扉を開けた先には暗い部屋が広がっていた。
「ここは……」
彼女には見覚えがあった。
「どうして、私たちの部屋が……」
そこは、毎日過ごしている自分たちの寮の部屋であった。
「やっぱり、侵入者は私だったんだね……」
「ッ!?」
声に対して、驚き、心臓が跳ね上がる。
目を凝らし、声の主を探そうとする。そうすると、いつの間にか、黒いローブを着た自分に瓜二つの存在がそこにいた。
「え、私? どういうこと?」
「えぇと、私は立花響、未来の貴女の1人かな?」
「え、えぇぇ!?」
「まぁ、驚くよね。うん、私もこうなって驚いているから……」
驚きと自分の言葉に頭がパニックに陥る。
しばらくの沈黙の後、ローブを着た響が口を開く。
「一応、見てたよ。色々とね。そうだね…七実さんがここに来いって言ってたんだよね。」
「はい…」
少し、遠慮気味な声になる。そこで、七実の真意についていまだ理解しきれずにいた。
「うん、それじゃあ、時間もあまりないし、さっそく本題だけど、七実さんが言った言葉の真意について答えなきゃいけないよね……まだ納得できてないんでしょ?」
「まぁ、一応は……」
彼女は、七実が言っていた「その言葉を口にできるのは、ある意味では、そこにいる雪音クリスだけ」という言葉の真意についてが気にはなっていた。
「えっとね。ショックを受けるかもしれないけどよく聞いてほしいな……」
彼女はいつも、未来と一緒に食事や、勉強をしている机につき、響にも、席に着くように、手で促した。
響はもう一人の自分に促されながら、席についた。
「まずは……そうだなぁ、クリスちゃんがソウマを殺そうとしたって言ってたけど、本当に殺そうとしてた?」
「そんなの決まって……」
響はこの時、クリスが、ソウマ相手に戦闘を行ってはいるものの、殺そうとはしていなかったことに気が付いた。否、もとより、ある程度の認識はあった。
「うん、実際にクリスが殺そうとしたのは私たちのことだけだよね」
「それは……」
「うん、だから、殺そうとした相手を守る必要がないなんて言うと、クリスちゃんじゃなくて、全部自分に返ってきちゃってるんだよね。ハハハッ」
「え……」
もう一人の自分の乾いた笑いが耳に響く中、彼女の言葉の意味を理解した瞬間に脳がその言葉を受け入れることを拒否した。
「それって……」
響の頭がそれを拒否する。受け入れるつもりがないというかのように、その言葉の意味を理解していないと自身を錯覚させる。
「そう、それは──」
「違うッ! 、そんなことないッ! そんなこと……」
もう一人の響の言葉を遮るように、響が言葉押し通す。
しかし、言葉尻が小さく、弱くなっていく。
それでも、なお、もうひとりの響は両肩を震わせ、言葉にしたくない言葉を発するために口を開く。
「違わないよッ……私が殺したんだよ……私がソウマを殺したんだッ……」
もう一人の響は、強くローブを握り締め、唇を噛みながら、自分の言葉、後悔に苦しんでいた。
「ッ!?」
言葉を理解したくないと頭を横に振る。それでも、頭がその言葉が事実であると告げている。
「あの日、私がソウマを殺したの……」
彼女はゆっくりと、まるで自分の罪を自覚するように昔話を始めた。
「あの日、ソウマの命を奪った。確かに、あの時ソウマに騙される形ではあったけど、それでも、私の歌が、彼を殺した……そして、私はすべてを忘れた」
「忘れた?」
彼女の忘れたという言葉に対して得も言われぬ焦燥感が胸から湧き上がる。
「そう、忘れた。
昔話を聞きながら、それが嘘ではないという自分の中にもう一人の自分への無条件の信頼が形作られていた。
自分が、ソウマを殺したこと、忘れたこと、そして、アークの正体さえも理解してしまったのだった。
「アークが未来なんですね」
無言で目の前の自分が頷いた。
「でも、私は……ソウマのことを誰にも渡したくないッ……」
「うん、わかるよ。彼を誰にも渡したくないって……でも、きっとこれから、この未来を見ていけば理解できるんじゃないかな?」
「それは、どういう……」
彼女の理解できるという言葉について、まったくピンと来ていないことに頭を傾げる。
「それは──」
「それは、今のソウマが複数の並行世界の彼が融合した存在だから」
自分の後ろから、聞きなれた声が聞こえてきた。
目の前の自分の目が揺れる。
コツコツという足音が聞こえ、自分の横を横切っていく。もう一人の自分の横までくると、立ち止まった。
「戻ってきたんだね。アーク……ううん、未来」
「うん、侵入者が入ってきたっていうのを聞いてね。一応今は、今の時代の私に体の主導権を返してる。……全部話したの、響?」
「ううん、一部だけかな? 私が、私がソウマを殺したことぐらいかな?」
アーク、未来の拳が強く握られていくのを響は視界の端で気が付く。
「まぁ、いいかな?」
そういうと、もう一人の未来は、もう一人の響の隣に座った。
「まぁ、私も響のことをフォローするべきだったかな……そこは反省しないと……」
ため息をつきながら、ローブを脱ぐ。そこには、髪が少し伸び、大人びた服装の未来がそこにいた。
「さてと、一応、補足しておくとね、七実さんが響のことを嫌っているのには一応、理由があるの」
「理由ですか?」
「うん、詳しくはまだ話せないけど、彼女にとって許せないことを
「今までの私って……」
「それは、簡単、この世界はループしてるの、その過程で響がしたことを七実さんは許せない。きっと、あなたも気が付けばそれをする」
未来に言われたことにまったく頭の理解が追い付かないが、罪悪感に似た感情が自分の感情を支配していた。
「さてと、これ以上は、話すことはないかな……でも最後に一つだけ、この未来をみて、それからどうするかを決めて、きっと、結果はどうあれ、納得はできると思うから」
「それって、どういう──」
そういうと、未来は、響に手を伸ばすと、響の意識が急激に遠のいていく。
『LOGOUT』
気が付けば、未来の前から、響は姿を消していたのだった。
「さてと、響」
「……何かな、未来」
未来は、隣に座っていた響に向き合い、声をかける。
響はかってに過去の自分に情報を話したことへの罪悪感から、目を背ける
そんな風に怯えている響の手を未来は優しく握り締めた。
「響……もう、仲直りしよっか……」
唐突な提案に響の思考は停止する。あるはずがないと、起こるはずがないと、それでも、信じたいという縋る思いから勢いよく、未来へと振り向く。
「え、い、いいの? でも、私は──」
「いいの、これ以上いがみ合っても、きっとソウマなら、困った顔で、私たちの仲を取り持とうとするでしょ……だから、もういいの」
彼女の言葉に自分を縛っていた何かがほどけるような気がした。
「未来ッ……ごめん、ごめんね。本当にごめんなさいッ」
響は、泣きながら、未来に抱き着く。
そんな響を未来はぎこちなくあれど、仲違いする前の優しい顔で、響を優しく抱きしめたのであった。