歌姫と仮面の狂想曲   作:白紙の可能性

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第66話 XXXX/願いと呪い

 庭園に見とれていると、響はふと、ソウマが近くにいないことに気が付いた。

 

 

「あれ……」

 

 

 周りを見渡すと奥から、声が微かに聞こえる。

 

 

 響とクリスは顔を見合わせるが、2人以外には聞こえていないのか、3人は気づく素振りすらなかった。

 

 

 しかし、クリスは顔色が悪く自分の体を抱きしめていた。

 

 

 その姿を見て、響は息を呑み、その声の先に向かおうとする。

 

 

「やめろ……」

 

 

 震えた声で、響の腕を掴む。

 

 

「離してッ!?」

 

 

 力に任して振り払おうとするが、とても強い力でクリスが握っているため、振りほどくことができない。

 

 

「行くなッ……お前が行っても、アイツは……」

 

 

 どこか、無意識にその言葉を口から紡ぐ。

 

 

 まるで、自分ではない何かがその言葉を口にしているような違和感。本人の口から出ている言葉であっても、彼女のの中にある何かが口に出していると響はその違和感に顔を顰めた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 彼女が顔を上げて、初めて気が付いた。彼女の眼は暗闇の中の木の洞を覗いているかのような闇が渦巻いていた。今まで、何度か戦い、彼女と会話をしてきたが、こんなに暗い瞳を見るのは初めてだった。

 

 

 その暗闇に引き釣り込まれそうな感覚に襲われる。

 

 

「どうし、て、私を行かせたくないの……」

 

 

「今のアイツがお前に会ったら、きっと立ち直れなくなるッ……もう、どうしようもなくなる……だからッ」

 

 

 最後の言葉を飲み込む。その言葉はきっと、彼女自身も傷つける。止めとなる言葉なのだろう。

 

 

 響はその言葉に一度納得をするが、彼の声がさらに聞こえる。

 

 

「泣いてる?」

 

 

 自分の中の彼のイメージと大きくずれる彼の泣く声、それは、大きく響いた。

 

 

 しかし、周りを見ても、3人は気が付かない。

 

 

「どうして……」

 

 

「ここの奥にあるものを隠すための庭園……だからこそ、彼女たちは気が付かない」

 

 

 視界の外の声に、気が付き振り返ると先ほどまでいなかった七実がそこにいた。

 

 

「それって、一体」

 

 

「言葉通りの意味。ここは霊園。だからこそ、その眠りを守るため、生者の眼を欺く機能がある」

 

 

 ビクッとクリスの肩が上がる。

 

 

「それは……」

 

 

「行くの? 響……」

 

 

 その言葉に振り返ると、そこには未来が此方に近づいてきた。

 

 

「どうやら正気に戻ったようね」

 

 

「おかげさまで、まぁ、アークに気が付かせてもらっただけだけなんだけど」

 

 

「ふ~ん……まぁいいわ。とっとと行きなさい」

 

 

「ダメだッ! 行かせないッ……」

 

 

 絞りだすような彼女の声に七実は眉を顰める。

 

 

「貴女もいつまで逃げる気? いつかは向き合わないといけない。今、彼は向き合っている。そして心が綺麗に折れた……だからこそ、貴女が、貴女達が支えなくてどうするのよッ。私は嫌いよ。逃げているだけの人は……いつかは向き合う。そしてそれとどう付き合うかは自分次第でしょ。違う?」

 

 

 クリスは俯く。響はその言葉を聞いて、足を進めた。

 

 

 未来も、そのあとを追うように、並ぶように歩を進める。

 

 

 彼女は手を一瞬だけ伸ばし、空を掴む。手を下し、目を閉じ、歯を噛みしめると、覚悟を決めたように顔を勢いよく上げる。

 

 

 その勢いのまま、彼女は小走りで、響たちに追いつき、3人は庭園の奥に消えていった。

 

 

「まさかね……あの中で響が一番最初に行くなんて……一番弱虫な彼女が……」

 

 

 七実は3人の消えた先を見つめると、その反対の城の中に向かって歩を進める。

 

 

「少しは見直さないとね。でも、きっと甘いというのかしらね。私たちの母は……それでも、信じてみましょう。彼女の中にある人の心、彼への愛を……期待してるわ。立花響(弱虫さん)

 

 

 彼女は悪戯が成功したように顔を綻ばせる。そこには彼女に対する憎悪の感情は薄まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奥に進むと泣き、啜る声が聞こえてくる。

