まだ、日が出ている時間、小日向未来は、立花響は2課に先日の雪音クリスとの戦闘における事情聴取のために呼び出されていた。
「さてと、説明をしてもらってもいいかしら? 未来ちゃん?」
桜井了子は、机を対面に座っている彼女に対して、先日の戦闘における戦闘における彼女の使用した力の説明を要求する。
「わかりません……ただ、契約した彼女が私に力を貸してくれているだけです」
「その彼女っていうのは、一体誰なのかしら?」
「それは──」
いきなり、未来の意識が闇に落ち、人格が切り替わる。
「ッ!? 、大丈夫!? ……ッ!」
勢いで、立ち上がり、未来に駆け寄ろうとした瞬間に足が止まる。
「オイオイ……つれねぇじゃねぇか、了子さんよ」
「貴女は……まさか、あの時の……」
冷汗が、彼女の背中を伝う。
3rdは赤い瞳で了子の瞳を見つめる。
了子──フィーネは自分の中にある罪悪感が膨れ上がる。
彼女は懐に隠して持って行ったリモコンを使用し、外部への音声出力を停止させる。
「これで、少しは落ち着いて話せそうね……クリス」
「今は、3rdだよ。フィーネ」
先ほどまでの剣呑な雰囲気を潜め、彼女は穏やか、久方ぶりに実家に帰った時のような軽く、しかし、重い感傷と共に笑う。
「随分と変わったみたいね。どうして私みたいに、人の体を乗っ取るようなことができているのか、説明してもらえる?」
「ん? そんなことか。それはフィーネの転生に使っていた技術の転用と錬金術とか、いろいろな複合だな」
鳩が豆鉄砲を食らったかのように面食らったフィーネは頬を引きつらせて苦笑いを浮かべる。
「随分と、正直に話すのね……」
「別に、正直に答えるつもりでいったわけじゃねぇよ。どうせ再現できない技術だってことと、話したところであまり状況に変化がないからっていう予測の結果だよ」
「随分と下に見るわね。わたしのことを」
悪戯が成功した子供の様に、舌をだして片目を瞑る。
「ハハハ、そんなの簡単だろ? 全部予測した結果だよ。アタシたちアークの予測はそうそう外れはしない」
(外れない予測とはね……一体どんな技術なのか、喉から手が出るほどほしいものねぇ)
表情に出さないように取り繕いながら、彼女は相手の技術に興味を示す。それだけの心理的余裕が生まれてきたおり、彼女は息を整えて、相手の真意を問いただす。
「貴女がわざわざ、ここに現れた理由はなにかしら?」
「それは、1つ頼みがあるだけだよ」
「内容は?」
「この時代のアタシと決別してほしいだけだよ」
「どういう目的? すでに私とクリスは袂を分かっているもの。これ以上決別する意味が分からないのだけれども」
ニヤリと笑う彼女に一つの不安がよぎる。それは自身を動かす事が予測沿った行動だということ。つまりは自分がとるであろう行動さえも目の前の相手がすでに知っていることになる。
(本当に不気味ね。アークっていうのは……)
フィーネは3rdの提案を嫌な予感と共に飲むのであった。
椅子に座りながら、足をふらつかせる。響は共にきていた自分の親友、未来の事情聴取の終わりを待っていた。
「あれ……立花じゃないか……」
「あ、翼さん! 奏さん!」
自分の名前が近くから聞こえたため、響は回りを見渡すと翼と奏、そして緒川慎次が近くにいた。
こちらに向かってくる3人に対して、響は椅子を立つ。
「よぉ、お前、こんなとこに一人でどうしたんだ?」
「それが、未来がこの前の戦闘の件で呼び出されちゃって」
「あぁ~確かに呼び出されてしまうね」
二人と世間話や、最近の戦闘についての反省点等の話を始めていると、気がつくとこちらに近づく足音から後ろを振り向くと、了子と未来がそこにいた。
「あ、未来!」
「響……声が大きいよ……」
「あ、ごめんごめん」
