気付いたら、3ヶ月失踪してました。
この3ヶ月の間に通風、骨折、腰痛等々の怪我、病気が連発しておりました。一応、メンタルも安定してきたので再開していきますので、どうよろしくお願い致します。
空虚ともいえる最低限の荷物があるのみの部屋に雪音アスカはいた。
「邪魔するぜ……なんだ、起きてたのか」
「あぁ……まぁな」
その部屋に彼女──天羽奏は訪ねに来ていた。
彼女はアスカがこの前の戦闘の傷で寝込んでいると思っていたが、そこにいたのは、いつもの変わらない彼の姿であった。
「お前が返ってきたときには、意識がなかったしな。心配したよ、まったく……」
「それは、すまなかったな」
「おいおい、随分とそっけないな」
奏は、からっと笑いながら、近くの椅子に腰かける。
「まぁな、一つ聞きたい」
「ん? なんだ?」
「あれから、ソウマと風鳴司令はどうなった?」
「……あぁ、ダンナなら無事に、今も、仕事してるよ。榊ソウマについては、私も知らないよ」
ソウマの話題となった瞬間に、ぶっきらぼうな返事を返す奏に、ただ、「そうか」と彼は返すのみであった。
二人の間に、妙な空気が漂う
互いに、それは、本音を隠し、相手を気遣う空気であった。
しかし、その沈黙は、奏の言葉で破られた。
「なぁ、教えてくれないか? ……お前は、憎くないのかよ。自分の家族を殺した、アイツのことを……」
「……憎いか、憎くないかで言えば、多少はある。間違いなくな」
「だったら──」
「それでもッ! それでも……忘れられないんだ。あの時のことを……」
アスカが珍しく、自身のことで、声を荒げる様に、奏は、心臓を掴まれたような錯覚を受ける。
「……なぁ、あの時ってのは……よかったら、聞かせてくれないか?」
「あぁ、そんな大層なことじゃない」
そういうと、彼は、机の上に置いてある。自身のシャドウゲイツウォッチを手に取り、彼女のいる方向の壁と逆の壁に、視線を向ける。
「昔、俺はあったことがあるんだ。未来のソウマ──オーマジオウとなった彼とな」
「……」
彼女が無言であったが、息をのむような音がした。
「俺は、榊ソウマと榊クリスの間に生まれた娘、榊美花と錬金術師、榊トーマスとの間に生まれたと言ったら、信じるか?」
「ちょっと待てッ!? それじゃ、なにか、アイツがお前のじいさんだってことかよ」
「そうなる。俺の本名は榊アスカだしな」
「ッ!? ……つづけてくれ……」
綺麗な赤い髪を掻きむしり、想像の埒外の内容に、頭を悩ませながらも、彼女は、彼に続きを促す。
「あぁ、未来では、ソウマが作った、人類の安定生存圏であるキングダムと多数の錬金術師が所属するパヴァリアに分かれたが、一度だけ、二つが一つになろうとしたことがあった」
「それが、俺の両親の出会い、そして、その証明としての俺と妹だった」
アスカが、一旦口を閉ざす。彼女には、その背中がとてもか細いように、見えていた。
戦う時の、覚悟を決めたアイツ──ソウマと並び立つ時とは違う。
まるで、親を見失った子供の様な、あてもなく彷徨うだけの貧者のようであった。
「辛いんだったら、別にいいさ。話さなくて……」
「いや、話すさ。……和平の証として、父は婿入りという形で、キングダムにパヴァリアが併合される予定だった。しかし、そのあとに未来のソウマの手によって白紙に戻され、より一層のキングダムの弾圧が強くなった」
「じゃぁ、結局、全部アイツが悪いんじゃないのかよ!?」
「七実が言うには、俺の知らないことがあるらしい。それに、少しだけ、疑問もある」
「疑問ってのは?」
「このウォッチとドライバーは父の形見だと仲間は言っていた。だが、今ある情報を整理していくと、これを父が持っている理由に説明がつかない。もし、弾圧をしていたのなら、こんなものを奴が父に渡すはずがない」
