ガチャリと音が玄関の鍵を開ける音が聞こえる。
留守番をしていたクリスは、音に気を取られ、テレビから、玄関へと視線を向ける。
「ただいま……」
「あぁ、おかえり……って、おい、どうしたんだ。大丈夫か?」
「う、うん。いやぁ、なんか面倒くさい状況になっちゃって……はぁ……」
精神的に疲れたソウマは、荷物を投げ出し、クリスの座っているソファーの横に勢いよく座り込む。
「ッ!?」
1週間近く同じ部屋で寝食を共にしているが、こんなソウマの姿を見るのは初めてだった。
「どうしたんだよ……お前がそんなに疲れてるなんて……」
「ん、あぁ~腹芸苦手なのに、腹芸を一番見抜かれそうな相手にするのは本気で疲れたよ」
「? 、腹芸って一体どういうことだ?」
「正直説明に困るんだよね。内容が、内容だけに」
「ふーん、まぁいいけどな……アタシに関係なければな」
「ハハハ……」
乾いた苦笑いが部屋に響くがしばらくすると、彼の携帯が震える。
「ん、未来から、ちょっとごめん、もしもし、どうしたの?」
『あ、ごめんね。ソウマこんな、夜遅くに』
「いや、大丈夫だけど……でもどうしたの?」
『それが、今日、私も外部協力者に指名されちゃって』
「外部協力者……え、マジで……」
『うん、それで伝えておかなきゃいけないと思って……』
「……あの野郎」
『え、ソウマ、なにかいった?』
「ん、いや、何も。でも、このまま、普通に協力者としてなにかしなきゃいけないってことになってるの?」
『ううん、それは大丈夫だって』
「よかった……」
胸をなでおろすソウマを、クリスは無言で見つめる。
楽しそうに通話をする彼の姿に本当に少しだけ、無自覚に自分の服を強く握り締める。
「ん……あぁごめん、ちょっとまだ、やることが残っててさ、もう寝るよ」
『あ、そうだ、今週末って予定あいてる?』
「あぁ……空いてるけど、それがどうしたの?」
『嫌じゃなかったら、その時一緒に出掛けないかなって……』
「え、あ、あぁうん行こう、楽しみにしてる」
『よかった、じゃあ詳細はまた今度話すね。それじゃあ、おやすみなさい』
「あぁおやすみ、愛してるよ」
『え、えぇ、そ、そうまぁ』
狼狽えている未来との通話を切り、悪戯が成功した子供の様に彼は笑う。
「……楽しそうだな、ソウマ」
仏頂面のクリスに彼は困った顔を浮かべる。
「どうしたの、クリス、そんな怖い顔をして」
「なんでもねぇよ、なんでも……」
「あ、そうだ、明日ってどこに行くんだ?」
完全に彼女の意識を逸らすために、話題を変える。
「あぁ、それは、フィーネのところだよ」
その言葉に、驚くが、予想通りというかのように、ソウマは、肩を落とすのであった。
ソウマはクリスを後ろにのせ、ライドストライカーを走らせる。目的地はフィーネのいるであろう郊外の屋敷であり、少しずつ森林の目立つ景色に移り変わっていった。
クリスは、フィーネにであう、恐怖か不安かはわからないが、自分の感情を紛らわせるために、彼に捕まる腕をさらに強くする。強く抱きしめた彼の体から伝わる熱が強く自分に伝わってくる。不安が少しずつ彼の熱に溶けて消えていく感覚が湧き上がる。
「……あったかいな」
クリスはその感覚に縋るように、さらに強く抱きしめる。
「……」
一瞬だけ、彼女に意識を向けるが、再び、周りへと意識を向ける。
風が体に当たり、後ろへと吹き抜けていく。ライダージャケットを着ているが、少しだけ、冷える体に頭に上がっていた現状への怒りの感情が冷えていく。
昨夜の未来との会話で受けた怒りの感情が燻りだす。頭では、最善だと理解できるが、それでも、怒りの感情が沸々と湧き上がる。しかし、その感情を吹き抜ける風がそれを忘れさせてくれる。
背中から感じる。人の温もりと、自分を抱きしめる彼女の腕が今の自分のやるべきことを教えてくれている。そんな感傷に浸りながら、彼はギアを上げ、アクセルをさらに吹かすのであった。
ソウマは、ゆっくりと、速度を落とし、止まり、ヘルメットを脱ぐ。
「ここか……フィーネがいるっていう場所は」
「あぁ、確かにここのはずだ」
二人は、目の前の洋館に意識を向ける。ライドストライカーから降りると、待機状態へと戻す。
「……いこうか」
ソウマは、ドライバーを腰に装着すると扉へと進んでいく。
「……あぁ」
フィーネからの絶縁の宣言を受けて以来となり、不安感が再び、募る。先ほどまでの温かさがなくなったことで募る不安は消えることなく、彼女を蝕む。
蝕まれていく心が足を前へと踏み出すことを躊躇わせる。
「クリス?」
クリスが来ないことに気づき、振り返るとそこには顔を青くした彼女がそこにいた。
「大丈夫? 、顔色が悪いみたいだけど……」
「あ、あぁ、わりぃ」
彼女は、自分の中にある感情に振り回され、不安に押し潰されそうになっている。
「……」
自分を掻き抱く彼女に、ソウマは近づき、彼女の右手を覆うように触れ、握り締める。
「え……」
「不安だったら、俺がそばにいるよ、だから大丈夫!」
「ソウマ……」
いきなり、握られた手に驚き、顔を上げる。
「え、えぇ……」
困惑しながらも、握られた手を強く握り返す。手を放すものかと、強く握り締め、自分の中の正体不明の何かに身を預ける。
温かな気持ちを抱きながら、彼と手を繋ぎ、前へ二人で進んでいった。
警戒しながら、洋館の中を進んでいくが、その場所までに一切の罠は見受けられなかった。
二人は進んでいくとそこは、大きな部屋へと到着した。
「ここは……」
「ここにフィーネはよくいたんだ」
そこには、フィーネの姿はない。しかし、その机の上には、様々の資料が散々と広がっていた。
クリスの言葉から、近くの機材や、机の上に意識を向けて探していくと、写真のついた資料がそこにあった。
「これは……ッ!?」
ソウマは、その資料に意識を向け、手に取る。その資料は榊ソウマ自身について書かれており、自分の認識していない情報について書かれていた。
「これは、ちょっと……いや、かなり面倒なことになってるなぁ」
ソウマは冷汗を流して、警戒心を高める。
英語で書かれている報告書、報告書の詳細すぎる点、自分の把握していない両親、親族の現状。様々な情報から嫌な予感が汗と共に噴き出る。
「ここから、離れよう」
彼の中に生まれた嫌な予感が彼の思考を支配する。
「どうして……」
「後で、説明するよ……ッ!?」
強い、視線を受けて振り返るとそこには、白い服とフードかぶっている女性がそこにいた。
「あれぇ、ここに来るなんて、どうしたのかな?」
彼女の無邪気な声が耳に届くも、その質問に答えられないほどまでにクリスもソウマも尋常ならざる気配に飲み込まれていた。