喜びのあまりに、大きな声をだしてしまった響に苦笑を浮かべてこちらに小走りで近づいてくる。
「それで、どうなったの?」
「なんか、協力者になるみたいだって、一応響とソウマと同じ立場になるみたい」
「え……それじゃぁ、未来も……戦うの?」
恐る恐る、様々な恐怖を目に写しながら聞いてくる。
未来は響の不安を取り払うように首を横にふる。
「ううん、違うよ。アークはいつでも協力してくれる訳じゃないから、戦うことはできないかな?」
「安心して響ちゃん。あくまでも、自由な行動を保証するためのものだから、でも、最低限監視がついちゃうからごめんね」
了子が響と未来に申し訳なさそうにしていると、戦うわけではないとわかり、響は胸を撫で下ろす。
「よかったじゃねぇか、戦いなんてするもんじゃないからな」
「奏……」
ぶっきらぼうながらも、二人を案ずる奏を目にして笑みが消えない。
「なんだよ、翼」
「なんでもないよ! 奏!」
笑っている翼に怪訝な表情で訴えるが翼に簡単にあしらわれる。
「ところで、ごめんなさいね。なんかガールズトークを邪魔しちゃったみたいで」
「あれは、ガールズトークなんでしょうか……」
少し、剣呑さを含んだ会話に緒川は、本の少しだけ本音が口からこぼれてしまった。
「あら、でも、いいわよねぇ青春て、まぁ、私はいまでも一途だから関係ないか」
「え、了子さんにもそんな相手がいるんですか!?」
「失礼ね。いるわよ。私だって女の子ですもの」
彼女の女の子発言と合わせて、恋の話ともあり、響はいわずもがな、奏でさえも、興味を強く示し始めた。
「以外だな、了子さんは研究一筋かと思ってたぜ」
「えぇ、まさか桜井女史からそのような言葉を聞けるとは……」
「当たり前でしょう、私は一途に恋に生きる女だもの! でも、響ちゃんや未来ちゃんみたいに一人の男性を好きになるみたいな感じのことはなかったけどねぇ」
「いやぁ、それほどでも」
「響……誉められてないよ……」
「え、そうなの!?」
「相変わらずの残念さだな。立花は」
「あぁ違わないな」
「翼さんも奏さんも酷いです~」
わちゃわちゃとなっていく空気にその場にいた緒川は疎外感を覚えて、口から本音が溢れてしまった。
「なんでしょうか、凄く肩身が狭いです」
少しだけ哀愁を纏いながら、職務のためと言い聞かせ、その場で待機するのであった。
渋い表情を浮かべるソウマとその表情の原因となった提案という名の命令を下した弦十郎。
ソウマは、瞼を閉じ、情報の精査、どのような行動をとるべきか考える。
「協力してくれるかな。榊君」
「あぁ、正直、断る理由も、それを行う一切の利点もないですから……状況的にもそれが、俺や響にとっても有利となることはわかってますから……しかし、そうなった場合のクリスの安全が一切保証されない点についてはどうするつもりですか?」
「それは、俺が何とかしよう」
「それが、信用できないって言ってるんですよ。組織中枢部の裏切り者の存在。そして敵の戦力の不透明さ……他にもいろいろと今のあなた達には信用できる側面が少なすぎるんですよ」
「……それでも、信用してほしい」
頭を下げる弦十郎に、下唇を噛むソウマは、多少の罪悪感が胸を締め付ける。しかし、それ以上にクリスの命の安全が一切保証されないこの現状を認めるわけにはいかない気持ちがそれを跳ね除けようとする。
「……あなた個人を信用していないわけじゃないんですよ。あなたの大人としての誠実さには一切の疑いはないんです」
「榊君……」
「わかりました。でも、彼女の身柄は預けられない。これで手打ちにしてもらえないでしょうか」
「ありがとう」
弦十郎の差し出された右手をとり、握手を交わす。後悔が湧き上がるも、それを理性の弁明によって押し潰す。
二人の間の壁が本の少しだけ取り払われたような感覚を2人揃って抱いていた。