白い服を着た女性がクリスとソウマの前に立ちながら、興味深そうに二人を覗き込んでいた。
「あれぇ、こんなこと、今までなかったはずなんだけどなぁ」
二人を見るようで、その瞳はモノを見るようであるが、どこか、温かさを秘めている。
「まぁ、いいか……ちょっと眠って」
「「ッ!?」」
彼女が手をかざすと、急激な眠気に襲われる。
クリスが、そのまま地面に倒れ伏す。ソウマは、反対に気力で踏ん張りながら、意識を繋ぎとめる。
「あ~、なんで寝てくれないかなぁ~、気力だけで神の力を跳ね除けるのは、ちょっと想定外だねぇ」
「貴女は……一体?」
「私、私はミラ、善なる神にして、この世界で最も初めに存在した神様……かな?」
「なんで……ここ……に……」
「事前にここの状況について確認」
「確……認……?」
当然の疑問を投げかけるが、ミラは首を傾げる。
「まぁ、理由は言えないかなぁ~」
「なん……で……ッ!?」
ソウマの意識が急に遠くなっていき、足を折り、うつ伏せに倒れる。
足音が、消えゆく景色の中に聞こえてくる。
「少し、おふざけが過ぎるな、ミラ?」
足音共にいつもの飄々とした態度が消えた、少しだけ、怒気を纏わせたアーリがそこにいた。
「ッ!?、ぁ……アーリッ!!」
まるで、花が咲くかのように、待ち人を待つ少女のように、恋する少女のように、善なる神は、悪なる神との再会に心を躍らせる。
「……ミラ」
対するアーリは、眉間に皺を寄せる。
アーリは意識を失ったソウマとクリスを灰色のオーロラで二人を転移させる。
転移させた後、ミラも特に気にすることなく、アーリに視線を離さずに微笑み続ける。その視線に彼は気づきながらも、決して彼女と目を合わせようとはしなかった。
「それで、この状況はどういう訳だ? ソウマとクリスを眠らせたのは、ここに鉢合わせたから、では、なぜ、ここでお前が鉢合わせた? まだ、動くタイミングではないと思っていたんだけどね」
「あぁ~うん、それはねぇ、フィーネに力を与える前に、今どれだけソウマ君たちのことを調べているのか、ちょっと気になっちゃって……」
アーリに向けた視線を少し泳がしながら、胸の前で、指と指を合わせる。
「ふ~ん、まぁ、その理由で納得しといてあげるよ。今から口にすることは、ただの独り言だ……」
独り言と断りを入れた上で、自分の考えを述べていく。
「お前がここに、来る理由は、現状の確認も一つだろう。でも、それであれば、システムを使えばいいだけ、それをしないのは、この場に現れたソウマとクリスが状況によっては、フィーネと鉢合わせる危険性、それに伴う、彼女が計画を放棄する可能性を考えた。まぁそれの未然防止ってところかな?」
「随分と長い独り言だねぇ~」
「いや、一応まだ続きがある」
「そ、それ以上は、勘弁してくれないかなぁ~、お願い!」
アーリは、自分に対して、手を合わせて懇願してくる彼女にため息をつきながら、彼女と正面を向いて向き合った。
「わかったよ……それで、まぁ、なんていうか……」
しどろもどろする彼の姿にミラは首を傾げる。しばらくすると、意を決したように手を首元に回して、目線を先ほどまでと同じく、逸らす。
「元気だったか……」
「ぁ……うん! 、元気だよ。だって元気が私の取り柄だもん!」
「そうか……それはよかったよ……本当に」
気恥ずかしさから、目線が泳ぎ続けるアーリに、ミラは喜びのあまりに、頬が緩み続けてしまう。
ミラは、意を決して、一つの頼みごとをアーリに投げる。
「……あ、あのさ、アーリ……また、また一緒に世界を管理しようよ。それで、私と一緒に過ごそう。ね……」
「それは、それはできない」
「……やっぱり、私にもう嫌気がさしちゃった?」
ミラの目じりには涙がたまっていく。それにアーリは首を横に振る。
「そんなことない。でも、俺とお前じゃ望む未来が違いすぎる」
「そんなこと……そんなこと、どうでもいいじゃない!」
自分の中にある有り余る感情をそのまま、アーリにぶつける。
「なんで、そんなに人類のために、身を投げうてるの……どうして、そのために私を捨てたの……」
「捨ててなんかいない……仮にも俺とお前は夫婦神だろうが……自分の愛妻を見捨てる夫がどこにいるっていうんだ!」
「じゃぁ、どうして……」
「俺は、自分の神としての責任を果たすだけだ」
「責任って、どうして……」
明らかに沈んでいる彼女に、アーリは頭を掻きながら、一つの提案を行う。
「なぁ、ミラ、俺たちって結婚式すら、上げてなかったよな……」
「う、うん……それがどうしての?」
いきなりの話の切り出しに彼女は戸惑いの感情が頭を占める。
「これが、この世界の未来が決まって、俺たちのやることが全部終わったら……、式を挙げないか?」
「え、え、えぇぇぇ~!?」
「だめか?」
「う、ううん、したい、したいけど、アーリはそれでいいの?」
「いいさ、ただ、その分俺は今回ばかりは遠慮せずに行く。これ以上時間をかける猶予も力もあまり残されていないからな……」
彼の言葉を受けて、呆然とするミラは、無力感を感じて、唇を噛む、しかし、すぐにそれを払拭するために、手を強く握るり、自分の中にある、躊躇いを投げ捨てる。
「そんなことない……そんなことないよ、私が勝って、すべてを手に入れる。だから、アーリ、今回は私も全力で行くよ」
悪神と善神は自身の目指す未来のために、自分の領域に戻ろうとする。
アーリとミラは、自分の領域への門を開くと、足を止めて、口を開く。
「ミラ、俺は、全力で足掻く」
「アーリ、私も、全力足掻くよ」
「「自分が望む未来のために!」」
「人類の自由と」
アーリは自由を掲げ
「人類の平和と」
ミラは平和を掲げる。そして、
「「未来のために! 必ず勝つ!!」」
一人と一柱の神は、自身の領域へと戻っていったのであった。
ミラは、自分の領域に戻ると、自分の机の上に置いてある。ライドウォッチダイザーに目を向け、その台座に装着されている。一つのウォッチを手に取る。
「全力で行かないと……もう、猶予はあまりないんだよね……アーリ」
『ジオウ!』
アナザージオウライドウォッチを起動させる。
「これを少し強化する必要があるわね」
先ほどまでのほんわかとした気配は鳴りを潜めて、彼女の眼には狂気が宿る。
「さぁ、踊ってもらいましょう。フィーネ……私たちの望む未来のために」
口が裂けたかと思う程に、口角を釣り上げて、狂気に染まった笑みを浮かべる。
「始めましょうか、期待しているわ……フィーネ。せいぜい、私の目的の礎となるように暴れて頂戴!」
白い世界に彼女の狂気に侵された笑う声音が鳴り響き渡る。その眼には、自分の望む未来を描いており、もはや、正気などはどこにも宿してはいなかった。