未来のソウマが庭園から離れ、王城の廊下を歩いている。
視線を前に向けるとそこには、イデアの姿がそこにあった。
「どこにいたかと思えば……お前との話通り、この世界の話とこの世界を見て回るように伝えたぞ」
「ありがとう。我が魔王……さてと、向かうとしましょうか」
「どこへ行く」
「彼らを導きに」
「……好きにしろ」
「感謝を」
言葉は穏やかであっても、その二人の間には決して、穏やかな空気は流れていなかった。
「では、失礼します」
「待て」
その言葉に、去ろうとする足を止める。
「何かな?」
「これを……アスカに渡せ」
そういうと、手の平に三つの特殊な形状をしたライドウォッチが出現し、互いに共鳴するように光だし、三角を描くと、イデアの手元に一つのライドウォッチを形成する。
「これは……わかった。確かに渡しておこう。それでは」
彼は、未来のソウマからの頼みを聞き入れ、踵を返し、去っていく。
「まったく、神というものは、本当に気まぐれ、いや、身勝手な私に比べれば幾分ましか」
自嘲のもと、彼は城の奥に消えていった。
アスカと奏では庭園が見せる幻覚に魅せられ、抜け出せずにいた。
しかし、パチンと指を鳴らす音が聞こえると、目の前の景色が移り変わり、現実の世界が映し出される。
「こ、これは……」
「あぁ、幻覚の庭の影響をもろに受けていたからね。勝手ながら解除させてもらったよ」
「幻覚の庭? なんじゃそりゃ」
「何かと言われても、君たちが先ほどまでに捕らわれたいた幻覚作用のことさ。これより先にある霊廟を守るための庭園自体に備え付けられた防衛機能だよ」
突然現れたイデアに、アスカが違和感に気が付く。
「お前、一体どこにいた。俺たちの認識では七実がいないことは分かっていた。だが、それでも、そのタイミングでお前がいないことに俺たちは一切認識できていなかった。それどころか、完全に認識から外れていた……」
「あぁ、そのことか、忘れたのかい? 私は石工達の神、偽りと嫉妬の神。現世においては、それぐらいの小細工は簡単だよ。あの場で私がいれば、我が魔王は私を逃げ場にする。自分さえライダーの力を手にしなければとね」
「どういうことだッ」
「まだ気が付かないのかい? 我が魔王がここにいないだろ?」
「ッ!? ソウマッ!」
その事実に気が付き、アスカは、庭園の奥にイデアが視線を向けていることに気が付き、そちらに向かって走ろうとすると、そこには、戻ってきた七実が立ち塞がる。
「そうはいかない。ここから先はあなたが行くべきではない。ソウマ君の成長のためにもね」
「どういうことだ……」
イデアはいつもの飄々とした態度を一切崩さずに無言を貫く。
そんな姿に、アスカは、怒りの感情を敵意に変えて向ける。
「いいだろう、君にも、試練を与えようかな」
そういうと、彼は先ほど未来のソウマから受け取ったものを投げ渡す。
「ッ!?」
いきなり投げ渡されたことで、少し驚きながらも、空中で掴む。
「これは……」
手元にある通常の形状と異なるブランクライドウォッチを見つめる。
「それは、救世主の力、まぁ、言い換えるとそれは維持の力であり、魔王を打ち倒す可能性の力」
彼は、庭園の奥に向かい歩いていく。
「シャドウゲイツを覚醒させ、それを完成させたまえ。そうすれば、君は我が魔王の隣に立つ資格を得る。文字通り、今のままでは君はおいていかれるよ? 我が魔王の力は日に日に強くなることが確約されている。それがどのようなものであれね」
イデアは意味深な言葉を残し、七実と共に、消えていく。
「どういう意図であれを渡したのですか? 彼では、シャドウゲイツの覚醒ですら至れるかどうか未知数です。正直、彼では……」
七実はそういうと、イデアは、少し微笑むと彼は口を開く。
