歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第58話  0000/試練の終わり

 青い空が眩しく見える中、ソウマは雪音クリスが向かっていった。

 

 

「よかった……無事みたいだ」

 

 

 雪音クリスの服には、赤い血が変色し、固形化している。しかし、肉体には、どこにも傷は見当たらない。

 

 

 胸が上下し、息をしていることは一目で理解し、彼女の口から漏れ出す。吐息に安心し、彼は脱力する。

 

 

「アスカぁ、無事~?」

 

 

「な、なんとかなぁ……取り合えず、もう二度と戦いたくないな」

 

 

 ソウマの声に、アスカは、寝そべりながら、返事をする。

 

 

 先ほどのダメージにより、体の自由が利かなくなっている。

 

 

 パチパチという拍手の音が聞こえてくる。

 

 

「おめでとう。一応、裏ボス攻略をこんな段階で完全にできるとはね。まぁ、そう仕向けたのは俺なんだけども」

 

 

 どこかで、聞いたことのある声に意識を二人そろって、向ける。

 

 

「アーリッ!?」

 

 

 ソウマが、声の主に向き合うと、そこには悪しき神が飄々とした態度で立っていた。

 

 

「元気そうで何よりだよ。五体満足で済むとは思っていなかったからね」

 

 

「おいッ……今回の件の画を描いた張本人から褒められても、うれしくないなッ!?」

 

 

 明確な怒気を向けているソウマに対して、アーリは、冷ややかな表情で、指を鳴らす。

 

 

 その音と同時に、灰色のオーロラが此方に迫ってくる。

 

 

「では、お連れしよう。神の世界へ」

 

 

「なにッ!?」

 

 

 そして、一気に、その場にいるものをソウマ達を転移させたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白く、何もない世界の中に、ソウマ、アスカ、クリス、弦十郎、七実、そして、アーリが転移してきた。

 

 

「ようこそ、神の世界へ」

 

 

 いつもの、椅子に腰かけて、彼は歓迎をしていた。

 

 

「何とかなってよかったよ。我が魔王」

 

 

 椅子に縛り付けられているイデアが、こちらに話かけてきた。

 

 

「なんで、そんな恰好しているの……」

 

 

「なんでとは、いや、何でもない」

 

 

 二人の会話に笑いをこらえるように、口元を抑えているアーリを変なものを見る目で七実は見ている。

 

 

 その呆れるような気配で、手に槍を生み出し、イデアを縛っている鎖を断ち切った。

 

 

「うげぇ、やっぱり、その鎖を切れるよねぇ。ガングニールであれば……。もっと改良しないとなぁ~」

 

 

 そんな、アーリの反応をイデアは腑に落ちぬ表情で、七実は視線すら向けずに、イデアの服の乱れを直していた。

 

 

「それで、君たちをここに連れてきた理由についてだが……単純に言えばご褒美と、今回の騒動の説明とこっちの都合の複合かな?」

 

 

 強引に話を進めるように、アーリは先ほどまでの会話を断ち切る。

 

 

「……あぁ、そういえば、クリスちゃんと、弦十郎君を目覚めさせないとね」

 

 

 指を鳴らすと、二人を微かな光が包み込み、目を覚ました。

 

 

「……俺は、一体……」

 

 

「ッ!? ……ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 

 二人は、現状を理解できないといえる表情を浮かべ、弦十郎は混濁している記憶を探るように、頭に片手を、クリスは、切られたはずの自分の傷を確かめるように摩っていた。

 

 

「ソウマ、アタシ──」

 

 

「クリスッ!? ……よかった」

 

 

 ソウマは、クリスの言葉を遮るように、抱き着く。

 

 

 すすり声が聞こえてきた彼女は、困惑を自分の中にしまい込み、彼をあやす様に、頭を撫でていた。

 

 

「んんッ」

 

 

 七実が咳ばらいをすると、二人の意識が外に向き、急に恥ずかしくなり、その場を互いに離れる。

 

 

 羞恥心から、少し頬が赤くなった二人には、あまり初々しさにその場にいる皆、微笑ましいようにしていたが、真相を知っている神々は、微笑ましく思う表情の裏に、複雑な思いを隠していた。

 

 

「さて、本題から話そうか」

 

 

 話を切り出すアーリに全員が視線を向けた。

 

 

「まず、今回の騒動を俺が手引きしたのは、ミラと少し約束事をしたことが原因だね」

 

 

「約束?」

 

 

 なにも知らないソウマ、クリス、弦十郎の3人は首を傾げる。

 

