どういうことだよ! 何処へなりとも行けってどういうことだよ!」
いつも、食事をとっていた場所でフィーネは英語で誰かと電話をしていた。
「おい、フィーネ……どういうことか説明してくれよ……」
クリスのことには一切目をくれず、ずっとその場で電話をしていたが、暫くすると、顔が不快感に歪む。
「あぁもう! しつこいわねぇ!」
「フィーネ……」
「貴女はもう必要ないのよ……私にはもう計画を遂行するために必要な要素は全て揃った。だから……だから貴女はもう……必要ないのよ……」
彼女は自分にいい聞かせるように同じ言葉を繰り返す。それでもクリスは下がらない。
「どうしてだよ……どうして……フィーネが私にギアも痛みも与えてくれて……争いを無くす手段を私に教えてくれたんじゃねぇのかよ……」
涙ながらにすがるクリスに対してフィーネは顔を会わせずに、ネフシュタン鎧を纏い、手に持つソロモンの杖を起動して、ノイズを出現させる。
「……貴女はもう、用済み、カ・ディンギルはほぼほぼ完成し、この鎧も手に入れた。オーマジオウ、榊ソウマも重症を負っている。もう、私の道を阻む存在はいないも同然、だから何処えなりとも行きなさい……貴女は、もう自由よ」
声音は震えており、フィーネからクリスへの敵意などその言葉には何処にもない。しかし、言葉は突き放す。
クリスがフィーネに近づこうとするが、ノイズが遮り、彼女を殺そうと襲いかかる。
「ッ! ちくしょぉぉぉ!」
歌を歌い、イチイバルを纏う。ノイズの攻撃を身体を捻った体術で捌ききる。
しかし、それでも、自分の対処を越える量を召喚されていき、一斉攻撃を前に、隙を作り出してその場を離れる。
(どうしてだよ……フィーネッ!)
クリスがいなくなったあと、ノイズを送還し、一人一人広くなった場所に本の少しの寂しさを感じながら椅子に座り込んで、上を向き、目元を手で覆う。
「これでいいのよ……これで……」
突き放した後悔を圧し殺すように、机に置いてあるワインを呷るのであった。
雪音クリスは鼻腔を擽る味噌と出汁の香りに目を覚ます。
ベットの上に、自分の知らない部屋を見渡し、首を傾げながら身体を起こす。
「ッ!?」
身体を襲う痛みに顔を歪める。それでも、現状の不気味さからベットから降りて自分の状況を確認すると、男物のワイシャツを着ていた。自分の服がどこ行ったかと確認すると、目の前の机に綺麗に折り畳まれている自分の服があった。
「……」
自分の服のちかくにメモ書きがあり、そこには【起きたら、着替えて居間に来てください】書かれていた。
訝しみながらも、自分の服に素早く着替えて、部屋を出ると、最初に感じていた香ばしい香りが強くなった。見渡すと、そこにはキッチンで食事を作っている少年の後ろ姿と寛いでいる少女の姿があった。
「あら、クリスが起きてきたわよ」
「え、本当?」
少年は火を止めるとこちらに振り返る。
「あ……」
クリスは少年の姿を目にすると、何故か覚えのない記憶が走馬灯のように自分の頭を過る。しかし、内容を自覚するよりも先に消えていく。
「「……」」
二人の間に流れる空気が柔和なものになる。先ほどまでの張詰めかけた空気が霧散する。
「相変わらずみたいね。この女たらしは……ハァ」
「えぇ、それってどういうことぉ」
何故か目の前に繰り広げられる漫才染みた流れにさえ、少しだけ胸のなかに不快感が走るが、頭を横に振り、その感情を振り切る。
(なんで、こんな初対面のやつに……)
少女、七実はクリスに視線を向けると微笑む。
「あぁ、そろそろお邪魔するわ」
「え、昼食を食べていけばいいのに……」
「いえ、お邪魔虫は退散しないとね」
クリスのところに近づくと小声で彼女に喋りかける
「頑張ってね。いろいろと」
「ハァ? それってどういう……」
「さぁ? いろいろとあるのよ……私は神様だもの」
「なにいってるんだ?」
「ふふ♪」
愉快に軽い足で目の前に灰色のオーロラを出現させて、それを通り抜けて消えていった。
二人が取り残されていた。空気の中で、暫くの沈黙のあと二人は同時に口を開く。
「「あの……っっ」」
同時に口火をきるも、声が被る。
「俺は、榊ソウマ。よろしく」
少年、榊ソウマは自己紹介を行い、ニコッと笑う。
クリスはソウマが行った自己紹介に対して笑みが溢れ出す。
「はは! なんで、アタシがあんたと──」
ぐぅ~と音が部屋に響き渡る。クリスは顔を赤めて目線を下に向けて無言になる。ソウマは少しだけ、笑うと振り返り、鍋の火を入れ直す。
「まぁまぁ、腹が減っては戦はできぬっていうからさ、とりあえずご飯を食べよう。ね?」
彼の能天気な言葉に、クリスは毒気を抜かれてしまい、素直にテーブルに着くのであった。
肉野菜炒めメインとした食事を囲みながら、ソウマとクリスは箸を進める。生姜を使っており、先ほどまでに冷えた身体を内側から暖まる実感を感じながら、箸を互いに無言で進めていく。
「……」
ふと疑問に思ったことをクリスは口にする。
「アタシが眠っているときに服を脱がしたのはあの女か?」
「うん、さすがに俺じゃいろいろと不味いからね」
「なんで、アタシを助けたんだ……お前とアタシは敵同士だろ」
クリスは予めフィーネから受け取っていた資料でソウマのことを知っていたが、ソウマはクリスついては、七実から先ほど情報を得たのみであった。そのため、助ける動機とは一切の絡みがなかったため、答えられずにいた。
「さぁ、特に君を助けた時にそんな面倒なことまで考えてなかったからね。だから今も特に敵味方は気にしてないよ。それに2課を信用はしきってないから、通報もしないよ」
「なんか、よくわかんねぇな、お前」
「そうかなぁ?」
微妙な空気のなか二人は進めていくのであった。
「……ご馳走さま」
目の前のソウマの作った食事を食べきると、クリスは少しだけ、気が抜けたように先ほどまで張積めていた肩から力が抜ける。
「お粗末様でした。何か、デザートは食べるかい?」
「デ、デザート!? ……いらねぇよ……」
「ん? そんなに遠慮しないで、ね」
クリスのこぼした残飯をテーブル用布巾で拭き取ると、冷蔵庫から、自作の白いババロアを取りだして盛り付け、彼女の前に、スプーンとあわせて置く。
「あ……ハッ! 、食わねぇよ、アタシは!」
「まぁまぁ、食べてみなって」
ソウマは押しきるよう彼女の言葉を無視して自分の分を食べ始める。
「……」
この場の雰囲気に飲まれたクリスは席を立つという選択肢がでてくることはなく、仕方なく食べ進める。
「ッ! ……うめぇ!?」
「それはよかった。一応、甘さはちょっと控えめだけど、口にあってよかったよ」
クリスは美味しそうに目の前のスイーツに舌鼓をうち、完食する。その姿をソウマは嬉そうに眺めていた。
「一応、礼を言っとくぜ……ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」
ソウマは思い出したかのように、ティッシュをクリスに差し出す。
「一応、口もとを拭いたらどうだい? かわいい顔が台無しになっちゃうからね」
クリスは顔を真っ赤にしながら口もとをティッシュで拭き取るのであった。