「私は期待しているんだ。彼の力はアーリが作ったものでもないし、それにしては安定している。つまり、シャドウゲイツは最初のシステムの系列である私たちのイデアやゼニスとは異なる。人間が使用できるレベルであり、悪影響がほとんどない。だが、基礎的な設計思想は同様、つまりは制御機能が完成されていることの証左さ」
「ごめん。私には理解できないや。基本的にシステムの設計はイデアとアーリが担当しているから……だからこそ、彼は覚醒ができるほどの強い精神力がないと思うの……」
「そうかもしれないね。でも、あのウォッチが生成されているということは世界がそれを望んでいるということだと信じている」
「わかったよ。でも、サブプランは用意しているの?」
「一応ね。ただ、この手段はとりたくない。私が全力を出す必要があるからね」
七実は目を見開く。彼の言葉に七実は怒りを覚えた。
「ふ、ふざけないでッ!! 貴方が現世で戦えば、それはッ!?」
怒りで目の前が赤くなる錯覚を覚えたが、すぐに七実は冷や水を浴びせられた気分になる。
「ッ!?」
彼の表情は今まで自分に向けている穏やかな表情ではなく。あの時の、あの時までのイデアに戻ったような怒りを秘めた鋭くなった視線と表情に肝を掴まれたような気さえする。
「それが必要なら俺はその責務を果たすだけだ」
「ごめん……私そんなつもりじゃ……」
「いや、いいさ。わかってる。こんなことで怒るべきじゃなかった」
彼は足を速くする。
七実も、それにおいていかれないように歩くペースを上げるが、先ほどまでのように隣に並べることができなかった。
「じゃぁ、行こうか」
虚ろな表情のソウマが歩き出す。
「まって……」
響の声で、ソウマの足が止まる。
ゆったりと幽鬼のように振り返る。
そんな彼に一瞬の恐怖を感じるも、気を引き締めなおして、立ち上がる。
「ごめんね。でも、いきなり、この壁の外を見に行くのは危ない気がする。だから──」
「それでも、行かないといけないんだ。俺がこの未来を作った意味を知りたいんだ。そこから、どうするか考えるよ」
「どうするって……」
「簡単だよ。俺が生きてていいかどうかだよ……」
その言葉に、響は呆然とする。
「生きてちゃいけない理由なんてないでしょッ……」
無意識な言葉が口を突いて出る。
だが、そんな言葉は今の彼には届かない。
いつも近くにいた気がした。彼が今は遠く感じる。目の前から、手のひらからすり抜けて消えていく。
いつか感じた感覚が、喪失を恐れる焦燥感が響の心を締め付ける。
「死んじゃいやだよ……私だって、
「死ぬなんて簡単に言わないでくれ……頼むよ……」
隣にいる未来が手を強く掴む。
クリスは縋るように彼を見つめ、手を伸ばそうとして、落とす。
「どうやら、修羅場中のようだね。我が魔王?」
「何の用だ……今から俺には行くべきところがある」
イデアは少しだけ、苦虫を噛み潰した表情をすると、すぐに微笑む表情に戻す。
「止める気はないさ……ただ、私が道案内をしようと思ってね」
「何? どういう風の吹き回し?」
吐き捨てるような彼の言葉に動じることなく、彼は礼を執る。
「我が魔王、貴方の決断に必要となる場所へご案内いたします。どうか、家臣である私の手をお取りいただけないでしょうか?」
彼は気障に手を差し伸べると、彼は、一瞥するのみで、すぐに興味を失い、視線を石碑に向ける。
「だったら、早く案内しろ……」
「仰せのままに、我が魔王」
彼は、そのまま、頭を垂れる。
イデアは本心をもっていまのソウマに頭を垂れる。
そこには忠誠心はなくとも、ただ、彼自身の進む道の困難さを知るが故の想いが、彼にその行動を執らせるのであった。
「……」
そんな姿を七実は寂しそうに眺めることしかできず、他の3人は、イデアの出す本気の気配に気圧される形で言葉を失った。そこには侮蔑の感情はなく、ただ、いまの彼を支えようとする彼の行動への敬意があった。