 

「そう、まぁ、詳細は省くよ。正直君たちにはどうでもいい内容だからね。では、まず、我らが魔王がシャドウジオウの覚醒、所謂、進化だよ。この進化は、シャドウジオウのコアに掛けていた複数の封印の内、概念封印が解けたことで、完全性を欠いたことにより、内部のシステムの影響を受ける形で浸食によって、ジオウの力とは別のシャドウジオウの力へと完全に不可逆に変質した」

 

 

「ちょっとまって、それじゃあ、ジオウの姿を模していることに対しては、コアの封印以外に意味がないってこと?」

 

 

「そういう訳ではないよ。ただ、コアの制御には、ジオウ級の力が必要なんだよ。それに、基本的に封印については、ジオウに一任しているし、たぶん、あったことぐらいはあるでしょ。我らが魔王」

 

 

「まぁ……」

 

 

「それで、封印が解けた理由だけど、全部こちら側のミスだ。特に君たち側に落ち度はないから安心して」

 

 

「それは、どういう意味だ」

 

 

 先ほどまで、沈黙を貫いていたアスカが、アーリに質問を投げかける。

 

 

「おや、君がそれを気に掛けるとはねぇ。まぁ、いいかな? 簡単に言うと、概念封印で、ジオウと世界に錯誤させることをシステム上でも、行っている。しかし、それだけでは、封印は決して完全ではない。それどころか、世界そのものに登録されている名称と実物が異なるせいで、矛盾が生じて、封印が自壊する」

 

 

 困ったような表情を浮かべるが、口元が裂けるかのような笑みを浮かべる。

 

 

「つまり、外部から、外付けの形で、実物の認識そのものを歪める必要がある。つまり、イデアにウォズムーブをさせることで、世界に与える影響をジオウと同一に近い状況を再現していたってわけ」

 

 

「あ……」

 

 

 アーリの説明を聞いたときに、七実は、一瞬ポカンとした表情を浮かべたと思ったら、血の気が引いていった。

 

 

「結論を言うと、どこぞの誰かさんが、祝ったり、前置きしなかったりしたせいで、概念封印が自壊してしまったってわけ」

 

 

 その結論を聞いたことで、七実に冷ややかな視線をイデアが送ると、必死になって、視線を逸らして、もじもじとしていた。

 

 

「ま、まぁ、そういう訳だから、これ以上の追及はやめておこうか……」

 

 

 イデアが、七実に集中している視線に対し、少し、申し訳なさがあふれてきたため、話を本題に戻す。

 

 

「そうだねぇ、そういえば、アスカ君のシャドウゲイツについても、今までの戦闘データと今回の戦闘データで読み取ったデータで、どういう構成か理解できたよ」

 

 

「俺の?」

 

 

「あぁ……びっくりしたよ。このシステムは単純にシャドウジオウの未覚醒状態をコピーした代物。と言っても、完全なコピーではなく、表面上のみのデットコピー品。しかし、シャドウシステムのコアについては出力は数段劣るが、コピー品が搭載されているみたいだからね。一応、覚醒段階に至ることはできるみたいだね。しかも、この覚醒は、オリジナルとは違って、負担も少ないっていう利点もある」

 

 

「覚醒……シャドウゲイツの覚醒に必要な条件は何だ」

 

 

「それは知らないよ。俺は、何も知らない。そもそも、俺が作ったものじゃない以上、仕様書なんてものもないからね」

 

 

「……」

 

 

 何も知らない、分からないというアーリの言葉は無責任に見えて、彼にとってはこれ以上ないレベルでの正直な嘘偽りのない本音であった。

 

 

「ただ、一つだけ、心当たりがあるとすれば、君がいた元の時代にヒントがあるんじゃないかなって」

 

 

「俺の未来だと……」

 

 

「うん、絶望に満ちた未来、もはや、救いすらない世界さ」

 

 

 重い空気がその場を支配する。

 

 

「ねぇ、その未来っていうのは、俺が作ったのか」

 

 

 ソウマの言葉には、迷いと困惑が宿っている。

 

 

「そうだね。我らが魔王と、クリスちゃんの二人が作り上げた未来。文字通り、世界を平和にしようとした世界だ……」

 

 

「アタシとソウマが……」

 

 

「まぁね。色々とあったがね」

 

 

 アーリの心に、クリスの言葉とソウマの視線が重く突き刺さる。

 

 

 しかし、悪神であっても、簡単には茶化せない現状故に、ただ、視線を反らしつつ、話を反らすしかできずにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

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