 

 

「俺は、俺は……あぁ……あぁぁぁぁぁ」

 

 

 その声がようやく、目の前で聞こえるようになった。

 

 

 そこには、いつもの超然とした彼の姿はなく、四つ這いになりながら、地面に額を擦り付け、ただ泣き喚く男の姿しかいなかった。

 

 

「ソウマ……」

 

 

 響は、その姿にふと彼の名前をつぶやいてしまう。

 

 

 彼が此方に気が付き、体を起こし、此方に顔を向ける。

 

 

 その顔は、失意と絶望、そして自責の念がごちゃ混ぜになったような表情であった。

 

 

 目元は赤く腫れ、それでも、涙が止めどなく流れていた。

 

 

「響……未来……」

 

 

 彼の言葉に、響と未来の二人は打ち合わせもなく、同時に彼のもとへ駆け寄る。

 

 

 そこには一切の邪念がなく、純粋な彼への心配のみが二人を突き動かした。

 

 

「あ、あ、あぁぁぁぁぁ……」

 

 

 二人は心の折れた彼を抱きしめる。

 

 

 そんな彼らを前にクリスは動けずにいた。

 

 

「行かないのか?」

 

 

 その場にいた未来のソウマが声をかけてくる。

 

 

 目線は3人から逸らすことなく、未来の彼に対して口を開く。

 

 

「アタシが駆け寄っても、きっと彼を癒せない。だから、私は、私は……」

 

 

 未来のソウマはクリスを見ると、その表情はまるで欲しいものを目の前で我慢させられるような表情であった。

 

 

 クリスにとって二人を跳ね除けることも、彼女たちと一緒に彼を抱きしめることもできなかった。

 

 

 なぜなら、それは彼女たちの想いと彼の想いをよく熟知しているからであった。

 

 

「私にとっては、クリスは私のことを支えてくれた……だからこそ、お前が行っても、いや、近くにいてほしいと私は思っている。それは昔の私も同様だ……私は彼であるからな」

 

 

 しどろもどろであるが、自分の妻のことをクリスに伝える。

 

 

「でも、アンタは未来のソウマで、今のソウマは……」

 

 

「時に因果は逆転する。私に言えるのはそれだけだ」

 

 

「それってどういう──」

 

 

 真意を問いただそうとするクリスの背中を未来のソウマは片手で、背中を強く押す。

 

 

 その力の勢いで、クリスは足を前に踏み出され、ソウマの前で転ぶ。

 

 

「いてて、何するんだよ!?」

 

 

「お前たち3人でこの未来を見て回れ……」

 

 

 そういうと、彼は何かを彼に投げ渡す。

 

 

 それを受け止めることなく。ソウマの胸に当たると、そのまま地面に落ちて転がる。

 

 

「これは……」

 

 

 響がそれを拾う。

 

 

「それはシャドウジオウⅡライドウォッチの片割れ。お前がもう一度立ち上がる時にもう一つの片割れがお前のもとに現れる。ではな。あとは……」

 

 

「私に任せて」

 

 

「そうか……七実、ではお前に任せるとしよう」

 

 

 そう告げると彼は、庭園の来た道を戻る。

 

 

 ソウマは、無意識に響の手に持ったライドウォッチに手を伸ばす。

 

 

「ダメ!!」

 

 

「響……」

 

 

 彼女は反射的に持っているライドウォッチをソウマから遠ざける。

 

 

 その動作にソウマは一瞬だけ、驚くが、困ったような表情に切り替わる。

 

 

「未来の世界を見て回れか……ねぇ響、ソウマ……クリス」

 

 

 クリスは、自分の名前を呼ばれて肩をビクッと震わせる。

 

 

「……アタシか、アタシは何の役にも……」

 

 

「それでも、未来のソウマがあなたを必要といったなら、きっと必要。それでいいよね。響」

 

 

「……うん。私もこの世界を見て回りたかったし、それに、きっとクリスちゃんが必要なんだよね」

 

 

 未来の提案に、響は表情を暗くして答える。

 

 

「……」

 

 

 ソウマは、3人の話し合いの内容に耳を貸すことなく、その場で立ち上がる。

 

 

「ソウマ?」

 

 

「……どこからいくんだ?」

 

 

 生気のない彼に未来は一つの提案をする

 

 

「──」

 

 

 その提案に彼は目を見開く。そして、彼は首を縦に振るのであった。

 

 

 

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