記念すべき50話ですが、主人公君の出番がないのはどうなんでしょうか?
アーリは自身の領域に戻ると、ゲーミングチェアを出現させ、勢いよく腰かける。
「まったく、なんであんなこと言っちまったのかなぁ」
頭を抱えるように、先ほどまでのミラとのやり取りを後悔する。
「ミラのやつを焚きつけたはいいが……多分あいつは、不確定要素の排除に動くだろうしなぁ、あ゛ぁ゛~」
「何をしているんですか、アーリ……」
「うぇ……なんだ、七実か……あぁ、そうだ、一つ頼み事を聞いてくれない?」
突然後ろから現れた七実に、椅子から転げ落ちそうになるも、必死に耐え抜く。
「なんですか……イデアからの使いで来ただけなので、面倒ごとは嫌なんですが……」
「あぁ~なんていうか、そっくりだよね。ミラとそういうところ──」
「はぁ、ふざけないでもらえますか? 誰があんな女と……」
アーリは、自分の生み出した神に対して、反抗期の娘のごとく、毛嫌いをしている七実は、同族嫌悪なのだろうとしんみりと感じる。
「娘に嫌われる母親とはねぇ……あれ? となると俺は父親か? ……マジかぁ……」
「なに、言ってるんですか……とりあえず、これを渡すようにと、イデアから」
手に持っているファイルを彼に渡す。アーリは、それをその場で読み始めると、顔を顰める。
「うげぇ、マジか……状況が一切合切どうしようもない面倒くさい状況ってこういうことをいうんだなぁ」
「どうしました? そんなにイデアの報告に問題があったと」
「違うよ。必要事項については完璧……完璧すぎて、現状があまりにも入り組みすぎてるんよ……」
「それはどういう……」
「これを見てみ」
疑問に答えるために、空間にモニターを出現させる。そこには、それぞれの奏者とソウマとアスカのパラメーターが表示される。
「やはりそうですか……」
「やっぱり気づいてたんだ……そうなんだよねぇ、まさかアスカと奏以外の8人が過去の自分とここまで融合してるとはねぇ……」
「そんなに面倒なのですか? そもそも、因果情報の取得は想定の範疇であったはずでしょう」
首を傾げる七実にアーリは、背もたれに完全に寄りかかり、天を見上げる。
「簡単に言うと、全員の人格が二つある状態になっているんだよ。それぞれが表の主人格を裏側から浸食していて、それが彼らの力を引き上げている……力の制御ができないのは、制御できるほど、肉体が完成していないから……だから面倒なんだよねぇ……これが因果情報の取得のみであれば、そこまで強い影響が継続的に出ることにはならずに済んでいるからね」
「つまり、暴発しやすいと……ですが、どうしてそこまで、情報の取得と融合には大きく差があるのですか? あまり、本質的には違いがないように見えますが……実際に、記憶の継承に伴う力の暴走も確認されていますし」
アーリの解説に疑問を感じる七実に、彼は、少し頭を傾げて、例え話を始める。
「本質の違いは、単純にデータの種類と量の問題かな? 二つの大きな入れ物に、違う色の水を入れると、入れる量の比率で色が変わるよね」
「はい」
「もし、それの上で水の濃さがさらに絡むとさらに色が変わる。つまり、比率と濃さによって、片方の色水が後に入れた色水によって色が変色させられる。そう捉えることもできる」
「はぁ」
「それが因果情報の取得のイメージかな。単純な取得なら、量はそこまで多くない、でも今回は人格を形成するほどの膨大なデータ量の上、さらに、過去の人格のほうが積み重ねた経験が上回る。つまり、大きく現在の彼女たちの人格に大きく影響を及ぼしてしまう。ただ、できることが基本的には主人格の後押し程度の影響しかできないけども……それでも、継続的に記憶の解凍と併せて、人格の融合が進めば、2つの人格が一つになる危険性はある」