「お前の父さんが作ったんじゃねぇのか?」
ライダーの力の模造品を彼の父が作った可能性を彼に示すが、彼は首をゆっくりと横に振る。
「それはあり得ない。もしこれが作れる技術があったら、もっと被害は小さくなったからな」
「まぁ、それを除いても……他に理由ともいえない理由がある……」
「……」
彼の言葉までもが、か細くなっていく。
「覚えているんだ。あの日、事件が起きたあの日、家族で、奴に会いに行った。その時の奴の顔がとても、とても柔らかかったんだ……俺の頭を撫でた手が優しかったんだッ……今のソウマと同じようにッ」
「アスカ……」
彼の言葉が少しずつ掠れて聞こえる。彼の頬を伝う雫が、彼の言葉を掠れさせる。
「バカだよな、俺は……、アイツが俺の仲間や一緒に暮らした友たちを殺したのは事実で、目の前で何度も見た。なのに、今のアイツを見ると、思い出すんだ。あの日々を、穏やかだった日々を……」
声を荒げる彼に、今度こそ、間違いなく、奏の心は軋んでいた。
仇がノイズである自分とは違い、彼の自身に向けられる感情と自身の中に渦巻く感情に板挟みになっていた。
「憎しみが、自分の中で確かに渦巻いているんだッ。でも、それと同時に、アイツの不器用な優しさが、信頼が……俺の憎しみを溶かしてくるんだ。わからないんだよッ! 俺は──」
彼の言葉を遮るように、彼女は後ろから彼の背中を抱きしめた。
「ごめんな。こんなこと聞いて……辛かったよな……」
彼の震える背中が彼女の中に揺らめく小さな灯が彼女の復讐心を溶かしだす。
(……一緒だと思ってた。私と同じで復讐に全てを賭ける奴だって、でも、本当は違った)
抱きしめる力が強くなる。
(こいつは、ずっと悩んでたんだ。悩んで、悩んで、それでも……アイツのことを信じたんだ)
「なぁ、だから、アイツを許す気になったんだな」
「……違う。俺がアイツを──ソウマを魔王にしたくない。それだけだ」
「どうして、そうしたいんだ?」
「アイツが……俺の、友だからだ」
彼の本音を聞いて、自分の中にある復讐心が彼を拒絶する。しかし、小さな灯がそれを飲み込む。
「そっか……私も、前を向かないとな……」
今の彼女の心はただ、晴れやかであった。
そこには、ノイズへの復讐心さえも、消えていた。あるのはただ、今、弱った彼への想いがあるだけだった。
「すまないな……こんな弱い姿を見せるつもりはなかったんだ」
弱った彼は少しだけ、また弱音を吐いた。
「いや、大丈夫だよ。気にする必要はないさ」
「おやおや、まさか、ここまでとは、ホホウ」
そこには、イデアが興味深そうな表情で、そこに立っていた。
「お前には、ムードってやつが分からねぇのか?」
呆れた奏と、恥ずかしくなって、思考停止しているアスカの二人がそこにいた。
「お前が現れたってことは、また何処かに連れていく気か」
「その通り、アスカ君の故郷の時代。つまり、最悪の未来への里帰りさ」
「最悪か……確かにな……」
「あぁ、あの未来にもはや、希望は一切存在しない。彼が望むすべてが存在しない。唯一あるとすれば、君の祖母ぐらいかな?」
「俺には、関係ないッ」
「いや、あるさ、君だって、逢魔の日と、あの日──両親が死んだ原因を知りたいんだろ?」
その言葉に彼は、怒りと不快感に染まりまんまとイデアの口車に乗せられてしまった。
「ッ!? わかった。連れていけ」
「私も行く。連れていけ」
奏は、アスカ一人にさせまいとその会話に割り込む。
「あぁ、そのつもりさ」
彼の言葉に彼女は少しだけ、軽薄さに嫌悪感を見せると、その瞬間に灰色のオーロラに包まれた。