アスカは、先ほどの庭園に設置されている椅子に腰かけていた。
「……」
「どうしたんだよ、それを見つめて」
イデアから渡されたライドウォッチを見つめながら、少しだけ、隣に座った奏に目を向ける。
「あぁ、わからないんだよ。これを俺に渡した意味、これを手にした瞬間に何かを感じたんだ」
「なにかってなんだよ」
「何となくだけども、とてつもない力を感じた。説明できないが、それでも感じたんだ」
彼の神妙な表情に、少しだけ、気まずさを覚えた奏は目を逸らして、両の手の指を絡める。
「まぁ、このまま、考えていても、仕方ない……、街を見てまわるかッ」
勢いよく立ち上がる。
「うぇッ!?」
その勢いに、押される形で、素っ頓狂な声を出しながら、体をのけぞらせた。
「おい、大丈夫か」
「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫」
後ろに倒れそうになる奏に、怪訝な顔をする。
そんな彼女に、声をかける。
「ところで、どこに向かうんだ?」
「この街を見て回ろうと思う」
「そこに向かうよりも、先に受け取ってもらいたいものがあるんだけども」
「何を受け取るんだ……って、ハァ!?」
「やぁ、アスカ君、それに奏ちゃんも、熱々だね」
自分たちの近くの椅子に、アーリがいた。
彼は、その流れで、二人を揶揄った。
「ハァァ!? そ、そんな、そんなこと……」
「揶揄うな、悪神」
そういうと、奏を守るように、肩に手を置き、自分の側に抱き寄せる。
「え……、何するんだよ。アスカ……」
「そう警戒するなよ。お前に届けないといけない、人がいるんだよ」
彼はそういうと、指を鳴らすと、灰色のオーロラから縛られた、一人の少女が現れ、その場で転ぶ。
「いてて、あれ、兄さん? どうして」
「……おい、どういうことだッ、どうして、カレンがここに……」
アスカが勢いよく、アーリを睨みつける。今にも食って掛かりそうな表情に肩を大げさに竦め、唇をへの字に曲げる。
それを後目に少女は、兄、アスカへ視線を逸らさずに向ける。
もう死んだと思っていた家族と再会したことに周りが見えなくなっている。
「……っ……兄さん、どうして、生きてたなら、連絡ぐらいしてよ」
「それはッ!? ……過去に」
アスカは言い澱み視線を逸らす。その視線は無意識に奏を見てしまう。
それは、彼の心の弱さであるが、それが妹、カレンは奏の存在に気が付いてしまう。奏を見る目に微かに縋るような感情が混じっていることに、複雑な負の感情が渦巻く。
「過去ってどういうことなの、その隣の女は誰ッ!?」
「え、え、ア、アタシかよッ」
困惑する奏、しどろもどろなアスカ、兄を詰め寄るアスカの妹、カレン、そして、それを見物に腹を抱えていた。
しばらくすると、アーリは話題を切り出す。
「あぁ、笑った。うん、そうだね。まず、アスカ君が過去に行ったのは、オーマジオウの力で過去に転送されたから、そして、なぜ、彼女がここにいるのか、それは、君の代わりの鉄砲玉の確保ってところかな?」
「鉄砲玉だと」
「簡単なことだよ、シャドウライダーシステムのために必要なアクセス権限は我らが魔王の血縁者が一番強い。つまり、逸脱者の制御のために研究材料として、幼いころの君たちは捕まったんだよ」
「……どういうことだッ……どういうことだッ!」
激昂し、声を荒げる。
だが、どこか、納得している。腑に落ちたという感情が見え隠れしていた。
「ア、アスカ……」
「本来、君の父親に譲渡される予定だったゲイツ関連のシステムをその際に奪った。シャドウゲイツウォッチを作り出したアスカ君に、ドライバーを使用させた上で、必要なデータ取りを行い、そのデータを妹のカレンちゃんに反映させたってこと、そうでしょ、君の肉体は一部逸脱者に変化している」
彼は彼女の袖をまくると、そこには、鱗に塗れた腕がそこにはあった。
「どうしてだ……どうしてこんなことを」
「だって、兄さん達の仇をとるために……こうしないと、オーマジオウを倒せないって、みんなが…ッ」
「カレン……」
目を背け、袖を下げて腕を隠す。その頬には涙が流れ、地面に落ちた。
後悔とそれでも、通したいと願った復讐が無意味だったと実感からの虚無感からの涙だった。
アスカは、過去の世界で自分がソウマのことを知ろうとしている間に、妹がこんなことになっているなんてことは一切考えが回っていなかった自分の甘さに、怒りがこみ上げる。
噛みしめた歯からギシリとした音が耳の奥に響く。
「私が彼女を連れてきた理由は2つ、1つは彼女のデータが欲しかったから、2つは、これ以上の放置すれば、彼女の救出が間に合わないと判断しての救出。これが主だった理由だ」
「ッ!?、悪神ッ……お前も、カレンを利用するのか」
「……利用という意味だと、その通り、だが、彼女のデータが私たちには必要なんだよ。計画の最後のピースを完成させるため、ある程度試作品は完成している。だけれども、この試作品だと、完全ではない。成功確率は5%も満たない。それに、チャンスは1度しかない」
「その計画のために、俺も利用していたってことか?」
「あぁ、第1条件の「我らが魔王が
「そんなついでの理由か、俺にこんなに情報を伝えていいのか? お前たちは秘密主義者だと思ったんだがな」
呆れるような、だが、敵意を込めた視線にアーリは口角を釣り上げて嗤う。
「まず、君たちが知るべきタイミングが来たから。そして、この情報を持つことに意義がある」
「意義だと?」
その場にいるアスカ以外が空気に呑まれるように、金縛りにあう。
(体が……ッ!?)