「さらには、暴発が起こる比率が跳ね上がる。記憶の一部継承であれば、その都度その都度で暴発したりして、限界を超える力を引き出す。イメージだけども、融合すると、少し、いつも以上に力を引き出そうと意識すると融合した経験に影響して、暴発を引き起こして、限界を超えた力を引き出す。つまりは前の、工業地帯でのクリスちゃんと響ちゃんの戦闘のように、戦闘しながら少しずつ強くなっていくみたいなことも起きるけども、翼ちゃんみたいに、絶唱なんか使うと、制御ができずに、通常の絶唱以上の身体的ダメージを受けてしまうってわけ」
納得した様子の七実であるが、情報量の多さから、少しだけ顔を顰めてしまう。
「それでは、実際には大きく、現状からはみ出ることは少ないが、限界を超えようとしすぎると、面倒なことになる危険性を常時孕んでいるということでしょうか……」
「そういうこと……シャドウジオウの覚醒も完全に想定外。さらに、融合しようとしている過去の人格の形成についても、おそらく、シャドウジオウの誕生とミラの世界の分割複製が大きな原因だね」
総括として、現状の原因を洗い出そうにも、善神と悪神で原因を抱えているため改善できない点に二人して、頭を抱える。
「……はぁ、これだけの事象が重なればこんな大事になるってわけですか」
「1:1で互いに原因がある状況だからねぇ。ミラだけを責められないよねぇ……」
アーリは背もたれに完全に寄りかかり、脱力しながら、諦念に満ちた表情を浮かべる。しばらく、すると、彼は本題があったことを思い出し、手を叩いて、ニタリと笑う。
「まぁ、融合については現時点では、そこまで問題じゃないから大丈夫と言えば大丈夫かな……所詮過去の人格はデータに過ぎない。言い方を変えれば、プログラムの更新データみたいなもの、主人格を飲み込むほどの力はないし、強い意志さえあれば、それを跳ね除けられる。まぁただ、データであっても、意思を持っているから、彼女たちの人格に影響は出るだろうけどね。実際に、一番融合が進んで、統合に近い状態に近づいている翼ちゃんと次点のクリスちゃんはいい意味でも悪い意味でも影響が出始めてるみたいだしね」
「……」
アーリの推察を聞きながらも、興味が薄れたように、集中を散らす。
アーリは、そんな七実に本題を切り出すために、モニターから視線を外し、コンソールを出現させ、卓上に一つのライドウォッチを出現させる。
「それは……」
「うん、君に回収してもらったアナザーエグゼイドライドウォッチだよ。これを利用しようと思ってね」
「利用?」
「──────」
「え……」
アーリの依頼は七実の理解の範疇を逸脱したものであった。
「そんなことをしたら……もし失敗したらどうするつもり?」
「その時はその時で何とかするさ……一応手がないわけでもないからね」
「そんな手段あるわけ……まさかッ!?」
「うん、バックアップだよ」
自分の知識の中にあるものに確かに手段といえる手段が思いつく。しかしそれは七実にとっては最も考えたくない手段であった。
「バックアップ……」
「安心してよ。バックアップは一つじゃないから……その分、俺の負担が上がるけども……」
ケラケラと笑うアーリの言葉信じて、七実は卓上にあるライドウォッチを手に取る。
「それじゃぁよろしくね……」
「もし、何かあったら、私はあなたを絶対に許さない……」
怨嗟にも似た七実の声にイデアは気にも留めずにモニターへと意識を戻す。
それを確認した七実は、振り返り、灰色のオーロラを使用して現世へと戻っていった。
「まぁ、こっちもピッチを上げるしかないからねぇ。利用させてもらうよ、いろいろとね……」
アーリは、これから先に起こることを考え、モニターに表示された翼とクリスとソウマのパラメータに目を通し、イデアから受け取ったデータを使用し、とあるウォッチの再調整と改造を始めるのであった。