歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第59話 0000→XXXX/雪の音に憎しみが響く

 神の起こした騒動が起きてから3日、肉体の負担はないものの、2日続けて寝込み、ベットから起き上がる体力すら切れている始末であった。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛……」

 

 

 ベットの上から、ゾンビのような唸り声が部屋に響く。

 

 

「目を覚ましたみたいだな……」

 

 

「あ、あぁ……おはよう。どのぐらい寝てたんだ?」

 

 

 ソウマは、残っている体力で、上半身を何とか起こすと、エプロンを着たクリスがベットの横に立っている。

 

 

「2日だよ。今日で3日目だ。この寝坊助……」

 

 

 彼女の自嘲気味の元気がない声音に、気を取られつつも、ベットから降りようとする

 

 

 ガクン、と擬音が聞こえそうになるほど、勢いよく、膝が崩れて地面に倒れ伏しそうになる。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

 彼女はそれを咄嗟に支える。

 

 

「あぁ……なんとか……」

 

 

 その瞬間、彼の手にウォッチが現れると体に力が戻る。

 

 

「……もう大丈夫っぽい」

 

 

「え……」

 

 

 彼は立ち上がる。その様からは、今までの昏睡がなかったかにような生気に溢れている。

 

 

「……だ、だったら、先に風呂に入ってくれ……食事を用意しとくから」

 

 

 彼女に、自身の着替えを胸元に押し付けられる形で押し切られる。

 

 

「?」

 

 

 違和感を覚えながらも、風呂場へと向かい、汗を流すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 髪を渇かし、部屋着に袖を通す。歯を磨き、身嗜みを整えるリビングに移動すると、そこにはただならぬ気配を纏った響と未来が座って待っており、クリスがその対面に座っており、まるで借りてきた猫のように縮こまって座っていた。

 

 

「ようやく、起きたんだ。心配してたんだよ。ソウマ……」

 

 

 何時もより、低い声の響はただ、にこやかな微笑みを浮かべていたが、それは張り付いているように見えるだけであり、その目は笑ってはいなかった。

 

 

「あぁ~……お揃いみたいで……どう言い訳したものかな……」

 

 

 空いているクリスの隣の席に座り、4人でテーブルを囲みながら、ソウマは2人が口を開くのを待っていた。

 

 

「ねぇ、ソウマ……なんで彼女と一緒に住んでいるのかな?」

 

 

「やっぱり、それが気になるよね……」

 

 

 想定どおりの響からの質問にどう答えたものか頭を捻る。

 

 

「あぁ……それは──」

 

 

「こいつは悪くねぇ、全部アタシが悪いんだ!」

 

 

 話し出そうとしたその瞬間、クリスがソウマを庇うように声をあげる。その肩は震えていた。

 

 

「いや、全部俺の独断だよ」

 

 

「じゃぁ、浮気を認めるんだね……」

 

 

「あぁ……まぁ、色々な事情つきだけどね」

 

 

「ねぇ、ソウマ、事情ってなにかな?」

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

 今まで、静かにしていた未来が口を開く。しかし、その目には響と異なり、何時ものソウマに向ける感情そのものであった。

 

 

 その視線にかなりの困惑を示すソウマは少しだけ、重く感じる口を開く。

 

 

「単純にクリスの身が危ないっていう点が一番だな」

 

 

「それってどういうこと?」

 

 

 未来がソウマの言葉に対し冷静に理由を求める。

 

 

「まず、フィーネ、つまり今回の黒幕に対して2課の情報が漏れている。でなきゃ、響が融合症例っていう情報はクリスに流れる筈がないからね」

 

 

 彼は視線を少しだけ左上に逸らす。

 

 

「それに、フィーネのスポンサーの存在が面倒でね」

 

 

「スポンサー?」

 

 

「そう、スポンサー。まぁスポンサーの正体が某お米の国っぽいんだよね」

 

 

「ッ!? ……それってどういうこと、でもあの国は、日本と同盟国の筈でしょなのにそれって」

 

 

「さぁ、それこそ政治的問題ってやつなんじゃないかな? それに政府の反応からするに、恐らく一切の手回しがないか、若しくは手を一部のみにしか回してないかって感じだろうしね」

 

 