重く、圧し掛かる重圧に指先すら自由に動かせない。
「今まで、君がいない結果、最終的に我らが魔王はオーマジオウになり、世界がバグるか、それとも逸脱者が誕生するかの2択にしかならなかった。だからこそ、それ以外の結果をもたらす可能性が最も高いのは君なんだ。その結果、本来完成するはずのないシャドウジオウが完成したしね」
奏とアスカに視線を向ける。しかし、この問答をこなさねば、決して開放しないという意図が彼から透けて見えた。
「……あれは、七実が原因じゃないのか」
疑問を口にする。しかし、頭は白くなりかける。
「あぁ、主原因はね。でも、君がいたから、アイツは未来の可能性を知り、その未来を否定するために、それぞれの可能性を超えようと無意識に願い、何かを守りたいと覚悟を固め、新たなる力を手に入れた」
「君がいなければ、彼は未来の可能性を知ることはなく、同じ結果を繰り返し計画は失敗していた。だからこそ、君はすでに私の望む以上の結果を出してくれている」
「俺は望んでそんなこと……」
「でも、君がいたから、彼は別の道を進みだした。他者に託す信頼。信じれる同性の友、それを手にできた。それに、本題に戻るが、君の覚醒のデータを使えれば、彼女の逸脱者の進行を抑えることができるかもしれない。全部たられば話だ。だから、君がこの時代で何を見つけるのか。楽しみにしてるんだ」
純粋な彼の答え、そのすべてに怒りは多少衰えてしまっていた。
構想のみの実現性が薄いこととわかっているが口にする大言壮語なその様に、今この場にいない、友人が頭にチラつく。
「……なぁ、一つヒントをくれないか」
「ほぅ、どういった意図かな?」
「お前の望みに応えるためだ」
「わかった。いいだろう、君がそのリバイヴの力を開放するには、ジオウを倒す覚悟を決めることが条件だよ」
彼の言葉にアスカは背中に冷たい何かが走る。
その言葉をそのままに受け取るということは──
「俺にソウマを殺せと……」
「そうは言ってないよ。でも、ゲイツの力はジオウを倒す運命にある。だが、君の力はゲイツであってゲイツではない。そこに必ず綻びが生じる。この世界にジオウという存在は正確には存在していない。もし、存在するとするならきっとそれは……そこはミラに期待するよ」
「善神に期待だと?」
「あぁ、どうせ、用意しているよ。何せ、我らが魔王に対抗する唯一の手段だからね」
その顔には策謀を練る文字通りの
・雪音(榊)カレン(花蓮)
雪音アスカの双子の妹、唯一の肉親であり、家族思いの性格をしている。
クリスと瓜二つの容姿をしているが、髪と瞳の色は黒い。
10年前に起きたテロ以前の記憶について、その時の心的外傷からか、ほとんど思い返すことができていない。そのために、アスカとの大きな認識の齟齬がある。
アスカが、オーマジオウに殺されたとパヴァリアの仲間から告げられ、彼や、家族の復讐のために、組織上層部が行っている逸脱者の制御に関する計画に被検体として参加することになる。その影響か、体の各所に鱗のようなものが出ており、人外染みた腕力を持つ。
兄であるアスカと一緒にいる奏に対して苦手意識を持っており、敵視しているが、奏からは可愛がられている。