「証拠はあるの、ソウマ……」

 

 

「一応ね。俺でさえ正確に把握していない親族の動向、現状。併せておれ自身の情報が英語で書かれている某お米の国産の書類をフィーネがもっていたから、っていうのが1つ。2つめはこの前襲撃された議員ついて、日本への重火器の持ち込み、特に機関銃類の持ち込みなんて国外組織ができるわけがない。そうなるとルートは自ずと内側、つまり国内における国外、軍事基地系列の可能性が大きくなる。この2点かな、状況証拠と物的証拠、それぞれあげてみた感じではね」

 

 

「でも、それだけじゃ」

 

 

「簡単だよ。国内の中にいる勢力がやるにしてはあまりにも、その後の対処があまりにも、大掛かりすぎる。テロリストによる暗殺なんて、あまりにも杜撰。国内の勢力なら、もっと騒動を小さいレベルに収めようとする。あまりにも国民性と噛み合わない。もみ消さずに、大事にして、細部から目を背けさせる。古典的で、だが効果のある手垢まみれの政治的な手法だからね。」

 

 

 

 未来の言葉に、ソウマが用意していた自身の見解を伝える。その内容はあまりにも現状におけるイレギュラーと呼べるもので、完全に埒外の情報に、二人の頭は真っ白になっていた。

 

 

「ねぇ……私には難しい話はわからない……でも、ソウマは私たちのことがどうでも良くなったの?」

 

 

 ただただ、口から響の本音が溢れ堕ちる。

 

 

 その言葉に彼の頭に自覚できるほどに血がのぼった。

 

 

「──ッ!?」

 

 

 しかし、理性が感情を言葉にするのを阻む。

 

 

 彼女が嫉妬と怒りに呑まれるのは当然であった。その悪感情こそ、彼を愛する感情と同量であった。

 

 

 自身の中にある感情に振り回されている響に対して、自身の身勝手な感情をぶつけることはあまりにも、無体なことでしかなかった。

 

 

 彼は、それを理解する。

 

 

 その理性ゆえに、彼女の瞳から大粒の涙が零れる。

 

 

「……響、俺は、俺の想いは何一つ変わってない。それだけは信じてくれ」

 

 

「信じられないよ!? どうして、貴方を殺そうとした人を助けようとするのッ、どうして、そんな人を……そんな人を……」

 

 

 どうしてもそれより先の言葉が出てこない。

 

 

 言葉にすればそれが、現実になってしまいそうで、それを心の底から口にはできなかった。

 

 

「やっぱり、こうなってたか」

 

 

「七実さん、どうしてここに?」

 

 

 気が付くと、七実が予想通りという表情を浮かべ、机に体重をかけて立っていた。

 

 

「えぇ、修羅場になることはわかっていたもの。ただ、立花響、貴女がそれを口にする資格なんてないはずよ、二重の意味でね。その言葉を口にできるのは、ある意味では、そこにいる雪音クリスだけ、文字通り、ここにいる全員でね」

 

 

「それって……どういう」

 

 

「貴方が気にする必要はない。それが結論。さてと、行くとしましょうか」

 

 

「どこへ行く気だ」

 

 

 聞きなれない声音に、ソウマは意識を未来に向ける。

 

 

「お前は、誰だ」

 

 

「私はアーク……それ以上の情報は今は必要ないだろう?」

 

 

「あら、アーク、久方ぶりね。そうね。今から行くのは未来の一つ。榊ソウマと雪音クリスが添い遂げた世界。と言ったらあなたはどうする?」

 

 

 アークの視線が左上に動くと、顎に手をかける。

 

 

「あぁ、構わないさ」

 

 

「あらら、意地らしいわね。さてと行きましょう」

 

 

 灰色の景色に彼らの視界を飲み込む。

 

 

 それが過ぎ去ると砂ぼこりと瓦礫の光景が目に入る。

 

 

 苔むした瓦礫と廃墟の町だけが広がっていた。

 

 

「ここが、そうなのか……これが俺が造り出した未来なのか……」

 

 

「……」

 

 

 無言がそれを肯定する。

 

 

 これが自分の作り出した未来なのだと、諦念にも似た後悔が彼を襲うのだった。

 

 

 

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